アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

489 魔獣狩り(後)

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 「先に兄ちゃんが見本を見せるからな」

 ザクザクッ‥‥ザクザクッ‥‥


 「200メル先にオークが1体いるな」

 「あ、あんたどこになにがいるかわかるの?」

 「当たり前だろ」

 「そ、そんな‥‥」

 「俺よりお前らの父ちゃんのほうがもっとわかると思うぞ」

 「いいのよ!あんな奴なんて!」

 「そんな言い方するな!お前の生まれ持った才能は父ちゃん譲りなんだぞ」

 「関係ないわよ!あいつのせいでお母様は‥‥」

 アリサが歯を食いしばり、ますます鬼の形相になった。


 「父ちゃんが忙し過ぎたから母ちゃんを見殺しにしたってか。
 それはガキの言うただの詭弁だよ」

 「なんにもわかんない他人のあんたが勝手なこと言うな!」

 「他人って言うな。少なくともこの1年は俺も家族だ。お前の兄ちゃんだ」

 「違う違う違う!私の家族はデーツお兄ちゃんとクロエだけよ!」

 「父ちゃんは?父ちゃんは家族じゃないのかよ!?」

 「あんな奴‥‥」


















 「そのあんな奴がお前らのために建てた家にお前は住んでてもか?」

 「それは‥‥」

 「その家をボロボロのゴミ屋敷にしてもか?」

 「‥‥うるさい!」

 「妹のクロエを生きたままの人形にしてもか?」

 「うるさいうるさい!」

 「デーツと話もしなくなってもか?」

 「うるさいうるさいうるさい!」

 「未だに死んだ母ちゃんに未練たらたらで会えば父ちゃんに悪態ついててもか?」

 「もう‥‥うるさい‥‥」











 「なあアリサ‥‥お前いつまでそれをやるんだよ?
 なぁいつまでやるんだ?」

 「そ、それは‥‥」

 「そんなの死んだ母ちゃんは喜ばねぇぞ」













 「ちゃんと前見て歩いてったら死んだ母ちゃんも喜ぶんだぞ。もちろんたった1人の父ちゃんもな」

 「‥‥」

 「アリサ。お前にはまだ家族も兄妹もいるんだぞ」

 「‥‥」

 「クロエは前を向いて歩き出した。あとはアリサ、お前とデーツだけなんだよ」

 「時間はいつまでも待ってくれねぇぞ。
家族が家族として仲良くいられる時間なんてあっという間だぞ」

 「デーツは再来年成人で卒業だろ。いつまでも家に居ないじゃん。お前もあと3、4年もしたら成人だぞ。
 誰もがひとっ所にいる時間なんてあっという間に終わるんだぞ。まあお前の嫌いな兄ちゃんの俺がいるのもあと10ヶ月ちょっとだけどな」

 「ホントにうるさい!なに知ったような口聞いてんのよ!」






























 「俺な、生まれたとき母う、母ちゃんが俺の代わりに死んだんだ。3歳の時は父ちゃんが死んでるからな」

 「えっ?!」

 「孤児の俺を迎えてくれた養父母もさ、血は繋がらないけど妹や弟もさ、すっごく仲良いんだぞ。
 だけどな。
 俺、実の両親に感謝の想いも、なんで俺を1人にしたんだよって文句も言えないんだよ。
 当たり前だけどな‥‥」

 「だからなアリサ。今の幸せなんていつ無くなるかわかんないぞ。たとえお前が今不幸せって思っててもな」

 「‥‥」

 「ごめんなアリサ。兄ちゃん、らしくないこと言ったな」

 「‥‥」

 「ヨシ。オーク狩ってクロエの誕生日のプレゼント買うぞ!」

 「‥‥‥‥うん」


 「まず俺が見本を見せるからよく見とけよ」

 パンパンパンッ!

 手を叩いて100メル以上先にいるオークの気を俺に向けさせる。もちろん俺自身の魔力は伏せたままで。

 「ゴフッッ  ガアアッッ!ゴフッッ!」

 ドンドンドンドンドンドンッッ‥‥

 地響きを響かせながら木々をものともせずに薙ぎ倒し、直線を最短で走ってくるオーク。


 「手に魔力を集める。今のお前ならこんくらいの魔力は集められるぞ」

 コクコク

 手のひらにオレンジ色の火球が浮かぶ。

 「できるだけ小さくだ。小さいほどいいならな。魔力をしっかりとこめろ」

 コクコク


 ドンドン  ドンドンドンドッッ‥‥

 「ガァァッ  ゴフッ!ガアアッッ!」

 猛り狂ったオークが迫ってくる。
 100メル、80メル、50メル‥‥

 「あ、あんた大丈夫なの?!早く撃つか逃げなきゃ!」

 40メル、30メル、20メル‥‥

 「は、早く、早く!あぁぁぁ‥‥」

 「落ち着いて深呼吸だ。十分に引きつける」

 10メル、8メル、5メル‥‥

 「左胸ただ1点だけに狙いをつけて」

 「撃つ!」

 ヒュッッッ!


