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第2章 幼年編
400 魔力増強服 武闘祭の抜け穴
しおりを挟む「じゃあ俺たちボル隊が先行だからな。
俺たちが魔獣を蹴散らしておいてやるから、お前らブーリ隊は後からのんびりついてこい」
「6年最強の人族ってもんをテメーらに拝ましてやるからな」
「びびって小便ちびんなよ」
「ヒューイはコイツらの面倒頼むわ」
「ああ。仕方ねぇな」
わははははは
ギャハハハハ
あははははは
先行ボル隊、人族5人の先輩たちが悠々と回廊を進んで行こうとしたんだ。
「ちょっと待てよ先輩たち」
ーーーーーーーーーーーーーー
後行のブーリ隊はユーリ隊長、ライラ先輩、セーラ、俺。それと辞退したシャンク先輩に代わって入った6年人族のヒューイ先輩だ。
「いいか。ブーリ隊隊長の俺様ヒューイ・スタンド様の言うとおりに動けよ。平民に獣オンナ」
「「「はい‥‥」」」
ヒューイ・スタンド先輩の親は法衣貴族なんだって。ほかの5人、10傑になった6年の先輩たちの親もみんなそうなんだって。
実はね。
これまで学園内でこの先輩たちの顔を1人も見たことないよなぁって思ってたんだよね。まあたしかに1800人もいるからってこともあるんだろうけど。
「(ライラ先輩。あの人たちって強いんですか?実は俺あんまりあの先輩たちに見覚えがないんですよね)」
「(そりゃそうよアレク君。あの人たちはね、この春に王都からきた転校生なんだよ)」
「(へぇー。どおりで全然見たことないって思いましたよ)」
「(去年からうちの領、景気がいいでしょ。だから王都から事務や経理の専門家を法衣貴族待遇でたくさん招聘したんだって)」
「(ふーん。それはいいんだけど、なんでいきなり10傑になれたんですかね?)」
ここでユーリ隊長が会話に参加。説明してくれたんだ。
「(アレク隊員、アイツらの武器みてなんか気付かないか?)」
「(えー?うーんわかんないなぁ。でもみんなレイピアですよね)」
「(アレク隊員、半分正解かな。じゃああいつらの服みてなんか気付かないか?)」
「(えーっと、長袖?)」
秋とはいえ、まだ暑い日のほうが多い。ほかの俺たちはみんな半袖だし。
「(それだよアレク隊員)」
「(長袖?‥‥えっ?
それってユーリ隊長‥‥まさか魔石付与の?)」
「(当たり)」
たしかに聞いたことがあるぞ。魔石を服に埋め込んだ魔力増強服ができたって。
その服を着たら魔力があるなしに関わらず、飛躍的に身体能力が向上するって。
それってアメコミの鉄男?ある意味ドーピングじゃん。
「(しかもアイツらこの学園ダンジョンの10傑に入るという名誉のためだけに人を雇って武闘祭用の特訓をしてきたんだとよ)」
「(あっ。ユーリ先輩私もそれ聞きました!レイピアの突きだけを強化して武闘祭対策をしてきたって)」
ライラ先輩が呟いた。
「(魔力増強服は世の中に出たばかりだし、だいたいそんな高い服を買える生徒なんていないからな)」
「(そんなのいいんですか?)」
「(良いも悪いも。魔力増強服を着ていいのかなんてルールも規約もないからな)」
「(そんな高い服なんて買えないわ。だいたい誇りあるヴィヨルドの獣人はそんなことで勝つなんて卑怯なことしないわ)」
「(そのとおりだよライラさん)」
魔法衣を着た武闘祭のルールでは木爪の獣人は不利と言わざるを得ない。しかもそこに対戦相手が刺突に特化したレイピア装備ならば……。
「(私も聞いたことあります‥。でもそれってやっぱり卑怯だと思います)」
セーラも呟いた。
「(マジかよ‥‥)」
武闘祭に勝つためだけに魔力増強服を着てレイピアの刺突に特化する。たしかに手段を選ばすに10傑に入りたい奴ならあり得るかもな。
