アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

401 理解不能

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 ブッ!

 鼻血はちょびっとだけ噴出した。
 10ccくらい?
 ホントにちょびっとだけだったよ。
 
 ああよかったーーー


 まさかあのまま大量出血で倒れてたら学園ダンジョン史上最短記録になるところだったよ。出発3歩で終わりって。

 「チッ  チッ  チッ‥」

 なんかセーラさん目つきが悪いんですけど。それと女神教のシスターは連続舌打ちなんかしないと思いますけど。

 (セーラさんオニール先輩の影響なのかな。たまに毒吐くんだよな)










 「ヒューイ先輩」

 「ヒッ。な、な、なんですか」

 「リアカー曳くの代わってくれません?」

 「は、は、はい。喜んで」

 「ククッ。アレク君たら」

 「「フフフ(クククッ)」」

 
 ライラ先輩を先頭にセーラ、ユーリ先輩の縦列陣形。
 
 リアカーを曳くヒューイ先輩の横を俺が歩く。

 去年と同じ。
 直線の地下通路は、月夜の明るさ程度の視界を保っていた。それは光苔の光源だ。
 
 まずは最初の回廊で身体を慣らしてから1階層だな。



 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥

 横幅、高さ共に3メル(3m)。10メル続く直線が直角に右左折をしている。


 去年、俺はキム先輩から索敵のいろはを実地で学んだ。今の俺に索敵の迷いが一切ないのはキム先輩のおかげなんだ。


 「10メル先で右折、さらに10メル先で左折。さらに10メル先を震えながら進んでるのがボル隊の先輩たちです」

 「み、見えるのか?」

 「まさか。見えませんよ。でも索敵でどこがどうなってるのかくらいはわかりますよ」

 俺はヒューイ先輩に解説しながらその横を歩いていく。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥


 「ボル隊は緊張し過ぎですよ。ねえ先輩」

 コクコクコク

 同じように緊張感いっぱいのヒューイ先輩がリアカーを曳きながら頷いていた。

 30メル先行しているボル隊に後ろの俺たちブーリ隊がだんだん追いついてきたんだ。


 「あっ、立ち止まった」


 「動き出した」


 「また立ち止まった」


 直角の曲がり角に来るたびに立ち止まるボル隊。

 そして歩みは完全に止まったんだ。

 えー!?マジかよ!?もうダメなのか!?

 「50メル先から一角うさぎとグレーウルフ各1体が接近中です」

 「ユーリ隊長、そのままついて来てください」

 「わかったアレク隊員」

 「ライラ先輩、一緒に先に行きましょう。ちょっと身体を動かしときましょう。最初は誰だって力が入りすぎますから」

 「ええアレク君」

 「ア、ア、アレク君ぼ、ぼ、僕はど、ど、どうしたらいい?」

 「あれヒューイ先輩『僕』って言うんだ。そっちのほうがいいと思いますよ。
 うん、ヒューイ先輩はそのままリアカーを曳いてついてきてください。前にはユーリ先輩、セーラもいますから」

 「わ、わ、わかった‥」





 「ライラ先輩、6年の先輩がダメなようなら闘っちゃっていいですよ」

 「まさか!アレク君魔獣って一角うさぎとグレーウルフでしょ。さすがにあの人たちでも大丈夫よ」

 「わかりませんよー。あんだけガクガクとブルってましたから」

 フフフフ
 わははは

 20メルほど先。
 固まりながら1秒5セルテ(㎝)を進む5人の気配があった。


 ダッダッダッダッダッダッ‥

 ダッダッダッダッダッダッ‥

 人の気配だけを頼りに駆けてくる魔獣最底辺の一角うさぎと青銅級冒険者入門相手のグレーウルフがボル隊に迫る。


 ダッダッダッダッダッダッ‥

 ダッダッダッダッダッダッ‥

 それは先行ボル隊5人組が次の5セルテを進んだときだった。

 
 キイイイィィィィィーーーッッ!

