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第2章 幼年編
441 冬休みの依頼〜河戦
しおりを挟む「ライトニング(雷鳴)!」
向かってくる20余艘から成るベルーシュ一族の船団にライトニングを発現したんだ。
ライトニングはスパークの上位変換。
快晴の空に一瞬のうちに雲が立ち込める。そして……。
バリバリバリバリバリバリバリ‥
ガガガガガガガガガガガガッッッ
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
ドーーンッッッ!
それは天災のようでいてその実すべてが人為的であることは明らかだろうね。
だってマストのある船のすべて。それだけを目がけて複数回の雷鳴が襲うから。
即座に火がつく船。マストの布地はもちろんのこと木材から火がついた船は消火作業に難渋する。まして会戦直後ともあればどの船に乗船している者であっても最優先に取り組まねばならない消火作業が疎かになるんだ。
結局消火に目が向いたときには手がつけられなくなっているんだよね。
バリバリッッとけたたましい音を立ててマストが折れた船の場合はその状況はさらに悲惨なものとなった。
前後または左右に。折れたマストで船内が分断されたからなんだ。
折れたマストと甲板に身体を挟まれた者もいた。その人たちはそのまま沈みだす船と運命を共にせざるを得ないだろうな。
目先の金銭にのみ釣られて船上に上がった悪党にはさらに過酷な運命を問われることとなったんだ。
それは闘いの前に広い水域で生き延びる遊泳法のこと。これを知る知らないで生存率も大きく変わるんだから。
そして。
僅か短時間で。ほぼすべての船が航行不能、戦闘不能となったんだ。
「「「な、な、なんと‥‥」」」
驚きに言葉を失くすデグー一族の者。それはピーちゃんでさえ同じだった。
「シャッ シャーーッッ‥」
「怖い狐ちゃんだってアレク」
シルフィがそう通訳してくれたけど牙を剥いたピーちゃんの顔のほうが怖いよ!
「アレク悪党だろうと最後までちゃんと見るんだよ。自分自身が起こした結果だからね」
「わかったよシルフィ」
「よし。ベルーシュの旗艦に乗り込むぞ」
「「ああ兄貴」」
ベルーシュの旗を掲げていた大型船はマストこそ折れて航行不能となっていたが未だ浮き続けていたんだ。
「「「おおーーー!!」」」
血気盛んなアイランド一族とデグー一族。
ドンドンドンドンドンドンドンドン‥
戦太鼓がアイランド一族とデグー一族の士気を上げている。
唯一ベルーシュ一族の旗を掲げていた船は周囲の惨状もあってか船上の誰も余裕がなくなっていたんだ。だって手にした弓でさえ射ることを忘れていたから。
そこに。
ダンッッ!
ダンッッ!
ダンッッ!
キム先輩、イシル、トマスが前衛で突っ込んだ。
ダンッッ!
ダンッッ!
次いでコジローさんとマル爺が突っ込んだ。
ダンッッ!
最後にレベちゃんが突っ込んだ。
「「敵襲ーー!」」
「「アイランドが来るぞーー!」」
船上で。
混乱の極みにあるとはいえ。さすがはベルーシュ一族。ギリギリ身構えてはいたんだ。他の海賊船の乗組員とは雲泥の差だね。
だけど相対するのが海洋諸国屈指の武闘派一族。その最たる体現者が攻めてくる事実に抗える者など何処にもいなかったんだ。それは如何ともし難い事実だね。
ザスッッ!
ザスッッ!
ザスッッ!
正面の甲板から。あるいは傾いたデッキの脇から。はたまた頭上から。
神出鬼没に現れては急所のみを突き刺しては次々と移動をしていくキム、イシル、トマスの3兄弟。
ザンッッ!
ザンッッ!
行手を阻む者には高速の太刀を振い一刀両断に斬り捨てていく元冒険者コジロー。
「ファイアボール!」
高温の青白い炎が飛ぶ。
少しでも感知に引っかかる箇所を見つけては火魔法を発現。前列の4人が通ったあとを入念に点検していくマル爺。
「あらまだいたのねぇ。最後に抱きしめてあげる。さようなら」
ギュギュギュギュュューーーーー
「がはがはガハガハガハ‥‥」
ベルーシュ一族、その死出の旅路の最終を飾るのはレベちゃん。
その鋼の胸板と2つの腕に抱かれながらに圧死していくベルーシュ一族……。
シュッ!
「ぐはっ!」
シュッ!
「ぐはっ!」
隠れ潜む者には俺の横にいるアリアナ姫が容赦なく矢を放っている。もちろんその矢は皮膚に触れるだけでも死に至る猛毒の矢だ。
こうして。
ベルーシュ一族の旗艦の上に動ける者はいなくなった。
それでもおそらく。船上で結末を迎えることができた者たちは幸せだったのかもしれない。それはピーちゃんがいたからなんだ。
蛇はその肌から捕食する者の温度を感知するといわれる。20メル以上の長さを持つピーちゃんに至ってはこの戦場の水域すべてが己がエリア、己が餌場であったんだ。
「シャーーッッ!」
ミシミシミシッッ
ガガガガガガッッ
バキッ!バキッ!
大型船、中型船問わず。その船体に巻きついては竜骨を含む船体の全てを破壊し尽くすピーちゃん。
さらには浮いている餌はすべて丸呑み、もしくは鋭い牙を立てて切断後に丸呑みしていく。
「くっ、くるなーー!」
水中からピーちゃんに抗おうとクナイを立てる生き餌も少なからずいた。
いるにはいたんだけど‥‥鋼のようなピーちゃんの肌に刺し傷はおろか切り傷さえつけられる者は皆無だった。
ミシミシミシッッ
ガガガガガガッッ
「シャーーッッ!」
「ピーちゃん楽しいって」
「そ、そうですか‥‥」
未だ浮いている船はピーちゃんにとって生き餌付の格好の遊び道具となった。
その長い身体を巻きつけて真っ2つに折る動作がピーちゃんには楽しいらしいんだ。
辛うじて浮いてる船頭や船尾もむろんピーちゃんの玩具となった。
「シャーーッッ!」
ごくんっ ごくんっ
そして浮き上がった生き餌たちを問答無用で呑み噛いていくピーちゃん。
「こ、これは想像以上にグロいな。凄いよ‥‥」
「アレクあんたピーちゃんに嫌われたら呑まれるからね」
「う、うん。気をつけるよ‥‥」
勝敗はあっという間についた。ベルーシュ一族で生き残った者は幹部クラスがわずか数名だけだった。
俺の横に並んでいる姫が言ったんだ。
「キムはヴィヨルドから帰って以来何度も狐ちゃんのことを言ってたんだよ。かわいい弟ができたって」
「はい。キム先輩は超かっこいい兄貴です!」
「ふふふ」
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