アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

460 3年春〜寝所の選択

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 大きな馬車で迎えに来てくれたのはアレクサンダー・ロイズ前皇帝陛下と皇帝の副官  元騎士団長のペイズリー・ジンズさんだったんだ。


 「よお狐仮面。半年ぶりだな。お前ちょっとだけ背が伸びたか?」

 マジか⁈
 てか皇帝めちゃくちゃくだけた話し方なんだけど?
 俺もそんな感じで応えていいのかな。

 「ああもちろんいいぞ」

 「あははは。背伸びたように見えます?そうだと嬉しいなあ」

 「まあお前は成長期だからな。毎日カウカウのミルクを飲めや。すぐにデカくなるぞ。
 あとな。わしもお前くらいのときは背が低くてな。毎日意識して魔力を足に流してた気がするぞ」

 「大殿もですか?私もそれやってましたなぁ」

 皇帝とペイズリーさんの2人がそんなことを言ったんだ。

 知らんかったー!
 それは盲点だよ!
 カウカウのミルクプラス魔力を足に流すのか!
 たしかに魔力を集中して足に流してたら背が伸びるかもしれないな。よし早速今日から寝る前にやってみよう。

 「さてと。ペイズリーから話があるからな。わしカッコ悪いからもう降りるわ」

 はあ?なんだよこのおっさん。
 迎えに来てくれといてすぐに降りるのかよ?
 変なおっさんだよな。

 「すまんな変なおっさんで」

 「!」

 「あははは‥‥」

 「あのな。狐仮面、いやアレクに言っとくがな。
 お前が何をしてもわしは一切文句は言わんよ。たとえ屋敷をぶち壊されようがな」

 ん?なにそれ?

 「ああさすがに息子や娘を殺されてはただじゃおかんがな」

 なんで見ず知らずの子どもを殺すんだよ! 
 しかも皇帝のおっさんの子どもを殺すってか!俺殺人鬼じゃねぇしそんなことしねぇよ!

 「それならいいんだがな」

 「(あっ!まただよ‥‥)」

 「まあとにかくペイズリーから聞いて判断してくれや。頼むわ。ほんじゃな」

 そう言ったアレクサンダー前皇帝もとい、へんな皇帝のおっさんが馬車から降りていったんだ。


 「おい!?先代皇帝陛下だ!」

 「陛下が歩いてるぞ!」

 「「「陛下ーーー!」」」

 わーわーワーワー
 ワーワーわーわー


 前皇帝のへんなおっさんが歩く周りにはあっという間に人だかりと歓声が起こっていたんだ。

 すげぇなこの人気っぷり!?

 「見てのとおり。大殿はあのまんまの人なんだよ」

 「はあ」

 「庶民的。開けっ広げの明るい性格は国民のだれからも愛されている。豪放磊落そのものの皇帝としてな。

 でもそれは家族からはどう映っていたのだろうな」

 えっ?なに?

 「国のために日夜休みなく尽くす大殿のあの姿。
 それは忙しさにかまけて家族を蔑ろにする父親と映ったんだろうな」

 いきなりなんなんだ?でもそれはたしかに。
 家族サイドからみれば見方によってはそうともいえるんだろうな。


 「今から5年前のことだ。大殿の奥方様が亡くなられてな。
 いかなる薬やエリクサーでも治らない病いだったんだよ。

 奥方様が元気にしておられる間はよかったんだよ。
 大殿はああだろ。育児は疎か家事の一切ができない。しかも平時より激務でな。
 それが子どもたちには家庭よりも仕事に映った。自分たちよりも国民を大事にする父親と映ったんだろうな。
 家族の愛情を欲する子どもたちとの隙間は奥方様が埋めていたんだよ。

 ところが。
 奥方様が亡くなられてからあとはもう‥‥。

 子どもたちからすれば病いでやせ細っていく母親を見殺しにした父親としか映らなかったんだろうな。
 大殿は自分の子どもには極端に口下手だったからな。子どもたちは余計にその思いを強くするだろ」

 「なるほど‥‥」






 まさに俺だ……。


 「結果奥方様が亡くなられてすぐに。長男、長女、次女の3人と大殿との間から会話がなくなったのさ」


 なんか想像できるな。てか俺と一緒じゃん。
 俺の場合は病床で亡くなる最後の1年くらい、親父は見舞いに来来てもすぐに帰ったからな。
 当時の俺はそんな親父を愛情がない奴だと怒りしか覚えなかった。

