アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

439 冬休みの依頼〜デグー一族

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 「さあー座って座って」

 「狐ちゃんもねー」

 狐ちゃん?俺かよ!

 
 デグー一族の復活祭。
 目玉の1つ、未成年者武闘祭での俺の優勝を祝って。改めて宴席が設けられたんだ。俺アイランド一族って思われてるみたい。

 そこにはキム先輩麾下アイランド一族の30人とアリアナ姫麾下のデグー一族の30人ほどが揃ったんだ。

 ちなみに一族の親世代は海洋諸国の本部に詰めているらしいよ。


 「今日はアイランド一族の狐ちゃんの勝ちね。
 それと残念ながらデグー一族のこれまでの襲撃は失敗に終わったからもう王都まで襲わないことを誓うわ」

 「「「くっ‥」」」

デグー一族のみんなが悔しがっている。
 そこには姫の弟イシル・デグーもコジローさん、レベちゃん、マル爺もいたんだ。

 「認めなさい。誰も死なずに手加減されて撃退されたという実力の差を」

 「「「‥‥」」」

 長く沈黙がつづいたんだ。




 「それとこれまでの約定どおりデグー一族は私とキムの婚儀のあとアイランド一族の傘下に入るからね」


 話は既に決まってたみたいなんだ。
 デグー一族の人たちは頭を下げて俯いたり上を見上げて落胆してたりしてたけど納得はしてたみたい。

 「アリアナ俺からもいいか」

 「ええキム」

 キム先輩が立ち上がって話をし始めたんだ。


 「約定どおり来年俺とアリアナは婚儀を行なう。
 がこれは一族間の約定、政治的な婚儀でないことははっきり言っておくぞ」

 ざわざわ
 ザワザワ
 ざわざわ
 ザワザワ

 「俺はアリアナを心から愛している」

 姫の顔がみるみる真っ赤になった。
 すげぇー。キム先輩かっけぇー。

 「そのアリアナの一族を俺は決して疎かにしない。形は1つになるがまったく対等の縁組みだと理解してほしい」













 「キム・アイランド。
 その言葉信じてもいいのか?」

 アリアナ姫の弟、この場では1番偉い次期当主のイシル・デグーが言ったんだ。

 「ああ。キム・アイランドの名にかけて。
 イシルお前は俺の次弟でありトマスの兄だ」

 なんかね。口数の少ないキム先輩だからこそっていうのかな。
 すごく説得力のある言葉なんだよね。

 「わかった‥‥よろしく頼む‥‥キム兄貴」

 「ああ」

 これで空気がガラッと変わったんだよね。言葉は少ないのにすげぇわキム先輩は。

 ここからは盛大な宴席となったんだ。

 わいわい  ワイワイ
 ワイワイ  わいわい
 わいわい  ワイワイ
 ワイワイ  わいわい


 「狐ちゃん何飲むのぉ?それともアタシのチュー?」

 なんでだよ!
 みんな綺麗なお姉さんが横についてるじゃないか!なんで俺だけレベちゃんなんだよ!


