アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

479 エルフが家にやってきた(後)

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 「おーいメシだぞ!
 なんだお前ら。もう座ってんのかよ!」

 うん。プリンを食べたいからなのか美人を見たいからなのか理由はさておき。みんながいつもより早く食卓につくのはとってもいいことだ。



 「今日はわが家にお客さまが来てくれました。サラさんです。

 わずかな期間ですが3人はぜひサラさんと積極的にお話をするように。人族にはない貴重なお話を聞かせてもらいましょう。
 それではサラさんから一言お願いします」


 やったやったー!
 いつもこうやっていきなり話を振られるからドキドキするんだよ。
 今日はいいぞ!話をするほうになれたよ!

 「(お兄ちゃんしーっ!)」

 「(アレクあんた声がだだ漏れさね)」

 「あうあうあう‥‥」


 「ふふふ。エルフのサラよ。帝国に来て10年と少し。奴隷商に捕まってずっと暗闇の中を過ごすって思ってたら今日アレク君に救われたの。
 お食事に招かれた今日の日のこと‥‥私は一生忘れないわ。

 わずか数日のあいだだけどなんでも聞いてね。私こう見えてバブちゃんの生まれる前から生きてるから大概のことには応えられると思うわ」


 すげぇー。バブ婆ちゃんの生まれる前だよ!生き字引だよ!歩く事典だよ!
うん。でも女の人に歳聞いちゃダメだってことは覚えたもんな。

 「(お兄ちゃんしーっ!)」

 「(バカ!あんたサラさんに失礼よ!)」

 「ハッ!で、ではかんぱーい」


 「「「かんぱーい」」」

 「カンパーイ」

 「フン」


 乾杯用に今日はドリンクも用意したよ。カウカウのミルクを発酵させて作った自家製乳酸菌飲料だよ。
 
 3人のコップには麦の茎を乾燥させたストローをつけたんだ。今日から飲み物はストローで飲むんだ。これも修行の一環。
 よしよし。何にも気づいてないな。


 「アレク酒はないのかい?」

 「あるわけねえだろ!あっ、でもサラさんお酒飲む?」

 「ええ。あったらうれしいわね」

 「じゃあ明日の夜は用意するよ」

 「やったよ。ヒッヒッヒッ」

 「だからバブ婆ちゃんのためじゃないって」



 食事には精霊用に小さな2人の食事も用意したよ。コップはもちろんお皿も極小サイズで。ティースプーン半分くらいのボリュームがあるお皿をね。

 「アレクあんたいつも私にも用意してよね!」

 「あははは。シルフィさんさーせん」



 「これ美味しい飲み物ねアレク」

 「とっても美味しいわ」

 「そう。カル◯スっていうんだよ」

 シルフィとウェンディが美味しそうに乳酸菌飲料を飲んでいる。
 
 「(お兄ちゃん小ちゃなコップが浮いてるわよ!どういうことよ⁉︎)」

 「(アア‥‥)」

 「シルフィちゃんもウェンディちゃんも同じだねー」

 「「そうねークロエちゃん」」

 「美味しいねー」

 「「ホントねー」」

 「クロエあんた誰と話してるのよ」

 「誰って精霊さんだよ?」

 「えっ!?」

 「風の精霊のシルフィちゃんとウェンディちゃんよ」

 「ク、クロエそれホントなの?」

 「うん。本当も何も一緒にご飯食べてるもんねー」

 「「ねー」」

 「「「かんぱーい」」」


 デーツやアリサには空中を浮いてる小さなコップとクロエのコップが触れ合ってるのが不思議に見えるんだろうな。


 「アリサ。クロエはな、精霊が見えるんだよ。帝国で精霊が見える人族は俺以外クロエだけなんだよ」

 「それって‥‥」

 「ああクロエにはもうすぐ精霊の友だちができるよ」

 「すごいけど‥‥?」

 「わかんないわよねアリサちゃん。
 でもね昔の人族にも精霊が憑いてたっていうわ。何百年も前の話だけどね。
 今精霊が憑いている人族は帝国ではあなたのお兄さん、アレク君だけよ。たった1人の精霊憑きの人族ね。
 でもこれからは1人増えるわ。クロエちゃんが精霊を見えるようになったのもアレク君の影響でしょうね」

