アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

483 誰のために

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 「アレク君‥‥あなたの魔力は凄い‥‥ええ桁違いよ。」

 「そうかなぁ。自分じゃぜんぜんわかんないけど。
 でもたぶんまだまだなんだよ。だって春休みにはホーク師匠のスパルタ指導で毎年泣いてるんだもん」

 「そうそうあのねサラ、ウェンディ。アレクったら昔ホークに毒カエルの巣に掘り込まれたのよ。そしたらアレクったらわんわん泣いてね。そのあとはカエル臭いのなんのって‥」

 「あーあーやーめーてー。シルフィ!」

 「「フフフフ」」



 「アレク君。さっきの奴隷商の館を沈める魔法。普通なら重力魔法のグラビティでやるものよ。それを土魔法の力押しでしょ?」

 「あはは。俺重力魔法はまだ使えないし」

 「それでもよ。あそこまでの土魔法はエルフの精霊魔法でもまず無理だわ」

 「土は小さなころから1番よく使ってたからイメージも湧くしね」

 「そうなのね」


 そうなのだ。魔法とはイメージ力、アイデア力の世界なんだ。そういう意味では今に活きるのは、俺の過去の実体験やアニメやゲームの2次元世界の体験がとっても役に立っているんだ。


 「サラ。アレクなら屋敷壊すことくらいどうってことないのよ。逆にアレクならあの屋敷くらい1日かからずに建てられるわよ」

 「でしょうねシンディちゃん。初めてアレク君と握手したときのテンプルお爺ちゃんの驚いた顔が想像できるわフフフ」

 「そんなことよりサラさん。建屋はどんなのがいいかなぁ」

 「そうねー」

 「男子寮と女子寮もいるよね」

 「ええ」

 「食堂は広いほうがいいなぁ」

 「そうね」

 「お風呂もほしいよね」

 「お風呂?お家のお風呂みたいに?」

 「うん」

 「フフフ夢のような話ね」

 サラさんとするそんな話はとっても楽しい夢のある話だったんだ。







 「ただいまーバブ婆ちゃん」

 「バブちゃんただいま」

 「お帰りアレク、お帰りサラちゃん」

 「婆ちゃん買ってきたよ。これでいいの?」

 「ああこれさねこれ。この青色が欲しかったのさ」

 クロエの誕生日プレゼント。バブ婆ちゃんは毛糸で編んだ帽子をプレゼントするという。


 「お母様の瞳があの子に似た綺麗なブルーの瞳だというのさね。
 この青色で編んだ帽子ならクロエ様やお母上様の瞳と合う素敵な帽子になるさね」

 「「そうだね(そうね)」」



 




 夜ごはんのあと。デーツとアリサの修練
をみる。
 デーツは1日ごとに俺と体術をやる。

 「ハーハーハーハーモウツカレタ‥」

 「まだまだだデーツ。
 お前は考え過ぎなんだよ。体術がどうとかなんて考えんな。
 自然に動くままでいいんだよ。そのための魔力放出なんだよ。
 俺がお前を痛い目に遭わそうとするから、ひたすらそれから逃げることだけを考えろ。 
 そのうちだんだんと身体が体術を覚えていくし、魔力操作も身体が覚えるからな」

 「痛イコトバカリスルナ!」

 「うるさい!身体で覚えるしかないんだよ!」

 「オニ!弱イ者イジメダ!イジメルナ!」

 「さっからよく喋るな。口ばかりの奴にはビリビリの刑だ」

 「あばばばばばばッッッ!」

 「ちょっと休憩してろデーツ」








 「ファイアボール」

 しゆゆゆゅゅぅぅぅっ
 ぽてっ


 「ファイアボール」

 しゆゆゆゅゅぅぅぅっ
 ぽてっ


 「アリサ。お前もっと集中してやれ!嫌々やってても強くなんねえし魔獣なんかチューラットも倒れないぞ!」

 だらだらと火魔法を放つだけのアリサ。その顔には不満にしかない。

 「やってますー」

 「お前もビリビリの刑だな」

 「あばばばばばばッッッ!」

 「よしやれ!」



ーーーーーーーーーーーーーーー



 「アレク君‥‥あのサラさん、いえサラ先生を紹介してくれる?」

 「ん?メルル先輩どうしたの?

