アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

475 隷属魔法

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 「久々に強い奴が来たと思ったが……。お面被っちゃいるがまだガキじゃねえか。
 俺はまたこんなガキを殺さなきゃなんねぇのかよ」

 痩せこけた口元からそんな言葉を発しながら。ふらふらと立ち上がった男の眼には精気も正気も見られなかった。

 病的なまでに。極端に痩せ細ったこの男‥‥魔力は知ってる人の縁者のものだ。そしてなにより顔が知ってる人によく似てる。間違いない……。冬休みに会ったあの人だ。

 「おっさん‥‥おっさんはひょっとしてコジローさんの家族か?」

 「なに!貴様兄貴を知ってるのか?」

 「(やっぱりそうだ)
 ああ。コジローさんは今海洋諸国の飛地グランドにいるよ」

 「そうか‥‥やっぱりそうなったんだな‥‥1つ所に落ち着いたのか兄貴‥‥本当によかったよ‥‥
 狐の坊主、兄貴は幸せか?」

 「コジローさんが?そんなの当たり前じゃん。一族みんなから頼りにされてるカッコいい人だよ」

 「そうか……。よかった……。





 せっかくいいこと教えてくれた狐の坊主には悪いがな‥‥‥‥
 なあ旦那、許してやってくれねぇか?」

 コジローさんの弟さんが後ろを振り返ったんだ。
 そこには館の主人バァムがいたんだ。


 隠し扉だ!


 太った醜悪なカエルをそのまま人にしたような小男バァム。

 「バカめ!許すわけなかろう!よくもわしの店で暴れてくれたな。奴隷も逃してくれたな。
 海洋諸国の子どもだろうがもう容赦はせんぞ!
 ナジローすぐにこいつら全員殺せ!」


 「そんなわけだ狐の坊主。悪ぃが‥‥この場で死ぬかすぐに俺を殺してくれや」

 「ナ、ナジローさん。どうしても闘らなきゃならないのかい?」

 「ああバァムのだんながいるからな」

 コジローさんの弟ナジローさんが自分の首環を指差して言ったんだ。

 「ナジロー!早くしろ!こんなガキどもはすぐに殺しちまえ!」

「坊主早く‥‥しろ‥‥そろそろ俺も限界なんだよ‥‥」

 コジローさんの弟さんが苦痛に顔を歪めて言ったんだ。
 ナジローさんは今隷属の首環の契約と闘ってるんだ。

 「ナジロー、狐だろうが海洋諸国人だろうが関係ない!早く全員殺せ!今すぐ殺せ!」

 「ダメだ……。耐えてるだけでももう限界なんだよ……。悪いな坊主。それと‥‥お前なら見たらわかるな。俺はもう永くない。だから遠慮するなゴホッゴホッゴホッ!」

 口元から黒い血が溢れ落ちる。

 「たくさん‥‥悪事を重ねた罰なんだよ。
 せめて最後は兄貴を知ってるお前が殺ってくれや。頼む。あ、あ、アアァ‥‥」

 そう言いながらコジローさんの弟さんの目の色が変わったんだ。
 殺意しかない狂気の眼になったんだ。隷属の首環が発動した。
 ナジローさんがいきなり隣のドンに向けて刀を振り下ろした。

 「キャーーーッッ!ドン様ーーー!」


 だめだ。刀じゃ間に合わない!

 「スパーク!」

 ビリビリビリビリッッ!







 コジローさんの弟の胸を高圧電流が貫いた。

 「ガフッッ!」

 ガクンッッッ!

 大量の黒い血を吐いて倒れるコジローさんの弟ナジローさん。

 「おっさん!」

 「坊主‥‥オメー強いが優しすぎる‥‥今の場面は俺の胸を1突きが正解だ‥‥覚えとけ‥‥」

 「おっさん!ナジローさん!」

 「兄ちゃん‥‥もう1度会いたいな‥‥。ゴフッッ。
 坊主‥‥迷惑ついでに1つ頼みがある‥‥」

 ナジローさんの顔に明らかな死相が現れたんだ。おそらくこれが最期の言葉になるだろう。

 「なんだよ」

 「このネックレスを兄貴に返して‥‥くれ。餞別にもらったネックレス‥‥やっぱり売れなかったってな‥‥‥‥」

 「わかったよ。必ず伝える!」

 それは海洋諸国特産のアクアマリンでできたみるからに高価な宝石のネックレスだった。

 「頼んだ坊主‥‥」
 
 濡れたナジローさんの瞳から色が消えた。

 「ナジローさん。俺必ずコジローさんに渡すからね」

 夏休みグランドに行く用事ができたな。



 「ま、まさか‥‥ナジローが負けたのか。そんなバカな‥‥こいつは裏社会最強の男だぞ‥‥」

 「おいバームクーヘン」

 「わ、わ、わかった狐仮面。お、お前を雇おう!好きなだけ金もやろう。だから」

 ガンッッッ!

 「グベバッッ!」

 「ちょっと待ってろ!」

 「大丈夫かドン?」

 「団長‥‥すんません」

 「ばーか。もっと仲間あてにしろよ。お前は」

 「あ、ありがとうございます‥‥」

 ぐるぐるに鎖に繋がれたドン。だけど俺にかかればただの金属の紐みたいなもんだからさ。すぐにドンを開放してあげられるよ。
 

 「バームクーヘンのおっさん。隷属の首環の解除具と奴隷契約書出せよ」

 「そ、そ、それは‥‥」

 「お前この後に及んでまだ助かるって思ってんの?いい加減に」

 「団長これっすね」

 「えっ?ハチ?」

 「奴隷商と言っても同じ商人ですからね、隠し場所なんかだいたい共通してるんすよ」

 「「でかしたハチ!」」

 嬉々としながらハチが奴隷契約書や隷属の首環の解除具を抱えて隠し扉から現れたんだ。
 

 「金もたんまりありましたからね。あとで褒美もごっそりいただきましょう!ヒッヒッヒッヒッ‥‥」

 「お前なぁハチ‥‥」

 「ハチ、ポーション持ってきただろ?」

 「はい団長」

 「ドンに飲ませとけ。あとおギンと一緒にこのカエルも縛っとけ」

 「団長‥‥」











 「あははは‥‥団長」



















 「早くしろハチ!」

 「団長‥‥」

 「だからはやくしろってハチ!」

 「団長ーー!うっかりやっちゃいましたーー!助けてくださいーー!」


 「チュチュチュチューーッ!」

 ハチの後から首すじに刀をあてた男が現れた。

 「狸のガキ、爪が甘いでチュよー!」

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