アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

447 冬休みの依頼〜嘘

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【  デニーホッパー村side  】

 「アレク君が間もなく帰ってくるだろ」

 「「「ああ」」」

 「こないだ神父様が言ってたとおりだな。あんな歳の子にこれ以上背負わせちゃだめだ」

 「俺もそう思う」

 「私もそう思う」

 「盗賊に襲われたときも大金を出してくれた。村の祭りも宿舎も温泉も作ってくれた」

 「畠の土も劇的に良くしてくれた」

 「挙げたらきりがないわい」

 「「「ああ」」」

 「でもな。父親から見てもあいつはそんなこと気にしないと思うぞ」

 「それでもだ。父親のお前も人が良すぎるんだよ」

 「もう充分過ぎるくらい村に尽くしてくれたよ」

 「「「そうだな」」」

 「じゃあ‥‥そういうことでいいな」

 「「「ああ」」」




 それは同級生の幼なじみたちの間でも。

 「もうすぐあいつが帰ってくるからな」

 「俺たちはあいつに楽しく過ごしてもらわなきゃな」

 「そうだにゃ」

 「ええ。そうかもしれないわ‥‥」

 「これ以上あいつばかりに頼ってちゃダメだからな。
 みんないいな」

 「「「おお(うん)」」」



ーーーーーーーーーーーーーー



 「早く帰れよ!お前がいるとメロンは俺に懐かねぇんだよ!」

 「メロンちゃんは良い子でちゅねー。お父ちゃんはゴリラみたいで怖いでちゅもんねーすーはぁーすーはぁー」

 キャッキャ  あーあーあー  キャッキャ‥

 「メロンちゃんもデニーホッパー村に行きたいでちゅかー?」

 「行くわけねぇだろ!バカやろー!」

 「仕方ねぇなぁ。じゃあメロンちゃんしばらく会えないけど元気にしてるんでちゅよー」

 「あーうるさいクソガキめー!なんで実の父親よりあんな変態が好きなんだよ!」

 「メロンちゃんはゴリラより人間が好きなんでちゅよねー」

 「テメー!」

 「きゃーゴリラが怒ったでちゅよー」

 ウッウッ  ギャーー  ギャーー  ギャーー!

 「あっ!泣いちゃった‥‥」

 「お前のせいだぞ!この変態め!」

 「子どもの前でなにやってるのよ2人とも!」

 「「すまん(ごめんなさい)‥‥」」

 

 結局ロジャーのおっさんと交互にメロンちゃんをあやしながら(俺はメロン吸いを堪能しながら)その日は寮に帰ったよ。

 「寮長グランドに寮長にそっくりのレベちゃんがいたよ」

 「ああそれアタシも聞いたことあるわ。強いんだって?」

 「うん。胸板に敵の頭を挟んで締め殺してたよ」

 「お兄ちゃんと一緒なの?なにそれ気色いわ!」

 「うん。顔もそっくりでレベちゃん‥‥」

 「なにそれ戦乙女ね!」

 「「違うと思うけど‥‥」」

 レベッカ寮長兄妹にも蟹をお土産で渡したよ。



 「おおっ!グランドの蟹だね。ワタリガニそっくりだけどさらに旨いんだよね」

 学園長にも蟹を渡して話し込んでから村に帰ったんだ。なんか学園長といると楽しいんだ。大好きな親戚のおじちゃんって気がするんだよね。







 西門ではトマスさんやマイケルさんたち村の東西の門の警備をしてくれてるヴィンサンダー領領都騎士団の人たちが迎えてくれたんだ。

 「おおアレク。帰ってきたか」

 「ただいま。これお土産」

 「「おーありがとな」」

 「なんだ?」

 「グランドの蟹だよ」

 「おぉーグランド名物だな!」

 「うん。よく知ってるねマイケルさん」

 「そりゃお前グランド名物は黒髪美女と蟹って言うからな」

 「そうなんだ‥‥」

 (やっぱり黒髪美人はたくさんいたからなぁ)

 「でいつまでいるんだ?」

 「うん遅くなったし冬休みだからあと1週間かな」

 「そうか。朝は寒くなっただろ。そんでもやるのか?」

 マイケルさんが刀を振りおろす真似をしたんだ。

 「もちろんだよ!明日の朝からよろしくお願いします」


 「「「わはははは」」」

 「「「ほーら俺たちの勝ちだ!」」」

 「やっぱやるのかー!かーしまったー!俺は寒いからやらねーってほうに賭けてたんだがな」

 「「「マイケルごちそうさん!」」」

 「くそー!」

 俺が帰ってきたら朝の稽古に参加するかどうかを6人で賭けていたんだって。そりゃやるに決まってるのに!