 「じ、じゃあクロエにも精霊さんが憑くの?」

 「そうよ。水なのか風なのか土なのか火なのかわからないけどね。
 ただ憑いてくれる精霊のおかげでクロエちゃんは強くなれるわ」

 「クロエが困ったりしない?」

 「ええ。そこは安心して。精霊は憑いたその人ととっても仲良しになれるから。1番の友だちになれるのよ。その人が死ぬまでずーっとね」

 「‥‥そう。よかったわねクロエ」

 「うんありがとうアリサお姉ちゃん。まだクロエにもわかんないんだけどね」


 今の時代、中原で精霊が実在するってことは誰も信じていないんだ。
 ただ女神様と同じく神話の世界の登場人物として畏敬の念を持って理解されてるのが精霊なんだ。


 「さあ食事が冷めちゃうよ。どんどん食べてくれよ。サラさんもたくさん食べてよ」

 「ええ。ありがとう」


 今日の夜ごはん。
 長く虜囚の身だったサラさんにはお腹も膨れてじんわりと身体も温かくなるものって思ったんだ。だから今日はカウカウのミルクをたっぷり使ったクリームシチュー。コッケーの肉にプラス自家製ブッヒーのベーコンを足してあるんだ。

 シチューにベーコンを入れるのが東北の爺ちゃん直伝の隠し味なんだよね。
 調理の最後には生クリームも加えてコクも加えてある。生クリームはあとのデザートでつかうからね。

 パンは白くてやわらかいパン。もはやわが家では定番のパンなんだ。


 「ウマ‼︎メチャクチャウマイ!」

 「デーツお代わりもたくさんあるからな。どんどん食べろ」

 コクコク  コクコク


 「アレクこれはなんだい!お貴族様が食べるメシなのかい!?」

 「ホワイトシチューだよバブ婆ちゃん。ふつうに家庭的な料理だぞ」


 「フン!まぁまぁね!」

 「こっち向けアリサ。ほらほっぺに付いてるぞ」

 「触んないでよ。この変態!」

 「兄ちゃんを馬鹿にするな!」


 「お兄ちゃんとっても美味しいよ!」

 「おいちいでちゅかクロエちゃん。お兄ちゃんはクロエちゃんが喜んでくれるとうれちいでちゅよー」

 「お兄ちゃん赤ちゃん言葉はダメなんだよ!」

 「あーごめんごめん」



















 「うっ‥‥ううっ‥‥」

 突然サラさんの瞳に涙が溢れたんだ。

 「「「えっ!?」」」

 「ごめんサラさん不味かった?」

 「違うのよ……。
 ああ、自由になれたんだなって。家族っていいなって‥‥」


 「あーびっくりしたぁ」


 「デーツ様もアレクも照れちゃって。男は美人の涙には弱いさね」

 「「ちげーよ!(チガウヨ)」」

 「あーデーツお兄ちゃんもアレクお兄ちゃんも美人に弱いんだー」

 「アレクお兄ちゃんはクロエにも弱いぞぉー」

 「アレクはアリサ様にも弱いさね」

 「やめてよ変態!」

 「なんでだよ!俺なんにもしてねぇじゃないか!」

 ヒッヒッヒッ
 フフフフフフ
 キャッキャッ
 フン
 ワハハハハハ
 


 
 「はい食後のデザート。アリサ今日のプリンはいつものプリンの豪華版だからな。
 その名もプリンアラモードだ!」

 「フン‥‥エッ⁉︎凄っ!」

 「「「なにこれ?凄い‥‥」」」

 「スゲー」


 そう今日のデザートはいつものプリンを豪華に盛り付けたものなんだ。

 大きめな器の真ん中にカスタードプリン。その周りをブードやリンゴーなどのカットフルーツで囲み、さらに生クリームもたっぷりと添えたんだ。酸味がやや強いこの世界のフルーツも生クリームを足せばいい感じで美味しくなるからね!


