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第2章 幼年編
396 援護
しおりを挟む王都
謁見の間での会議のあと。
三々五々に王宮を退出する領主たち。その中にはあの領主一行の姿もあった。
「早く帰るぞアダム。こんな場所は息が詰まる!」
「仰るとおりですな」
「なにがヴィヨルドだ。なにがロジャーだ。なにが武道大会だ。くそっ!そんなもんレベル3を発現できる俺様が出場すれば即優勝だ」
「はい。シリウス様ならそうでしょうな」
「ええ、ええ若様ならば間違いなく優勝でしょうとも。それはもう間違いなくハイ」
籾手をしながらピタリ若き主人たちの後ろに付き従う小太りの男がそう応えた。
「ホセ、お前の息子もなかなか強いらしいな」
「いえいえ若様の足下にも及びませぬ。まあそれでもヴィヨルド学園4年の1組なのですがハイ」
「ヴィヨルド学園の1組とはすごいものか?」
「それはもうハイ。ヴィヨルド全土から選りすぐりの生徒300人の中からさらに上位30人が1組でございましてな。
これはもう尚武の気質が尊ばれるヴィヨルドでは尊敬の対象であり同世代の若者たちには垂涎の的と言われますな。まあ愚息もこれに入っておりますわハイ」
「ほぉ。ではホセの息子にわがヴィンサンダー領を代表して武闘大会に出てもらおうかな」
「ん?ブード?なにの大会でございますか若様」
「先ほど言ったではないか!」
「ハッ!あはは‥いやすみませんすいません。浅学ゆえ、ついついぼおーっとしておりましたわハイ」
「‥‥ったく。まあいい。それはな先ほど決まった武闘大会が‥」
お付きの者を従え極力人目に触れぬように。話しかけられぬように。
その一行の足運びには他の領主たち誰しもがあるゆとりがなかった。
知ってから知らずか。意図的なのかそうでないのか。
彼らのその想いとは対極にある3人組の内1人が大きな声で一行に声をかけた。
「待たれよ。ヴィンサンダー領主」
「ヒッ!?は、は、は、ま、ま、まさかロジャー‥」
「貴公がシリウス・サンダー殿か」
「は、は、はひっ、はひっ‥」
「ガハハハハハ。そんなに身を縮こまらせんでくれ。いくら若いとはいえ王宮で他領の領主を食ったりはせんわ」
「そうなのかロジャー。てっきりわしはそこな若者を食う気かと思ったぞワハハハハ」
「老師も思ったか。わしもだよわはははは」
「老師、若殿いい加減にしてくれよガハハハ」
ワハハハハ
わはははは
ガハハハハ
「たまさか目に入ったのでな。隣領なのに立ち話とはいえ直接会っての挨拶も初であろう」
「は、はひ‥‥」」
「「「‥‥」」」
「あらためて俺はヴィヨルド領ヴィンランド冒険者ギルドのロジャーだ。こちらがわがヴィヨルド領領主ジェイル・フォン・ヴィヨルド公、そしてこちらがわが王国の顧問にしてヴィヨルド領の顧問でもある老師ベルナルド・テンプル様だ」
「は、は、初めましてシ、シ、シリ、シリ、シリウス・サンダーです。ロジャー様‥」
「お初にお目にかかるジェイルだ」
「シ、シ、シリウス・サンダーでございます。ジェイル様‥」
「初めまして若君。手を出してくれんかの。これは握手といって古からの挨拶じゃよ」
「よ、よろしくお願いしますテンプル老師様‥」
「ああそちらのお方も宜しうの」
テンプル老師が両手で相手の掌を包むようにシリウス、アダムと相次いで握手を交わした。
「ん?して‥‥主様は?」
「ヴィンサンダー領家宰のアダムでございます老師」
「そうじゃったか。よろしくの家宰殿」
「ほう‥‥そこもとがな‥」
「ロジャー他領とはいえ家宰殿に対してその失礼な物言いはなんじゃ」
「いやね老師、先のアネッポの奸賊ジャビー伯爵の件は覚えてるだろ」
「ああそういうこともあったかの」
「ああ俺も聞いたぞ。アザリアに乗り込んだロジャーがアネッポの領都騎士団を壊滅したってな。わはははは」
