アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

407 代償

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 部屋の中は予想したとおりの有様だった。

 床と言わず壁と言わず、そこらじゅうにぶちまけられた赤紫色の液体とその中でうめき声をあげている5人の先輩たちがいた。
 1人ケタケタ笑ってる先輩もいたけど。

 「ひ、ひどい‥」

 衝撃を受けて立ちすくむライラ先輩。その反応は予想どおりなんだけど、俺やセーラと同じように即座に行動がとれているユーリ隊長の慣れた姿に正直びっくりしたんだ。

 隊長が覗き以外をまじめにするなんて!


 俺とセーラは言わずもがなだ。お互いがアイコンタクトのみで、それぞれがやれることに集中しだしたんだ。

 「ライラ先輩!」

 「え、ええ‥ごめんアレク君。どうしたらいい?」

 うん、なんだかんだってライラ先輩もさすがだよ。少し躊躇したあとはすぐに行動し始めたんだ。

 「先輩たち5人をセーラのそばに集めてください。あとはセーラが回復魔法に集中できるように援護をお願いします!」

 「わかったわ!」

 ダッッ!

 言うが否や、ライラ先輩が5人の先輩たちを担いだり引っ張ったりしてセーラの下に集めだしたんだ。

 ガアァァァッッ!

 そんなことはさせじとゴリラがライラ先輩に飛びかかったよ。
 でもね。

 スルッ!

 ゴリラの飛びかかる勢いのまま、中腰となってゴリラをパリィ。そのままゴリラの前脚を掴んで前方の壁に放り投げたんだ。まるで柔道の1本背負いだね。

 壁に激突するゴリラ。

 ダーーーーーーンッッ!

 「ナイスです!ライラ先輩!」

 壁にぶちあたったゴリラ。痛さ自体は大したことないんだろうけど、びっくりしてるだろうな。
 なにせ自分の半分にも満たない大きさの女の子にいきなり投げ飛ばされたんだから。

 ライラ先輩はその隙に5人の先輩たちをセーラの下に集めるのに成功。
 
 そのまま鉄爪を前に立ててセーラを庇うように防御の体勢となった。
 その姿は構えだけでわかる強者のそれ。
 女子ながらも獣人界最強の獅子獣人もかくやの構えだ。

 そこに。

 音もなくゴリラの背後から近寄るユーリ先輩がいた。



 すーーっ。

 ユーリ先輩もまた動揺するゴリラを見逃がさなかったんだ。
 
 壁伝いに。すうっっとゴリラの背後に近づいて後ろ脚の腱を片手剣の長刀で薙いだんだ。

 斬ンンッッッッッ!

 ガアァァァァァッッ
 フーーッッ  フーーッッ  フーーッッ  フーーッッ

 膝を落としたゴリラが憤怒の形相でユーリ先輩とライラ先輩を睨みつける。

 ガフッッ ガフッッ ガフッッ ガフッッ!


 ゴリラの奴、相当頭に血がのぼってるよな。だから自分から詰んでいってるのに気づかないんだ。

 人であれ魔獣であれ、1人で複数人と対峙するなら背後からの憂いがなくなる壁の利点を活かさなきゃ。

 でも‥‥もう遅い。

 フーッッ フーッッ フーッッ フーッッ

 ジリジリ   ジリジリ   ジリジリ‥

 鼻息も荒く、1歩2歩3歩と中央まで歩みはじめたゴリラ。
 それでも左右に目を配りあと1人の俺を探しているみたいだ。
 



 ニコッ


 一瞬、セーラと目が合ったよ。にっこり頷くセーラ。これぞ阿吽の呼吸だね。
 あとはキム先輩の動きを真似るだけだ。

 スーーーッッ。

 天井から真下にいるゴリラにむけて自然落下。




 とんっ



 ゴリラの肩に降り立った俺は抜いた脇差を右耳から左耳に向けて一気に突き刺した。

 ザスッッッ!

 ガアァァァ‥‥ッッ!




