アレク・プランタン

かえるまる

文字の大きさ
上 下
484 / 722
第2章 幼年編

485 一蹴

しおりを挟む


【  北区教会神父side  】

 (ヨシ。ここまで来れば大丈夫じゃ。帝国の地はもうその稜線しか見えないからの。
 逃げ切ったわい。ワシの勝ちじゃ。もう捕まることもないわ。
 次の派遣先でまたしっかりとため込むか。ワシの老後は安泰じゃわい。
 せめて今はのんびり船旅を楽しむかの)


 「おいそこの女。酒をもってこっちに来い」

 「ん?いいのかい。船上とはいえ聖職者が昼間っから酒なんぞ呑んで」

 「構わん。女神様は酒くらいで怒らんわ。ましてこの船は盗賊船。誰を気にする必要がある」

 「ハッキリ言うねえこの生臭神父は」

 「お前はなかなか器量の良い女だな。ヨシ気に入った。わしの横で酒を注げ。今宵も含めてわしを満足させてくれたら褒美も十二分に弾むぞ」

 「そいつはいいね。
 だが酒は誰だろうと前金でいただくのがこの船のルールさ。
 だから神父のダンナも金を用意しといてくれよ」

 「ヨシわかった。この船で1番いい酒をもってこい」

 「わかったよ」







 それは洋上での1コマ。中原の各国にいる神父は法国から派遣されている体となる。そのため、その人物の国籍もまた法国に所属するものとなる。

 故に。たとえ神父が大罪を犯したとしても帝国法で処罰されることはない。せいぜいが国外退去のみとなるのが関の山なのである。



ーーーーーーーーーーーー



 「ほら持ってきたよ。帝国では入らない北国のブード酒だよ」

 「北国のブード酒か。それはいい。よしよこせ」

 「旦那その前に金だ。これは年代ものだからね10万Gするよ。そんな大金神父なんかに出せないだろ?
 もっと安いのにしとくかい?もちろんアタシはそんな安い女じゃないからダンナは手酌で1人で楽しみな」

 「気の強い女だな。ますます気に入った。金ならいくらでもある。今夜はお前を肴にめいいっぱい愉しませてもらうぞ」

 「神父のダンナ。先銭だよ。金は?」

 「ワシの荷物。鎖で縛った箱があるだろう。あれを持ってこい。」

 「話が早いダンナは好きだよ。おーいダンナの箱持っておいで」

 
 
ーーーーーーーーーーー



 場面は再び帝都冒険者ギルドの訓練所に戻る。

 「コーンのおっさん。先に言っとくぞ。卑怯な手使うなよ。使ったら俺も手加減しないからな。手足の1本くらいはマジでもらうからな」
 
 狡猾そうなコーンの鋭い瞳が泳いだ。

 「な、な、なにを言ってるコーン。大人がそんな卑怯な手は使わないコーン」

 「そうか。ならいいんだよ」

 ざわざわざわざわ
 ザワザワザワザワ


 「ついでに言っとくけどそこにいる仲間が手を出してもカウントに入れさせてもらうからな。なんなら手下入れて中で闘ってもいいぞ」

 俺から向かって右側にいるコーンの仲間を見ながら。そう周りに聞こえるような大声で言った俺。
 もちろん左手側、前、後ろにも1人ずつ配してるのは知ってるよ。

 右側。コーンの仲間の狐が両手を挙げて何もしないアピールをした。

 「手だしたらお前らの頭の手足狩るからな」

 周囲に聞こえるように。再度念を押す俺。ここまでやっとけば少しは抑止力になるかな。手を出してくる奴は減るよな、きっと。


 「早くやれコーン!そんなガキなど問題じゃないところを見せてやれ!」

 「だってよコーンのおっさん」

 そう言いながら魔力の抑制を止めてコーンのおっさんにだけわかるように明確な敵意を向けた俺。

 「お、お前、ま、ま、マジか‥‥」

 「へぇーさすが若手の有望株って言われるだけはあるじゃん。ようやくわかったのかよ。
 そりゃそうだよな。魔獣でも闘る前にある程度の実力差知らないと死ぬもんな」

 そんなことを話をきているのを副ギルド長が知る由もなく……。

 「よし。始め!」
 「お前らやめ‥」

 開始の声とコーンの仲間への声が被った。

 (俺のそっくりさんいらっしゃい!)

