442 / 722
第2章 幼年編
443 冬休みの依頼〜ゴブリン癖
しおりを挟む【 グランドside 】
そのころグランドの港近くの倉庫では。
満足に動くことはおろか話すこともままならない男が後ろ手に括られて椅子に座らされていた。
パンパーンッッ!
思いきり頬を叩く音。
「ギャャャァァァーーーーーッッ!」
「いつまで寝てるんだい!?」
「うっ‥‥ここは?
!なぜだ?!」
「なぜってそりゃアンタ」
「あ、あ、あ‥‥」
「そりゃそんだけ気配消してりゃ不審者だろうよ。変だなって逆に嫌でも気づかれることになるさ。
草ってのはね、本来対象の町や村に溶けこむもんなんだよ。
なのにアンタは……。
裸で水から上がって隠していた服を着てから女の子のいる店に行ったんだろ?
それからメシを食ったんだろ?勧められたから酒も飲んだんだろあたしから。
ここグランドはアンタにとって敵地って認識じゃないのかい?なのにこの体たらくときたら‥‥」
「あ、あ、ああー‥」
「一応聞いとくけど降参して洗いざらい話さないかい?」
「‥‥」
「そうかい。まあアンタも草ならこれからどうなるかわかるよね」
「‥‥」
「ああ舌噛まれたら困るから‥‥こうしてと」
「あああああ‥‥」
「ああこれかい?これはただの針だよ。
ただ今のあんたの状態なら‥‥さっきのビンタでさえめちゃくちゃ痛かっただろ?」
プスッ!
「グギャギャギャァァァーーッッ」
「ね。感覚が倍増するだろ」
プスッ!
プスッ!
「グギャギャギャァァァーーッッ」
「ああ一応聞いといてあげるよ。話す気になったら瞬きしな。じゃあ楽しもうか」
「グギャギャギャャァァァーー」
ベルーシュ一族の草を追い込む妖艶な女性。それは狐仮面を歓待していた店の美人女将だった。
【 アイランド一族旗艦side 】
バアアアァァァーーーンッッッ!
足で蹴った扉が威勢よく開かれる。
「キャァァァーーーッッ!」
「イシル兄壊れるからゆっくり開けてくれよ」
「あっ、ごめんトマス」
部屋に入ってきたのはイシルとトマスの2人だ。
「なんだお前たち!無礼にもほどがあろう!」
この部屋の主ドスゴルが怒鳴り、その娘ルイが悲鳴で応えた。
「まだお遊戯が続いてるのかよ」
「お目をお覚ましくださいよご主人様」
「痛い痛い!髪が、髪が!」
ブチブチブチブチブチブチッッ!
「お前ひょっとしてベルーシュ一族が勝ったって思ってたのか?」
「「な、なに?!ま、まさか(ウ、ウソ)‥‥」」
「まさかでもウソでもねぇよ」
「お前ら親子が待ち望んでいたベルーシュ一族なんてサイコとタイコ以外みんな河に消えたよ」
「あーあとピーちゃんの胃袋の中にな」
「イシル兄こいつらピーちゃん知らないって」
「あっ、そうか」
「まぁいいや。とにかく出ろや」
こうしてドスゴルとルイの親子2人は有無を言わさず甲板の上に出させられた。
そこにはコジローとレベちゃんを筆頭にアイランド一族が勢ぞろいしていた。
「なっ。見てみろよご主人様よ。ベルーシュの船なんてどこにもないだろ。ああたしかに船の残骸はたしかにわずかあるわな」
そこには多くの船がいたでだろう細かな浮遊物ばかりが浮いていた。中にはグルメなピーちゃんが吐き出した生き餌が身につけていた衣服なども浮いていた。
「あわわわ‥‥ま、まさか」
「パパーベルーシュが負けたのぉー?だって絶対勝つって言ってたのにー?」
「ドスゴルのおっさんよ。あんたアイランドとデグーの一族を争わせといて結局あんたの商会がベルーシュ一族に全てを任せる予定だったんだろ」
「そ、そ、そんなことはないぞ!」
「そ、そうよ。パパは悪くないもん」
「「‥‥‥」」
「それとあんたの商会、裏でベルーシュ一族から買った獣人や人族の子どもを売ったりるんだろ」
「な、何を証拠に!はははは。そんな証拠などどこにもないわ。
そしてな、ベルーシュは負けてなどおらぬ。たまたま連れてきたのが弱い奴らばかりじゃったのじゃ!お前たちなぞわしが王都に着いたら滅ぼしてくれるわ!」
「そうよ!パパは何も悪くないわ。連れてきたベルーシュが弱過ぎただけよ!だいたい300人が居なくなるわけないじゃない!あんたたちも覚悟しときなさいよー!」
「(おいおいレベちゃんよ)」
「(なぁにコジローちゃん)」
「(あの親子何言ってるんだ?そんでもって次があるってまだ本気で思ってるのか?)」
「(ホントよねぇ。珍しい人たちよねぇ。次どころか自由に話せる機会もこれが最後なのにねぇ)」
「(あいつら‥‥トマス様の怖さを知らねぇんだな‥)」
「(ええ‥)」
「俺たちデグー一族やアイランド一族はそりゃ悪事は数え切れないくらいやってきたさ。
だけどな少なくとも見ず知らずの堅気相手の人身売買、獣人売買に手は染めてねぇ」
「ああ。イシル兄の言うとおりだ。抗争で倒してきた他所の一族や受けた依頼以外、なんのしがらみもない弱者を商売のネタにはしねぇよ。
悪人の俺たちでもそこんとこの筋は通してきたつもりだ」
ダンッッ!