「(親が法衣貴族様だから金はあるだろしな)」
「(だから6年なのに1組2組じゃないんですね)」
「(ああ)」
もうねガッカリだよ。馬鹿らしくて馬鹿らしくて。
ーーーーーーーーーーーーー
ゴロゴロゴロゴロ‥
いよいよダンジョンに登る直前のことだ。
たくさんある木箱を前にリアカーを曳いてきた俺にその先輩たちが言ったんだ。
「おい2年生。これをお前のりあかあに積んでいけ」
「ちよっ‥」
「セーラもういい」
「はい先輩わかりました‥」
リアカーに山のような荷物を載せて俺はみんなのあとをついていく。ちなみに山のような荷物の過半数はボル隊の先輩たちのものだ。
その多くが生のオーク肉の塊。これだけ買ったら相当な金額だよな。でもこの肉、塩蔵じゃないよ。生肉の塊。こんなの1晩もすれば傷むのにね。野菜なんかもちろん持ってきてないんじゃないかな。葉物野菜なんかが最初のころは貴重なのにね。あーなにこれ?大量の着替えやなんと化粧品?もあるみたい。
でもどうしたらいい?
どうしたらこんな人たちの誤りを糺すことができる?
年功序列の考えも間違えてる。
人族優先の考えも間違えている。
ダンジョンに取り組む姿勢も準備も間違えている。
間違えていることを箇条書きにしたらどれだけになるんだろう?
前回の6年1組の先輩たちとの生命を燃やしながら進んだダンジョンからまだ1年も経ってないんだよ?
ただわかったこともあるんだ。
それは過去のダンジョン記録は10傑専用の部屋で10傑にしか閲覧できないってことなんだ。
つまりそれは学園ダンジョンに挑む前から個人のその資質を、パーティー、チームの資質を問われているんだってことを。
前回の先輩たちは回廊を歩く練習から通常時のフォーメーション、撤退時のフォーメーション等々までをくどいくらいにやっていた。努力しすぎることはないって。
それでも俺たちは負けたんだ……。
「アレク?」
「ああセーラ、先輩たちに言っとかなきゃな」
先行ボル隊、人族5人の先輩たちが悠々と回廊を進んで行こうとしたんだ。
「ちょっと待てよ先輩たち」
「なんだよ2年生。お前ホントにうぜぇぞ!」
「「そうだそうだ!」」
「だから平民は嫌なんだよ」
「ウゼー」
「うざっ!」
「だからなんなんだよ!」
「先輩たち魔力増強服着てるんですか?」
ハッ!
ハッ!
ハッ!
ハッ!
ハッ!
ハッ!
「き、き、着てたらどうだって言うんだよ!」
「そ、そうだぞ。てめーになんか迷惑でもかけたかよ!」
「「そうだそうだ」」
「だいたい貧乏人に買えるわけねーわ」
「わかりました。でもこれだけは覚えておいてください。
助けてほしいときは、『助けてください。お願いします』って言ってくださいね」
「「「な、なに!」」」
「何様のつもりだテメー!」
「誰にもの言ってんだよ!」
「このくそガキが!」
「何様って。俺らただの平民ですよ。
ただ‥‥
お前らと違って実力で10傑になった4人だけどな」
モワンッ モワンッ モワンッ‥
「おぉーアレクも出るじゃん!やればできるじゃん!ラ◯ウ様が」
シルフィが楽しそうに言った。
「「「ヒッ!」」」
「「「くっ!」」」
「い、行こうぜ。こ、こんなガキなんかほっといて」
「そ、そ、そうだな」
「「「行こう、行こう」」」
逃げるようにボル隊の先輩たちが駆けだして行ったよ。
「ああああああああぁぁぁぁぁ‥」
ブーリ隊のヒューイ先輩は腰が抜けたのかな。
「アレク君!」
ギュッ!
ライラ先輩が後ろから俺を抱きしめてくれたんだ。
「チッ!」
ブッ!
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