 ドンンンッッッ!

 「ガアアアアアッッッッッ‥‥」



 ドウウウゥゥゥッッッ!

 左胸に穴の空いたオークが勢いそのままに倒れた。即死。

 (あちゃぁ。魔石も割っちゃったよ)



 「こんな感じだ。わかったなアリサ」

 「で、できるわけないわ。そ、そんなこと‥‥」

 ガクガクガクガク‥‥

 「腰抜けたかアリサ。でも気にすんな。なんも恥ずかしくないぞ。俺も最初そうだったからな。
 無理やり師匠に危ない場面に何度も何度も放り込まれたんだ。
 だけど最後は圧倒的に強い師匠の背中、安心感が俺を独り立ちさせてくれたんだ」

 「‥‥」

 「だからなアリサ。兄ちゃんが保証する。お前にも必ずできるよ」







 「落ち着いたな。じゃあいくか」

 「うっ‥‥うん」

 「やることは単純だからな。魔力を込めた火球をオークの左胸にぶち込む。たったそれだけだ」



 (いるな。ちょうどおあつらえむきに見晴らしもいい。木も邪魔してないしな)

 「いくぞアリサ」

 パンパンパンッ!


 「ガアアアアアーーーッッッ!」

 ドンドンドン  ドンドンドッッ‥‥

 「じゃあいくぞアリサ」

 「う、うそ!?」

 「大丈夫。まずは落ち着け。深呼吸だ。そう。魔力をこめろ。
そうだ。こっから出すのはオレンジ色だ」

 アリサが右手に火の玉を発現する。ソフトボール大の火球が不安定に漂っている。


 「で、でない!これ以上でないわよ!」

 「大丈夫。落ち着いて深呼吸だ。兄ちゃんに合わせろ。スーハー」

 「「スーハースーハー‥‥」」

 「兄ちゃんがお前の後ろにいる。安心しろ」

 「ダメ!で、できない!赤いままよ!どうしよう?!」

 「落ち着けって。大丈夫。お前の後ろには兄ちゃんがいるんだぞ」

 コクコクコクコクコクコク‥‥

 アリサの背中に両手を添える。

 「撃つのは1発、オークの左胸1点だけでいい」

 「ダメよ!魔力がぜんぜん安定しないわ!」

 ドンドンドン  ドンドンンッッ‥‥

 「まだだ。まだ撃つな。引きつけろ。大丈夫、怖くない」


 「家族の笑顔を思い出せ。アリサ。お前ならできる。家族みんなが笑って待ってるぞ!」

 ドンドンドン  ドンドンドンドンドンッッ‥‥



 【  アリサside  】

 何よこいつ!いつのまにか家の中心になって。でも‥‥クロエも明るくなったし、デーツお兄ちゃんと話したのって何年振りだろう。


 あいつは留学してきたその日に全生徒を前に宣言したわ。俺が1番だって。事実あっという間に学園の頂点になった。
 今ならわかる。学園では敵なしの強さだったマルコ先輩より強いってことも。
 毎日毎日、嫌々修行やらされてるけど私にも少しずつ力もついてるのがわかる。ほんの少しだけど‥‥
 たしかに私は強くなってる。

 オークが迫ってきた。怖い!

 大人の冒険者が何人もいてやっと対等に闘える相手なのに。
 怖い!
 私このままオークに殺されるの?
 あっ‥‥漏らした。
 こんなところで死ぬのなんか絶対嫌!まだ死にたくない!

 「‥‥丈夫だ‥‥」

























 あっ!あいつの声が聞こえてきた。

 「アリサ大丈夫だ。落ち着け。お前なら勝てる!」

 「背中にお兄ちゃんの魔力を感じろ。ストローの修行を思い出せ。わかるか」

 「うん」

 背中から流れてくる温かい魔力を感じる。

 「兄ちゃんの魔力がわかるなアリサ」

 「うん!」

 「ヨシ!もう1度ゆっくり深呼吸しろ。右手のひらに火を発現しろ」

 「うん」

 ボオオオオオオオッッッ!

