アレク・プランタン

かえるまる

文字の大きさ
上 下
445 / 722
第2章 幼年編

446 冬休みの依頼〜帰郷

しおりを挟む


 その後はスケエモーンさんとキム先輩たちは打ち合わせをすることになり別室へと行ったんだ。



 「ミカサ会長ありがとうございました」

 「ん?なにがじゃ」

 ミカサ商会長が穏やかに笑ったんだ。

 「アレク君ゴムはすごいの。当面は戦闘靴1本でもいけるじゃろうの。しばらくは冒険者では手に入らないだろうがの」

 「じゃあ誰が買うんですか?」

 「最初は王都騎士団かの。それからは帝国とダルク大国の騎士団。さらにはエルファニアとカザール法国も均等にまわしていかねばな。
 いずれどの国に行ってもアレク君が恨まれぬようにせねばの。ワハハハハ」

 「商会長‥」

 「サンデーとミョクマルには話をしておくから冬休み明けに商業ギルドに行っておくれ」
 
 「はい。わかりました」

 「ああ海洋諸国にはスケエモーンを送るが帝国にもミカサ商会を作るでの。
 ミカサ商会ロイズ帝国店にはカクサーンを就けるでの。
 カクサーンには冬休みが終わったらヴィヨルドのミカサ商会に行かせるでの。これもその折りに打合せを頼むよアレク君」

 「はい!」

 「でアレク君。ゴームの木の問題点はなんだったかの?」

 「はい。おそらく今のゴームの木すべてを切ってもゴムは足りません。だいたいゴームの木を伐採していいのか悪いのかもわかりませんから。
 だから俺的にはゴームの木の栽培をしつつ徹底した管理をしていかなきゃって思ってます」

 「そうじゃの。それでグランドの経済はまわるかの?」

 「まわるとは思いますがそのすべてをミカサ商会頼りになります。
 なので俺はグランドの人が自分たちでも食っていけるものを作りたいと思ってます」

 「うむ。それはいいことじゃの」


 昔、東北の爺ちゃんがいつも言ってたんだ。「3本の矢」を用意しろって。3つの道があればどれかがダメになっても生きていけるって。

 だからグランドの矢の1つはゴームの木。あとの2つは‥‥もう考えてあるんだよね。
 どれかがなくなっても生きていけれるようにグランドの人たちがなればいいな。







 帰りはミカサ商会長から馬車をお借りして港まで戻ったんだ。

 「狐ちゃん。いえアレク君いろいろとありがとうね」

 「ありがとうなアレク」

 「えー俺何にもしてないですよ。いつも言うだけだから」

 「フフフ。キムは良い弟を持ったわね」

 「ああ」

 「あはは」


 「でもこれからは忙しくなるわね。正直私どうしていいのかわからないわ。かと言ってキムにいつまでもグランドにいてもらうわけにもいかないし」


 どうしていくのが正解なのか。
 一族が生きていくための街づくりは、いずれは俺が取り組まなければならない領づくりにも繋がるんだよな。


 「俺なんでも言いっぱなしでなんにもできないんだけど、いつも周りにいる人たちがなんとかしてくれるんだよね。
 なんていうか、その道のプロに任せたら上手くいくっていうか。
 だからさ、近々ヴィヨルドの商業ギルド長ミョクマルさんとミカサ会長の孫娘のサンデー商会のサンデーさんにも相談して2人から姫に連絡をしてもらうよ。2人はスケエモーンさんとも近いはずだし。

 姫には誤解してほしくないんだけど、ミョクマルさんもミカサ会長もサンデーさんも決して損得ばかりの人じゃないことは俺が責任を持って保証するからね」

 「馬鹿ね!今さらそんな心配するわけないでしょ!」

 「そっか」

 ワハハハハ
 フフフフフ
 あはははは



 ゴームの木から採れる樹液の価値は計り知れないものとなったんだ。もちろんデグー一族ならびにアイランド一族が経済面でも追い風を受けるようになるのは言うまでもない。
 デグー一族は裏の仕事を一切しなくても生きていけるようになるんだ。


 港に着く前の馬車の中で。

 「狐ちゃんありがとうね。なんにもできないけど私からのお礼よ。デグー一族の女は彼と旦那以外にはよっぽど感謝してないとしないんだぞ」

 チュッッ!

 姫の顔が近づいたかと思ったら俺の唇に柔らかいものが触れたんだ。

 えっ!マジか!
































 「あうあうあうアウアウアウ‥‥」


 ブッシューーーーーーーーーッッ!