「若殿やめてくれよ。俺は何もしてねぇ。あいつらが勝手にひっくり返っただけだよ」
「どうだかの」
「頼むよ老師も」
ワハハハハ
ガハハハハ
わはははは
「して。
それがどうしたロジャー?」
「いやね、ジャビー伯爵が手先にしていた商人。たしかゼニコスキーっとか言ったかな。
このゼニコスキーが尋問をやる前日に誰かに殺されちゃってね……」
「なぜそのような者の話をする?」
「いやなに、殺される前にゼニコスキーが家宰アダム殿の名前を言っていたよう気がするんだがな」
「そんなことあるわけなかろう。卑しくも1領の家宰殿だぞ」
「ああ。それがなゼニコスキーには誘導魔法をかけててな‥」
ピクッ
家宰アダムの目線がほんの僅か泳いだ。
「ふむ。アダム殿。ロジャーの失礼な物言い勘弁してくだされよ」
「はい‥」
「で、家宰殿は知らんのかな。ゼニコなんとかという男を?」
「いえ、存じ上げません」
「ご領主殿はいかがじゃ?」
「し、知りません。初めて聞く名前です」
「そりゃそうよの。賊の名前など知るわけはないわの。ほれみいロジャー」
「ああ。すまんかったな家宰殿」
「いえ‥‥」
「ただのご領主。そのゼニコなんとかという商人が貴領サウザニアの冒険者ギルドと商業ギルドに通じて不正を働いておったのじゃよ」
「‥‥」
「これはご存じかのご領主?」
「い、いえ。それも初めて聞きました」
「ヴィヨルド領と王都から出ておる商品に関しての不正じゃからな。看過できまいて。ん?」
「後ろに控えるそこもと。お主何やら顔色が優れぬようじゃが?」
「い、いえ。だ、だ、だだだ大丈夫でございます」
それは家宰アダムの配下ホセであった。
「ふむ。失礼したな。ではそろそろわしらも帰るかの」
「そうだな老師」
「ああそうだシリウス殿」
「な、なんでございましょうジェイル様」
「貴領出身の農民でアレクという者がおってな。アレク工房の名で数多の物を販売しておるのだよ。ご存じか?」
「アレク工房‥‥知りません」
「わはははは。まぁ知らなくて当然か。そやつが何かとわが領に貢献をしてくれておってだな。ただ出身の農村の様子を気にしておってな。
何やら法外な税で困っておるとかなんとか……。
農民の言うことだ。シリウス殿が気にすることもないが、まあ1つよしなに頼むよ」
「ははジェイル様」
「ではこれにて」
「「ご無礼する」」
「ああ俺からも1つ。俺の結婚式はどうでもいいんだが、武闘大会は楽しみにしておるよ。
北の辺境は武勇の誉れ高い貴領とわが領あってのものだからな」
「は、は、はひっ」
「「「では」」」
「「「失礼致します‥」」」
「ジェイル、ロジャー」
「「ん?どうした老師」」
「あの若君‥‥アレックス・サンダーの子じゃないの」
「「なに!」」
「まさか老師‥‥」
「ああ。今手を繋いだじゃろ。あの若者の手からは先代アレックスに繋がる魔力はまるで感じられんかったわ。隣におった家宰からの魔力に繋がるものしかの」
「ってことは‥」
「ああ。噂どおりというわけじゃの」
「「‥‥」」
「ほっほっほ。なるほどなるほどのぉ。そういうことか。たしかに女神様は粋なことをなされるのぉ。ワハハハハ。
我ら輪廻の中で会うべくして会うておるのよの」
「老師わかんねぇ」
「なんじゃロジャー。お前はタイラーと同じで頭が筋肉からできておるのか」
「タイラーと一緒にするない」
わはははは
がはははは
ワハハハハ
「しかし珍しいのロジャー。お主があそこまで雄弁に語るとはの」
「まぁあのくそガキは嫌がるだろうな。
若殿にも悪いことしたな。俺の意を汲んでくれて」
「わははは。なに大したことじゃない。次男坊主の大事な学友のことだからな」
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