アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

495 6年1組

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 「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん‥」

 オヤジが帰ってきた夜からアリサがめっちゃデレるんだよな。
 あんだけツンツンしてたのに何故なんだろう?
 まぁ、かわいい妹だから何やってもいいんだけど。


 俺もいつか彼女がほしいなぁ。2人のときだけデレるような彼女がほしいなぁ。てかやっぱ彼女がほしいなぁ。
 でもさどこ行っても俺、変態って思われてるもんな……。
 このままボッチのままなのかなぁ。

 「思われてるじゃねぇわ!思いっきり変態じゃん!」

 「くっ!」









 「遅くなったけど今度の休養日は朝から田植えをするからな」

 「「「たうえ?」」」

 「ひょっとしてアレク、ヴィヨルドのコメか!?」

 「ああ。あの米、ご飯を育てるんだよ。だから休養日はオヤジもバブ婆ちゃんも全員泥の中だからな。
 ああデーツ、ペイズリーさんの娘さんも参加するからな」

 「聞いてないぞ!」

 「そりゃ今言ったもん。てかデーツお前普通の声が出るじゃんか!ヨシヨシ。頭撫でてやろうか?」

 「うるせー!」

 「わははは。デーツはなぁ、マリアンヌ先輩と一緒にこれを見て米作りの帝国版の教本を完成させろ。
 これは王国で俺の幼なじみたちが完成させた王国版の米づくりの教科書だ。
 お前は来年までに帝国版を作れよ。マリアンヌ先輩は文章、デーツは絵だ。わかったな」

 「なんかわかんないけどわかったよ!やりゃいいんだろ!」

 「そうだデーツ!頑張れよ」

 コクコク


 「(アレク、お前デーツとマリアンヌの爵位を考えてくれてるのか?)」

 「(ああオヤジ。米は間違いなく麦と同等の主食になるだろ。だからデーツたちは帝国での米普及の功績者になるわけじゃん。仮に来年学園で1位になれなくても、こっちで爵位はもらえるだろ)」

 「(たしかにな。でもお前はいいのか?)」

 「(いいも何も俺1年しかいないじゃん。あとはデーツに任せてたら安心だしな)」

 「(アレクお前‥‥やっぱりアリサと)」

 「(ん?アリサ?アリサはダメだぞ!田植えの1回くらいは泥だらけになってもいいけど、あとはアリサのかわいい顔や服が汚れるからダメだ)」

 「(アレク‥‥お前‥‥)」


 なぜかオヤジがあの顔で俺を見た。俺なんかやったか?


ーーーーーーーーーーーー


 「さあみんな行くぞ。勘違いしてる3年のガキをやっつけるからな」

 「「「うおおおぉぉぉーーーっ!」」」

 6年1組の現1位2位の2人がヒソヒソと話す。


 「(下位の奴らから順に闘れば俺たちに当たるまでにあの3年は疲れるぞ)」

 「(まさかマルコより強いわけはないからな)」

 「(ああ。マルコならまだしも、王国のガキに俺たち帝国人が負けるわけあるかよ!)」

 「(で最後に俺たち2人がいいとこどりをするわけだな)」

 「(そうだ。俺にも少しは回してくれよ)」

 「「わはははは」」




 6年1組の先輩たちは全員が剣士ばかりなんだ。正直体術の相手が続いたら疲れただろうから助かったよ。なんなら同時にかかってきてもいいくらいだよ。

 今の6年1組の先輩たちとマルコとは力の差があり過ぎたって聞いたんだよね。てことは‥‥うん、そういうことなんだろうな。
 


 「団長準備出来たっす。練習場に来てくださいっす」

 3年1組の教室にハチが呼びに来た。

 ウオオオォォーーッ!
 団長ーーーーー!
 うおおおぉぉーーっ!

 3割以上?1,000人は狂犬団員だな3,000人ほぼ全員見に来てるんじゃない?

