アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

405 説得

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 3階層の山岳地帯に入った。

 去年。ここで俺はシルフィの加護を受けて一角山羊(ホーンシープ)を弓矢で倒したんだよな。

 一角山羊の胆嚢で作ったえなじーどりんくも効果があってけっこう使えたんだよね。うん、オニール先輩を人体実験にしたやつね。


 ブメーブメー!と鳴きながらジグザグに山道を駆け降りてくる80㎏くらいの極悪山羊。
 いくらなんでもあの5人組の手には負えないだろうな。

 「(アレク大丈夫かな?)」

 「(ああ。先輩たちには無理だな。近づいてくる前に俺の弓で仕留めるよ)」

 「(うん。お願い)」


 あおちゃんの言う「極甘設定」でもさすがに厳しいよな。たとえ80㎏が10㎏程度の山羊になっても、岩場を飛び降りてくるようなジグザグ走行だからあの5人には厳しいに違いないもん。
















 メー    メー  メー     メー    メー  メー‥

 途切れ途切れに一角山羊の鳴き声が聞こえる。

 「一角山羊が来たぞ!」

 「みんな気をつけろ!ホーンシープは角の突き刺し攻撃でくるぞ!」

 「「わかった!」」

 「みんな準備はいいな」

 「「「おおーー!」」」



























 めー めー めー

 とっとっとっとっとっ‥


 岩場ピョンピョンじゃない!
 石畳の旧街道を小走りに駆けて寄ってくる1体の仔山羊。
 うん、、、、錯覚だろうけどなんだか尻尾振りながらに見える……。


 灰次さんすいません。お宅の白い娘さんに彼らが酷いことすると思います。




  自主規制




 「一角山羊を闘ったどー!」

 「「「うおおぉぉぉぉぉーー!」」」


 なんの雄叫びなんだよ!

 たぶんどこかでモニターを観てるあおちゃん、大爆笑だろうな。


  自主規制


 「「「うおおぉぉぉぉぉーー!」」」


  自主規制


 「「「うおおぉぉぉぉぉーー!」」」


  自主規制
 

 「「「うおおぉぉぉぉぉーー!」」」



 その後も雪のようなかわいい白い子に酷いことをしながら先輩たちは悠々と先を進んだんだ。

 えっ?白い子をそのままにしたのかって?
 するわけないじゃん。やわらかいお肉なんだよ。せめて食べて成仏させたげないと。ささっと解体してクーラーボックスに入れておいたよ。

 ああ、ちなみに先輩たちのオーク肉はそろそろ消費期限も終わりかな。常温の中だからね。ちょっぴり嫌な臭いがしだしたんだよ。塩漬けして保存するってことも知らないみたいだし。勝手にさわるとまた怒るからそのままにしてあるけど、たぶん今夜にも廃棄だな。
 








 「アレク!」

 「ああ見えてるよシルフィ。あれってアーチャーなのかな?」

 「っぽいわね」

 なんだよ精霊のくせに「ぽい」って言うのは!

 「だってぽいじゃん」

 「‥‥おっしゃるとおり、ぽいですね‥」



 ふらふらー。
 ふらふらー。

 どうやって隠れようかなぁ僕。ギャッギャッギャッ。

 石畳の上で伏せたり転がったりしながら何やら思案中の弓矢を携えたゴブリンアーチャーっぽい魔獣。

 そう。シルフィが言うようにあれはたしかにゴブリンアーチャーなんだよ。弓矢を番た外観だけは。


 ゴブリンアーチャー。またの名はゴブリンの狙撃手(スナイパー)。
 狙撃。それはね、物陰から隠れて存在がわからないまま突然弓矢を撃ってくるから狙撃なんだよ!

 でもね‥‥あのゴブリン‥‥200メル以上も先から視認できてるじゃん!どこに隠れる場所があるんだよ!

 「ぽいでしょーアレク。ウケるわー。ぷぷっ」

 「ホントだねーシルフィ。ぽいよなぁ」

 まるでね、ここにいますよー気づいてくださいねーって言ってるみたいにコソコソ動いてるんだ。

 「激甘設定」恐るべし!



 「どうするリーダー?」

 「矢の射程は2、30メルだろうな。まして奴の挙動はしっかり視認してるから、俺たちがこのまま進んでも問題ないはずだ‥‥」

 「ヨシ。左右から1人ずつ大きく迂回してアーチャーに接近してくれ。それでアーチャーが矢を放ったと同時に2人には急襲してもらう。これでどうだ?」

 「すごい!さすがリーダーだ!」

 「ああ。まるで軍師だな」

 「「ああ軍師だ!」」

 「おぉっ、軍師リーダーだ!」

 「「「軍師リーダーバンザーイ!」」」

 「「「バンザーイ!」」」

 