 「よーしそうだ!」

 「もっと魔力をこめていけ。
 カップのスープをスプーンで回しただろ」

 「ぐるぐるぐるぐる」

 「「ぐるぐるぐるぐる」」

 「そうだ。回り出したぞ!どんどん魔力をこめていけ。
 よーし色が変わって‥‥きたきたきたー!
 きたぞ!きたぞ!きたぞ!
 まだまだ上がるぞ!
 すごいよアリサ!
 ヨシ!オレンジ色になった。
 オークのどこに撃つ?」

 「ひ、左胸!」
 
 「そうだ。左胸だ」

 ドンドンドン  ドンドンドンドンドンッッ‥‥

 オークの顔の皺までわかる距離になった。

 「落ち着いて1発で決めろよ。お前ならできる。
 クロエの顔を思い出せ!
 デーツの顔を思い出せ!
 父ちゃんと母ちゃんの顔を思い出せ!
 家族みんなの笑顔を思い出すんだ!」

 「うん!!」




 【  再びアリサside  】

 家族の顔を思い出せって‥‥

 あっ!





































 家族の笑顔の中にあいつがいた……。

 お、お兄ちゃん……。


 「いいなアリサ。321で撃ち抜け」

 コクン

 「いくぞ!3・2・1  撃て!」

 「ファイアボール!」

 シュッッッ!


 ドンンンッッッ!

 「ガアァァァァァァァァァァァ‥‥」

 ドウゥゥゥッッッ!


 アリサが撃った高濃度の火球がオークの胸を貫いた。
オークは即死だった。


 「よくやった。よくやったアリサ」

 「う、うっ、ううっっ‥‥
 怖かったよおおおぉぉーーーー
 お兄ちゃんっ!うわあああぁぁぁん!」

 「よくやった!オークをお前1人で倒したんだぞ!学園の2年生がたった1人でオークを倒したんだ!
 アリサお前は兄ちゃん自慢の妹だよ!よくやった!」

 「うわあああぁぁぁんお兄ちゃん!」

 ひしっと抱きついてくるアリサ。

 あれ?
 俺鼻血が出ないじゃん!?
 やっぱ妹と認識したからなんだよ!
 やったー!
 やったー!
 俺は変態じゃない!やったー!

 (ん?お兄ちゃん異常に喜んでくれてる?)






 その後オークを手早く解体する。

 「お兄ちゃんホントなんでもできるんだね!」

 「アリサ。お前が狩ってくれたオーク。こいつはうまいぞ!クロエに最高の誕生日会の肉が手に入ったよ!」

 「うん!」

 「クロエに胸張って言えるなアリサ。お姉ちゃんがクロエのためにオークを倒したって。この肉は家で食う以外は全部高く売れるからな」

 「うん。ありがとうお兄ちゃん」

 「クロエに何プレゼントするんだ?」

 「あのね、母様がいつも付けてた宝石のブローチがあるの。その宝石をネックレスにしてクロエにあげたいの」

 「それ‥‥すっごくいいな!うん!最高のプレゼントだよ」

 「うん!それとねお兄ちゃん‥‥」

 「ん?なんだアリサ」

 「お兄ちゃんの狂犬組?狂犬隊?」 

 「ああ狂犬団だよ」

 「うん。その狂犬団に私も入りたい。サラさんもいるんだよね?」

 「ああ初級学校の校長先生をやってもらうのがサラさんだよ」

 「すごい!さすがサラさんだわ。お兄ちゃんは?」

 「俺?俺は食堂のあんちゃんだ」

 「‥‥ダッサ!」

 「ダッサ言うな!」

 「フフフ。でもお兄ちゃんらしいね。
 ねぇお兄ちゃんは何の魔法が発現できるんだっけ?」

 「俺は火水土金風に雷。そして精霊魔法だ」

 「それって?」

 「ああ。エルフを除いて中原で俺だけだろうな」

 「だからナイショって言ったんだね」

 「ああ。悪い人はエルフのサラさんやお兄ちゃんを利用しようとするからな」

 「なんとなくわかるよ 」

 「アリサ。お前の魔力はこのまま修練をちゃんとやっていけば火魔法だけで学園1位になれる」

 「なれるかなぁ」

 「だけど気をつけろよ」

 「どうして?」

 「お前かわいいからな。変な奴がついてくる可能性がある」

 「?」

 「だからお兄ちゃんは正直狂犬団も不安なんだよ。あいつら馬鹿ばっかだからお兄ちゃんは心配なんだよ」

 「お兄ちゃんはアリサを守ってくれるだよね?」

 「当たり前だ!お前に近づく奴は手加減なしの雷をぶっ放す!」  

 「フフフフ」


 「さあ早く帰ろぜ」


 帰途








 「キャーーーッッ!
 もっとよーーー!お兄ちゃんもっと飛ばしてよーーー!」



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