 6年1組には悪いけど俺たち圧倒的にホーム感だな。逆に6年1組にはアウェイ感半端ないよな。


 「6年1組の先輩たちからの呼び出しだからな。先輩たちのご希望どおり、団長と順番に闘ってもらうぞ」

 コクコクコクコク

 「(おーおー3年坊主がいきがりやがって)」

 「(クックックとにかく時間をかければかけるほど俺たちに有利だからな)」

 「(3年の体力なんてしれてるからな)」

 「下位から順番だぞ!夜中になろうがやってもらうからな3年坊主!」

 「「「そうだぞ!」」」

 「その言葉に嘘はないよな?」

 「「「あるわけないだろう!」」」

 わぁーわぁーわぁー
 ワァーワァーワァー

 歓声がすごいよ。
 そんな歓声の中に。気が抜けるような言葉が俺に向けてかけられたんだ。


 「団長ーー今日ウチ妹を迎えに行かなきゃなんないから早くしてくださいよーー!」

 「「団長ーー私もー!」」

 「団長ーー俺も今日は6点鍾までに帰らなきゃなんないから早くしてくださいよーー!」

 「「俺も~」」

 「「私も~!」」

 ワハハハハハ
 ギャハハハハ

 ドッと受ける場内。それに対して6年1組からは。

 「「「へっ?何言ってんだコイツら?」」」

 「「「俺たち帝都学園の6年1組だぞ?」」」

 「「「帝国1、最強の未成年者クラスだぞ?」」」

 「「「3年!身のほど知らずにもほどがあるぞ!」」」

 「「「そーだそーだ!」」」

 わぁーわぁーわぁー
 ワァーワァーワァー


 「はいはーいじゃあ6年1組は並んでくださいねー」

 そんな6年1組の怒声をものともせずにトンが狂犬団の生徒たちを指揮して50人を間隔を空けた5列に並ばせていく。


 「あっ!あなた6年10組じゃない!?犬だから負けて3年生に尻尾振ってるのね!情けないわ」

 「フッ。情けないのはあなたたち6年1組よ。このあとあなたたちは現実を知るわ」

 「何が現実よ!犬の分際で!」

 「まあ言ってなさい。何よ!その上からな言い方!」

 それはあちこちでも見られる。

 「お前3組じゃねぇか!」

 「あなた2組なのに!」

 「お前ら5年1組なんだぞ!」

 「「「情けない!」」」

 これに対して狂犬団員となった生徒たちは皆が半笑いをしていた。

 「「「(情けないのはどっちだよ?)」」」

 「「「(ちょっとは世の中を知れよ)」」」



 「はい1列に10人。約束どおり50番から並んでもらいましたよ」

 その様子を見ながらドンがハチに声をかける。

 「ハチお前なら団長とどう闘う?」

 「僕なら5人を10組にしますね。囲んでしかも攻めませんよ。ひたすら防御に徹します。ひょとしたらに期待して団長の疲労を待ちますね」

 「正解だろうな。でも団長はこんくらいじゃ疲労しないだろうがな」

 「あはは。そうっすね」







 「肉串いいっすかー?」

 「ツクネいかーすかー?」

 「こっち!肉串5本!」

 「私ツクネ2本!」

 「はーい毎度ありー!」

 売り子が観客席を回っている。あらら、けっこう売れてるじゃん。
 くそーこんなこと考えるのはどうせハチだな。




 「団長から6年1組に何か?」

 「俺?俺からは魔法は使わないから安心していいよ先輩たち」

 「「「なにが安心していいだ!6年1組の精鋭軍団にビビってハッタリかましやがって!」」」

 「「「どうせショボいのしか発現しねぇんだろ!」」」

 ワハハハハハ
 わははははは
 アハハハハハ

 ぎゃくに団員がドッと受けているよ。

 「団長ーーこいつら団長の魔法の威力知らないんすよーー」

 狂犬団所属の海洋諸国出身の生徒の声が響く。

 「どうせなんだから離れたとこでなんか披露してやってくださいよー」

 ワハハハハハハ
 いーぞーやれー
 わはははははは


 「よーし。ハチ!。真っ直ぐ走って逃げろ!」

 「なんかわかんないけどガッテンだ団長!」

 トテトテトテトテトテトテトテ‥‥

 身体に身体を揺らしながら逃げ走る子狸。なんかかわいいなこいつ。

 トテトテトテトテトテトテトテ‥‥

 よーし。この辺かな。
 50メルくらい離れたところでハチを中心の円柱を隆起させる。

 ズズズーーッッ!

