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第2章 幼年編
418 披露宴 第1部
しおりを挟む【 円卓No.1side 】
「おぉーグルグル回るぞペイズリー」
「大殿みっともない。そのようにはしゃがれますな」
「これは何だ?」
後方に控えるサーバントに質問する前帝国皇帝アレクサンダー。
「はい。こちらの円卓では皆さまお1人に1人のサーバントがお仕え致しますが、調味料や飲料、お代わりなどこちらの回転式テーブルからもご自分でお取りいただくこともできます」
「ほぉ。なるほどのぉ。よくできておるわ」
円卓には回転式テーブル(レイジースーザン)を備え付けてあるよ。基本的にコース料理の配膳下膳等は各円卓に控えるスタッフ(サーバント)が遅滞なく進めるんだけど、お代わりの料理や調味料、お酒を並べた回転式テーブルがあればそこから好きに取れるし、会話も広がるだろうからね。
「これを作ったのは狐仮面君だと聞いたんだけど?」
「はい女王様。シェフ(狐仮面)がお作りになりました」
「女王殿。狐仮面君とは昨日の優勝した子か?」
「ええ皇帝。そうだと思うわ」
「女王殿はあの狐仮面を知ってるのかい?」
「あら珍しい。天下のダルク大国のレイモンド卿が子どもなんかに興味を示すなんて」
「あの子の魔力は実に興味深かったからのぉ」
ダルク大国。またの名を魔導国家ダルクといった。
「狐仮面君はヴィヨルド学園の2年生のはずよ。ついでに言うと、今日のお料理も狐仮面君が指導したんじゃなくって?」
「仰るとおりでございます女王様」
「へぇー武闘大会に勝って宴席の料理まで作るのか狐仮面は」
「なんで女王殿はそんなに狐仮面に詳しいんだい?」
「ああヴィヨルド学園をこの春に娘が卒業したのよ。狐仮面君はその後輩ね。
彼、1年に入ったすぐに頭角を現したらしいわよ」
「ほぉそれはますます興味深いな」
「まあ私以上に狐仮面君を知ってる人がここにはいるかもだけどね」
「ホッホッホあまりいじめなさいますな女王様」
「ん?そりゃどういうことだい法皇様よ」
「皇帝陛下、私の娘が今ヴィヨルド学園の2年生でしてな。狐仮面君のクラスメイトなんですよ」
「なるほどなるほど。そういうことか。
ああ、法皇殿。いい機会だから言っておくがわがロイズ帝国は法国のお家騒動には一切関与してないからな。
3歳で行方知れずのお宅の娘さんに関してもな」
「我らダルク大国も然り。その件では法国のゴタゴタに一切関わりのないことを告げておこう」
「良い話を聞けましたこと女神様に感謝致しますぞ。お2方の言葉を聞けただけでも遠路ヴィヨルドにまで来た甲斐がありましたわ」
「ハッハッハ。この円卓で話が1つまとまったぞペイズリー」
「ですなぁ大殿」
【 円卓No.6side 】
ここではアレクに縁の深い人物が席を囲っていた。
モンデール神父(ヴィンサンダー領都学園長兼務)、ディル神父、シスターナターシャ、ミカサ商会会頭ミカサ・ウィンボルグ、サンデー商会サンデー・ウィンボルグ商会長、ヴィヨルド学園長サミュエルの6人。旧知の6人だ。
そこに隣席のテンプル老師が声をかける。
「久しいなミカサ会長。息災かな」
「ご無沙汰致しております老師。歳のせいかますます耳や目がいけませぬなあ。ハハハハ」
「何を言う。ワシに比べればお主などまだまだひよっ子じゃよ」
「そりゃ老師と比べたら我ら皆赤子も同然でしょう」
「「「わははははは」」」
「先日はサンデーちゃんとした旅は楽しかったのぉ」
「ええ先生。とっても楽しかったわ」
各円卓で賑やかな宴が始まった。
「ではワシらも。ロジャーの結婚と我らに繋がる狐仮面君の優勝を祝して乾杯」
「「「乾杯!」」」
ハハハハハ
フフフフフ
わはははは
【 円卓No.8side 】
ここでは海洋諸国や自由都市国家連合、ウエストランドなど商業、流通業を生業としている国家群が席を共にしていた。
なんだこのスープは!透き通った色めなのにこの滋味溢れる旨さはいったい!?