 これにはさすがのサラさんも驚いたよ。

 「すごいわアレク君!ひょっとしてこれもアレク君が調べたっていう昔のお料理なの?」

 「う、うん」

 「シチューでお腹いっぱいになったのにまだ食べられるわ」

 「「「ウマー!」」」









 「さてお腹もふくれたし。あとは寝るだけだな。でもデーツとアリサは今日からやってもらうことがあるからな。ちょっとついてこい」

 「「なにするのよ⁈(ナンダ⁈)」」

 「修行だよ。いいからついてこい。ああサラさんはクロエの相手してて。お願い」

 「いいわよ」

 「じゃあいくぞ」









 「あんたいつのまに‥‥」

 「オ前地下室作ッタノカ」

そう風呂場の下。地下に修練のできるトレーニング室を作ったんだ。

 「お前らは今日からこの地下室で修練するんだぞ。ここなら多少めちゃくちゃしようが音もしないし壊れないからな」

 「「‥‥」」

 「そんでな。デーツには話したけど来月の10日はクロエの誕生日だろ。デーツは自慢の絵を描いてプレゼントするんだよ。なデーツ」

 コクコク

 「アリサお前はなんか考えてるか?」

 「そんな急に言われたって考えてないわよ!」

 「急にってクロエの誕生日くらい1年前からわかってたじゃん」

 「そ、それは‥‥」

 「いいさ。今から考えれば。ただなお前ら‥‥あんな小ちゃなクロエでさえ前を向いて歩き始めたんだぞ。次は誰だよ?」

 「「‥‥」」

 「俺がお前らといられる時間なんてたった1年なんだよ。
 お前ら兄妹と皇帝の父ちゃんとの時間はまだまだたっぷりあるんだぜ。
 でもさデーツは5年で卒業まであと2年切ったじゃん。アリサも成人まで4年じゃん。てことは4人が1つところに暮らす時間って何年もないんだぜ。たった4人の家族なのによ」

 「「‥‥」」







 「さてと説教は終わりだ。
 アリサお前がクロエに何か誕生日のプレゼント買うにしても金がいるよな。お前金ないだろ?」

 「当たり前よ!」

 「だったら金作らなきゃな。たった1人の妹に贈るプレゼント買うための金を作らなきゃな」

 「‥‥」

 「あーいいんだよ。俺の金で買っても。大嫌いなアレクお兄ちゃんからお金もらってプレゼントを買ったわよクロエって言えるんならな」

 「うるさい!わかったわよ!あんたの言うとおりにするわよ!」

 「クックック。そうこなくっちゃな」

 「じゃあお前ら2人は今日から毎日ここで最低でも1点鐘は過ごすんだぞ。いいな」

 「フンだ」

 「何スルンダ?」


 「デーツは俺が体術を教える。1日置きに1点鐘鍛えてやるからな。体術をやらない日は弓の練習だ。わかったな。返事は?」

 コクコク

 「あーでもクロエの誕生日までは絵を描くのを優先していいからな」

 コクコク

 「青色足りなかったら言えよ」

 「お前アレ高イノニ‥‥」

 「知ってるよ。青色が高いっていうことくらい」

 「‥‥」


 「アリサお前は俺と魔獣狩りに行ってもらう。そのために魔力を高めなきゃな。あとデーツと並んで弓の修練な」

 「そんなの無理よ!初級者ダンジョンにだって行ったことないし弓なんか触ったこともないんだから!」

 「あれー?誰かさんは火魔法の天才だって自慢そうに自分で吹聴してたって聞いたけどなぁ俺」

 キッと俺を睨むアリサだ。

 「ま、今から行くし練習するからいいじゃん」

 「魔力を高めるってことなんてやったことないのにできないわよ!」

 「お前なあアリサ。なんでもかんでも無理よ、できないってか。
 でもなアリサ。お前ならできるぞ。今日ストロー使ったの初めてだろ?ジュースふつうに飲めただろ?」

 2人はハッとした顔をしたんだ。

 「それと一緒なんだよ。お前らには父ちゃんの強い魔力が遺伝してるんだよ。
 デーツお前にはこれをやる。これは帝国の武器屋で買った魔石だ。俺がある程度魔力を込めといたからな。
 アリサには俺が3歳から使ってる大切なドラゴンの魔石をやる」

