アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

453 3年春〜船上生活

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 パッパッパッパッパァァァァァーー

 艦内中に響く夕食を知らせるラッパの音。

 やった!やっと終わったよ‥‥。

 「ん?もう終わりか。少ない。圧倒的に時間が少ないな‥‥夕食のあとにやるか‥‥ブツブツ‥‥」

 マジかよ⁈許してくれよ!
 艦長には嬉しくない響きみたいだけど。少なくともこのラッパの音は俺には天使の奏でる祝祭曲に聞こえたよ。
 でもあ~あげっそりだ……。

 「アレクあんたゾンビみたいな顔して喜んでるわよ」

 シルフィ……。
 
 2日めにして、早くも干からびたゾンビみたいになった俺だ。

 コンコン

 「「失礼します艦長。アレク君を迎えに来ました」」










 「助かったぜお前ら。今日も死にそうになったよ‥‥」

 わははははは
 ふふふふふふ

 「まぁ海軍名物のイーゼル艦長の講義に参加したんだ。とりあえず名誉と思っとけよアレク」

 「あんたも相変わらず失礼な言い方よねベック」

 「講義中目開けて寝てたのはお前くらいだぞリリアーナ」

 「リリアーナマジ?」

 「アレク君信じちゃダメよ!ほんのちょっぴりだけなんだから」

 「「なんだよほんのちょっぴりって!」」

 ワハハハハハ
 フフフフフフ
 わははははは


 食事は体力を使う毎日のために朝昼晩の1日3食。食堂は20人程度。10人の商人を優先しているのと狭いため海兵は1番2番3番に分けられている。

 サッと食べ終わったら後の人に代わるルールなんだ。


 今日のメニューは干し肉と芋のスープ煮(塩味)と堅いパンの薄切。水は1人2杯まで。肉
が魚に代わるくらいで朝昼晩とも似たようなメニュー。

 うーん。あんまり美味しくないな。


 艦内で食べる食事は正直あんまり美味しくなかった。味付けはほぼ塩味だけだし。
 俺だったらもっと美味いもんを作るのにな。
 ってか乗組員がみんな食事の時間が待ち遠しくなるようにするのに。

 「(アレク君あんまり美味しくないって思ったでしょ?)」

 「(えっ⁈いやまぁその‥‥)」

 「(あのね私たちも初めて食べたときはそう思ったわ)」

 「(でもな毎日毎日こんなのでも食べてるうちにそれなりにうまく思えるんだよなぁなぜか)」

 「(ホントよねー)」

 「へぇー」


 選択肢のない船上生活だからそうなるのかな?
 料理長さん(たしか司厨長さん)も限られた少ない食材から料理をたくさん作るのもたいへんだろうな。

 「でもなときどき甲板に勝手に飛び込んでくるトビウオを焼いたのなんかが出るんだぜ。活きのいい魚はうまいぞ」

 「糸のついた矢で大きな魚が獲れたら贅沢な焼魚に変身するのよ」

 「へぇー。それ面白そうだな」

 「まぁよっぽど運よくないと魚に矢が当たらないんだけどな」

 「ふーん」

 「アレク君なら矢も上手いから当たるんじゃない?」

 「じゃあやってみようかな」

 「やってやって。魚を食べさせてよ」

 「任せとけ」









 船上では演習生が揃って甲板を水拭きするのも日常だった。


 「ヨォ狐仮面」

 「よお」

 「慣れたか?」

 「少しずつな」

 甲板を雑巾がけしながら仲間と言葉を交わす。見知らぬ演習生との間も少しずつ距離が縮まってきた。


 「よし今から剣術訓練をやるぞ」

 「「「ヨーソロー!」」」

 そして剣術から始まる船上での闘いの訓練をするんだ。


 「「「すごいな‥‥」」」

 「「「さすがだな‥‥」」」

 「「「手も足も出ないわ‥‥」」」



 「イーゼル艦長さすが皇帝陛下が留学に呼んだだけはありますなアレク君は」

 「ああ。おそらく君たち教官も負けるんじゃないか」

 「ハハハ。頭の痛いことです」

 「このうえ魔法は大人の魔法士でも歯が立たないらしいですな」

 「らしいな」

 「噂では火、水、土、金、風のすべてを発現できるとか?」

 「本人は土しか発現できないと言うがな。まあいずれにせよ規格外の子だよ」

 「ええ」

 訓練の様子を見守るイーゼル艦長、副官以下教官たちもアレクを見て感心しきりだった。

 「うちの新兵たちにもいい刺激になろうな」

 「「「ええ」」」


 演習時の剣術訓練、弓術訓練、格闘術訓練に俺の相手になるのは誰もいなかった。



 1日が楽しいよ。夜の狭い寝床もぜんぜん気にならないし。
 でも‥‥
 艦長の講義はマジでキツい。毎日痩せていきそうだ。








 航海も残り1週間となった。今日も艦長の長ーーーーーい講義の最中のことだ。

 コンコン

 「失礼します!艦長緊急事態です!」

 血相を変えた副官さんがやってきたんだ。

 ひょっとして。海路の異世界あるあるが発動したんじゃね?

