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第2章 幼年編
481 6年10組
しおりを挟む翌朝
朝ごはんはハムエッグと粉芋(マッシュポテト)、バタートーストにカウカウのミルクだ。
アレク袋の粉芋は帝国のどこでも手に入る定番のものになっているよ。
ハムはブッヒーの肉で作った自家製なんだ。もちろんバターも食パンも自家製なんだけどね。
わが家の厨房は広い家の利点を最大限に活かして俺が調理しやすくしてあるんだ。
巨大な冷蔵庫も冷凍庫もハムを作る燻煙庫もあるよ。
今度はピザ窯も作りたいな。
家族には大好評の食パンもバターもハムも家以外にはまだ出してないよ。
とくにハチやカクサーンに知られたら売れ売れってうるさいからね。
「このはむ?初めて食べるわ!それから焼きたてのやわらかいパンも初めてだし、ばたあもすごく美味しいわね」
「よかったよサラさん」
「お兄ちゃん今日も美味しい!」
「フン。まあまあね」
「オカワリ」
「アレクこれもお貴族様の食いもんかえ?」
わが家の食卓もだんだんと明るくなってきたよ。
▼
「じゃあ行ってきまーす」
「「「いってらっしゃい(イッテラッシャイ)」」」
先にクロエが初級学校に登校して行った。
今日はバブ婆ちゃんにサラさんもついていくみたいだ。
バブ婆ちゃんとサラさんに両手を繋いでもらったクロエはご機嫌だった。
クロエは入学に1か月ほど出遅れたけど今は友だちもできて毎日が楽しいみたいなんだ。
「アリサ。学園に行くときはなんて言うんだっけ?」
「行ってきますー。フンだ!」
「いってらっしゃい。デーツは今日も家にいるか?」
コクコク
「そっか。じゃあ俺も学園行くわ。
行ってきます」
「イッテラッシャイ」
デーツも少しずつ。もう少しだ。
「じゃあウンディーネ行ってきまーす」
噴水に佇む水の精霊(ウンディーネ)が笑顔で手を振ってくれたよ。もうすぐクロエも友だちに気づくだろうな。
▼
「団長おはようーっす」
「おはよー」
「「おはよ団長」」
「おはよー」
「「「団長おはようございます」」」
「おはよー」
狂犬団の団員もけっこう増えてきたな。
みんなと挨拶を交わしながら教室に入る。
「おはよー」
「「おはよー」」
「「「おはよー」」」
クラス全員が挨拶してくれる。ちょっぴり事務的ではあるけど。
「団長おはようございます」
「ドンもういいの?」
「はい。心配かけましたがぜんぜん問題ありません」
「そう。よかったね」
「はい団長。じゃあさっそく行きましょうか。用意してあるんだよなトン?」
「ああ兄ちゃん。ギンとハチたちがもう準備してるよ。
さっ団長行きましょう」
「へっ?どこへ?」
「早く早く。急がなと授業がはじまりますよ」
なんかわけわかんないままに連れてかれたのは6年10組の教室だった。
教室では女子は座ってたけど男子は全員土下座していた‥‥。
「「団長おはようございます」」
「なんだよハチ⁉︎
なにやってんだよギン⁉︎」
「なにって団長。6年10組の先輩たち50人
全員が狂犬団にはいりたいんですってヒッヒッヒッヒッ」
「団長もう全員の名前も書いてもらいましたからね」
おギン!お前もハチの仲間だったのかよ!