「ゴフッッ!」
ドスゴルのふくよかな腹に一撃を加えたトマスがゆっくりと笑いながら言った。
「俺たちアイランド一族も甘いって言われてるらしいけどな。実はあんまり甘くねぇんだよなこれが」
ポキッ!
ドスゴルの小指があらぬ方向を向いた。
「ギャャャァァァァァ!」
「はい1本」
「大きな鳴き声のブッヒーだなあ」
ポキッ!
「はい2本」
「ヒッ!ヒギヤャァァーーーッッ!」
「ああ雌のブッヒー。テメーもあとでな。
テメーは獣人を差別するだけならまだしも獣人の子どもを虐待してたらしいからな」
「やめろーー娘は関係ない!」
「ん?なんだって?関係ない?
獣人の子どもに一生消えない傷を負わせたのにか?」
「獣人なんて人じゃないじゃろ!わしは海洋諸国1の商いをしておるドスゴル商会ぞ!
こんな拷問を許すものか!拷問なんぞで喋るものか!」
「ふーん。あのな勘違いしてるんだろうけど喋れって言ってるんじゃないんだよ。
ドスゴルお前ら親子は喋らさせてくださいって言うと思うぜ。
あっ!また忘れるとこだった!」
「トマス様これでしょ」
「ああレベちゃんありがとう」
ペンチのような道具を受け取ったトマスがドスゴルの口を無理矢理開けた。
「やり過ぎて舌噛まれるとめんどくさいんだよな。エリクサー高いから使うと兄貴は怒るし。
おいお前ら。ちゃんとこいつの口開けとけよ!頭抑えとけ」
「「「はいトマス様」」」
ガンガンガンガンッッ!
ボキッッ!
ガキッッ!
ボキッッ!
ガキッッ!
「ううっっ。ウガガガアァァッッ!」
ボキッッ!
ボキッッ!
ボキッッ!
ボキッッ!
ドスゴルの前歯や見える範囲の歯を無理やり抜いていくトマス。
「やめホガホガくださホガホガ!!」
「よーし。準備できた。
ただこれ滑舌が悪くなるんだよなあ。
ああドスゴル。ゆっくり喋りゃあわかるからな。喋りたくなったら言ってくれや。俺の耳に聞こえたらだけどな。
あとは‥‥はい目隠し。これいいだろ。次何くるかわかんねえからな。
狐仮面がいなくてよかったよ。あいつあんだけ強いくせに優しすぎるからな。こんなとこ見せられねぇわ」
「じゃあ再開」
ポキッ
ポキッ
ミシミシミシミシッッ‥
ザクッッ
「ああアァァああァァぁァぁァ‥」
「これけっこうくるよな。あとこれはどうだ」
プスッッ
プスッッ
「もうホガてくホガ話しホガガ‥‥」
「あー聞こえねぇわ。口に血が溜まってきたか。死なれてもめんどくせえから下向いとこうか。おいお前ら」
「「「へいトマス様」」」
「ガハッッ ガハッッ ガハッッ ガハッッ‥」
「も、もうやめぇてぇホガホガくらぁはぁいぃぃぃぃぃ」
「まだまだ先は長いし楽しもうや。
あ、1個教えといてやるよ。ドスゴルお前金髪だろ。明日それ白髪に変わってるからな。なんでかわかるだろクックックッ」
「ああルイだっけ。お前もよかったなぁ。明日の朝には激痩せしてるよ」
「(拷問に関しちゃトマス様のほうが若よりも凄いわねぇ)」
「(ああ俺もそう思う‥‥)」
その後長い時間の後。
回復魔法で歯を戻してもらったドスゴルが知ってることをすべてを話し出したのは言うまでもない。
その横では急激に痩せて皮膚が垂れ下がった娘も同様に話し出した。
この会話が録音されていたのはもちろんのことだ。
▼
「アレクやり直しだ」
「アレクまたやり直し」
「またゴブリンになってるぞ」
「しかしこの紙と鉛筆、消しゴムはいいな。やり直して何度も使えるな」
「キ、キム先輩‥‥も、もう勘弁してください‥‥」
「ククッ。アレクなんか勘違いしてないか。拷問してるわけじゃないんだぞ」
「お、俺には拷問です‥‥」
「馬鹿かお前は‥‥」
このあとキム先輩からつきっきりで「報告書」の指導を受けた。てか字を延々と書かされた。
「いいかアレク。身体を動かして強くなるのと一緒なんだよ。
何をしてどういう結果になったのかを記録しておくんだ。その記録が貯まれば貯まるほど頭も強く賢くなるからな」
「は、はひー‥‥」
そういやビリー先輩も言ってたな。キム先輩は頭もかなり賢いって。
「まあお前の場合はそのゴブリン癖を直すことだな」
直すって何?!
ゴブリン癖って?!
―――――――――――――――
いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる