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第2章 幼年編
434 冬休みの依頼〜復活祭
しおりを挟むロナウ河の中洲 グランドに着いた。
細長く続くその中洲にはグラシアの街が2、3つはふつうに収まるくらいの大きさだって聞いたけど本当にデカい島だな。
海岸線にはマングローブみたいな木が大量に生えていた。水中に根を生やした木だ。
「トマスあの木って?」
「ああゴームの木な。
こいつはグランドにしか生えてないんだぜ」
へぇーどう見てもマングローブにしか見えないな。
「アレクデグー一族の旗に気づいたか。おもしろいだろ」
「もしかしてこの木なの?」
「ああデグー一族の旗頭はゴームの木なんだ」
ああたしかにこのゴームの木だよな。
海洋諸国共通の青地に白抜きのパームツリーの下。
アイランド一族を象徴するのは赤いサソリだったけど、デグー一族の旗には幾つにも枝分かれしたゴームの木が描かれていたんだ。
「ゴームの木自体は大したことのない木なんだよ。燃やすと臭いし枝も細いから使えないしな。
そんなゴームの弱い木でもたくさんに枝分かれして支えあってロナウの大河に根を張っているんだ。まとまってるから大水でも流されることはない。
デグー一族はそれにあやかって一族を象徴する木として旗頭にもつけたらしいぜ」
「へぇー」
見た目はまんまマングローブなのにな。
「今夜はグランド名物の蟹を食おうぜ。身がしまっててうまいんだぜ」
「そりゃ楽しみだな」
「じゃあ行くぞアレク」
「あれ?キム先輩は?」
「ああ姫が迎えに来て拉致ってったぞ」
「へっ?なんじゃそりゃ?!」
キム先輩の腕をとったアリアナ姫が大喜びでキム先輩を攫っていったらしい。
「なあトマスあの『ご主人様』は警護しなくていいのか?」
「ああ大丈夫。デグー一族の祭りだからな。明日の朝までは誰も襲わんよ」
「ふーん」
やっぱなんの茶番なんだよ!
「それよか祭りってなんなんだ?俺はどうすればいいんだ?」
「ああそれな。まあとりあえず飯でも食いながら話そうぜ。姫の妹も紹介するからよ」
「行く行く!」
▼
ロナウ河の中洲 グランドは大戦前から海洋諸国のデグー一族が治める土地だったそうだ。
大した産業も資源もないことから大戦中もその後の王国建国以降も海洋諸国の飛地として今に至るそうなんだ。
デグー一族郎党の本拠地の人口は5,000人程度。ちょっと大きな村くらいの規模なんだって。
「へぇーおもしろい家だな」
「だろ。どの家もこんなんなんだぜ」
町は高床式倉庫みたいな建屋が並んでいた。何年かに1度氾濫するロナウ河対策で建屋を柱の上に建ててるんだって。
グランドでは12月満月の夜デグー一族の祭り、復活祭があるんだ。
冬至の夜、夜通し飲んで歌って楽しく過ごすお祭り。
「その祭りの目玉が成人前の若者が出る武闘祭なんだよ。
まずな10人程度から1人を選ぶ予選が塔の1階。でそこから選ばれた1人が塔の4人衆に挑むんだよ」
「なんなんだその塔って?」
「ああ見てのとおりここはロナウ河の中洲だろ。だから何年かに1度は氾濫した川の水に町ごと埋まっちまうんだよ。
だから昔から高い建物に憧れがあるんだ」
「未成年者の武闘祭もな、若者がいつかは高い建物を征服するぞ、川の氾濫には負けないぞって気概で5階建の寺院に挑むっていうストーリーからできてるんだよ」
「へぇー」
「先ず最初。未成年者10人程度の中から勝者を決めたところが寺院の1階。あとは2階3階4階5階の大人を打ち負かすって想定なんだよ」
「ダンジョンの階層主みたいなもんだな?」
「ああ、まんまその考えでいいと思う」
「東の2階からだんだん強くなっていくんだぜ。
北の5階に勝てた未成年者はいないんじゃないかな。この20年くらいでは兄貴の引き分けが最高なんだよ」
土俵。東西南北の各方向から現れる大人を階層主に見立てて闘う復活祭の目玉、未成年者の武闘祭。
「勝ち負けに引き分け?」
「ああ大人と闘うから時間内逃げ切っても勝ちなのさ」
「へぇーおもしろい祭りなんだな」
トマスに案内された高床式倉庫みたいな建屋からその闘技場が見えたけど、なぜかまんま相撲の土俵みたいだった。
