アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

467 狂犬団(前)

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 クロエの夜泣きは3日続いたんだ。
 でも4日めからは泣かなくなった。
 まだ笑ってもくれないし喋ってもくれないけどね。



 「クロエちゃんおねしょですかー。おねしょは元気に食べて飲んでる証拠でちゅからねー。
 はいパンツを替えましょうねー」


 「お風呂は気持ちいいでちゅねー」
 
 相変わらず喋らないけど風呂も嫌がらなくなったんだ。


 「クロエちゃんのきれいな髪を乾かしまちゅよー。
 今日もクロエちゃん専用の櫛でときまちゅからねー」

 「気持ちいいでちゅかー。クロエちゃんの髪はきれいでちゅねー」

 俺の手から出るハンドドライヤーでクロエの髪を乾かす。




 「(あの赤ちゃん言葉なんとかならないの!腹立つわ!ねぇお兄ちゃんあいつになんか言ったげなさいよ!)」

 「(言エルワケナイダロ)」

 「ヒッヒッヒ」

 長男デーツと長女アリサもふつうに会話をしだしたよ。



 「「「いただきます」」」


 「「「ごちそうさま」」」


 食堂にみんながそろうのも当たり前。食事の前後の挨拶も当たり前になってきた。


 少しずつ。少しずつだ。
 生きてさえいれば家族は必ず蘇る。
 


ーーーーーーーーーーーーーーー



 「団長次行きましょう!次は校舎裏です。今日はあと2組ですからね。
 おい今負けた先輩。お前は最後尾だ」

 「は、はい‥‥」

 「ドン君トン君。いやだから団長じゃなくってね‥‥」

 「はっはっは団長は団長ですよ」

 「そうですよ!」

 「あとねこんなゾロゾロと歩いてたら‥‥」

 「お前ら団長のお達しだ。通行の邪魔になる。2列縦隊だ」

 「「「押忍!」」」

 「いやだからね‥‥」











 「団長次が狂犬団の記念すべき100人めの団員です。
 おい今団長から愛の制裁を受けた先輩たち。
 これはお前らの分だ。狂犬団員の証としてこのリストバンドをいつもしっかり腕に巻いとけ」

 「「は、はい‥‥」」

 「堅気の皆さんの迷惑になることをするなよ」

 「「「押忍!」」」

 「いやドン君だから堅気って‥‥」


 「ハチ。明日からのリストバンド足りなくなるぞ」

 「へいトンの兄貴。ガッテン承知の助でさぁ」

 「いやだからね‥‥」


























 みなさんこんにちは。僕アレクです。
 帝都学園での生活も2週間を過ぎました。

 3年1組の教室で最初に襲ってきた海洋諸国の双子兄弟は勝手に僕を団長と呼び始めました。そして僕のマネージャーのようなことをし始めました。

 しかもあろうことかその後に闘った奴らをまとめあげて「狂犬団」なんて組織を結成しました。
 クラブ活動の申請を出したら学園長から二つ返事で許可されたそうです。

 なんだよ狂犬団のクラブ活動って?!


 次の対戦相手を求めてこうして今も練り歩いています。

 「狂犬団」に「団長」に「リストバンド」です。
 海洋諸国人はこうしたことの知恵に長けているのでしょうか。
 

 リストバンドにはなぜかカクサーンが噛んでいるはずです。
 カクサーン家の3男が1年にいるからです。
 その名もハチベー。
 俺よりも小さくて人族なんだけど狸獣人みたいにコロコロした男です。やっぱりうっかりしている奴ですが頭がいいのか悪いのか商才には長けているのはたしかみたいです。

 そんなハチベーの指示で狂犬団の団員はみんなリストバンドをしています。ハチベーが言うには夏休みまでに1,000人の団員にするそうです。

 でもリストバンドの費用ってどこから出てるんでしょうか?まさかカツアゲしたりしてないでしようね。


 「団長リストバンドっすか?部活の費用申請で出ましたよ」

 「なんだよハチ。どんな申請したんだよ!?」

 「どんなって団長。ユニフォーム代っすけど」

 「制服代ね。あははは。そりゃ安く済んだね」

 「はい。部活担当の先生が安いって喜んでたっす」

 「あはははは」








 「僕は帝都学園のNo.1魔法士。魔法を愛し魔法に愛されるシーバ」

 バキッッ!