 「あわわわっっ!」

 円柱の高さは2階建家屋の屋根の上の高さくらいかな。

 「ハチーお前はそこから見てろー!」

 「了解っすーー。だけどあとで降ろして下さいよ団長ーー!」

 ワハハハハハ
 ハチお前はずっとそこにいろーー
 わははははは


 「「「‥‥」」」

 「「「な、なんなんだあの土魔法は‥‥」」」

 「「「お前ら土だけじゃねぇぞーー」」」

 「「「そうよー団長の魔法は規格外なんだからーー」」」

 「「「よかったなー魔法無しにしてもらってーー」」」

 「「「魔法ありならもう終わってるわよーー」」」

 ワハハハハハ
 わははははは
 アハハハハハ


 刀を交わすこともない。この半年で同年代の剣士で困る相手はモーリスくらいだ。問題はまるでない。体術も王都学園の仲間以外同年代で不覚をとることもない。こうしてみると今のデーツなら帝都学園で体術で頭とれるんだよな。

 「じゃあいくぞ!」

 ダッッ!

















 「さて。最後は1位のアンタで終わりだよ先輩」

 「う、う、うそだろ‥‥」

 顔面蒼白。あちゃ~闘る前から終わってるよ。

 「一応握手しとこうか」

 ギュッ
 ギュッ

 
 「ふーん。なあ先輩」
 
 「な、なんだ!?」

 「あんたマルコと闘ってどうだった?1回も勝てなかっただろ?」

 「‥‥」

 「なぜかって顔してるな。仮に俺がマルコと連続で闘ったらたぶん最初の10回は勝つぞ。だけどそっからは互角だろうな。なぜかわかるかい?」

 「‥‥」

 「あいつは魔力を扱えるからだんだん順応するんだよ。
 それと疲労だよ。だからマルコのような強者と闘ると神経使うんだよ。勝てて最初の10回。それ以降はヘトヘトになって最後は俺かマルコのどっちかの体力が尽きて終わりなんだよ。
 で先輩だ。
 ハッキリ言って100回連続して闘っても俺が勝つ」

 「そ、そんなことあるわけない!バカかお前は!」

 「じゃあさっそく闘ろうぜ。
 俺は木刀を使うけど先輩は本身でいいよ。だけど‥‥もちろん俺は本気で闘るからな。油断するほど自惚れたり思い上がってもいないからな。
 何回でもいいよ。
 先輩の気が済むまで闘ろうぜ」











 「ハァハァハァハァ……。もう充分だ……。俺の負けでいい……。」

 10回も闘るまでもなく俺の圧勝だった。







 翌朝
 学校集会が終わった直後。

 「団長から話がある。まだ闘ってない生徒で団長に何か言いたい生徒は座ったままでいてくれ」

 「じゃあ団長お願いします」

 ダッッ!
 ダッッ!
 ダッッ!
 ダッッ!

 全校生徒が即座に立ち上がった。
 
 「(おギン!急にふるのはやめてくれよ!)」

 「(もう団長!相変わらずヘタレなんだから!)」

 「(ヘタレ言うな!緊張するだけだわ)」

 「(それをヘタレって言うんですよ!)」

 「クッ‥‥」


 震える脚で壇上に上がる。どうしよう?またなんか言うのかよ!仕方ない。煽るか。

 「まだ文句のある奴いる?」

 シーーーーーン











 「(はい団長もういいですよ)」

 「(なんだよ!緊張して損したわ!)」

 「(じゃあ団長なんか話しますか?)」

 「(すいません‥‥)」

 「(フフフ団長はヘタレのまんまでいいんですよ)」



 そして何事もないかのようにドンが壇上に上がって話し出した。

 「授業前だから手短に言うぞ。
 教室に戻ったら1人1枚の紙をもって帰ってくれ。アンケートだ。紙の設問どおりに答えてくれ」


 学園の生徒全員3,000枚弱のアンケート用紙。
 そこには専用の泥板を開発して直接字や線を引いて凹凸を作って印刷する活版印刷を採用したんだ。ガリ板っていうのかな。昔まだ元気だったとき爺ちゃんに教えてもらったんだよね活版印刷。これなら沢山の印刷も余裕だよ。