 
 「馬鹿!なんてことしやがる!
 こいつは本物の変態なんだぞ‥‥。おいアレクしっかりしろ!アレクアレクアレク‥‥」

 「ああっ!どうしよう?狐ちゃん死んじゃダメ!」

 なにか聞こえた気がするけど。


 目が覚めたらグランドの港に着いてたんだ。

 「兄貴アレクが目覚ましたよ!」

 「ん?あれトマス?イシル?姫?ここは?ああキム先輩‥‥」

 「お前、また死にかけてたぞ‥‥」

 「「お前やっぱり‥‥」」

 「ごめんなさい、ごめんなさい、狐ちゃんごめんなさい‥‥」

 なぜか謝りながら後ずさりしている姫だった……。







 出血多量となった俺は結局エリクサーのお世話になったんだ。エリクサーの効果は絶大だったけど。

 「鼻血だしてエリクサー使う奴なんて初めて見たわ」

 「ああイシル兄俺もこいつ以外こんな変態見たことないわ」

 「「ワハハハハ」」

 「もうイジるなよ。泣くぞ!」

 「「ワハハハハ」」







 「おま‥‥」

 「すげぇな‥‥」

 「マル爺?」

 「わしごときがこんなことできるわけなかろう‥‥」

 「私狐ちゃんの雷魔法で死ななかった自分を褒めてあげたいわよぉ」


 すげぇぇーーーー
 なんじゃこりゃあ
 すげぇぇーーーー
 わーわーわーわー

 帰る前に。
 中央広場の一角に男子寮を再現したんだ。

 2階建を2棟。
 1階は食堂と多人数用のゲストハウス。2階は広めにとった少人数の部屋を20室。
 これが2棟あれば1日100人くらいのお客さんが宿泊できるよね。

 そう俺が考えた2本めの矢は観光宿泊施設なんだ。

 「観光客さんはここに泊まってもらってね。接客サービスのノウハウから食堂の食事はサンデーさんとスケエモーンさんと打ち合わせして。春から営業できるといいね」

 「あとうちの村でも大好評の温泉も用意しておくね」

 もう1つの矢は温泉。宿泊と別に温泉があればグランドは大河ロナウの荷物の中間地点として最適だし、その折に温泉に入ってくれたらいいよね。

 観光で泊まった人はもちろんだけど荷運びの中継で立ち寄る商人にも温泉があれば文句なしだからね。
 かけ流し温泉は流れていくお湯もまたゴームの木の生育に良いってこのあたりのノームやウンディーネたちも言ってたし。


 「あとはウォーターカウカウを入れればいいと思うよ」

 ウォーターカウカウ。字のとおり水牛なんだ。
 水牛に観光用リアカーを牽かせればそれだけで充分に観光になるからね。
 グランドは元々ある建屋も興味深いものだしデグー一族の郷土料理もそのまま観光資源だからね。

 落ち着いたら米も広げようかな。


 「何から何までありがとうね狐ちゃん」

 「「「ありがとう狐ちゃん」」」

 「「「いつでも遊びにきてくれよ狐ちゃん」」」


 いつのまにか俺はグランドで狐ちゃんと呼ばれていたんだ。
 まあ悪い気はしないけど。

 「来年から1年帝国だよなアレク」

 「休みにはこっちに寄れよ」

 「ああ。トマスもイシルも再来年学園に来いよ。お前らがいてくれたら絶対楽しいしダンジョンもお前らならすげぇことになるって思うんだ」

 「「ああ。行きたいな」」

 「再来年会おうぜ」

 「「ああ」」








 でも現実はトマスとイシルがヴィヨルド学園に来ることはなかったんだ。
 新生アイランド一族は来年から激動の日々を過ごすことになったから。

 




 
 「次はいつ来てくれるの狐ちゃん?」

 「うーん。来年は1年帝国留学だからそれからかな」

 「そう。じゃあ狐ちゃんが次来てくれたときグランドをびっくりするくらい良くしておくからね」

 「うん。でもこのままの雰囲気が良いんだからね。
 ゴムや観光で儲かるだろうけどグランドの良さは無くさないでよ」

 「ええ。深い意味の言葉ね」

 「じゃあピーちゃんに乗ってたらあっという間に着くからね」


 帰りは姫のペット、大蛇のピーちゃんに乗って帰れることになったんだ。ピーちゃんだと2日や3日かかるところを夜出て寝てたら朝には着くんだって。














 「シャーーッッ!」

 「アレク着いたって」

 「えっ!もう着いたの?!」

 ピーちゃんは新幹線みたいに快適快速の乗り物だった。朝には港に着いてたから。

 
 「ピーちゃんありがとう」

 「シャーーッッ!」

 ペットの大蛇ピーちゃんが笑ったような気がしたんだ。
 こいつ怖い顔して実はかわいいんだな。

 よしよし。

 「シャーーッッ!」

 あっ!と思った瞬間に頭から齧られたんだ。

 ガジガジ  ガジガジ  ガジガジ  ガジガジ
ガジガジ‥

 甘噛みなんだろうけど‥‥

 「痛い痛い!ピーちゃん痛いって!」

 ピーちゃんが齧る俺の頭から血が流れていた……。

 「じゃーねーピーちゃんまたねー!」

 「シャーーッッ!」

 あっという間にピーちゃんは帰って行ったんだ。







 





 



 くんくん?
 おや?

 「くさっ!ピーちゃんの唾液臭っ!」

 「アレク寄らないでよね!
 ホークにカエルの巣に放りこまれたときと同じ臭いだわ。でもいい土産話、ネタになったわ。シンディに教えてあげよーっと」

 「ネタ言うな!」

 「あ~ん?言うなだと?!」

 「言わないでください。お願いしますシルフィさん」




 「さてこのまま真っ直ぐヴィヨルドに戻るよシルフィ」

 「あんた‥‥村に帰るんじゃないのかよ!」

 「だって蟹もらったじゃん!」

 俺の背中リュックには山ほどの蟹が入っていたんだ。おがくずに詰められた蟹は常温でも大丈夫なんだって。

 「そんなもん村のみんなに土産にすればいいよね?やっぱりあんた‥‥」

 「うん。一旦戻ってメロン吸いしなきゃ」

 「この変態めーー!」


 ―――――――――――――――


いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします! 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...