 今にして思えば死地に向かって痩せ衰えてていくしかない息子にかける言葉が浮かばなかったんだろうな。



 「大殿も使用人を雇えば良かったんだよ」

 「えっ?どういう意味なんですかペイズリーさん?」

 「退位したとはいえロイズ帝国の頂点に立たれていたのだからな。国費を使っても誰も文句は言わんだろう?」

 「そりゃそうですよね」

 「だが大殿は人を雇うそのお金でさえ国のものだからとな。屋敷を与えてもらっただけで充分だとな。信じられるか?大殿には蓄えですらほとんど無いんだぞ」

 なんだそれ!?
 絵に描いたような清貧だな。まるで女神教の神父様やシスターみたいだな。

 「ああまさにそのとおりだ」

 「でも皇帝のおっさんじゃなかった!皇帝陛下って家事できないんですよね?」

「ああ。だから奥方様が亡くなってすぐに人を雇ったんだ。
 寡婦を1人な。
 しかもここでもまた1番給金が安くて済む老婆をな」

 なんだそれ?!奴隷といっしょで値段だけで人を採用したら値段相応の人しか来ないんじゃね?

 「そのとおりだ。辛うじて飯を作れて洗濯はできるらしいがな。掃除はからっきしダメな老婆だ」

 「てことはお屋敷は?」

 「ああ荒れ放題の屋敷だ。汚いぞ」

 「‥‥」


 ここまで話されたペイズリーさんが俺に頭を下げたんだ。

 「留学先としてわが帝国を選んでくれたアレク君の宿舎。
 地方からの裕福な子弟用の宿舎だ。食事はもちろん掃除洗濯も一切しなくていい宿舎だ。
 アレク君は通常の寮以外にそちらを選ぶという選択肢もある。

 その上で尚恥ずかしいお願いをする。
 願わくば大殿のお屋敷から通っていただけないだろうか?
 武芸を磨きに来ただろうアレク君に家政婦紛いのことをお願いする失礼は重々承知の上だ。


 王国ヴィンサンダー領、ヴィヨルド領と奇跡を起こし続けてきた君ならば大殿と子どもたちを再生できるかもしれんのだ。頼む」


 皇帝陛下の懐刀。隻腕のペイズリーさんがただのガキの俺に頭を下げたんだ。
 これはもう即答だよ。
 
 「俺でよかったら。もちろん引き受けます」

 「本当か?
 ただ‥‥その‥‥汚いぞ。何せ5年間満足に掃除さえしてないからな」

 「あははは」

 「しかも今の子どもたち3人は心まで死んでるぞ。並大抵のことじゃ心を開くまい」

 「3人の子どもはいくつなんですか?」

 「長男は5年生、長女は2年生。アレク君と同じ帝都学園生だ。次女は教会学校の1年生だ。3人とも不登校や何かしらの問題児だな」

 「あーそれで皇帝が好きにしていいって言ったんですね。
 ペイズリーさん。俺にも妹や弟がいますけどマジで好きにしますよ?それでいいんですか?」

 「もちろんだ。
 君がいるこの1年の 間。なんとか大殿と子どもたちが会話をできるようにしてやってくれないか」

 「わかりました。やるだけやってみますね」

 「ありがとう。ありがとうアレク君」

 隻腕の武人ペイズリーさんが感極まったように言ったんだ。

 「代わりと言ったらあれですがたまにでいいんでペイズリーさん俺に稽古をつけてください」

 「そんなことでよければいつでもな」

 隻腕ながらも剣術の達人だって船上で艦長やベックも言ってたからな。


 この話のあと。
 そのまま馬車で帝都学園に行って学園長を紹介してもらったよ。
 学園長からは月曜朝8点鐘に来てくれって。

 それからペイズリーさんが言ったんだ。

 「せめて今夜だけは宿を用意させてもらった。ゆっくり過ごしてくれ。落ち着いたらわが家からも君を招待するからな。
 大殿の屋敷には明日からでいいからな」

 「ペイズリーさん。俺皇帝の家知りませんよ」

 するとペイズリーさんが今日1番のへんな顔をしてみせたんだ。

 「学園から真っ直ぐだ。付近の人に『ゴミ屋敷』といえばすぐにわかる‥‥」

 ゴミ屋敷?なんだそれ!?

 「学園は月曜から始まるからな。
 くどいようだが大殿の屋敷は‥‥人も子ども‥‥汚いぞ」

 さっきから汚い汚いっていうけどそれは王族貴族レベルの話なんだろうな。
 俺冒険者もやってるから汚いのくらいへっちゃらだよ。







 ペイズリーさんと別れたあと。帝都1番の宿に泊らせてもらったよ。
 な、なんとお風呂付のゴージャスな宿に!豪華な食事の味には驚かなかったけどね。
 てかさ。泊まった宿が超一流過ぎたんだよね……。


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