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第2章 幼年編
459 3年春〜水兵たちとの別れ
しおりを挟む目の前に帝国の港が見えてきた。
退艦する前。
イーゼル艦長に挨拶に行ったんだ。
「アレク君すまなかったな。講義の時間も少なくしてしまって。君にはずっと司厨長の仕事をやらせてしまった」
「いえ。イーゼル艦長の仰るとおりでした。この経験もまたすごく俺自身への糧になりました」
「そう言ってくれるとありがたい。
帝国の若者はどうだった?」
「はい。みんな気のいい奴らばかりでした。俺帝国に着く前からいい思い出しかありません」
「そうか」
イーゼル艦長が微笑みながらそれでも鋭い眼光で言ったんだ。
「とは言っても君は王国の人間。彼らも私も帝国の人間だ。今は両国の関係も良好だが未来永劫そうとは限るまい。いざ国同士が敵対することとなったら。
君は彼らに刃を向けられるかい?」
「えっ!?」
ドキっとしたんだ。そんなこと考えてもなかったから。
「もし‥‥この先たとえ両国が仲違いしようとも。俺は帝国に分け入ってまでみんなには刃を向けません」
「ということは‥‥逆に帝国が王国に向かってくるなら敵対することもやぶさかではないということだね?」
せっかく仲良くなったベックやリリアーナと闘うなんて未来は絶対にあってはならないことだよ!
ただ望むと望まないとに関わらず、俺も王国に住んでるし1兵卒の彼らともしそんな場面で遭遇したとしたら……。
「‥‥わかりません。
ただ俺は喧嘩はしても生命の取り合いは絶対にしたくありません」
「うむ。良い答えだ。我々軍人も常日頃からそう考えているよ。
アレク君願わくば刃を交えることなく彼らとの友情の絆を育んでいってくれ給え」
「ヨーソロー!」
「では艦長ありがとうございました。失礼します!」
「良い旅を!」
帝国留学をする前から素晴らしい経験を積ませてもらったな。そう思いながら艦長室を退室したんだ。
するとそこには‥‥
「お、お前ら。教官まで‥‥」
そこには短い間ながらも寝食をともにした海軍水兵見習いたちと教官たちがいたんだ。
みんなが1列に並んで見送ってくれているんだ。
「アレク旨いメシありがとうな」
「こちらこそ食ってくれてありがとう」
「アレク学園でも1番をとれよ」
「ああ必ず獲るよ」
「がんばれよ」
「お前もな」
「どっかでまた会おうな」
「声かけてくれよ」
名前なんか知らなくてもみんな顔見知りになった奴らばかりなんだよ。教官たちもいっつも気にかけてくれてたし。
「ありがとう」
「がんばれよ」
「お世話になりました」
「またな」
そして最後に。
タラップの前にベックとリリアーナがいたんだ。
こいつらとは短い時間だったけどほとんど一緒にいたよな。なんかウルってくるものがあるよ。
そしたらね先に2人がギャン泣きしてたんだ。
「う、うう‥お前もう船を降りるのかよ!ああぁぁ」
「う、うう‥たった2週間じゃない!まだまだ話し足りないわよ!ぐすんっ」
「アレクよぉぉぉ‥」
「アレクぐんっっ‥」
こんなの見たら俺は泣けなくなったよ。
「あのなぁお前ら俺これから1年帝国にいるんだぜ。また会えるに決まってるじゃないかよ」
「「うう‥‥」」
「住むとこ決まったら手紙送るからさ。お前らの休みの日にでも帝国を案内してくれよ」
「「わがった(わ)」」
なんかね妹や弟がヴィヨルドに戻る前にギャン泣きしてるみたいだったよ。
「じゃあなベック。またなリリアーナ。お互い頑張って一人前になろうぜ」
「「ヨーソロー!」」
ベックにリリアーナ。いい仲間だったな。また会おう!
さあ記念すべき帝国への第1歩だよ。タラップからジャーーンプ!
10点満点でぇーす!
「なにをやっとるんだ君は?」
そこには皇帝陛下の副官元帝国騎士団長ペイズリー・ジンズさんが呆れ顔で俺を見つめていた。恥ず……。
「あははは。お、お久しぶりですペイズリーさん」
俺の前に大きな馬車も着いたんだ。
「よお狐仮面」
えっ?!
「(すまんな。俺こんなんでも人気者でな。すぐに国民たちが集まってくるんだよ。すぐに乗ってくれ)」
それはアレクサンダー・ロイズ前皇帝陛下その人だった。
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