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第2章 幼年編
491 ペイズリー邸にて
しおりを挟む「アレクハ?」
「「お兄ちゃんは?」」
「今日は遅くなるから夜ごはんは温めてあるのを食べてくれって言ってたさね」
そう言ったバブーシュカ(バブ婆ちゃん)がリズ鍋で保温していた料理を皿に盛り付け始めた。ブラウンシチューだ。
「バブーシュカ、お兄ちゃんどこに行ったの?」
「ペイズリー様に稽古をつけてもらうんだってさねアリサ様」
「そう‥‥」
「じゃあみんなでご飯にしようか」
「「「いただきます(イタダキマス)」」」
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
「なんか美味しくないねアリサお姉ちゃん」
「ホントねクロエ」
(俺ダケマダコノママデイイノカ‥‥)
▼
「遠慮なく来なさい」
「はいペイズリーさん!お願いします!」
「思いきりな」
「はい!いきます!」
ペイズリーさんは帝国最強の一角だもんな。師匠や、ロジャーのおっさんレベル。隻腕に騙されてちゃダメだ。せっかくの機会。思いきりやって学ばなきゃ。
「いくよシルフィ」
「ええアレク」
ダンッッ!
「ハァハァハァ‥‥参りました」
直接的な攻撃魔法こそ使わなかったけどシルフィの速さを加護に精霊魔法を十全に駆使したつもりだった。しかもときにはトリッキーな動きでさえも加えてみたのに。
すべての剣技を楽々いなされた。まるで届かない高い頂に登っているみたいだった。
「いやあ大したもんだよアレク君。ほぼ銀級レベルだね。これは最上級鉄級に推薦したかいがあったよ。
もうすぐひと月か。どうだい帝国は?」
「ハァハァハァ‥‥はい来てよかったです」
「そうかい。それじゃあ食事でもしてってくれ。家庭料理で大したものは出せないが帝国の料理だよ」
▼
ペイズリーさん家は前皇帝のおっさん家からすぐ近くにあった。
建屋自体は豪邸だったけど、やっぱり華美なものがまるでない簡素ともいえる屋敷だった。
メイドやお手伝いさん的な人もまったく見なかった。帝国の武人の家ってこんなのなんだな。
ただどこかのゴミ屋敷と大きく違ったのはそんな簡素な中にも家族が営む暮らしの温もりを感じたんだ。
「紹介するよ。妻のエリザベス、娘のマリアンヌだ」
「いらっしゃいアレク君。エリザベスよ。主人から聞いてるわよ、あなたの活躍は」
「あははは。なんもしてませんよ。今日はお招きいただきありがとうございます」
ブロンドのストレートロングヘア。意志の強そうな大きな瞳が印象的。
美しい奥さんのエリザベスさんは実年齢よりもかなり若く見えた。
帝国の重責あるご主人の妻には似つかわしくない、全くの市井の人に見える普段着を着こなしているのが逆に好印象だった。
「娘のマリアンヌよアレク君」
マリアンヌさんもまた美しかった。
スッとしたモデル体型。チビな俺より背が高いな。大きな瞳も印象的だ。母親譲りのブロンドのストレートロングヘアで母娘が並ぶと、なんだか姉妹にも見えなくもないな。
「あら?姉妹に見える?うれしいこと言ってくれるわねアレク君」
「あはははは‥‥」
でも‥‥ん?マリアンヌさんってどっかで見たよな。
「あ、あなたは‥‥」
「ええ私も学園生、デーツと同じ5年1組よ」
やっぱり!
