アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

451 帝国留学前

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 【  ヴィヨルド学園side  】

 「みなさんもすでに聞いているとは思いますがわが学園2年1組のアレク君はロイズ帝国との交換留学の形で1年間帝国へ留学することとなりました。

 王国での武勇1番との評価があるヴィヨルド領学園首席の実力を帝国でも充分に発揮してきてくれると思います。
 それでは最後にアレク君から挨拶を」


 壮行会。
 学園生全体の前で先生たちが激励してくれる挨拶を聞くだけで終わると思ってたんだ。まさか俺が挨拶をするなんて。いや挨拶をされられることになるなんて。
 なんだよ学園長!俺が緊張しまくるの知ってるじゃん!

 「えーっと‥‥て、帝国でもげ、元気に頑張ります。今、今日はありがとうございます‥」

 いいーーぞーー!
 狂犬アレクーー!
 変態アレクーー!
 わーワーわーワー

 なんでいつも俺への声援はこんなのばっかなんだよ!


 「相変わらず人が多いとヘタレだよなアレクは‥」

 「足なんか見てよ。ブルブルして産まれたての仔鹿よ」

 「ダーリンらしいじゃん」

 「シナモンの言うとおりよ!アレクらしくていいのよ。あれで」

 「でもさあれで強いんだから僕は未だに信じられないよ」

 「「「トールの言うとおりだな‥」」」

 「「「変態だし‥」」」

 「間違いねぇ」

 「なんかセーラさんって変わったよね。毒吐くようになったし」

 「「「うんうん‥」」」






 この仲間たちとは6年次の学園ダンジョンでほぼみんなが揃うことになる。

 学年2位のセーラ(セーラ・ヴィクトル)は1年次の学園ダンジョンで才能が一気に開花した。
 武闘祭では「武器」となる彼女の聖壁(ホーリーシールド)。これを破れるのは現学園生では俺だけだ。
 

 セーラに次ぐ学年3位のモーリス(モーリス・ヴィヨルド)。
 ヴィヨルド領主の次男は天才だが孤高の人との評価だった。
 が今では積極的に人と交わろうとしている。

 正直イケメンでなにもかも持ってるモーリスが人あたりもいいんだから俺は悔しくしかたない。モーリスの女装癖は理解できないけど。

 ご領主様の屋敷でロジャーのおっさんの結婚披露宴を準備してきたこともあり、俺はこの1年で1番仲良くなったのがモーリスだった。


 格闘1位総合では学年4位の狼獣人のハンス。ハンスも着実に に力をつけた。背も伸びてるし。イケメンだし。くそっ!

 俺が帝国に行っている間、秋の武闘祭で10傑に入ることもあるんじゃないかって思っている。
 ハンスはみんなの声を上手くまとめられる男だ。


 同5位のセロ(セロニアス)。
 セロは長身痩躯のモンク僧見習いだ。

 学園内には4年5年6年の先輩たちにもモンク僧見習いの生徒は何人もいる。だけどオニール先輩のあとに最も近いと仲間内で言われているのがセロだ。
 高速の杖さばきは今も健在でなお進化中なんだ。


 6位は熊獣人トールだ。
 その圧倒的な破壊力は他の追随を許さない。
 トールは領都ヴィンランドで人気の食堂「森の熊亭」で従兄弟のシャンク先輩と2人で鍋をふるっている。
 双子の妹弟ステファニーとステファンはリアル熊のぬいぐるみなんだ。


 7位と8位。女子にもすごい魔法士が2人いる。
 その赤い髪と同じように強力な火魔法を発現するアリシア。
 銀髪のキャロルは風魔法を発現できる。
 2人とも上級生たちに劣らないどころか学園内屈指の実力の持ち主なんだ。


 学年内9位はシナモン。
 豹獣人シナモンは男子にも劣らない速さが魅力的なんだ。
 女子の格闘術では学園女子No.1のライラ先輩に次ぐ実力を有し今もますます進化しているんだ。成熟に近づいている肢体は目に毒だけど。


10位はセバス(セバスチャン・ジャンリー)。
 こいつは相変わらずモーリス命の男だ。


 あと実力だけなら学年10傑のハイル。でも3年10組なんだけど。
 ハイルは‥‥うん、今も変わらない。狐仮面と勘違いされたことを喜んでいるし……。



 【  ヴァルミューレside  】

 サウザニアの卓越した鍛治技能を有したドワーフのヴァルカンさん。その妹ミューレさん(ヴァルミューレ) はヴィヨルド領刀鍛冶の至宝という2つ名を持っている。

 「アレク君帝国の首都スタッズに行くのよね」

 「うんマーレさん」

 ミューレさんからは帝国で鍛治に困ったときは会ってきなさいってドワーフを紹介してもらったんだ。

 「スタッズの鍛冶屋街にいるヴァルバッツォを頼りなさい。私やお兄ちゃんの従兄弟だからね。
 ひょっとしてもうお兄ちゃんからアレク君のことを知らせてるかもしれないわ。あの人筆無精のくせにときどきマメだから」