 ズズズッッッ!

 ほぼ同時に。
 俺が立つ位置に現れた土人形アレク。
 と。そこに飛んでくる四方からの吹き矢。

 ヒュッッッ!
 ヒュッッッ!
 ヒュッッッ!
 ヒュッッッ!

 ブスッッ!
 ブスッッ!
 ブスッッ!
 ブスッッ!

 柔らかく発現した泥人形アレクに突き刺さった4本の矢。

 「おいなんだあれ‥‥」

 「土魔法かよ‥‥」

 「出たー団長の土魔法!」

 ひそひそひそひそ‥
 ヒソヒソヒソヒソ‥


 「ま、まさか‥‥」

 「ひょっとしてこいつ強いんじゃ‥‥」

 シーーーーーーーン


 わいわいと騒いでいた観客席が一瞬にして静寂に包まれた。


 「あーあ。結局お前もかよ。狐獣人ってのは卑怯もんばっかかよ。フン。4人総出でやったわけだから‥‥どうなるかわかるよな」

 刺さった毒矢を抜いて投げた手下に投げ返す俺とシルフィ。

 「シルフィお願い!」

 「任せて」

 シュッッ!
 
 「がはっ!」

 シュッッ!

 「ぐはっ!」

 シュッッ!

 「げはっ!」

 シュッッ!

 「ごはっ!」


 投げ返した4本の吹き矢。屈もうが人混みに紛れようが関係ない。方向以外はシルフィの正確な補正付で吹いた奴に戻っていくから。そうなんだけど誰もわかんないよね。



 「「「あばばばっっっぁぁぁぁぁ」」」

 4人がひっくり返って穴という穴から液体もそれ以外も漏らして痙攣している。

 「自分で投げたもんは自分で当たってりゃ世話ないよな。あとで後片付けしとけよ。てか毒矢使うなら毒耐性くらいつけとけよ!」

 「さて。コーンのおっさんも覚悟はいいな」

 「コココッッ!」

 ササササッッッ!

 急速に距離をとるコーンのおっさん。危機察知能力はさすがにあるな。

 ダンンンッッッ!

 「えっっ?!」

 逃げて距離をとったつもりのコーンのおっさんの目の前に現れる俺。

 ササササッッッ!

 ダンンンッッッ!

 「えっっ?!」

 ササササッッッ!

 ダンンンッッッ!

 「ええーーーっっ?!」

 「なんだよ。逃げるんならもっとまじめに逃げろよ」

 ササササッッッ!

 ダンンンッッッ!

 「なんでついてくるんだこん?!」

 「なんでってお前遅いじゃん」

 ササササッッッ!

 ダンンンッッッ!

 「土壁カモーン!」

 ズズズッッッッ!

 ドンンッッッッ!

 「えっ、えっ?!なんで壁があるんだコン?!」

 「アウッッッ!」

 後退りできなくなったおっさんに合わせてその腹を蹴り上げる。
 と、そのまま尻もちをついて転がるコーンのおっさん。

 「「またまた出たー団長の土壁だー!」」

 うおおおおおぉぉぉぉぉぉ団長ぉぉぉ!

 「俺たち20人これでやられたもんな」

 「「「ああやっぱ団長すげえよなぁ」」」

 「おいルーキー。お前らこのガキの土魔法知ってんのか?」

 「フッ。こんだけじゃねぇーぞ団長は」

 「「だよな。次火魔法来るぞ」」


 「コ、コ、コーーンッ」

 土壁の横から這いずって逃亡を企てるコーンに向けて。その進行方向に向けてさらに土壁を発現して逃亡を阻止。
 さらにその後ろから大玉転がしサイズの真っ赤な火の球を発現する。

 「火の玉でも喰らっとけ」

 「コ、コ、コーーンッ!や、や、やめてくれーーーっっ!」

 ドンンッッッッ!