 ガアアアァァァァァーーーッッ!


 2体の魔獣が5人組に飛びかかる。


 「「「ヒイイイィィィィィーーーッッ!」」」

 5人が同時に尻もちをついた。

 「「「あわわわ。くるなーくるなー!」」」


 ブンブンッ ブンブンッ

 真上に。斜め上に。
 レイピアの剣先5つが無軌道に天を示したのが幸いした。

 ブスッ!

 キューーッッッ!

 ブスリッ!

 ガアァァァッッ!

 飛び込んできた魔獣が自らレイピアの餌食になったのだ。














 「「「‥‥」」」















 「み、み、みたか!俺が魔獣うさぎを倒したんだ!」

 「お、お、俺が魔獣狼を倒したんだ!」

 「「俺たちの勝利だ!」」

 「「「うおーーーっ!」」」



















 そんなシーンを陰に隠れて見ていた俺たちだった……。



 「戻ろっか。アレク君。私もう肩の力がぬけたから大丈夫よ‥‥」

 「俺もですライラ先輩‥‥」

 「「疲れたーー」」


 その後、ユーリ隊長とセーラにもリラックスしてもらおうと20メル先にいるボル隊をこっそり見に行ってもらった。

 「アレク‥‥これじゃ5階層なんかぜったい無理です!」

 「アレク隊員ある意味すごいぞ‥」

 ユーリ隊長もセーラもなんとも言えない顔をして戻ってきた。

 ユーリ隊長なんか1年10組どころか初級者学校の子どもでもあれよりマシじゃね?と言っていたくらいだ……。











 「「「うわぁぁぁ、来るなーー!」」」

 キイイイィィィィィーーーッッ!

 ザスッッッ!

 キューーッッ
 



 「「「来るなーー!」」」

 ガアアアァァァァァーーーッッ!

 ザスッッッ!

 ガアァァッ!


 陰から見ていたヒューイ先輩が呟いた。


 「(アイツら強くなったじゃん‥)」

 いやいやヒューイ先輩、それは大きな勘違いです……。


 待っててレイピアの先を突き立てていれば向こうから刺さってくれるんだもん。ある意味楽に闘れるのかもしれない。

 これが何度か続いたからか。さすがのボル隊もようやく自分たちからまともに迎撃するようになったみたいだ。

 「「「うおおおぉぉ!」」」

 「「「どうだあああぁぁ!」」」

 
 20メル先から何度も何度も雄叫びが聞こえていた。


 「ヒューイ先輩私疲れました。リアカーに乗っていいですか?」

 「はい‥‥どうぞ」


 えーーーーーっ?!
 セーラそこまで言うか!

 まるで去年のリズ先輩を彷彿とさせるセーラだった。



 一角うさぎは5体ほど、ささっと血抜き解体してクーラーボックスに入れておいたよ。なにせ去年の食糧不足があるからね。

 保存のメインはリアカーのクーラーボックス。あと背負子は血で汚れても大丈夫なようにスライム袋で内張した魔獣用の俺のオリジナル背負子だよ。
 でも当初は6年の先輩たちが無駄にたくさん持ってきたオーク肉を食べなきゃな。

 俺の風魔法が使えたら干し肉も作れるのに。
 だけど6年人族の先輩たちは契約魔法って言葉に即大反対したもんな。
















 「ユーリ隊長、ライラ先輩まずは5階層を目指しましょう」

 「アレク隊員‥‥かなり難しいミッションになるぞ」

 「ええアレク君私もユーリ先輩に激しく同意するわ」

 そんな話をしながらゆっくり歩く半点鐘ほど。
 6年の先輩たちが待っていたんだ。

 「おいお前ら、そろそろ野営するぞ」

 「俺たちたくさん魔獣を狩り続けて疲れたんだよ」




 「「「‥‥」」」

































 「まだ1階層にも着いてねぇじゃねぇか!どーすんだよアレク!」

 セーラさんコワッ!


 ―――――――――――――――


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