 「あははは。ヴァルカンさんらしいね」

 「ところで時計はどうなったの?」

 ダンジョンからのドロップ品の時計を小さくする取り組み。
 ヴィンサンダー領ではヴァルカンさんがヴィヨルド領ではミューレさんが主体でやってもらってるよ。

 「ええ。ヴィヨルド領はすべての街、すべての村に1つずつ行きわたるようにご領主様からご許可と支度金をもらったわ」

 さすがヴィヨルドだよな。たぶんヴィンサンダー領は渋るだろうけど。

 「じゃあミューレさん来年の春に帰ってくる予定だからね。いってきます」

 「がんばってねアレク君。いってらっしゃい」

 ミューレさんが俺の身体をハグして励ましてくれた。背丈は俺と変わらないけど横幅は俺の倍のミューレさん。
 でもミューレさんにハグしてもらうと俺なぜか泣きそうになるんだよね。








 帝国への出発は海路で行くことが決まってるんだ。
 王国に来ている帝国の商人さんの船に乗せてもらえることが決まってるんだ。
 出発は4月の半ば。
 海路2週間らしいから帝国には5月に着くんだって。



 【  森の熊亭side  】

 「今日も忙しかったねシャンク兄ちゃん」

 「そうだねトール。包丁の切れまで悪くなったからね」

 ここは森の熊亭。
 ヴィヨルド領領都ヴィンランドで庶民から愛される人気食堂だ。

 トールの父親が突然他界した哀しみは今も消えない。
 が、季節は冬から春を迎えたのと同じようにシャンクとトールの2人の気持ちも少しだけ前向きに強くなった。

 「アレクちゃん出発は明後日なんだろ?」

 「「うん」」

 「船に10日とか2週間乗ってるんだって」

 「へぇー。あんたたちアレクちゃんに船でも食べられるお弁当作ったらどうだい?」

 シャンクとトール。2人の父親が仲の良い兄弟だったように2人もまた兄弟のように仲が良かった。

 「「そうだね」」

 「あんたたち気づいてるかどうか知らないけどあの人が亡くなってからしばらく、包丁を誰が研いでたか知ってるかい?」

 「「ええ?」」

 「そういやよく切れたんだよね‥‥僕てっきりシャンク兄ちゃんが研いでるとばかり思ってたよ」

 「僕はトールが研いでてくれてるとばかり思っていたよ」

 2人は母親を見つめ予想できるその答えを待つ。

 「そうよアレクちゃんよ。あの人が亡くなってからしばらく。アレクちゃんは毎晩ご領主様のお屋敷から寮に帰る前。お店に来てあんたたちの包丁を研いでから帰ってたのよ」

 「「‥‥」」

 「心の優しい子だねぇアレクちゃんは」

 「「うん!」」

 「よしじゃあアレク君が船の上でも立って食べられるものをなにか作ろう!」

 「うんシャンク兄ちゃん!」


 

 ▼



 【  学園寮side  】

 「アレク君いよいよ出発ね。何か心配ごとはある?」

 「考え出したらきりがないけど今はとにかく向こうに行っても頑張るよ」

 「そうね。体調はどうなの?」

 「うん。最近背中が痛いんだよね。どうしてかな?」

 「それはね、背が伸びるんだわきっと」

 「だといいな。カウカウのミルクのおかげかな」

 「ええきっとそうよ。アレク君もいずれ私くらいに大きくなれるわよ」

 「うん!」














 再び王都の港から。

 「おぉ~!デカい船だなぁ。しかもこれ商船じゃなくって軍艦じゃね?」

 港に停泊していた船は帆船は帆船でも全面に鉄板が張られた武骨な仕様。火矢や多少の油でもびくともしないような極めて頑丈な船だった。うんこれは軍艦だな。


 「すいません。ヴィヨルド学園のアレクと言います。どなたかわかる方はおみえですか?」

 招待状を手に船の周りで作業をしていた女の人に声をかけたんだ。なんとなくおっさんよりも話しやすそうだったし。

 事前にアレクサンダー前皇帝陛下の印章が入った招待状をもらってたんだよね。狐仮面で行ったらわかるようにしとくからって言われてたんだけど……。


 「せんぱーい狐仮面君がきましたー」

 「「本当に狐仮面だよ!」」

 「「ちっさ!」」

 「本当にマルコより強いのか?」

 みんなに周知はされてたみたい。割と注目されてるなぁ。

 「艦長室に案内してくれー」

 船の上から大きな声がしたよ。

 「はーい。じゃあ狐仮面君ついてきて」

 「はい」

 声をかけたお姉さんに連れられて艦内に入ったんだ。

 「「おはよう」」

 「おはようございます」

 「「おっす」」

 「おはようございます」

 「「おいっす」」

 「おはようございます」


 すれ違う誰もがハキハキと挨拶してくれたんだ。軍人はみんな規律正しいな。

 コンコン

 「はい」

 「失礼します艦長。狐仮面君をお連れしました」

 「はいってもらってくれ」

 「入っていいってさ。じゃあね狐仮面君」

 「あ、ありがとうございます」

 案内してくれた女の人はすぐに駆け戻っていった。
 
 案内されたのは艦長さんのいる艦長室だった。

 「ようこそ狐仮面君」

 「はじめまして。狐仮面じゃなくてアレクです」

 「ハハハハ。狐仮面君じゃなくてアレク君だったな」

 そう言った艦長さんは2メル近くと背も高く白い軍服をしっかりと着こなした軍人さんだった。
 
 
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