武骨なヴィヨルド料理といえば塩味のやたら強い塩汁のはず。どうしてこんな旨みを引き出せる?
これは最初から度肝を抜かれたわ!
【 円卓No.3side 】
ここでは武勇こそ控えめながら総合的な国力の高い国(領)の者、つまりは舌の肥えた者が集まっていた。
前菜?
スモークサーモンだと?
美味いな。添えられたタマネギーの酢漬けとのバランスはもちろんうまく作られておるが‥‥生野菜のサラダを出しおったわ!
野菜など肥料に糞尿を撒くのが当たり前。つまりは生で野菜を食べるなど腹に寄生虫を産む言語道断の所業であるはずなのに。生野菜だと!?
たしかにこの披露宴に遡ることしばらく。
完全管理された室内で水耕栽培された野菜は生で食べられると王家のご家族の間でも話題となっていたはずだが。まさかヴィヨルドで……。
【 円卓No.4side 】
ここは王家に繋がる者、伯爵家、公爵家が席を同じにしていた。
「なんだこの生の野菜は!火を通しておらんのか!これだから辺境の奴らは‥‥」
「お言葉ですがお客様。こちらのサラダ用の野菜は室内にて土に一切触れずに栽培された野菜です」
「まさか‥‥王家の水耕栽培か?」
「はい。さすがは食通のお客様でございますね。王家の水耕栽培は私たちの技術をお伝えしたものでございますよ」
生の野菜がこれほど旨いものとは!
ときに甘く、ときに心地よく苦く。シャキシャキとした歯応えも格別だ。
これは最後まで気が抜けん!ロジャー殿といやヴィヨルドと味の真剣勝負だ!
【 円卓No.15side 】
席次は下り、王国内の領主になってきた。
中には腹に一物抱えた領主も無きにしも非ずで……。
ヴィヨルドといえば大皿に山盛りの魔獣肉の塩焼きとしたものだったが。
1品1品を皿に出してくるではないか!
しかもその皿も大小を2枚重ねた白い皿やら汁もののスープ皿を安定させるためだけに配された皿!
温度も冷えないようにした魔法陣の鍋等々。しかもこれにサーバントの的確なサービスの質の高さ。
ま、まさかこれほどまでに洗練された文化を有しているとは!
昨日の未成年者の武闘大会で圧倒的な魔力を振るった少年もいる。
辺境のヴィヨルドを、サンダー王国を侮るなかれだな。
これは2部の立食パーティーも参加せねばなるまい!
【 円卓No.20side 】
なんだこの白くてやわらかいものは!
これがパンだと!パンは堅くてスープに浸さねば食えないものだろう!
うまい。美味い。しかも皿のパンがなくなれば何も言わずともサーバントがお代わりを載せてくれる。
ヴィヨルドの圧倒的な力。恐れ入った。
適当なところで帰ろうかと思ったが。帰っては大損することになるところだったわ!
【 円卓No.27side 】
オーク肉といえばその塊をかぶりつくものだろう。それなのに何なのだ!このオーク肉は。赤身を保ったまま薄く切られた肉は生のようで生ではない。おそらく火が通っている。
しかも褐色のソースとの相性も抜群の旨さだ。何よりこの柔らかさは一体何なのだ!こんなオーク肉など食ったことがない!ろおすとオーク恐るべし!
夜の2部ではさらに違う料理を食えるだと!これはどうして食わずに帰られようか!
【 円卓No.28side 】
エールといえば下賤の者どもが飲むものかと思ったが。この冷えたびいるというものの旨さはなんだ!