 「昨日の話よ。私は貧しい子どもたちのために働きたい。もちろん虐げられた獣人の子どもたちをなんとかしてやりたいの。
 獣人だって立派な人間になれるって。私は
いつかそんな子どもたちの教育に携わりたいわ」

 「わかったよ」





 「だそうだよサラさん」

 「あなたは?」

 「は、初めましてサラ先生。わ、私は6年10組のメルルと言います。見てのとおり犬獣人とのミックスですが、貧しい子供たちをなんとかしたいって気持ちだけは負けません。どうか先生のそばで私も勉強させてください。お願いします!」

 「あら?勉強していくのは私も変わらないわよ。子どもたちからはもちろん、あなたからも学ばなければならないって思ってるからね。むしろ勉強しなきゃいけないのは私のほうよ」

 「いえ、そんなことありません。
 私は私なりにいろいろ勉強してきました。必ずサラ先生のお役に立てます。だからどうか私を先生のそばに置いてください!」

 深く頭を下げて乞い願うメルル先輩。
 サラ先生が俺を見た。

 コクン
 コクン

 「頭を上げてメルルさん。一緒に頑張りましょうね」

 「はい!ありがとうございますサラ先生!」


 人生において。
 その人の歩むべき先を照らす教師に出会えることはとても幸せなことだと俺は身を以って思う。
 今日メルル先輩はそんな先生を得た。







 早速の幹部会。今日は屋敷跡の仮に建てた野営宿舎だ。
 そこにはもちろんサラ先生もメルル先輩もいる。なぜか冒険者の先輩のリーダーもいた。リーダーって‥‥なんて名前何だったっけ?



 「団長お披露目会もしなきゃいけませんよ」

 「お披露目会?」

 「ええ。この北区を含んだ各区の教会の神父様やシスターに実際の建屋を見てもらわなきゃいけませんからね」

 「そりゃそうだね」

 「各区の人となりもちゃんと調べてみんなと共有しなきゃいけないことも痛感しましたから」

 「そうかい」

 「はい団長。今回も俺がそこをちゃんと理解していたら、捕まることもなかったと思います‥‥」

 「ドンお前は悪くないよ。ただお前が言うようにもっと情報を共有してたら危険はもっと防げるだろうな」

 「はい団長」

 「情報共有ですか団長?」

 「ああ。教会やシスター、付近に住む人の情報。もちろん俺たち狂犬団1人1人を含めてな。それ本来得意としてるのは海洋諸国人だろうが」

 「あははは。そうでした団長」

 