 「今日も終了でーす。お疲れしたー!」

 「「「したー!」」」


 俺の留学2週間めも終わりだ。今日の団員入隊も無事に済んだあと。
 ドンとトンの双子兄弟がすまなさそうに言ったんだ。

 「団長すんません。明日は俺たち学園を休みますから。団長の覇道の旅は他の者が付き従います」

 「すんません」

 なんだよ!その覇道の旅って。俺チビだし黒い馬にも乗ってねぇよ!


 「あードン君とトン君。君たちはなんでお休みするのかな?」

 「明日の土曜午後と明後日の休養日は南地区の貧民街の炊き出しなんですよ。子どもたちも多いんで。俺たち南の教会の手伝いに行くんです」

 「そっか」


 忘れてたよ!
 こいつらなんだかんだ言っても海洋諸国出身だったもんな。

 海洋諸国の裏の姿を知ってる人たちからは凶悪な暗殺者だとか言われてるけど世の中の弱い人たちを助けずにはいられない精神がどの一族にも刻まれてるんだよな。


 「わかったよ。明後日は休養日だよね。明日は無理だけど明後日は俺も見に行っていい?」

 「団長が来てくれるですか?みんなよろこびます!」

 なんか差し入れ持っていかなきゃな。
 カクサーンに頼んどこ。







 放課後
 学園からもほど近い商業街の目抜き通り。一等地にあるミカサ商会帝国店に来たんだ。

 ここはミカサ商会長の懐刀のカクサーンが代表をやってるんだ。

 カクサーンさんはスケエモーンさんと似た雰囲気の人だったよ。
 明るくて人当たりのいいおじさん。でも下手な盗賊よりは強いらしいけど。

 この春俺が帝国に来る前に開店したミカサ商会帝国店は毎日押すな押すなの繁盛店だ。


 「こんにちはー」

 「あっ団長いらっしゃいっす」

 「やあハチ。お父ちゃんいる?」

 「父ちゃんは兄貴を連れて他の商会に行ってます」

 「そっか」


 どんだけ売れ筋の商品を抱えていても帝国では新参者だもんな。
 同業者と仲良くやることって大事なんだろうね。その点会長の懐刀だったカクサーンだから他の商会との関係も良好に構築してるんだろうな。


 「ハチ明日明後日ドンとトンが行く南区の貧民街の教会に何か差し入れを頼むことできるかな」

 「了解っす。僕のほうでなにか見繕ってお届けするっす」

 「頼むよハチ」


 1年生のハチベーも急遽帝都学園に来てたいへんだろうな。でもそんなことはおくびにも出さずに通学してるんだよね。
 1年1組だから武の才能もあるんだろうな。




 「なあハチ。ドンとトンが行く南区の貧民街ってさ」

 「団長それはっすね‥‥」

 ハチが地図を片手に説明してくれる。ハチは俺と同じこの春から帝国に来たばかりなのにもう帝都周辺の世情に詳しいんだ。こいつやっぱりすげぇな。


 ハチ曰く250万都市である帝国帝都スタッズは居住区アポロと商業区アテナに分けられている。

 ちなみにアポロとアテナの命名の由来は居住区はアポロ・ロイズ帝から、商業区アテナは中興の祖アテナ・ロイズ帝に由来する。

 建国以来300年。
 数いるロイズ帝国の皇帝には帝国の貴族と同じ大きな特徴があるんだ。
 それは血脈はあっても当代皇帝の直系子孫が次代皇帝を継ぐ事例はないんだ。
 貴族制が1代限りであることも含めて血族の弊害を強く恐れたからなんだよね。