 今回のアンケート用紙は先生たちも目にしてるから「活版印刷セット」も今後必ず売れると思うよ。もちろん学園内コンビニでも販売するし。

 「設問どおりにマルをつけるか記入してくれ。」

 「狂犬団に入ってやることが決まっている・入ったばかりだ・何をやるか未定などをな。もう書いた奴は書かなくてもさらに書いてもいいぞ」

 「狂犬団の活動は大きく2つだ。1つは学園生活を充実させる活動。これは今後既存の生徒会とも協議する予定だ。

 もう1つは学外活動だ。既にクラスの誰かから聞いたかもしれないが団長は北区の教会の悪徳神父を排除して悪名高かった奴隷商バァムの館を殲滅した」

 ざわざわ
 ザワザワ
 ざわざわ
  

 「バァムの館跡地には狂犬団の本部が置かれている。もちろん帝都騎士団からの承認ももらっているぞ」

 ざわざわ
 ザワザワ
 ざわざわ

 「興味のある生徒は見に来てくれ」


 「狂犬団は人種差別はしない。
 狂犬団は社会の弱い人を守る。
 狂犬団は自らの欲を優先しない。
 狂犬団は年功序列をとらない。
 狂犬団は誰もが輝ける場所を作る。

 以上を法として永く続く組織を作るつもりだ。
 この理念、信念に賛同してくれる学園生を改めて募集する。

 紙の指示どおりに書いて各教室に置いてある箱に紙を明日の朝までに入れてくれ。以上だ」

 「質問だ」

 「嫌なら狂犬団に入らなくていいのか?」

 「もちろんいい。ただ街の掃除や行事など強制的にやってもらうことは年に1、2度あるがな」

 「具体的に何をやるの?」

 「これから決める。思うことがあればそれも紙に書いてくれたらいい。これをやりたいあれをやりたいってな」

 「俺団長に剣を教えてほしい」

 「私魔法を教えてほしい」

 「「「俺も!」」」

 「「「私も!」」」

 「もちろんそれも考えている」

 授業いいのかなって思ったら大丈夫なんだって。
 後でドンに聞いたら、学園長からこのあとの授業もみんな少し遅らせてくれたんだって。


 「改めて言うが狂犬団は武力一辺倒じゃないからな」

 「「「どう言う意味?」」」

 「そのままの意味だ。おギン説明してくれ」

 「例えば学外活動で貧民街の子どもたちに字を教えるとするわ。字を書けない子どもも帝都にはいっぱいいるでしょ。だから字のうまい学園生で興味のある子には先生をやってもらうわ」

 ざわざわ
 ザワザワ

 「でも団長は‥‥」

 ま、まさかバラすのかよおギン!

 「団長はね、めちゃくちゃ信じられないくらい字が下手なのよ。
 だから子どもたちに字を教えるのに団長は要らないわ」

 ワハハハハハ
 わははははは
 あははははは

 「クッ!」

 「でも‥‥団長はお料理はうまいわ」

 「私知ってる!海兵見習いの幼なじみが言ってたわ。団長のお料理はすごいって」

 「僕も聞いた!他国の貴族だって団長の料理に興味津々だって!」


 「だから字が下手くそな団長には、子どもたちのための食堂をやってもらったり、あるいはお料理教室をやってもらうかもしれないわ」

 ざわざわ
 ザワザワ
 ざわざわ


 「そんなわけだ。何せみんなも知ってのとおり、動き出したばかりの組織だからな。よく考えてくれ。ああ今後は売店に掲示板をつけるからそれを見てくれればわかるようにするからな」

 おおおぉぉぉーー!
 ウオオォォーーッ!

 なんか狂犬団のみんなすごいな。だんだん本格的に動き出してるじゃん!



―――――――――――――――


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