アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

443 冬休みの依頼〜ゴブリン癖

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 【  グランドside  】

 そのころグランドの港近くの倉庫では。

 満足に動くことはおろか話すこともままならない男が後ろ手に括られて椅子に座らされていた。


 パンパーンッッ!

 思いきり頬を叩く音。

 「ギャャャァァァーーーーーッッ!」

 「いつまで寝てるんだい!?」

 「うっ‥‥ここは?
 !なぜだ?!」

 「なぜってそりゃアンタ」

 「あ、あ、あ‥‥」

 「そりゃそんだけ気配消してりゃ不審者だろうよ。変だなって逆に嫌でも気づかれることになるさ。
 草ってのはね、本来対象の町や村に溶けこむもんなんだよ。
 なのにアンタは……。
 裸で水から上がって隠していた服を着てから女の子のいる店に行ったんだろ?
 それからメシを食ったんだろ?勧められたから酒も飲んだんだろあたしから。

 ここグランドはアンタにとって敵地って認識じゃないのかい?なのにこの体たらくときたら‥‥」

 「あ、あ、ああー‥」

 「一応聞いとくけど降参して洗いざらい話さないかい?」

 「‥‥」

 「そうかい。まあアンタも草ならこれからどうなるかわかるよね」

 「‥‥」

 「ああ舌噛まれたら困るから‥‥こうしてと」

 「あああああ‥‥」

 「ああこれかい?これはただの針だよ。
 ただ今のあんたの状態なら‥‥さっきのビンタでさえめちゃくちゃ痛かっただろ?」

 プスッ!

 「グギャギャギャァァァーーッッ」

 「ね。感覚が倍増するだろ」

 プスッ!
 プスッ!

 「グギャギャギャァァァーーッッ」


 「ああ一応聞いといてあげるよ。話す気になったら瞬きしな。じゃあ楽しもうか」

 「グギャギャギャャァァァーー」



 ベルーシュ一族の草を追い込む妖艶な女性。それは狐仮面を歓待していた店の美人女将だった。






 【  アイランド一族旗艦side  】


 バアアアァァァーーーンッッッ!

 足で蹴った扉が威勢よく開かれる。

 「キャァァァーーーッッ!」


 「イシル兄壊れるからゆっくり開けてくれよ」

 「あっ、ごめんトマス」


 部屋に入ってきたのはイシルとトマスの2人だ。

 「なんだお前たち!無礼にもほどがあろう!」

 この部屋の主ドスゴルが怒鳴り、その娘ルイが悲鳴で応えた。

 「まだお遊戯が続いてるのかよ」

 「お目をお覚ましくださいよご主人様」

 「痛い痛い!髪が、髪が!」

 ブチブチブチブチブチブチッッ!

 「お前ひょっとしてベルーシュ一族が勝ったって思ってたのか?」

 「「な、なに?!ま、まさか(ウ、ウソ)‥‥」」

 「まさかでもウソでもねぇよ」

 「お前ら親子が待ち望んでいたベルーシュ一族なんてサイコとタイコ以外みんな河に消えたよ」

 「あーあとピーちゃんの胃袋の中にな」

 「イシル兄こいつらピーちゃん知らないって」

 「あっ、そうか」

 「まぁいいや。とにかく出ろや」


 こうしてドスゴルとルイの親子2人は有無を言わさず甲板の上に出させられた。
 そこにはコジローとレベちゃんを筆頭にアイランド一族が勢ぞろいしていた。

 「なっ。見てみろよご主人様よ。ベルーシュの船なんてどこにもないだろ。ああたしかに船の残骸はたしかにわずかあるわな」

 そこには多くの船がいたでだろう細かな浮遊物ばかりが浮いていた。中にはグルメなピーちゃんが吐き出した生き餌が身につけていた衣服なども浮いていた。

 「あわわわ‥‥ま、まさか」

 「パパーベルーシュが負けたのぉー?だって絶対勝つって言ってたのにー?」


 「ドスゴルのおっさんよ。あんたアイランドとデグーの一族を争わせといて結局あんたの商会がベルーシュ一族に全てを任せる予定だったんだろ」

 「そ、そ、そんなことはないぞ!」

 「そ、そうよ。パパは悪くないもん」

 「「‥‥‥」」

 「それとあんたの商会、裏でベルーシュ一族から買った獣人や人族の子どもを売ったりるんだろ」

 「な、何を証拠に!はははは。そんな証拠などどこにもないわ。
 そしてな、ベルーシュは負けてなどおらぬ。たまたま連れてきたのが弱い奴らばかりじゃったのじゃ!お前たちなぞわしが王都に着いたら滅ぼしてくれるわ!」

 「そうよ!パパは何も悪くないわ。連れてきたベルーシュが弱過ぎただけよ!だいたい300人が居なくなるわけないじゃない!あんたたちも覚悟しときなさいよー!」


 「(おいおいレベちゃんよ)」

 「(なぁにコジローちゃん)」

 「(あの親子何言ってるんだ?そんでもって次があるってまだ本気で思ってるのか?)」

 「(ホントよねぇ。珍しい人たちよねぇ。次どころか自由に話せる機会もこれが最後なのにねぇ)」

 「(あいつら‥‥トマス様の怖さを知らねぇんだな‥)」

 「(ええ‥)」

 
 
 「俺たちデグー一族やアイランド一族はそりゃ悪事は数え切れないくらいやってきたさ。
 だけどな少なくとも見ず知らずの堅気相手の人身売買、獣人売買に手は染めてねぇ」
 
 「ああ。イシル兄の言うとおりだ。抗争で倒してきた他所の一族や受けた依頼以外、なんのしがらみもない弱者を商売のネタにはしねぇよ。
 悪人の俺たちでもそこんとこの筋は通してきたつもりだ」

 ダンッッ!