「3年1組のアレクです。先輩よろしくお願いします」
「アレク君、クラスの男子から聞いたんだけど来週6年1組の男子がみんなであなたに挑むらしいわよ」
「そうなんですか!それは楽しみです!」
「プッ。だってパパ」
「これで狂犬団に逆らう生徒はいなくなるなワハハハハ」
▼
「旨っ!」
「お料理が上手いアレク君にそう言ってもらえると嬉しいね」
「先輩のお母さんマジで旨いです!」
「その『先輩のお母さん』がなければ最高なのにね」
わはははは
フフフフフ
「フフフお代わりはいかがアレク君」
「いいんですか?じゃあ遠慮なくお願いします」
食事は肉類の煮物や焼きものが中心だった。煮物には甘さと酸味が加わってたのはヨーグルト由来なのかな。どちらも素材の味が活きるじんわりと甘い味つけ。料理全体が赤い色なのはパプリカパウダーかな。
「そうよバプリカよアレク君。バプリカは帝国料理には欠かせない調味料なのよ。
バプリカは生もあれば乾燥させて粉にしたものもあるわ」
「旨いです。これがバブリカですか」
「ええそうよ。そうそうこの数年急速にブームになってるのがバプリカの肉詰めなのよ。もちろんアレク君が作ったお肉の挽肉器でね」
「あはは、ありがとうございます」
パプリカがバプリカか。やっぱどこかの時代で転生者がいたんだろうな。
そういや東北の爺ちゃんもパプリカパウダーとヨーグルトを使った洒落た料理とか作ってたもんな。まるで異世界の帝国料理じゃんか。
「アレク君からお土産にいただいたクッキーも楽しみだわ」
「そうよママ。アレク君はメイプルシロップで有名なヴィヨルド出身ですもの」
「おいおい出身どころかそれも生みの親だぞアレク君は」
わはははは
フフフフフ
ふふふふふ
パパママ呼びをするブロンドの親子か。まるでアメリカのホームドラマじゃん!
「ペイズリーさんが手足に魔力を纏うのは俺にも見えたんですが顔辺りにも魔力を纏うように見えたんですがそれはなぜなんですか?」
「もう魔力が見えるのかい!さすがだな。
それはね目に魔力を注ぐんだよ。動体視力の強化なんだよ」
「そんなことができるんですか!」
「ああ。アレク君の師匠のディルさんや帝都の冒険者ギルドのテーラー顧問クラスの達人になると予知というのかな。2手3手と少し先の未来まで見えるそうだよ」
すげぇな師匠は。
「一応私もほんの少しだけ、1手くらいの先は見えるけどね」
「じゃあさっきも?」
「ああ。今のアレク君との立ち会いでも次の一手くらいはね。
次は上段からだな。次は突いてくるなと言った具合にね」
「凄いです‥‥」
だから俺とシルフィの超高速の連撃も楽々いなされたんだな。
「君もいずれ生命をかけた闘いをするだろう。そのとき同じ技量の相手と闘るとき、これができるできないは生死を分けることになるよ。
ただ‥‥自分より遥かに技量の上回る強敵と闘うときはこれくらいではダメだけどね」
(あっ!これってホーク師匠が言ってた‥‥)
「はい……。俺はまだまだですね」
ペイズリーさんが俺を見てゆっくりと微笑んだ。
「ペイズリーさん。俺今稽古をつけてもらっただけでも帝国にきた甲斐がありました。
ぜひまた俺を扱いてください」
「ああもちろん。ところでその後どうだい3人は?」
「はいつい昨日、アリサも元に戻りました」
「アリサちゃんが!!
よかった‥‥」
マリアンヌ先輩が涙目になって喜んでいた。
「アリサちゃんは私にとっては妹同然なのよ」
「そうなんですね先輩」
「そうそう、クロエの誕生日会用の肉にオークを狩りに行ったんですよ。オークはアリサが一撃で仕留めました」
「「「アリサちゃんが!?」」」
「それはすごいな‥‥」
「はい。あと2、3年もすればアリサも学園で1位になれますね」
「うん。そうだろうね。じゃあ‥‥」
「はい。あとはデーツだけです。ただあいつは結構意地っ張りなところがあるからまだまだかかると思いますけど。
だけどデーツも必ず元に戻します。俺が帝国にいる間に」
ここでペイズリーさんの娘のマリアンヌ先輩が俺に頭を下げたんだ。
「アレク君お願い。私昔みたいにまたデーツと仲良く過ごしたいわ」
ペイズリーさんも奥さんのエリザベスさんもマリアンヌ先輩に慈愛のこもった微笑みで応えていた。
「話は変わるがアレク君、ヴィヨルドの未成年者の武闘祭で闘ったとき。帝国代表のマルコ君がなぜ爵位を持ってるのかわかるかい?」
たしかマルコはマルコ・ディスパイスだったよな。そういや俺も本名はショーン・サンダーだったよ。忘れてたけど。
「はい。たしか帝国では爵位は1代限りなんですよね?」
「そう。世襲の弊害は歴史から学んでるからね。それでも当代の功績は評価するのが帝国のやり方なんだよ。
だから帝都学園で年度末の武闘祭で1位になれば未成年者でも爵位をもらえるんだよ。帝都の1位は帝国の未成年者で1番だからね」
「ペイズリーさん、デーツも必ず1位を獲れせますよ。
アリサも5年か6年で必ず獲れます。
もちろん来春俺も獲りますから皇帝のおっさん家から4人続きます」
「ん4人?クロエちゃんはまだ初級学校に入ったばかりだろ?」
「はい。ですがクロエはもうすぐ‥‥兄妹で最強になりますから」
「「「???」」」
「でもまあ‥‥ワハハハハ4人か。それは傑作だね。
王国の農民の子アレク君。君には帝国の爵位があったほうがいいのかもしれないな」
「あははは」
(ペイズリーさんはどうやら俺の過去を調べて知ってるな)
「でもまあもらえるんならもらっとこうかな」
「それがいいよ。大殿と私は君の身元引き受け人だから王国に帰ってからも少しは抑止力になるかもね。ああ大殿は帝国の父親かワハハハハ」
「はい親父です」
「「まあ」」
ワハハハハハ
フフフフフフ
▼
「さて、食後はアレク君が持ってきてくれたクッキーをお茶請けにいただきましょうね」
「お口に合えばいいんですけど」
「おいしい!」
「なにこれ?」
「よかったわあなたが甘いものを食べなくて」
「ホントねママ」
「ええマリアンヌ」
ポリポリポリポリポリポリポリ‥‥
ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり‥‥
アメリカのホームドラマかと思ったのに。なにこのアンバランスさは‥‥少しは話そうよ。
ポリポリポリポリポリポリポリ‥‥
ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり‥‥
「(すまんねアレク君。家の2人は大の甘党でね)」
「あははは‥‥また持ってきます」
▼
「ただいまー」
「「お兄ちゃん!」」
帰ったらアリサとクロエが飛びついてきた。頭をぐりぐりと俺の腹に押しつけてくるのは実家の妹弟と同じだ。アリサなんか最初のツンツン具合がウソみたいなデレ具合だよ。
「お前らまだまだ子どもだな」
2人の頭をぐしゃぐしゃと撫ぜる。
「「やめてよー!お兄ちゃんキャッキャ‥」」
「ホントに‥‥お前らは甘えん坊だな」
「「だってー」」
(俺ノ妹ナノニ俺ハナニヤッテンダ‥‥)
「さてアリサはもう修練したか?」
「うん!やったよ!」
「えらいぞ!さすがアリサだ」
そんなアリサをみてクロエが言ったんだ。
「お兄ちゃんクロエも修行したい」
「そうか!じゃあ2、3日待ってろよ。魔石を用意するからアリサお姉ちゃんと同じように魔力をつける修練をしような」
「うん!」
「アレクお兄ちゃんアリサお姉ちゃんは強くなったの?」
「ああ。めちゃくちゃ強くなったぞ。今は2年だけど5年になったらたぶん学園内で1番になってるよ」
「ホントなの?すごいわアリサお姉ちゃん!」
「ありがとうクロエ。今はまだまだよ」
「あとはデーツだけだよ。なあデーツ?聞こえてっかあ?」
「ウルサイ」
「なんだって?」
プイと横を向いたデーツ。
「デーツお兄ちゃんも変わらなきゃダメなんだよー」
「「ねー」」
ワハハハハハハ
フフフフフフフ
キャッキャキャ
家族の雰囲気も良くなってきたよ!
「今度の休養日の前の日はいよいよわが家の1大イベントが始まります!
みなさん拍手ーー!」
ぱちぱちぱち
パチパチパチ
ぱちぱちぱち
「お兄ちゃん何するの?」
「ナイショでーす」
「アリサお姉ちゃん何するの?」
「フフフ内緒よ」
「デーツお兄ちゃん!?」
「内緒ダ」
「バブお婆ちゃん!?」
「内緒さね」
「うっ‥‥うっ‥‥みんな内緒でクロエだけ‥‥」
ヤバい!クロエが泣きそうだ!
「あのなクロエ。今度の休養日前。何の日だ?」
「えーっと‥‥わかんない」
「今度の休養日前はな‥‥みんな一緒に言うぞ。せーの」
「「「クロエの誕生日!」」」
「えっ?そうだったのね。私‥‥忘れてた」
わははははは
ふふふふふふ
あははははは
「だからなクロエ。週末を楽しみにしてろよ。美味しいものいっぱい作るからな!」
「うん!」
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