 「「ドラゴンの魔石!(ドラゴンノ魔石ナノカ!)」」

 「ああ。本物だから売れば高いぞ。
 2人ともまず魔石を持て」

 デーツもアリサも魔石を手にした。

 「そんでな。ストローでジュース飲んだ感覚は覚えてるよな。どうだ?」

 コクコク
 コクン


 「あれが基本になる魔力を吸い出すイメージだ。
 行儀悪いけど口の中にあるジュースをストローからコップに戻すのもイメージはつくよな。あれが体内の魔力を体外に出すイメージだ。
 じゃあ2人とも魔石を手にちょっと目を瞑ってみろ」

 魔石を手にデーツとアリサが目を瞑った。

 「いくぞ。手にしてる魔石がジュースの入ったコップで手がストローだからな。
 魔石から魔力を吸い出す。はいイメージを思い浮かべてやってみろ。はい!」

 パンッッ!

 「なんとなくできるってかイメージはわかるよな」

 コクコク
 コクン


 「じゃあ今度は魔石に魔力を注いでみろ。ストローからジュースを噴き出すイメージだ。はい!」

 パンッッ!

 「できるな」

 コクコク
 コクン


 「じゃあ今日から寝る前と寝起きは必ずやれ。ほんの少しの時間でいい。学園でも風呂でもメシ食ってるとこどこでもだ。
 毎日暇な時間、ぼーっとしてるときでもやれ。とにかくずーーーっとやり続けろ。
 俺はこれを3歳から今日までやり続けている。お前らも今からやればいい」

 「「‥‥」」

 「ああアリサ。お前のドラゴンの魔石な。持ってると山や森に行っても安全だからな。魔獣はドラゴンの魔石を怖がるから。襲って来ないぞ。
 ああダンジョンは別だぞ。あそこは魔石に関係なしに魔獣が突っ込んでくるからな」


 「アリサお前は急ピッチで魔力を上げてもらうからな。でないとプレゼント買う金ができないからな」


 地下の練習場は矢を射たり魔法を放てるように的が用意してある。的までの距離は25メルだ。


 「お前火魔法が発現できるよな。ここからあの的に火魔法が届くか?」

 「無理に決まってるわよ!」

 「だよな。でもよ、いいからやってみろ」

 「‥‥」

 「やれ」

 「‥‥」

 「お前そんなにビリビリが好きなのかよ」

 「うるさいうるさいうるさい!やればいいんでしょ!」



 「ファイア!」

 シューーーッ  ポテッ

 真っ赤な火の玉は5メルも飛ばずに落下した。でも。うん十分だ。

 「予想どおりだな。気にすんな。あの的には俺がここを出てく前までに届けばいい。
 んと‥‥じゃあこんくらいだな。クロエの誕生日までにここまでは飛ばせ」

 ズズズッッ

 俺は土の人型を発現したんだ。

 「距離は5メル。人型の頭、手、胸、腹、足と狙ったとこに当てるようにしろ」

 「‥‥」

 「1回に何発発現できる?」

 「15、6発よ!」

 「だろうな。魔石に魔力をこめる練習をやってたら魔力はもっと上がるからな」

 予想どおりだ。アリサは魔力が高いからな。同年代の子どもなら5、6発も発現したら魔力切れになるだろうな。今の15、6発なら充分だ。

 「毎日魔力切れになるまでやれ。何発発現したかこのノートに書いてやれよ。毎日俺が確認するからな」


 「デーツは弓だ。お前は当面毎日1日30射だ。ここにある矢がなくなったらその日は終わりだ。クロエの誕生日会が終わったらアリサにも教えろ」

 コクコク

 こうして2人の修行が始まったんだ。


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