 「ゴフッッ!」

 ドスゴルのふくよかな腹に一撃を加えたトマスがゆっくりと笑いながら言った。

 「俺たちアイランド一族も甘いって言われてるらしいけどな。実はあんまり甘くねぇんだよなこれが」

 ポキッ!

 ドスゴルの小指があらぬ方向を向いた。

 「ギャャャァァァァァ!」

 「はい1本」

 「大きな鳴き声のブッヒーだなあ」

 ポキッ!

 「はい2本」

 「ヒッ!ヒギヤャァァーーーッッ!」

 「ああ雌のブッヒー。テメーもあとでな。
 テメーは獣人を差別するだけならまだしも獣人の子どもを虐待してたらしいからな」

 「やめろーー娘は関係ない!」

 「ん?なんだって?関係ない?
 獣人の子どもに一生消えない傷を負わせたのにか?」

 「獣人なんて人じゃないじゃろ!わしは海洋諸国1の商いをしておるドスゴル商会ぞ!
 こんな拷問を許すものか!拷問なんぞで喋るものか!」

 「ふーん。あのな勘違いしてるんだろうけど喋れって言ってるんじゃないんだよ。
 ドスゴルお前ら親子は喋らさせてくださいって言うと思うぜ。
 あっ!また忘れるとこだった!」

 「トマス様これでしょ」

 「ああレベちゃんありがとう」
 
 ペンチのような道具を受け取ったトマスがドスゴルの口を無理矢理開けた。

 「やり過ぎて舌噛まれるとめんどくさいんだよな。エリクサー高いから使うと兄貴は怒るし。
 おいお前ら。ちゃんとこいつの口開けとけよ!頭抑えとけ」

 「「「はいトマス様」」」

 ガンガンガンガンッッ!
 ボキッッ!
 ガキッッ!
 ボキッッ!
 ガキッッ!

 「ううっっ。ウガガガアァァッッ!」

 ボキッッ!

 ボキッッ!

 ボキッッ!

 ボキッッ!


 ドスゴルの前歯や見える範囲の歯を無理やり抜いていくトマス。















 「やめホガホガくださホガホガ!!」

 「よーし。準備できた。
 ただこれ滑舌が悪くなるんだよなあ。
 ああドスゴル。ゆっくり喋りゃあわかるからな。喋りたくなったら言ってくれや。俺の耳に聞こえたらだけどな。
 あとは‥‥はい目隠し。これいいだろ。次何くるかわかんねえからな。
 狐仮面がいなくてよかったよ。あいつあんだけ強いくせに優しすぎるからな。こんなとこ見せられねぇわ」

 「じゃあ再開」

 ポキッ

 ポキッ

 ミシミシミシミシッッ‥

 ザクッッ


 「ああアァァああァァぁァぁァ‥」

 「これけっこうくるよな。あとこれはどうだ」

 プスッッ

 プスッッ

 「もうホガてくホガ話しホガガ‥‥」
 
 「あー聞こえねぇわ。口に血が溜まってきたか。死なれてもめんどくせえから下向いとこうか。おいお前ら」

 「「「へいトマス様」」」

 「ガハッッ  ガハッッ ガハッッ  ガハッッ‥」

 「も、もうやめぇてぇホガホガくらぁはぁいぃぃぃぃぃ」

 「まだまだ先は長いし楽しもうや。
 あ、1個教えといてやるよ。ドスゴルお前金髪だろ。明日それ白髪に変わってるからな。なんでかわかるだろクックックッ」

 「ああルイだっけ。お前もよかったなぁ。明日の朝には激痩せしてるよ」









 「(拷問に関しちゃトマス様のほうが若よりも凄いわねぇ)」

 「(ああ俺もそう思う‥‥)」
 

 その後長い時間の後。
 回復魔法で歯を戻してもらったドスゴルが知ってることをすべてを話し出したのは言うまでもない。
 その横では急激に痩せて皮膚が垂れ下がった娘も同様に話し出した。
 この会話が録音されていたのはもちろんのことだ。









 「アレクやり直しだ」





 「アレクまたやり直し」







 「またゴブリンになってるぞ」






 「しかしこの紙と鉛筆、消しゴムはいいな。やり直して何度も使えるな」

 「キ、キム先輩‥‥も、もう勘弁してください‥‥」

 「ククッ。アレクなんか勘違いしてないか。拷問してるわけじゃないんだぞ」

 「お、俺には拷問です‥‥」

 「馬鹿かお前は‥‥」



 このあとキム先輩からつきっきりで「報告書」の指導を受けた。てか字を延々と書かされた。

 「いいかアレク。身体を動かして強くなるのと一緒なんだよ。
 何をしてどういう結果になったのかを記録しておくんだ。その記録が貯まれば貯まるほど頭も強く賢くなるからな」

 「は、はひー‥‥」

 そういやビリー先輩も言ってたな。キム先輩は頭もかなり賢いって。


 「まあお前の場合はそのゴブリン癖を直すことだな」

 直すって何?!
 ゴブリン癖って?!


 ―――――――――――――――


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