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第2章 幼年編
449 2年冬〜家族愛
しおりを挟む「おっグランドの蟹だね。ありがとう」
領都のモンデール神父様にも蟹を届けてきたんだ。これで蟹もみんななくなったよ!
でもさ、確か武闘祭の賞品は蟹1年分だったよね?それっていつどのくらいもらえるのかなあ。
校長室にはケイト先生もいて、また例の音を遮断する魔法を発現してくれたんだ。
「アレク君、するとデグー一族の姫自ら証言してくれたんだね」
「縁はすごいものですねモンデール神父様」
「本当ですね。まさかデグー一族にまでたどり着くとはね」
「しかしノクマリ草の毒薬に1国1ルートという販売規制をかけてたとは。これはどれだけ調べてもわからないはず‥‥」
「アレク君ディル神父様とシスターナターシャは何と?」
「俺の考えに同意してくれました」
「そうかい。まぁそうなりますかねケイト先生?」
「ええ。今はこのまま。少しでも王宮が絡む可能性を考えるとすればまだ動くには時期尚早でしょうね」
モンデール神父様もケイト先生も俺も3人が互いに頷きあったんだ。
「俺成人するまでにもっと強くなってそれからまた考えたいと思います」
「そうだね‥‥わかったよアレク君」
そう。父上と俺の毒殺。これに関しては一旦「保留」しようと思うんだ。王宮が絡んでるかもなんて夢にも思ってなかったしだいたい王宮なんてとこ、まったく知らないからさ。
▼
春から俺が帝国に1年行く話も家族はすでに聞いていたようなんだ。
てか例によってモンデール神父様、師匠、シスターナターシャの3人が骨を折ってくれてたんだよな。
だからね比較的すんなりと了承してもらったよ。
でもやっぱり最後は家族5人ひしっと抱きあって別れを惜しんだけどね。
ギャン泣きのスザンヌとヨハンにつられてやっぱりマリア母さんも泣いちゃったし。
「みんな蟹みたいに真っ赤だよ!」
ヨハンのひと声。最後はみんなが鼻水まみれの真っ赤な顔をして泣き笑いしたんだ。
そして俺は家族愛そのものを深く実感したんだ。
「アレク、モンデール神父様、ディル神父様、シスターナターシャの3人が家にまで来てくれたんだよ」
「アレクちゃんの帝国行きを許してあげてってね」
「そうだったんだ‥」
「お前がヴィヨルドからさらに帝国に行くって聞いて驚いたんだよ。
でもな王国中でたった1人しか行けない名誉あることなんだって聞いたら‥‥心配だけどお前の親であることが誇らしくてな」
「そうなのよアレクちゃん」
「3人の偉い神父様たちが俺たち夫婦‥‥いや俺たち家族のために応援してくれてるんだって思ったら‥‥俺たち夫婦が反対だなんて言えないよなって思ったんだよ」
「父さん、ダメならダメって言ってくれよ!俺は家族に迷惑かけてまで帝国へ行きたいなんて思わないよ!」
「違うんだアレク。俺もマリアもお前がヴィヨルドに行ってることだけでも心配なんだよ。
それでもな、村の誰もがお前は何をしてる?今はどこなんだ?って聴くと‥‥やっぱりああ俺たちの息子がって誇らしくなるんだよ」
「アレクちゃん、お父さんもお母さんもアレクちゃんの帝国行きに反対じゃないのよ。正直寂しいんだけどね。
ねえアレクちゃん。アレクちゃんはなぜ遠くの帝国まで行くの?」
「皇帝陛下に誘われたからね。帝国がどんなところかさえわからないよ。でも俺はもっともっと強くなってみんなを守りたいんだ」
「もうアレクちゃんは充分強いじゃない!」
マリア母さんが自身の強い思いを吐露したんだ。
「うううん。母さん、俺はまだまだ弱いんだよ‥‥」
「そう‥‥お母さんにはわからないわ。それでもアレクちゃんのやりたいことだから。
応援してるからね」
「ああ。アレク俺たち家族はいつだってお前を応援してるぞ!」
「「お兄ちゃん私も(ぼくも)応援してる!」」
「ありがとう。帝国に行ってもがんばるよ」
▼
そして春休み。
久しぶりにホーク師匠と修行できることになったんだ。
「来年は帝国に行くんだってな」
「はい師匠」
「魔力量は並のエルフよりあるようになった。魔力も見える、雷魔法も発現できる‥‥」
ホーク師匠が独り言のように呟きながら言ったんだ。
「アレク今日から7日。これがしばらく最後の修行になる」
「えっ最後?」
「ああ」
「俺まだまだです。師匠からぜんぜん学び足りないです!」
「フッ。心配するな。お前が帝国から帰ってきてまた時間がとれたら年に1度春に修行を再開すれば良い」
「よかったー!」
ホッとしたんだ。
実際まだまだホーク師匠から学ぶことはめちゃくちゃ多いから。
「師匠じゃあなんで最後なんて言い方を?」
「お前はこれからますます忙しくなるだろう。来年のように春休みの時間もとれなくなることもな。
それでだ。これから7日間で教えることを1人でもお前がやり続けるんだ。
精霊魔法をつかんだときよりも難しいことだからな。
だからこの1週間でお前が帝国に行っても自分でできることだけを教えておく」
「は、はい‥‥」
何を教えてくれるんだろうホーク師匠は。
「時間が惜しい。すぐに行くぞ」
「は、はい」
そう言ったホーク師匠が北を向かって走りだしたんだ。
北?黒い森じゃないの?北は砂漠しかないじゃんね?
俺の故郷ヴィンサンダー領は王国はむろん中原でも最北にあたる。
ざっくりとした地図には広い中原の北の果て。ヴィンサンダー領の荒れた大地はそのまま北の広大な砂漠に続いているんだ。
俺だけじゃなく誰もが共通認識としてるのは何もない砂漠のはずなんだけど……。
「師匠?」
「ついて来い。来ればわかる」
「はい‥‥」
こうして師匠と俺は何もない砂漠の中に突っ込んだんだ。
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