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第2章 幼年編
450 ホークの奥義
しおりを挟むホーク師匠の後に続いて砂漠の中をひたすら走ったんだ。
とーんっ とーんっ とーんっ とーんっ‥
師匠も俺も風の精霊が憑いているからね。砂漠の上を5メルに1回くらい着地するたびに後ろからシルキーとシルフィ2人の加護による追い風だけで前に進めるんだ。
ふつうの人の軽く10倍は速いんじゃないのかな。
とーんっ とーんっ とーんっ とーんっ‥
そんなふうに高速移動をしていく砂漠地帯の中。周辺探索に引っかかるのは巨大な魔獣。それは魔力だけでなく遠くから視認もできる大きさのものまでいたんだ。
砂に埋もれてるのは擬態なのかな。サソリ?カニ?
大きさも軽く人並みサイズから小山くらいあるものまでいるよ!絶対ヤバい奴らばかりだろうな。
それにしてもこいつらの魔力量と強さときたら!
いったいなんなんだ。闘ったら簡単には勝たせてもらえないだろうな……。いや囲まれた負ける絵しか見えないな。
とーんっ とーんっ とーんっ とーんっ‥
そんな魔獣たちは何故かその場から動いてくる奴や敵対する気配を感じる奴はまるでいなかったんだ。
だから小山のすぐ脇を通り抜けてもまるで死んでるみたいに動かなかったんだ。絶対死んでないんだろうけど。
高速移動が4点鐘くらい続いたあと。砂漠の先にオアシスっぽい光景が見えてきたんだ。
オアシス
それはイメージの中のオアシスそのものだった。
水辺を中心に。砂だらけの世界に現れた尊いばかりに光り輝く生者の楽園。
「水はそのまま飲めるからな。木の実や草もすべて食っていい。味は別として毒草は1つもないからな」
周囲を含めて。索敵に生き物は1つも引っかからなかった。
「動物や魔物は居ないんですね」
「ああ。ダンジョンの休憩室と同じ空間と考えろ。時間問わず安心して眠っていい」
「す、すごいですね師匠‥‥」
「ああ。俺も30年近く前、初めてここに来たとき驚いたよ」
ふと。
本当にふと疑問に思ってホーク師匠に聞いてみたんだ。
「師匠はなぜここに?」
「ああ。兄貴を探してその手がかりになるものを求めて中原中を旅しててな。
そのときにたまたまヴィンサンダー領の酒場で出会った老人に案内されたんだよ」
「老人?」
「ああ。外に何1つ漏れない魔力を完璧にコントロールしていた人だったな。黒い髪と風貌は海洋諸国人に近かったがな」
「へぇー」
そのとき俺テンプル先生やモンデール神父様たちがよく言う縁、繋がる糸って言葉がすぐに頭に浮かんだんだ。師匠とその人も何かの縁があったんだろうな。
「修行をするならここでやれば良い。誰にも見られることは絶対ないからってな」
「なるほど。それでここだけ別世界なんですね」
「ああ。おそらくなにかの結界で守られているだろうな」
ホーク師匠曰く、誰かに案内され1度でもこのオアシスを訪れた者は「許された者」として認識されるんだそうだ。そして次以降はこの広い砂漠のどこから来ても必ずこのオアシスにたどり着けるそうなんだ。
逆に案内されていない者は1度たりもたどり着くことはないんだって。
しかもそんな人だけを狙って魔獣が襲って来るらしいんだ。
「途中いた魔獣。めっちゃ強いですよね?」
「ああ。物理的攻撃に魔法攻撃。さらに魔法耐性もあるぞ。囲まれでもしたら俺たち2人でも危ない」
きっぱり言い切ったホーク師匠。やっぱりな。どうみても強い魔物ばかりだもんな。
「まあだいたいこの砂漠を走破する者などいないがな」
「ですよね」
デニーホッパー村にいた当時も領都サウザニアにいた当時も砂漠を越えようなんて人の話は聞いたことなかったよな。
地図中ではこの先には大海と暗黒大陸って描いてあるけど。とにかく砂しかない荒地の認識しかなかったもん。
「実は俺たちエルフの古い伝承にはこの砂漠の先にはダークエルフの里があるらしいんだ。
闇黒大陸へもダークエルフを水先案内人に行けるとな。
ただこの数100年誰もこの先を行った者も来た者もないからわからんのだがな」
なにそれダークエルフ!
ダークエルフってあれじゃん。ビキニみたいなの着たエロいエロフ!サキュバスと2大エロ界の横綱じゃん!
「よこずなの意味はわからんがエロくはないぞ。ただの色の黒いエルフ族だ」
「あははは」
「よし。それじゃあここまで来た理由を言うぞ。
今からやる修行は誰にも知られていないお前だけの特別な魔法開発の修行だ」
「特別?知られてない?」
「人も魔獣も。そのほかにも今後お前はこれまで以上の強敵と出会う。必ずな」
「その中で殺されることを覚悟した場面‥‥アレクそのときお前はどうする?」
「‥‥可能なら逃げます。不可能ならせめて1太刀闘います」
「そうだな。それで正解だ」
なんだ?ホーク師匠が教えてくれてることは至極真っ当なことだったんだ。
でもそこから実演してくれたことに俺は声も出なかったんだ。さすがホーク師匠だと。
「そのときのために。誰にも知られていない技を生み出せ。
幸いお前には雷魔法がある。あとはこれができればおそらく生き残れる可能性は高まるだろう」
そう言ったホーク師匠。
胡座をかいたままのホーク師匠が‥‥
「し、師匠まさか‥‥」
目の前のホーク師匠が2人いた。シルキーまで2人いるじゃん!
マジ?分身じゃん!
「俺は別れ身と呼んでいる。これは誰にも知らせるな。それこそ契約魔法をした相手のみだ。
あとは逃げられず死ぬとわかったときの相手のみに発現しろ。
闘うのも倍、逃げるのも倍の確率となる」
「見とけ」
さらにそう言ったホーク師匠が俺の前に立ち刀を抜いて俺から見て右側のホーク師匠が俺に斬りかかった。
「えっ?!斬られ‥‥てない?」
「別れ身では当たり前だが物理攻撃は効かない」
「そうよ。こんなことまで出来るのよ」
シルキーが俺の腹の中から出入りし出した。
「なにそれ!おもしろそう!ヘタレのアレクがますます凹みそうになる技ね!」
なんでそんな発想するんだよシルフィ!2人で闘えば倍闘えるわってふつう言わないのか!
でも。物理攻撃は効かないんだ。なんだよ手裏剣やたくさん現れた影分身が敵を倒すんじゃないのかよ!
「フッ。魔法は発現できるぞ」
そう言ったホーク師匠がシルキーに頷いた。
「いくよアレク」
2人のシルキーが左右から俺の足下に風を送り込んだんだ。
フワッ。スーーッッ!
「おおー浮いてるよシルキー!」
「これで今度から私がアレクを蛙の巣にぶちこんであげるね!」
アハハハハハ
あははははは
なんでお前ら2人して俺をいじめるんだよ!
「そうだ!聞いてよシルキー。アレクったらグランドで」
「わーわーやめてくださいシルフィさん!言わないで!」
「フッ。とにかくだアレク。逃げるにしても2人が別々に逃げれば確率は上がるからな。いずれにせよこの別れ身、これは記録にはあるが現在中原で発現できるのはたぶん俺だけだ。まぁ隠してるからほかにもいるかもしれんがな。お前もこの7日間でさわりだけでも発現できるといいな」
「はい師匠!」
結局1週間で分身の術は発現できなかったんだ。まあ当たり前だからぜんぜん悔しくなかったけどね。
でもこの日以降、俺はホーク師匠から教わった胡座をかいた状態で魔力循環を発動する鍛錬法を夜にするようになったんだ。
魔石をニギニギするのや剣を振るのと同じだね。ひたすら反復だよ。
オアシスを離れるときホーク師匠が言ったんだ。
「いずれ。いずれお前がこの先を進めると認定されればここにお前の水先案内人が現れるからな」
「はい」
そのときはそんな話まるで意識してなかったんだ。
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