「まあ予選の1階で勝てたらデグー一族から認められるしそこから勝てたら尊敬も集めることができるからな。
お前ならひょっとしてひょっとするかもって俺は思ってるけどな」
「わかんないけどがんばるよ。ところでルールとかあるのか?」
「なんもないよ。武器を使おうが魔法を使おうが何をしてもいい。もちろんお前みたいに馬鹿みたいな魔法をぶっ放す奴は大人にもいないがな」
「わかったよ。魔法はあんまり使わずにしてやり過ぎないよう闘うわ」
「クックック。やり過ぎないようにか。お前が言うことがハッタリなしにそのまんまに聞こえるよ」
「さあ着いた。入ってくれ。ここが今日の宿屋兼食事どころさ。アイランド一族のために姫が用意してくれたんだぞ」
「デカっ!広っ!」
そこはこれまで見た高床式倉庫みたいな建屋の中でも特別大きくて煌びやかな建屋だった。
「いらっしゃーい。トマス君も1年ぶりねー。相変わらずいい男だわ」
「女将さん。お世話になるね。今年の祭りにはアイランド一族から強力な助っ人を連れてきたんだ。こいつはアレク。俺とキム兄貴の兄弟さ」
「アレク君ね。いらっしゃーい」
「こ、こ、こんばんは。は、は、初めましてア、ア、アレクです」
「あらあらかわいい狐君ねー」
トマスが気軽に声をかけた女将さんはとってもエロかわいい女の人だった。黒髪ロングの日本人的な美女。
肩がむき出しの着物のような服。肩からみえる艶やかな肌と胸の谷間がとっても暴力的なお姉さんだった。
「(なあトマスめちゃくちゃ綺麗な人だな)」
「なぜ小声になるアレク?」
「あは、あはははは。俺あんまり女の人と話したことなくって」
「ワハハハハ。そっか。なんか安心するわ」
「おまちどぉさまぁー」
「きたきた蟹がきたぞ!」
お皿にいっぱいの蟹を載せてお姉さんたちがやってきた。
広い部屋はアイランド一族30人を歓待するお姉さんたち。
「蟹もだけどトマスこのお姉さんたちって‥‥」
「ああデグー一族の綺麗どころだよ」
それはリアル龍宮城のお姉さんたちだった。
舞い踊る綺麗なお姉さんたち。アイランド一族30人の1人に1人つくお姉さんたちなんだ。
キャバクラって言葉は聞いたことあるけど俺行ったことないけどこんなとこなのかな。だいたいこの世界でもお酒の出るお店には綺麗なお姉さんがいるって聞いたことけどそれももちろん行ったことないし。
でも‥‥なんだよこの桃源郷みたいなところは!
「狐君かわいいわねー」
「食べちゃいたいわー」
「えへへへへ」
な、な、なんと俺には両側から2人のお姉さんが付いてくれたんだ。
「ウッッ!」
「あっ!ダメだ!闘う前にお前また鼻血だして倒れたら洒落ならんからな。
姐さんたちごめんな。ちょっと訳ありで難しい話するからしばらくコイツから離れててくれるかい?」
「「そうなのー。残念ねー!」」
あーー‥‥人生初のモテ期が去っていくよ……。
「さあ食べてくれよアレク」
「‥‥いただきます」
「ウマっ!なにこれ!」
「だろー」
トマスが言ったようにここの蟹は素晴らしく美味しかった。茹でただけだって言うけどその旨さは格別なものだった。
食事もおいしかった。予想どおりに南国風の味つけだったけどそこもよかった。
「武闘祭が終わってから腹いっぱい食えばいいからな。控えめにしとけよ」
「わかった」
「じゃあ行くか」
「うん」
「「「狐仮面さん頑張ってください!」」」
「頑張ります」
アイランド一族の30人が応援してくれたよ。
わーわーわーわー
ざわざわザワザワ
ワーワーワーワー
ザワザワざわざわ
土俵まわりにはたくさんの観客がいた。
土俵の上には2階建の屋根くらいの高さに屋形、吊り屋根も付けられていた。
「トマスこれって?」
「ああ。土俵の上もOKなんだよ。だから当然あの壁に立てる奴は有利だよな」
俺初めて天井に逆さで立つキム先輩を見たとき、鳥肌が立つくらい感動したもんな。
「よし。じゃあ行ってこい。中原1の未成年者の力を見せてこいよ」
「ああ」
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