 「‥‥‥‥‥‥」
 
 ドーーーーーンッッ。

 白目をむいて卒倒した階層主のゴリラだった。







 「どうセーラ?」

 「5人のうち、両腕のない先輩が1番悪いです。血を流し過ぎてます。あとは手首から先がない先輩も早く処置したほうがあとの手の動きに違いが生まれます」

 セーラも今や2人や3人の部位欠損くらいは回復できるようになっているんだ。残存魔力量は別としてね。
 


 「先輩たち聞こえますか?俺の言葉届いてますか?」

 パチンパチンッ

 ぼーっとしてる3人にはビンタをして俺に意識を向けさせたよ。

 「「う、ううっ‥」」

 「「あ、ああ‥」」

 「「コクンコクン」」

 「今から言うことに賛成なら目を閉じて。反対なら瞬きをしてくださいね。いいですか?」

 全員が目を閉じた。ヨシ、聞こえてるな。
 
 「助けてほしいですか?」

 全員がすぐに目を閉じたんだ。

 「俺言いましたよね。助けてほしかったら助けてくださいって言いましょうって」

 「あ、あ、あ、たす、たす、たす‥‥」

 「アウアウてアウアウさい‥」

 「たただだたたたた‥」

 「あーもうみんなダメだなあ。まあでもゴリラは倒しましたから安心してくださいね。わかりましたか?」

 これもすぐに目を閉じる5人組。

 「今からセーラが回復魔法をかけますからもう大丈夫ですよ。でも特に具合が悪い2人、はい先輩と先輩」

 ドンドンッと背中を叩く。

 「先輩たちにはセーラの魔法とよりすぐに効果がでるエリクサーの好きな方を選んでくださいね。ご存じのようにエリクサーはすぐに治るし痛みもすぐに無くなるんですけどね。どっちがいいですか?」

 「回復魔法がいいですか?」

 「‥‥」

 「エリクサーがいいですか?」

 ばちんばちんばちん

 
 たぶん先輩たち2人ともエリクサーを選ぶと思ったよ。何せ分単位で元に戻るのはエリクサー以外ないもんな。

 俺たちにしても正直エリクサーを使ってもらったほうがいい。その理由はセーラの魔力を保つためだ。
 だって‥‥ダンジョン内ではどれだけ用事しても用心するにこしたことはないんだから。

 「ただエリクサーはご存じのようにとってもとっても高価ですよね。
 本来なら使う必要性のないエリクサーなんですよ。使おうかな。どうしようかな」
 
 もうね、2人とも何か言う前から目をばちばちして早くエリクサー使えよアピールをしてる。

 「高い高いエリクサーの代金。戻ったら先輩たちのお父さんたちにお代を払ってもらうことになりますよ。今回の5人連帯責任ですからね。いいですか?」

 これも5人が目を閉じた。

 「はいわかりました。じゃあ最後に同意したっていう契約魔法を交わしてもらいますからね。これもいいですか?」

 これもすぐに5人全員が目を閉じた。

 「ああ新たに紙に書くわけじゃないですからね。だいたい2人は手もないから書けませんもんね。実は先に書いてもらってた誓約書の裏が契約書になってるんですよ」

 「「(いつのまに?)」」

 「(セーラさん知ってたの?)」

 「(フフフ。はい)」


 「はい。じゃあ勝手に先輩たちから契約の血をもらいますからね」

 俺は5人の血を誓約書の裏面、契約魔法陣に付けたんだ。

 これで準備は万全だ。



















 「(はろはろあおちゃん?手伝ってくれる?)」

 「(はろはろアレク。いつでもいいよー)」

 「(じゃあいくねーシクヨロ!)」

 「(アレクだっさー)」

 「「わはははは(ふふふふふ)」」

 「(じゃあいくねー)」

























 こうして契約魔法を発動。
 その後にエリクサーを2個使い、あとの3人はセーラの回復魔法で回復させたんだ。

 もちろん回復魔法中にはセーラの背中に触れて俺の魔力からセーラに「充電」したよ。



 「アレク君なんかお鼻が膨らんでない?」

 「えっ?!し、し、失礼だなぁライラ先輩‥‥」

 「チッ!この変態め!あとで覚えとけよ!」

 セーラコワッ!


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