「えーっと団長が来ましたから改めて6年10組の先輩たちに事情を説明するっすよ」
「僕たち狂犬団は3年1組のアレク団長が全校生徒を前にして言った「宣言」に基づいて行動してるっす」
「つまり何対1でも相手になる。その代わり卑怯なことはするな。すれば倍返しするぞという単純な、はい極めて単純な宣言っすよね」
6年10組の教室では下級生のハチが熱弁をふるい、本来この部屋の主たる先輩たちは土下座して皆下を向いていた。
「昨日団長が下校時に成人冒険者の人たち20人から襲われたっす。僕もその場にいましたからね」
「冒険者の人たちは去年の学園生。つまりは卒業生っす。
その卒業生たちはこの6年10組の後輩さんたちから1人5,000Gで雇われたそうっすね。3年1組のアレクを襲えって」
あらためて何人かがさらに下を向いた。
ハチの話が続く。
「で当たり前っすが団長は20人を軽々とやっつけましたよ。
で反省した卒業生の20人は狂犬団に入団したいんですって。
ああそういや、いただいた100,000Gを今朝みなさんにお返しするって言ってたっすけど返してもらったんっすよねお金?」
「お返事は?」
「‥‥」
「お・返・事・は?」
「「「はい‥‥」」」
「(トン、やっぱハチ怖いよ)」
「(団長俺もです)」
「で6年10組の皆さんは卑怯なことをした仲間ということで連帯責任で全員狂犬団に入団するというわけっすヒッヒッヒッヒッ」
ガタッ
「ちょっといい狸君?」
「僕は狸じゃないっす!」
「どうでもいいわ!」
1人の女子が毅然と席を立ったんだ。
「私はメルル。この6年10組の級長よ」
おぉっ?めっちゃ勇気ある女子が出てきたよ。犬獣人とのミックス?キリッとした顔だちは洋犬みたいだな。
「事情はよくわかったわ。私たち女子、特にほとんどの女子が預かり知らないことが起きてるって事情は。
悔しいけど‥‥でもそれは仕方のないことなんでしょ。
実際この世の中がそうであるように」
なにこの人!
すっごく刺さるんだけど俺!
そうなんだよ。自分の意思とは関係なく厄介事っていうか厄介な人が向こうから勝手に迷惑をかけてくるんだよな。
そしてその人が強ければ自分の意思に関係なく右向かなきやいけないし、左向かなきゃいけないときもある‥‥そうなんだよ。
「でもいいわ。どんなことをやってるのか知らないけど、私が代表して狂犬団に入る。だからクラスの女子はいいでしょ?」
有無を言わさない態度と言葉だな。
おーおーハチが動揺してるよ。
「団長?ドン先輩?トン先輩?おギン先輩?
ど、どうしましょう‥‥」
「ははは。想定外のことが起きたったって顔だなハチ。
でもその判断は間違ってないと思うぞ。
自分1人その場で判断することも必要だけど仲間に判断を仰ぐってことも大事だからな」
「はい団長‥‥」
「えーっとメルル先輩。先輩のその言でいうとこのクラスの女子がどうなるかの決定権が先輩にあるわけじゃないですよね。違いますか?」
「そ、それは‥‥」
「好むと好まないとに関わらず力のある者に虐げられるのがこの世界の秩序でしょ?」
「(ホントくだらない‥‥)」
消え入りそうな声でメルル先輩が呟いたんだ。
「俺もそうだと強く同意します」
「えっ?」
「狂犬団はメルル先輩を歓迎します。
他の女子の先輩はメルル先輩に免じて入団は希望者のみとしますね。
ただ、何度か‥‥たぶん2、3度ですが声をかけたときは手伝いをしてもらいますからね」
コクコク
コクコク
コクコク
コクコク
コクコク
あきらかにホッとした顔をする女子生徒たちが見えた。
「じゃあおギン。メルル先輩を幹部会に入れろ」
「はい団長」
「男子の先輩たちはドンとハチが今後の方針を伝えますからこのあと聴くように」
「いいな?」
「「「は、はいっ!」」」
「メルル先輩は放課後部室に来てください。そしてしばらくこのおギンについて見ててください。
ああ思ったことは遠慮なく言ってくださいね。
狂犬団は俺筆頭にこんなイカれた奴らばかりですが反社会的な行動は一切してませんから。もちろん誰も虐めないし金もとりませんからね。
ああこの武力制圧は別ですけど」
「それと‥‥男子の先輩たち。
一応言っとくけど文句あったら、今度は隣のクラスとか誘って1度にあんたら50人くらい全員相手にしてもいいよ」
「むしろ大歓迎ですヒッヒッヒッヒッ」
「「「(ハチ怖っ!)」」」
「闘る?」
「「「‥‥」」」
全員が下を向いたままだった。
「じゃあ授業始まるから帰るぞ」
「「「はい団長」」」
「がってんだーヒッヒッヒッヒッ」
▼
「おいクラスのみんなは先に行っとけよ」
放課後になった。
今日は奴隷商の館に狂犬団全員が集まるように連絡をしてあるんだ。
その前に。
幹部会に10人ほどが集まった。
朝入団が決まったメルル先輩も同席している。
「じゃあ会議を始めるぞ」
毎度のようにドンが会議を進行していく。
「まず紹介しとく。6年10組のメルル先輩だ。今日から入団してくれた。メルル先輩」
「6年10組のメルルよ。見てのとおり犬獣人と人族のミックスよ。よろしく」
「「「ちーす」」」
「「「よっ」」」
なんだよお前ら。チンピラかよ!もっと普通に挨拶しろよ!