 「えーっとねレベちゃん。俺はカウカウのミルクを」

 「ぷっ。カウカウのミルクが海洋諸国の宴席にあるわけないでしょ!」

 レベちゃんに笑われちゃったよ。くそっ。

 「あははは。やっぱりカウカウのミルクはないんだね。じゃあなんかジュースください」

 「お酒は飲まないのぉ?」

 「俺まだ未成年だから」

 「へぇー。王国流は固いのねぇ。海洋諸国なんか子どものうちから飲んでるのに。
 ほらイシル様もあんたのところのトマスちゃんもみんな飲んでるでしょ」

 「えーっ。だって俺大きくなりたいもん。
 なんでレベちゃんはデカいんだよ?」

 「あーアタシは最初から海洋諸国生まれじゃないからね」

 「ふーん。じゃあレベちゃんが大きくなったのはやっぱカウカウのミルクだよね?」

 「まあそうかもしれないわねぇ」


 お酒は興味ないけどカウカウのミルクがないのは残念だよな。俺は毎日でも飲んで背伸ばしたいし。

 「狐ちゃんたくさん食べなさい。たくさん食べたら早く大きくなれるわよぉ」

 「レベちゃんありがとね」


 レベちゃんは同種のレベッカ寮長と同じで心はとっても乙女だった。だから俺の好きな蟹もレベちゃんが剥いてくれてたんだ。

 「はぁい狐ちゃん。蟹の脚よぉ。あーん」

 「あーん」

 「ついでにアタシのチューはどう?」

 「あーそれはパス!」

 「もう狐ちゃんたらー照れちゃって」

 「照れてねーわ!」


 このあとはトマスや俺たちの1つ歳上のイシル・デグーと3人で話したんだ。
 イシルともすぐに仲良くなったよ。基本的な考えとして海洋諸国では武力の強い者は認められるみたいなんだ。
 トマスやイシルからは海洋諸国流の武具や装備なんかを教えてもらったよ。
 やっぱ知らない土地は知らないことが多くて刺激的だよなぁ。

 そのうちそこにキム先輩とアリアナ姫も加わったんだ。
 みんなで和気藹々と楽しく過ごしたよ。



 「でもやっぱり悔しいわ。あんなやつの商会から物を買わなきゃいけないなんて」

 「ホントよぉ。姫の言うとおりよぉ!プンプンッ!」

 レベちゃんもプンプン言って怒ってる。

 「まあ気分は最悪だけどなぁ。海洋諸国のルールっていうの?そいつには逆らえないのか若?」

 「仕方ないだろうな。頭を下げてでもあのドスゴルと付き合わないとデグー一族の生活が成り立たないだろうからな」

 「「キーー悔しいーー!」」

 なぜだろう?
 同じ言葉なのに姫が言うと可愛いのにレベちゃんが言うと悍ましいのは……。


 「まあそう言うなよアリアナ」

 「だってキム。最近王国で話題のメイプルシロップとか焼き菓子なんかすごく美味しいのよ。それをあんな嫌な奴から頭を下げて高い値段で買わなきゃならないなんて!キー悔しーい!」

 「姫、あのどすこい?商会には俺何1つ売りませんよ」

 「なによ狐ちやん。子どもにそんなことできるわけないでしょ。まあ狐ちゃんの気持ちはうれしく受け取っておくわね」

 「キム先輩?トマス?」

 「「ああ‥‥」」

 キム先輩とトマスが苦笑いしたんだ。

 「アリアナお前‥‥
 こいつの名前忘れたのか?」

 「えっ?狐ちゃん?狐仮面ちゃんでしょ」

 「違えーよ!」

 「「ワハハハハ」」

 即座に反応した俺。
 それに対して大笑いするキム先輩とトマスの2人。
 笑いながらトマスが言ったんだ。

 「姫、こいつ狐仮面って名前じゃないよ。兄貴が言ったと思うんだけどなぁ。こいつはアレクって言うんだよ?」

 「へぇーアレクちゃんねー?
 えっ?!
 アレク‥‥まさかアレク工房の?!‥‥狐仮面ちゃん‥‥アレク工房‥‥

 「「ええーーーーー!?」」

 それは大広間中に響き渡る大きな悲鳴となったんだ。

 キム先輩がわざとみんなにも聴こえるようにゆっくり噛み砕いて説明したんだ。

 「アレク、お前んとこのアレク工房の物やその他中原中で今アイランド一族やデグー一族では手に入らない物。
 その上で海洋諸国との商いを躊躇せずにできる商会。なんとかならないか?」

 「もちろん大丈夫ですキム先輩。
 少なくともアレク工房の物は何1つどすこい商会には売りません!」

 「いやどすこいじゃなくってドスゴルなアレク」

 「あららっ!そうなんだ。
 とにかくミカサ商会さんかサンデー商会さん‥‥距離的に王都に近いからミカサ商会さんかな‥‥王都に着いたら俺から手紙を出してお願いしておきます。それとゴームの木の件もありますからね。今後は俺に任せてください!」