 海路イカが襲ってきたのかな?魚人が攻めてきたのかな?
 それとも美人の女海賊か大きな人魚姫がやってきたのかな?

 「艦長‥」

 「ああアレク君は気にしなくていい。彼も仲間だからな。何も隠さなくていいぞ」

 「わかりました艦長。
先ほど緊急事態が起こりました。司厨長と助手の2人が食中毒で倒れました」

 「何⁈」

 「安かったからと王国で買ったブーダイの塩漬けを調理。先に試食したものに当たったそうです」

 「ブーダイ?あいつらはバカなのか!海の男がそんなものを食うとは!」

 ブーダイ?

 「ああアレク君。ブーダイは大海に多く棲む魚なんだよ。大型で食味も悪くない魚なんだ。ただ春のブーダイは餌にしている海藻が毒を持っているからね。それを食べるブーダイもまた稀に身に毒を持つものもいるんだよ。
 だから春先のブーダイを食べるのは陸の人間ならまだしも海の男なら絶対食う魚じゃないんだよ」

 へぇー河豚みたいなものなのかな。

 「艦長、司厨長たちは新規採用。まだ若い彼らですから甘くみていたんですな」

 「だな。ふむ‥‥。
 ちょうどいい機会だ。狐仮面君ならどう対処するかね?」

 艦長から俺の判断を訊かれたんだ。

 「司厨長さんの容態はどうなんですか?」

 「このまま1週間は嘔吐に下痢続きだろうな。安静にするしかあるまい」

 「1番近くの陸に寄港するのは?」

 「彼らの治療には陸のほうがいいだろうな。だがそのためには帝国に戻るのに4日から5日近く無駄になるな」

 「生命に危険を及ぼすほどでない。それでも陸のほうが病人には優しいんですよね?」

 「ああ。そのとおりだ。だが予定から4、5日遅れてはこの船に乗る商人が1番困るだろうな。彼らの商売を邪魔することはできまい」

 「すると1番の問題は何でしょうか?」

 「帝国に着くまでの1週間。商人と我々の1日3食の食事だな」

 「誰か食事を作れないんですか?」

 「ダンジョン経験者はもちろんいる。単にメシを作るだけなら誰しもできなくもないだろう。だが火気厳禁の艦内での調理。船の厨房で調理をできる者はいないしな。しかも総員50人だ。うまくできないよ。
 だいたい限られた食材の優先順位は司厨長しか知らないだろうしな」

 「1番の問題は我々の食事なんですね」

 「ああ。本来船上の司厨長と助手は水魔法を発現できる者が多いんだよ。水は貴重だからね。
 今回倒れた2人も水魔法が発現できる。
 ただまだ若い子なんだな。経験も足りない。認識が甘すぎると言っても過言ではないだろう。

 さてここまでの判断材料は理解したな。アレク君はどうするかね」

 これはもう返事は1つしかない。












 「艦長俺がやってもいいですか?」

 「司厨長たちに代わって君がかい?」

 「はい。皆さんの1週間の食事は俺が作ります!」

 「できるのかい?」

 「はい。できます!」

 「ふむ。じゃあ今日の夜から1週間臨時司厨長を頼めるかい?」

 さすが艦長だ。即断即決だな。

 「はい!」

 「ははははは。これは傑作だ。何もかもが経験になるとは言ったが。まさか初めての外洋航海で司厨長をやるとはな」

 そう言ったイーゼル艦長が副官と操舵手以下教官と俺のバディ  ベックとリリアーナを呼んだんだ。

 

 「皆も聞き及んでいるだろうが本艦の司厨長たち2人がブーダイの食あたりで倒れた。
 よってこれより帰港するまでの1週間は狐仮面アレク君が臨時司厨長になることが決まった」

 「「「えっ⁈」」」

 そりゃみんな驚くよな。俺がメシ作れることなんか知らないんだから。

 「時間等はこれまでと変わらない。
 何が出てきても一切の文句は受け付けん。これは商人たちにも伝えてくれ。以上」

 「「「ヨーソロー!」」」

 みんな大丈夫かよって感じて俺を見ながら艦長室をあとにしていく。


 「ベック見習新兵、リリアーナ見習新兵」

 「「はっ!」」

 「両名をアレク臨時司厨長の補佐に任じる。よってこれより1週間は一切の訓練等の不参加を認める」

 「「ヨーソロー!」」

 やった!やったよ!勉強しなくて済むよ!


 ―――――――――――――――


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