「メルル先輩、先に言っとくけど団長の方針で俺たち狂犬団は獣人差別は一切しない。また弱いもんを虐めたりもしない。
基本みんな平等だ。先輩だからって無条件に敬ったりはしないからな」
そうなんだ。この幹部会は1年のハチから3年の俺たち、4年5年6年の先輩たちもいるんだ。
「ええわかったわ」
「じゃあ時間ももったいないから決まったことだけ話すな。
これまでも悪名の高かった北区の奴隷商バァムの館。俺も捕まってたんだけど、団長が昨日来てくれた。みんなどうなったかはわかるだろ?」
「「壊滅ーー」」
「「皆殺しーー」」
ワハハハハハ
あははははは
ギャハハハハ
フフフフフフ
そこ!お前ら笑うとこじゃねぇぞ!皆殺しになんかしてねぇよ!メルル先輩なんか涙目になってるじゃん!
「だって団長っすよ。笑うしかないっすよねぇギン先輩」
「そうよねーハチ」
ワハハハハハ
あははははは
ギャハハハハ
フフフフフフ
「そのとおりだ。
北区の教会と結託して貧民街の子どもたちを食いものにしてた奴隷商は帝都騎士団にお縄になった」
パチパチパチパチ
ぱちぱちぱちぱち
「それでだ。奴隷商の館とその土地は俺たち狂犬団に払い下げとなった」
うんうん
うんうん
うんうん
うんうん
ドンとトンが幹部会のみんなには先に伝えておいたみたいだな。
「今後狂犬団の活動場所はここと奴隷商の館となる。今朝学園長先生からも許可を得たからな」
うんうん
うんうん
うんうん
うんうん
「それでいいんですよね団長?」
「ああいいよ。昨日の夜ペイズリーさんがそう報告に来てくれたから。建物も土地も好きにしていいって」
ワハハハハハ
あははははは
ギャハハハハ
フフフフフフ
「なによそれ!?どういうことよ!?
しかもペイズリーさん?ペイズリーさんって前の騎士団長閣下でしょ!?
なんでそんなこと普通に話してるのよ!?」
「メルル先輩‥‥団長ですよ?ですよね先輩」
「「「ああ。団長だからな」」」
ワハハハハハ
あははははは
ギャハハハハ
フフフフフフ
あーあ。メルル先輩マジで涙流してるって。
「というわけで、これからバァムの館取り壊して団長が新しいアジト建ててくれるぞ!」
「俺らの新しいアジトだ!」
「「「おおー!」」」
「いやドン君トン君。アジトって言わない。せめて宿泊所って言おうよ」
「さあ行こうぜー」
「「「おおー!」」」
わいわいワイワイわいわいワイワイわいわい
わいわいワイワイわいわいワイワイ
ワイワイわいわいワイワイ
わいわいワイワイ
ワイワイ
「おーい。俺も行くって」
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