 「すごいわぁ狐ちゃん」

 「だかーら俺は狐ちゃんじゃないってレベちゃん」

 「もう!アンタは狐ちゃんよぉ」


 「「ところでゴームの件って?」」

 「ああ。それはな‥‥」

 キム先輩が姫たちに説明していたよ。
 でも俺は‥‥


 「まあとりあえずアレクも飲め」

 「だな。俺たち3人は兄弟だからな。よし飲めアレク」

 「飲めアレク」

 「「飲め飲め!」」

 「俺はカウカウのミルクがああぁぁぁぁ‥‥」

 その後俺はトマスたちから酒を飲まされてすぐに撃沈した。後の記憶はまるでない。
 


 ▼



 翌朝

 キム先輩とアリアナ姫が俺とトマス、イシルを隠し部屋っぽい所に連れていったんだ。

 「朝からすまんな。お前たちだけには聴かせておくぞ」
 
 そう言ったキム先輩が携帯電話サイズのサイコロみたいな箱のスイッチを押したんだ。そこからは音が聞こえてきた。

 「兄貴それで姫と昨日はいなかったのか?」

 「ああ。おもしろい話が聴けるぞ」

 「ええ。はらわたが煮えくりかえるくらいおもしろい話がね」


 えっ?これスピーカー付き録音機?ドロップ品だよ!

 「キム先輩これってドロップ品‥‥?」

 「ああデグー一族が有する国宝級の品だ」

 「じゃあ流すぞ」

 そこから先はドスゴル商会とベルーシュ一族の草との密談の様子すべてが綺麗な音で録音されていたんだ。


 「くそっ!舐めやがってドスゴルの奴ら」

 「ああ。このままじゃおかねえ」

 トマスとイシルがめちゃくちゃ怒っている。

 「なんで兄貴みんなにも聴かせないんだよ!」

 「そうだ。なんでだよ!?」


 トマスとイシルが言う気持ちもわかったんだ。
 でもキム先輩は落ちついて言ったんだ。

 「みんなに聴かせてどうする?ベルーシュ一族の妬みや恨みを今度は俺たちが引き継ぐのか?」

 「「えっ?」」

 「海洋諸国の伝統ともいえるとこの感情。
 俺たちは恨みや妬みといった負の感情を後世には引き継がせない。
 もちろんこの落とし前はつけさせてもらうがな。俺たちアイランドとデグーは新しい時代を生きる海洋諸国となる。
 それが一族を導く俺の方針だ」

 「「‥‥」」

 それはキム先輩の不退転の決意表明だった。

 「わかったよ兄貴」

 「叶わないなキムの兄貴には」

 「でしょー君たちの兄貴はイイ男でしょ」

 ケッ!つまんねぇわ!かっけぇよキム先輩は!
 どうせ俺はただの変態だよ!。あーつまんねぇ!

 「「どんまいアレク‥‥」」

 あーお前ら、また俺を生暖かい目で見やがって!

 クックック
 ふふふふふ
 わはははは
 ワハハハハ


 また俺の独り言がみんなに聴こえてたみたい。

 「あ、そうだ姫。妹をアレクに紹介してやってくれよ。こいつは子どもが好きなんだ」

 すーーーっっ

 「イシル!なんで少し離れるんだよ!」

 「えっ、だってお前妹はまだ1歳だぞ。それって‥‥変態じゃん」

 「違えーよ!俺が好きなのは小さな子どものお腹の匂いを嗅ぐことだけなの!」

 ササササッッ!

 「なんでみんな離れるんだよ!」

 「「「やっぱ変態じゃん!」」」



 このあとアリアナ姫とイシルの1歳になる妹を抱っこさせてもらった。

 くんかくんか
 くんかくんか

うん、めっちゃリフレッシュできたよ。

 「「「(やっぱり変態じゃねーか)」」」



 「ドロップ品から聴こえてきた話を皆には言わないが、やることはキッチリやるからな」

 キム先輩がさも楽しそうに笑ったんだ。

 怖っ!

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