 前皇帝のアレクサンダー・ロイズ帝も元はただのアレクサンダーのおっちゃんだったわけだ。

 今のアレクサンダーという名もどこかの都市や街道にその名が採用されて帝国という国が残る限り永くその名が残るんだ。
 これが帝国民の理想とする栄達の証なんだそうだ。


 「南区の貧民街はっすね、居住区アポロの中でも1番貧困率が高いところっす。
 帝都としても暴力の温床として頭が痛い問題らしいっすよ」

 「へぇー。いろいろ勉強してんだな。ハチありがとな。
 じゃあ明日頼むわ。かかった費用は遠慮なく俺の口座から引いといてくれよ」

 「了解っす。
 ああ団長1回くらい商業ギルドに顔を出してやってくださいよ。うちの父ちゃんもいつもギルド長に頭を下げられて悩んでるっすから」

 「わかったよハチ」

 正直おっさんと話すのめんどくさいんだよな。

 「商業ギルドの受付嬢は団長の好きな猫耳っすよ」

 「なんですと!」

 俺の嗜好まで知っているとはハチベー恐るべし。







 休養日
 この日は家族揃って帝都教会に行くルールになった。
 といってもまだ2回なんだけど。

 もちろん長男のデーツも長女のアリサも行くのを嫌がったよ。

 とくにデーツは絵に描いたようなヒキニートだから外出にかなりの難色を示したよ。
 だけど強めの電力を流してやったら行きたいんだっさ。


 「今日は南区の貧民街の教会にまで行くぞ。だからデーツお前を知ってるやつには会わないよ」

 デーツがほっとした顔をしたんだ。

 「なんでお兄ちゃんの知ってる人が関係あるのよ!」

 「うるさい!なんでもいいだろ。
 いつもうるさいお姉ちゃんでちゅねークロエちゃん」

 アリサはデーツが知ってる人に会うのは嫌だってことがわかんないんだろうな。
 ヒキニートになった長男の悩みなんてわかんないんだよ。

 





 クロエをおぶって南区までみんなで歩いていく。2点鍾弱だ。

 「ちょいとアレク。南はあまり治安が良くないさね。大丈夫かい?」

 「大丈夫大丈夫。クロエちゃんは俺がおぶってるしデーツは男だから襲われないよ。だいたいやせ細ってるから奴隷にもなりゃしないからな」

 「あ、あ、あんた私を守りなさいよね!」

 「なんでだよ!
 キーキー怒ってばかりいるアリサは自分で自分を守りゃいいだろ?」

 「あんた家族を守るって言ったじゃん!嘘つき!」

 「もちろんクロエちゃんは守るぞ。バブ婆ちゃんもな。
 デーツとアリサは学園生だろ。そんじょそこらの奴よりお前らのほうが強いんだぞ」

 「お、お兄ちゃんど、どうしよう‥‥」

 「ほら行くぞ。アリサそれとも妹置いて逃げ帰るか?」

 「に、逃げるわけないじゃない!ばかーっ!」

 
 「お兄ちゃん‥‥」

 そうは言いつつしっかりデーツの服の袖を握りしめて歩くアリサだ。

 と。
 俺におぶさるクロエがアリサの手に触って握ったんだ。

 「クロエ‥‥」

 「クロエちゃんは優しいでちゅねー。弱虫のアリサお姉ちゃんを守ってあげるんでちゅねー。優しいクロエちゃんでちゅねー」



 結局右手はクロエと手を繋ぎ左手はデーツの服の袖を掴んで歩くアリサだった。


 「アレク。あんた‥‥守るってやっぱりあたしのことが好きなのかい?歳上好みなのかい?」

 「ちげーよ!」

 ヒッヒッヒ
 わはははは


この日俺は狂犬団という組織を作ったドンとトンに感謝することになる。


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