 「スケジュール的にはこちらの受け入れ体制を急ピッチて整えなきゃいけませんね」

 「トンそれまでは各区の教会での炊き出しをさらに精力的にやってもらうかな」

 「はい団長」

 「サラさんは受け入れ体制が整ったら各区の教会に挨拶に行ってもらえませんか?」

 「ええもちろんよ」

 「メルル先輩」

 「はい?」

 「メルル先輩も今後は放課後サラさんに付いて行動してください」

 「わかったわ」

 「おギン。明日俺についてこい。ノーツ学園長とペイズリーさんからも推薦状も書いてもらおう」

 「はい団長」

 建屋は問題ない。あとはやっぱり人だな。

 「問題は人だよな」

 「「「はい」」」

 「宿舎を管理する人、食事を作る人、掃除洗濯をする人‥‥。良い人を探さなきゃな」

 ものは大概金で買える。逆に買えないものなんて探さなきゃないのかも。
 でもお金で買えない物は人材だ。
人材は人の宝、人財って言うもんな。

 ペイズリーさんや学園長、あとは各区の教会関係者からも募ってみようかな。

 「よし。俺冒険者ギルドにも行ってくるよ。ハチは商業ギルドにも話しといてくれ。2、3日中に俺が行くって」

 「がってんだい!」


 「いずれにせよ夏にはスタートできるようにしたいな」

 「団長あと2月しかないませんよ」

 「忙しくなるな」

 「「「はい!」」」

 「でも‥‥楽しいよな」

 「「「はい!」」」





 「アリサちゃんとやれよ!」

 「やってるわよ!」

 「集中してるのか?」

 「してるわよ!」 

 「いいや。してないね」

 「なんであんたにそんなことがわかるのよ!」 

 「デーツを見てみろよ。今日も体力なくなってへたり込んでるけど、ホントに集中してるから、魔力放出をしてるから、デーツはあんだけフラフラになるんだぞ」

 「なんでそんなことまでわかるのよ!いい加減なこの言わないでよ!」
 
 「あのなアリサ。手を繋いだらすぐにわかるんだよ。だいたい毎日暮らしてるから何考えてるのかもわかるしな」

 「くっ。もうわかったわよ!明日からやればいいんでしょ!やるわよ!」

 「ダメだ。今やれ!
 明日なんて思うからダメなんだよ。
 いつまでも明日があるなんて思うな」

 「馬鹿じゃない!明日は来るに決まってるじゃない!」

 「来なかったらどうすんだよ?」

 「馬鹿馬鹿馬鹿!来ないわけないじゃない!」

 「アリサ。じゃあお前‥‥母ちゃん死んで今もそんな不貞腐れてるだろ。母ちゃんは死ななかったのか?死んだんだろ?」

 「あんた酷いわ!死んだ人の親まで馬鹿にしないでよ!」

 「してないよアリサ。いいか?母ちゃんが倒れてから死ぬ前まで精一杯看病したか?」

 「当然じゃない!」

 「じゃあその半年前は?1年前は?
精一杯看病してたらな、生きてる側の人間はお前らみたくあそこまで腑抜けにはならないんだぞ!
 毎日を精一杯生きてねぇから死んだ母ちゃんのためにより良く生きなきゃって思うもんなんだよ!
 なのに今のお前らはなんだよ!
 母ちゃん死んだの父ちゃんのせいにして好き勝手やってるよな」

 「ちょっ!あんた知らないから‥」

 「言いから聞けって!」

 「クロエがああなったのお前らのせいなんだぞ?」

 「なんで‥」

 「だから聞けって。お前たまには最後まで人の話を聞けよ」

 「‥‥」

 「お前やデーツはあいよ。気に入らなきゃ閉じこもって絵ばっか描いて発散するデーツ。
 悪いのは全部他の人のせいって怒って自分は正しいんだって正当化するお前。

 そしてお前ら2人とも自分の殻に閉じこもる……。じゃあそんなことなんにもわからないクロエはどうするんだよ?クロエが感情失くしてお人形みたいにしてた理由はなぁそれが唯一自分を守れるからなんだよ。母ちゃん死んでお前らはすべてを父ちゃんのせいにしてそのくせ1番助けなきゃいけないクロエでさえ助けない。

 




 そんなお前のどこに正当化できる材料があんだよ?教えてくれよ?」

 「‥‥」

 「アリサ。お前は思うどおりにならないから不貞腐れてるんだろ?
 なんでも自分の都合どおりにいくかよ!思うどおりにならないのが世の中なんだよ!
 思い通りにならないからずっとずっと抗い続けるんだよ!」

 「そんなの意味わかんないわよ!」

 「うるさい。とにかくもう1回やり直せ!兄ちゃんが見ててやる」

 「嫌よ!」

 「やれ!」

 「嫌!」

 「またビリビリがいいのか?」

 「う、う、うわぁぁぁぁんっっ!嫌だ嫌だ嫌だ!もう嫌だーーーっ!」

 「うるさい!嫌でもやるんだよ!お前クロエがかわいくないのかよ?」

 「かわいいに決まってるじゃない!」

 「だったらやれよ!また母ちゃんみたく思いどおりにならないから逃げて不貞腐れるのか?それとも大嫌いな兄ちゃんに金もらうのか?」

 「‥‥」


ーーーーーーーーーーーーーーー


 「バブ婆ちゃんすごいな毛糸編むの」

 「何年もやってないけど手が覚えてるさね」

 「俺知らなかったよ。バブ婆ちゃんにそんな特技があるなんてさ」

 「特技もなにもないさね。昔の村の女はこれくらい出来なきゃ生きてなかったのさね」

 「婆ちゃんどこ生まれなんだ?」

 「私かい?私は帝都から10日も上った高地のイーダ村さね」

 「イーダ村は毛織が有名なのか?」

 「ああ。魔獣のヒツージーを村で飼ってたからね」

 ヒツージー?羊のことかな。

 「ヒツージー?」

 「あれはおとなしい魔獣さね。村のどの家も1頭や2頭ヒツージー部屋を持ってるんさね。人の部屋よりも広い部屋を。
 秋と春はヒツージーの毛を刈って糸を紡ぐのさね。その糸から服も帽子もパンツも靴下も全部編んで冬に備えるのさね。でないと寒くて寒くて生きてけないからね」

 「そっか。じゃあ婆ちゃんできたらこの箱に入れてクロエに渡してくれよ」

 「あいよ。綺麗な箱だねアレク」

 「ああ。これ俺が考案した紙でできた箱なんだよ」

 「へぇー。あんた変態のくせになんでもできるんさね」

 「変態が余分!」

 ヒッヒッヒッ
 わははははは


 あっ忘れてたわ。冒険者ギルドも行かなきゃな。明日でも行くか。



―――――――――――――――


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