細かな泡の先からスッと喉を抜けるキレのよさと苦み由来の爽快感。
エールではないこのびいるの旨さよ。
2部も参加せねばなるまい!
【 円卓No.29side 】
紙に記された酒のラインナップにあった「ワイン~貴婦人の吐息の如く」
ブードからできたワインなるものの芳しさたるや、まさに貴婦人の吐息とはよく言ったものよ。
さらに料理とは別に添えられたワインの肴のあれこれ。
ちいずなるもののの旨さ!これがカウカウの乳からできたものとは!
ブッヒーの肉を削いだというなまはむなるものの噛めば噛むほどの旨さも捨てがたい。
まるで女神様の饗応に参加したみたいだぞ。これは2部も参加せねば!
【 円卓No.30side 】
なんだこのスープの旨さは!
なんだこの肉の旨さは!
なんだこの魚の旨さは!
なんだこの野菜の旨さは!
すべてが初めて食べる料理法のものばかりではないか!
ただ1つだけ気にいらないぞ。
「なんで俺がこんな末席なんだよ!」
【 円卓No.1side 】
再び1番円卓に戻る。
「(女王陛下。私の皿に載ってくる料理。すべてがスプーンかフォークで食べられるようになっているのは‥‥そういうことだろうか?)」
「(ええ。おそらくというか間違いなくペイズリー騎士団長に対してのサービスでしょうね)」
「(それも狐仮面君か?)」
「(どうでしょうね。そこまではわかんないわ)」
「(どうだろう?女王陛下。このあとの立食パーティーで1度狐仮面君に会わせてもらうことはできないだろうか)」
「(フフフっ。私も会って娘の礼を言いたいのよね。後でロジャーさんに了解をもらっておくわ)」
「(待たれよ女王陛下。我らダルク大国も仲間に入れてくれないと困るな)」
「(!本当珍しいわね。レイモンド卿が子どもに興味を持つなんて)」
「(もちろん先々狐仮面君と刃を交えるかどうかは女神様しか知らんがの。ハッハッハ)」
「(わかったわ。夜のパーティーでこの席に狐仮面君に来てもらいましょう)」
ミョクマルさんの軽妙な司会もあって滞りなく宴席が進行していったよ。
「では祝辞を‥‥」
▼
「はい上がったよー」
「「ありがとうございまーす。さあ運ぶぞ」」
控室の人たちにふるまったのはカレーとスパゲッティミートソースの2本立て。
軍人が主体の1,000人だからカレーはスパイシーにしたよ。
残念ながらご飯はないからバゲットをたくさん用意したんだ。パンに浸けて食べてくれって。
「なんだこれ!」
「辛っ!」
「辛っ!辛っ!」
「でも‥‥」
「「「うまいっ!」」」
「「「うまっ!」」」
カレー皿とスプーンだけ。しかも大鍋から盛りつけしたのは最初だけ。あとはセルフサービスでやってもらったよ。カレーの大鍋に並ぶ4方からの行列は絶えなかったよ。
山と積まれたバゲットもみるみる減ったし。
「こっちのスパゲティミートソースもたくさん食べてくださいね」
生パスタのおいしさにお肉たっぷりのミートソース。美味しくないわけがないよね。
「「「なんだこのすぱげってーは!」」」
「「「うまい!」」」
「「「うまい!」」」
「「「うまいっ!」」」
「「「うまいっ!」」」
「カレーにスパ、ミートソースを混ぜても美味しいですよー」
「「「うまい!」」」
「「「これも最高だ」」」
結局カレー鍋1,000人分もミートソース1,000人分もスパゲティ1,000人分も2回ずつ作ったんだ。
それでも最後はお鍋が空っぽになったけどね。
「「「ありがとう狐仮面!」」」
「「「ご馳走さま狐仮面!」」」
狐仮面が感謝されたんだよ。俺も自分が狐仮面ってことに抵抗感がなくなったよ。
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