 「「「‥‥」」」

 さすがのヒューイ先輩も引いてるよ。
 すげぇわ‥‥5人組。

 ああ、それとね‥‥俺先輩たちの名前‥‥未だに知らないんだよね……。

 その後。軍師様の軍略どおりにゴブリンアーチャーを討伐してたよ。またまた大盛り上がりしてたけど。


 「ククッ。軍師様と愉快な仲間たちだな」

 「「「(プププッ)」」」

 ユーリ先輩上手いこと言うよな。


 そんなゴブリンアーチャーを幾たびか蹴散らしたり、「スタンピードだ!」って叫ぶ声と突進してくるアルマジロー10体ほどの群れを蹴散らしながら。
 順調に探索は進んだよ。あっ、また野営で1泊したけどね。






 そして。

 ついに最初で最後の目的地の前に着いたんだ。

 「階層主の扉だな」

 「「「おぉ。着いたな」」」

 5階層の前には2階建家屋を丸々入口にしたような大きな扉があった。これも去年と同じだね。

 「よーしこの調子で階層主も俺らがぶっ倒すぞ!」

 「「「おおー!」」」












 「なあ。お前ら」

 「なんだよ平民ユーリ。また小言かよ!」

 「ここまでは奇跡的に弱い魔獣しか出てこなかった。
 だが階層主だけはやめておけ。お前らでは歯が立たないぞ」

 「あーまたコイツ俺らの足を引っ張る気だわ」

 「俺らが無双してたのがそんなに悔しいのかよ!」

 「ユーリ先輩の言うとおりです。先輩たちこのまま階層主と闘ったら‥‥死にますよ」

 「なんだよシスターもどきまで!」

 「階層主だけはぜったいやめたほうがいいです!どうしても行くのなら私たちが代わります」

 「「「なんで俺らより弱いケモノ女に代わんなきゃいけねぇんだよ!」」」

 「「「ふざけんな!」」」

 「俺もやめてほしいです」

 「またお前もかよ!」

 「「「ウザっ!」」」

 「なあお前ら。やめないか?もう充分だろ。帰らないか」

 「ヒューイまでなんなんだよ!
 ああお前はブーリ隊だからな。でも誰も代わってやんねぇからな!」


 このままだと平行線だ。

 「本当は言っちゃいけないんだけど、去年登った俺とセーラのときはここまで来るのに魔獣が1体や2体なんて1度もなかったんですよ」

 「アレクの言うように、1度に10体を超える魔獣がふつうだったんです」

 「つまりダンジョンはなぜか強さに応じた魔獣が出てくるんですよ」

 「なんだよ!じゃあ俺たちがテメーらより弱いって言うのかよ!」

 「はい。はっきり言って弱いです」

 「「なめんじゃねぇ!」」

 「「「そうだそうだ!」」」

 「でも‥‥階層主だけは誰が入っても変わらない強さなんです。だからもし入ったら先輩たちはおそらく‥‥」

 「「死にます」」

 「「「なめんじゃねえ!」」」

 「誰にもの言ってやがる!」

 「生意気過ぎだぞ!」










 「開けたら最後、やり直しはきかないんですよ。それでも‥‥本当に本当に行くんですか?」

 「やめましょう先輩」

 「やめてください」

 「お前ら。もう十分闘ったよ。帰ろうぜ」










 「いや、俺らは帰らない」

 「「「おお!」」」

 「階層主もこのままぶったぎって先へ行くんだ。なぁお前ら」

 「リーダーの言うとおりだ!」

 「違うだろ。リーダー軍師様だろ」

 「ああそうだったな」

 「俺らリーダー軍師様に続くぜ」

 「「「おお!わはははは」」」






 「じゃあどうしても階層主と闘るんですね?」

 「くでぇーぞガキ!」

 「「「そうだそうだ!」」」



 「じゃあせめて一応契約書にサインしてもらいますよ。サインしてくれない限り俺たちは絶対に先輩たちが階層主と闘るのを認めません」

 「本当にテメーはくでぇガキだな。で、何の契約なんだよ?」

 「簡単ですよ。俺たちブーリ隊が止めるのを聞かずに自分たちの責任で階層主と闘ることを選んだって認める契約書ですよ」

 「ハン!簡単じゃねぇか!同じようにこっから先もボル隊がすべて魔獣を倒しましたって契約書も書いてほしいもんだぜ。なぁ」

 「「ああ」」

 「それいいな」

 「「「わはははは」」」

 









 「こんでいいかガキ」

 「はい。同じものが2枚を1枚をヒューイ先輩に持っててもらい、もう1枚を俺が持ってますからね。
こっちの1枚はダンジョンから帰ったら学園長に提出しますね」

 「よーし。じゃあさっさと階層主闘ろうぜ」

 「サクサクっと倒すか!」

 「俺のレイピア捌きを階層主にもみせてやる!」

 「「「おおー!」」」




 ギギギギギーーーーーッ

 そしてボル隊が階層主の扉を開けたんだ。
 

―――――――――――――――


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