アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

440 冬休みの依頼〜会戦直前

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 「お待たせ致しましたご主人様。これより出航致します。王都へは明日の朝となります」

 「ふむ。わかった」

 「今日は風もなく穏やかな日となりました。ご主人様もご息女と外をご覧になりませぬか」

 「い、いや。わしらはこのままで充分じゃ。キム、明日の朝までこの扉を開けるでないぞ」

 「はい。畏まりました」

 




 「だってさキム」

 「フッ」

 「最後に見られる自由の景色とも知らずになあ兄貴」

 「フン。憐れだな」

 扉の前にはキム先輩、アリアナ姫、トマス、イシルと俺の5人が立っていたんだ。



 「ああ。それと王都騎士団には早便を出しておいたわよ」

 「フッ。抜かりなしだな姫」

 「あったりまえよーー!」

 なんか鼻高々だよな姫。ポンコツのくせに。

 「誰がポンコツなのよ、だ・れ・が!」

 「痛い痛い痛い。頭ぐりぐりしないで!」







 朝出航したアイランド一族キム先輩麾下30人が乗りこむ大型船にはアリアナ姫麾下デグー一族の精鋭も乗船してたんだ。


 「狐仮面楽しみだよなぁ。今日にはベルーシュ一族が襲ってくるんだろ。闘いし放題だよな」

 コジローさんが嬉しそうだ。

 「ほっほっほ。狐仮面君楽しみじゃのぉ。火魔法も発現し放題じゃろな」

 マル爺が嬉しそうだ。

 「狐ちゃん楽しみだわぁ。アタシもご馳走を前に食べ放題よねぇ」

 レベちゃんが嬉しそうだ。
 でもご馳走ってなんなんだ?食べ放題ってどう言う意味?


 わいわいとまるで遠足に行くみたいな雰囲気の中船は降っていったんだ。

 

 「アレクはどんな魔法を発現するんだトマス?」

 「イシル兄、たぶんびっくりするっていうか言葉もでないと思うぞ」

 「えっ?」

 「アレクの雷魔法は中原でただ1人アレクしか発現できない魔法だからな」

 「マジか」

 「ああマジだ」


 お互いがすっかり気を許し合う間柄になったイシルにトマスが答えてたんだ。


 あっ!危ない危ない。忘れるとこだった!

 「姫ピーちゃん呼んでくれる?」

 「えっ?どうして狐ちゃん?」

 「ピーちゃんにはこの船の横にいてもらいたいんだ。俺が発現する魔法で間違えて巻き添えになるといけないからさ」

 「いいわよ狐ちゃん」

 「じゃあ呼んでくれる?」

 「ええ。じゃあ呼ぶわよ。ピーちゃーーーん!」

 なんだよ。そのまま呼ぶんかい?!
 てっきり笛とかって思ったじゃないか。


 ウネウネウネ  スーーーーーッッ‥
 ウネウネウネ  スーーーーーッッ‥


 そしたらね、なんと僅か1、2分。すぐにピーちゃんがやって来たんだ。ピーちゃんって人の言葉がわかるのかな?

 やっぱデカいよなピーちゃんって。20メルは余裕であるよな。頭だけでもまんま車だよ。左右のつぶらな瞳があんがいかわいいかも。


 「シャァーーーッッ!」

 「お待たせって言ってるわ」

 「シャァーーーッッ!」

 「狐ちゃんもう怖いことしないでねって言ってるわ」

 姫大蛇の通訳かよ!そんな話聞いたことねーわ!

 「シャァーーーッッ!」

 「食べ放題が待ち遠しいって言ってるわ」

 あははは。そんなわけあるかーい!

 「ピーちゃん本当にそう言ってるわよアレク」

 えっ?!マジか?!
 そしてシルフィも蛇語がわかるんかよ?!









 船足が緩くなってきた。満潮が近づいたんだろう。

 「お頭来やしたぜ!」

 物見櫓に登っている人がこう告げたんだ。


 遥か彼方。
 豆粒ほどの船影がだんだんくっきりと見えてきた。
 俺たちの乗る大型船よりもさらに大きな船を含む20艘余りがぐるっと俺たちの船を包囲するように迫ってきたんだ。

 「よかったなアレク。抜けがけする船がいなくて」

 「本当ですねキム先輩。抜けがけされたらめんどくさいことになりましたよ」

 抜けがけされたら逆に逃げる船を捕まえ難くなるからね。




 20艘余りの船が1艘の遅滞もなく規律正しくその距離を狭めてきたんだ。

 だんだん相手の顔もはっきり見えてきたよ。船首にはローブを纏って手ぶらの男がいる船も何艘かいるな。こいつらは魔法士だろうな。

 「アレク旗を掲げてるあの船がベルーシュ一族の旗艦だ」

 「あとの船は旗を揚げてないですね」

 「ああ。おそらく海賊と河賊だろうな」


 「雷でいくんだろ」

 「はいキム先輩」

 「発現したら下の船室で休んでてくれていいからなアレク」

 キム先輩は俺を思って言ってくれたんだ。だってこのあとは間違いなく凄惨なことになるから。俺、ダンジョンでたくさんの魔獣を倒した凄惨な場面には慣れたけど、こんなにたくさんの人の場面は初めてだもんな。

 「いえキム先輩。
 一緒に刀で闘うことはできせんが俺自身が放った魔法の結果とこのあとの結末は俺自身が作ったことですから。
 最後までちゃんと見届けます」


 いずれは俺も綺麗事じゃ済まされない場面を創り出すことだろうな。


 「そのときが来たら。必ず呼べよアレク。何があっても俺は駆けつけるからな」

 そう言ったキム先輩が俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でてくれたんだ。
 たしかに。
 うん。
 キム先輩は俺の兄貴だ。



 俺たちを囲むベルーシュ一族の船団の輪が半径20メルを割った。
 魔法士が手を前に上げている。
 弓矢を番える人の列も船上に並んだ。
 そろそろだな。
 

 「いきます」























 「ライトニング(雷鳴)!」



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