 「じゃあ明日からまたよろしくねー」

 「おお。また強くなったか試してやるわ」


 夕方の6点鍾。冬の空はもう暗いけど、ちょうど門扉を閉める前に間に合ったんだよ。
 
 広場ではウンディーネたちが手をふっていたから弟にも俺が帰ってきたって伝わったかな。

 「ただいまー」

 「「お兄ちゃんおかえりなさーい!」」

 「「お兄ちゃん、お兄ちゃん‥」」

 「お前らいつまで経っても甘えん坊だなぁ」

 頭をぐりぐりやってくる妹や弟の2人の頭をぐしゃぐしゃに撫でるのもお約束だ。
 そして両親と抱きあうのもお約束なんだ。

 「デカくなったか?」

 「父さん春から半年だよ。変わらないよ」

 「アレクちゃん怪我してない?」

 「大丈夫だよ!母さんは心配し過ぎなんだって」

 そして……。

 「腹へった」

 「ちょうどご飯だったからよかったわ。アレクには芋も茹でようかしら」

 「うん。俺家の芋がいちばん好きだ」

 家族揃っての団らんはリラックスするんだよなぁ。

 「じゃあさこれも食べようよ。グランドの土産の蟹なんだ」

 「「蟹?」」

 「うん。グランドって言ったらこの蟹が名物なんだよ。旨いよー!」

 「えーなんなのお兄ちゃん」

 村の人は沢蟹サイズしか見たことないから大きな蟹は初めて見るんじゃないかな。

 「うわっ!まだ生きてるんだ」

 「ああ。おがくずに入れてたら1週間はへっちゃらなんだぞ。とにかく茹でるだけでめちゃくちゃ美味いから楽しみにしてろよ」

 「「わーい。かーに、かーに、かーに、かにーに♪」」

 即興で歌を歌い出した姉弟もお約束。

 「お兄ちゃんは歌っちゃダメだからね。なんかゴブリンの叫び声になっちゃうから!」

 「「ゴブリン、ゴブリン、かーに、かーに♪」」

 「お前ら覚えとけよ!」

 そう言いながらおがくずを落として蟹を洗う俺。

 「アレクちゃんの手から水が出てるのを見るのも久しぶりね」

 家族みんな初めて見る蟹に興味津々なんだ。

 「ハサミに気をつけろよ。挟まれたらたいへんだぞ」

 「「う、うん‥‥」」

 「母さん芋を茹でたあと。そのままこの蟹を茹でておいて」

 「わかったわ」

 「じゃあジャンとアンナの家と師匠にも蟹の土産置いてくるわ」

 「お前が持ってきたお米もたくさん採れたからな。今日は白ご飯だぞ。早く帰ってこいよ」

 「うん」

 お米も豊作だって言ってたもんな。よかった。
 こんな日常のありふれたやりとり。幸せを感じるなぁ。

 ジャンの家とアンナの家にも蟹を置いてきたんだ。
 チャンタおじさんもニャンタおじさんも「干ばつになったけどアレク君のおかげで大したことなかったよ」とうれしい報告をしてくれたんだ。

 ジャンがこんなふうに言ったんだ。

 「アレク明日みんなに声をかけておくからな。ちょっと話もあるから10点鐘前に家にきてくれ」

 師匠のところにも土産の蟹を置いてきた。

 「明日の午後から見てやるからな」

 「はい師匠」

 「1週間しかないんだからね。ちゃんと勉強もするわよ。
 それと‥‥少しは、ほんの少しだけど字が読めるようになってきたわ。
 あと紙ありがとうね。シルカさんからたくさん紙が届けられたから」

 「そう。よかったよ。たくさん書いたら字が上手くなるって学園長も言ってたから」

 「そりゃアレクはもっと書かねばの。お前のゴブリン字も直さねばなるまい」

 チッ!うるさい師匠め!

 「アレクお前タイラーと一緒でずいぶんえらくなったのぉ」

 「痛い痛い痛い!頭ぐりぐりしないで!」



 翌朝。マイケルさんたちとの朝稽古のあと。

 久しぶりにみんなが集まったんだ。初級学校の仲間たち。
 ジャン、ジョエル、アール、ベンの男子は今では村の運営にも携わってるんだ。
 シャーリーも帰ってきていたよ。

 「アレク領都にできた寮や奨学金とかいろいろありがとうね」

 「俺ん家も妹が世話になってるからな」

 「「俺(私)も」」

 「ああみんな気にすんなよ。家の妹も行ってるしそのうち弟も行くんだから」

 いいよなやっぱり村の仲間は。久しぶりなんだけどすぐに昔に戻れるんだ。

 「じゃあそろそろ本題にいこうか」

 「「ああ(ええ)」」

 ん?なんだみんな?
 
 「おじさん家の水田な、お米も豊作だったんだよ」

 「だってな。父さんから聞いたよ」

 「それでな来年の春は俺たちの家でも苗をもらって頑張って作るからな」

 「今日はその報告なんだ。アレクは来年帝国に行って1年帰ってこないって神父様からも聞いたんだ。
 だからお前が心配しなくていいってことを俺たちみんなから伝えたかったんだ」

 「なんだよお前ら‥‥」

 「そうだぞアレク。村を気にせず帝国に行っても暴れてこいよ」

 「そうよ。あんたは『ヴィンサンダーの狂犬』なんだから帝国でも頑張るんだよ」

 「寂しいけどがまんするにゃ」

 「みんな‥‥」

 「「「がんばれアレク」」」

 「「「行ってこいアレク」」」

 「あ、ありがとう‥‥」


 俺、みんなの励ましの言葉をそのまんま真に受けてたんだ。

 だって翌日以降行ったのんのん村もニールセン村も干ばつの被害はほとんどなくってお米も豊作だったのを実際に目で見てきたから。


 そういやさ‥‥一緒にのんのん村やニールセン村をまわって記録をとり続けてくれてるシャーリーがやけに明るかったんだよな。

 俺は‥‥明るい未来しか見てない自分本意な奴だったんだ……。


―――――――――――――――


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