 ブワワツツッッ!

 「ギャーーーッッ!熱い熱い熱いーーっ!」

 全身火だるまになって逃げ惑うコーン。

 「ギャーーーッッ!」

 「すぐ消してやるよ」

 そこに直ぐ水を放水。

 「今度は水浴びしてろ」

 ドシャャャャャーーッッ!

 「アアアァァ‥‥」

 全身水浸しとなって呆然と立ち尽くすコーン。

 「おら逃げてばっかいないで早くかかってこいよ!」

 「クッ、クソー!」

 その言葉のまま刀を振りあげてかかってくるコーン。

 「遅い!」

 ダンッッッ!

 斬ッッッ!

 ボトンッ

 「えっ、えっ‥‥こ、これ俺の腕?コーーーンッッ!
 ギャーーーーーッッ!」

 「うっせー!」

 ギュッッ!

 血が噴き出すコーンのおっさんの切れた根元を足で踏む。
 
 「ギャーーーッッ!」

 (本当は止血のためにやってんだよ)

 「コーンのおっさん。仲間が約束破ったよな?ってことはあと3本。両手両脚ももらっとこうか」

 スッと刀をコーンのおっさんに見せた。

 「アウアウアウアウッッ‥‥」

 ジュワワワッッッ‥

 「あーあーいいおっさんが漏らしちゃって」

 白目を剥いて気絶したコーンのおっさんだ。

 「そこの魔法士さん回復してやってくれる?」

 「「あ、ああ」」

 魔法士が2人待機してるのもわかってたからね。

 目が覚めたらコーンのおっさんの斬られた腕も元通りだよ。


 「さてヘッコキー。次はお前だよな」

 「お前はもっと斬り刻んでやるよ。ほらかかってこい」

 「うっ、うっ‥‥」

 俺の中では完全に名前と顔が一致したヘッコキーが冷汗をダラダラと流したあと。

 逃げた。

 「逃がすかよ!」

 「土壁!」

 ズズズッッッ!

 ドンッッ!

 「あわわわわわっっ‥‥」

 完全に逃亡を企てるだけのブッヒーに向けてゆっくりと歩きながら言葉をかけていく。

 「帝都で知らん者はいないんだよねヘッコキー様」

 ザクザクザクッ‥

 1歩ずつゆっくりと近づいていく。

 「当然ガキなんか眼中にないよね」

 ザクザクザクッ‥

 「両手両脚もいでも大丈夫だろ。回復魔法士もいるんだからな。あっ!そうか回復魔法士やっといてからブッヒーの手足もいだらいいかなぁ」

 ザクザクザクッ‥

 「アウアウアウアウッッ‥‥」

 ジュワワワッッッ‥

 なにもせずにお漏らしして失神しちゃったよ。

 「聴こえてないだろうけどブッヒーのおっさん。
 受付嬢さんたちの給料弁償しとけよな」

 シーーーーーーーン


 「誰かガキの俺を指導してくれる先輩はいる?」

 シーーーーーーーン


 うおおおおおぉぉぉぉぉぉ団長ぉぉぉ!

 静寂の空間の中。狂犬団の先輩たちの声しか響いていなかった。

 「アレク‥‥あんたいっつも女子の声援がないわよね」

 「言わないでシルフィさん‥‥」



 「じゃあな。あっ!依頼があったんだ!受付嬢さんお願い」

 「「「‥‥」」」

 3人の受付嬢さんたちが無言のままだった。

 えーーーっ?!やり過ぎたのか俺。どうしよう?!

 と。そこにもう1人いた受付嬢さんが超素敵な笑顔で俺に近づいてきた。

 「何かしらアレク君。なんでも聞くわよフフフ」

 なんだこのお姉さん。目がGになってるよ!

 「あなたのおかげでしっかり儲けさせてもらったからね!」

 「そりゃよかったです。あははは」

 「じゃあ行くわよ」

 「はい」



―――――――――――――――


いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。 広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。 ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。 彼の名はレッド=カーマイン。 最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。 ※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...