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第2章 幼年編
436 冬休みの依頼〜マル爺
しおりを挟む俺と変わらない背丈にずんぐりとした身体。
マル爺。
それはドワーフ族そのものだった。白髪に皺の刻まれた顔はまさに爺さんだったけど。
ドワーフのマルコ。
通称マル爺は嘗て家族諸共海賊に襲われただ1人生き残った壮絶な過去を持つ。その後奴隷となり船底に閉じ込められているところをデグー一族に助けられたという遍歴をもつ。
以来、家族のいないマル爺はデグー一族と共に生きる道を選ぶ。
幸いドワーフという種族の特性上鍛治や土魔法に秀でその方面からもデグー一族に欠かせぬ存在となったことも理由の1つにある。
平均的なドワーフの寿命は150歳。
対して人族、なかでも海洋諸国のそれは短い。50歳に届くか届かないかというものだ。
よってマル爺との交わりも3世代4世代となり双方の絆は年を経て強固なものとなっていったのだった。
マル爺にとってそれは実の孫や曾孫に接するくらいに。
「シルフを連れた人の子を見るのは永く生きておるわしも初めてじゃわい。どれ闘う前に握手でもするかの」
「あは‥あははは」
どうしよう?
俺どうやって握手のとき魔力を遮断するのかわかんないよ!偽情報を掴ませるのもわかんねぇわ!
「ほっほっほ。こりゃなんともおもしろいお子じゃわい。狐仮面君どれお手を出してみなされ」
「は、はい‥」
マル爺の催促どおりに自然と手を差し出したんだ俺。だって悪意をまるで感じない皆に好かれている「マル爺」そのものだったから。
「よいかの狐仮面君や。
まずは手全体に意識を向けてみるんじゃよ。このとき悪意を向けてくる相手かどうかは相手の目を見て自分自身の勘を信じることじゃの」
「う、うん‥」
えーそうなんだ。
「手のひら全体に意識はあるかの?」
「は、はい」
「悪意を抱く者の魔力は善く生きておる者の手には馴染まんからの。そこんとこは経験で覚えていきなされ」
「は、はい」
「次は魔力の感じ方じゃよ。
狐仮面君自分の肩を見てみい。肩から指先まで手はだんだん細くなっておるの」
「はい」
「相手の魔力を知ることや逆に知らせぬことは指先から細い紐で魔力の出し入れをするイメージなんじゃよ」
出し入れ?ドライヤーと掃除機みたいなもんかな?
「どらいあとそーじきがなにかはわからんがなんとなくイメージは掴めてきたじゃろ」
「はい!」
「吸いこむとき、その細い紐が切れるようなら相手の魔力は大きいし切れる心配がなければその魔力は小さいの」
へぇーそうなんだ
「逆にその紐をより細くすれば自分の魔力を小さく見せることができるでの。
あとは数多くの人と握手を交わす経験を積めば自然と身につくわい」
あーなんかわかった気がするな。
「ああ最初は仲間内にしとくんじゃよ。味方でない者に不必要な情報を与えてはならんからの」
「なんとなくわかったよマル爺。ありがとう!」
「ほっほっほっ」
マル爺のアドバイスのおかげで握手のときの魔力の感じ方もわかってきたよ。
「マル爺ありがとう」
「ほっほっほ。素直なお子じゃな狐仮面君は。それに魔力総量も恐ろしくあるわい」
「さて狐仮面君。さっそくじゃが闘うかの。
例年ならお子の力を受ける形で闘いを進めるのじゃがここはそうじゃの。
狐仮面君の作った土人形をわしが壊せるか壊せないかで勝負を決めようかの」
ふだんから使っているのだろう手鎚を前にマル爺がこんな提案したんだ。
「いいよ。マル爺に任せるよ」
「素直でよろしいの。お子のうちはそうでなくてはの。
では狐仮面君は土人形を2体発現してくれるかの。1体は魔力を抑え気味にな。これはわしの手鎚でも壊せるくらいにしてくれると嬉しいの。まあ年寄りに花を持たせたと思うての」
「うん」
「2体めは狐仮面君のその魔力を存分に注いで壊れない土人形を発現しなされ。
これをもって勝敗を決めようかの」
「わかったマル爺。じゃあいくよ」
「観客席の皆さんお待たせしましたー。永い握手のあとマル爺と狐仮面の闘い方法が決まりましたよー。
狐仮面が発現した2体の土人形をマル爺が手鎚で壊せるかどうかでーす」
おおおぉぉぉぉぉ
手鎚だってぇぇぇ
土魔法だろぉぉぉ
マル爺の勝ちだろ
おおおぉぉぉぉぉ
みんな闘る前からマル爺の勝ちだって思ってるけどそんな簡単なものじゃないよ。
俺が発現する土人形が硬いって思ってるのはもちろんマル爺も。てかマル爺は俺のためにこんなことやってくれてるんだもん。
発現する土人形。これはもう簡単だよ。
2体はもちろん等身大フィギュア。
1体めはオニール先輩で2体めはレベッカ寮長。
ダンジョンの野営食堂で毎夜のように登場してた守り神だよ。
オニール先輩は柔らかめにして、レベッカ寮長は野営食堂で発現してたやつと同じ硬さで発現しよう。
「おもしろい勝負になりましたねー。狐仮面が発現した土人形2体をマル爺の手鎚で倒したらマル爺の勝ち。マル爺が倒せなければ狐仮面の勝ち。わかりやすい勝負です!」
「狐仮面君それでは始めましょうかの」
「うん。じゃあいくよ。出よ守護神オニール先輩!」
ズズズーーッッ!
「出よ守護神レベッカ寮長!」
ズズズズズーーッッ!
マジか!?
ホンモノか?
いや土人形だよ!?
うおおおぉぉぉぉぉーーーーー!
うおおおぉぉぉぉぉーーーーー!
ーーーーーーーーーーーーーーー
「お待たせしましたなドスゴル様」
「おおようやく来おったかぺルーシュ一族の草」
「どうやってここまで来た?その裸はまさか泳いで来たのか?」
「なに大したことではありませぬぞ。ただ舟番が1人おりますれば正面から船に乗り込めませんからな。
1度河に入ってから船縁を上がりましたわ」
「パパーこの人なんでこんなにテカテカ光ってるの?」
裸の男を凝視しながらそう訊くルイ。
「いやいやさすがはドスゴル様のご息女ルイお嬢様ですな。
お嬢様これは魔獣の脂を身体中に塗りましてな。水を弾くようにしておるんですよ。こうすれば船上に濡れた跡は残しませぬゆえにな」
「へぇーすごいのねー」
「こいつも馬鹿よねー。話が全部漏れてるのにさ」
「フッ。そう言うなアリアナ。話が筒抜けの道具なんてそうそうは無いからな」
スピーカーから流れる会話に耳を傾けるキムとアリアナ姫だった。
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