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第2章 幼年編
395 国際武道大会
しおりを挟む【 閣議 in 王都謁見の間】
「ロジャーは出んのか?」
「王よ。ロジャーはいかん。というかやはり大会自体をやめた方がよいかの」
「なぜじゃ老師」
「それはの、ロジャーを出したとする。ロジャーの圧倒的な武力を見せつけることが他国に対して良い牽制、抑止力にはなろうわな。ましてロジャーやタイランドクラスの武人がいる王国が勝てば民にもよい喧伝にもなろう」
「そうじゃよな。それのどこがいかんのじゃ老師。中原に王国ありと誰もが思うじゃろ」
「いや逆じゃよ。問題は内にあるんじゃよ」
「内とな?」
「此度の閣議も本来はロジャーの結婚のお披露目を王都ではなくヴィヨルドでやるという決定だけだったはずじゃ。
それがどこでこうなったのやら。
或いはこの話自体が‥‥まぁよいわ。
よいかの王よ。
ロジャーの結婚披露の宴をヴィンランドでやる。今何かと話題のヴィンランドでじゃ。それに合わせて中原の各国から猛者を集めて武闘祭をやろうと話が上がったのもヴィンランド、ヴィヨルド領じゃ。
ヴィヨルド、アザリア、ヴィンサンダーは王都からは最北のまさに辺境の地じゃったはず。
ことにヴィヨルドは北の護りの要として武勇は王国内随一と名高いものじゃったわな」
「そのとおりじゃ老師」
「それがどうじゃ。そんな辺境の武勇だけが優れたとみられておった領が急速に経済力をつけ始めたわけじゃの」
「‥‥」
「ただでさえ王都騎士団の精鋭半数をヴィヨルド勢が占めつつ、冒険者ギルドにはロジャーとタイランド。さらには領主ジェイルの息子、若き天才ヘンリーたちも育っておる。そんなヴィヨルド領から名のある武人が出場でもしてみい」
「王国が開催する初の国際大会。そこで王国から優勝者が出て何がいかんのじゃ老師」
「勝つからダメなのじゃよ」
「なぜじゃ?」
「そりゃ武道大会をやればヴィヨルド勢が圧勝するわの。じゃがそれは間違いなく痛くもない腹を探る輩が出ようの」
「どういうことじゃ老師」
「これはの王よ。永くさまざまな国の興亡を見てきた年寄りの戯言じゃよ。
まだ歴史の浅い王国ゆえにの、なにかと野心を持つ者がおるのも仕方のないことなのかもしれん。わしはそうした国を幾度も見てきたからの。
じゃがの‥‥
国の乱れはまずは内側からじゃ。
今のヴィヨルドにはちょうどいい材料が揃っておるのじゃよ。
尚武一辺倒から経済力を有した辺境。これまでのバランスを崩す存在になりつつあるわ。なにせ武勇だけは国内随一じゃからの。
それを快く思わぬ者にとっては面と不満は言えまいの。
先日のアザリア。ご領主を毒物で飼い殺しにしとった輩もその領兵すべてをもってしてもロジャー1人には敵わなんだ。だからじゃよ。
このままヴィヨルドで結婚式に武道会をやるならば王よ、お主を思っての諫言ならぬ疑念を抱かせる甘言が続くじゃろうな。けしからんヴィヨルドを皆して討てとな。どうじゃジェイル」
「はは老師。わがヴィヨルドは王への忠誠にいささか揺るぎはございませぬ」
「うむ。よう言うたジェイル。老師わしはヴィヨルドの忠義を疑うたことなど一切ないわ」
「そうよの王よ。ヴィヨルドに二心無いのは間違いないわ。
それでもじゃ。
武に経済力をつけた今のヴィヨルドを快く思わん者は何やら画策しようわな。
それが王都より離れた北の大領ヴィヨルドであるがゆえにの」
「それでもじゃジェイル」
「はっ老師」
「虚言から向かってくる刃。お主らヴィヨルドはどう対処するかの」
「‥‥致し方なしでしょうな老師」
「それは刃には刃。力には力でで返すというわけじゃの」
「フッ。どうでしょう」
「老師‥‥?」
「王よ。内乱にでもなってみい。それは得をする者の思う壺ぞ」
「‥‥それでは仕方ないのか老師」
「王よ。国際武道大会をやめておけとは言わんよ。せめて未成年者を限定とした武道大会であればよかろうな。
ヴィヨルド領が強いとはいえ、これまでに未成年だけの大会は王国はおろか中原でもなかったからの。ひょっとしてヴィヨルド以外にもひょっとする領が現れるかもしれん。
さらには他国の次世代の力を知り得ようしな」
「そうか未成年者の武道大会とな。ふむふむ」
「未成年とはいえ王国の隆盛を他国に知らせるのにはいい機会じゃろう。しかも王都を離れた北の辺境の地での開催じゃからの。
どう思うの宰相殿?」
「はい。私も老師のお考えに賛成致します。未成年者の国際武道大会を行い、その後に各国のお歴々を集めての結婚式。大いにサンダー王国の名を高めてくれましょうな。
他国からも海路であればヴィヨルドまでは陸路よりも早く着きましょうからな」
ざわざわざわざわ‥
ザワザワザワザワ‥
ざわざわざわざわ‥
ザワザワザワザワ‥
「国王陛下?」
こくん
「ではこの秋の国際武道大会は未成年者のみとして開催する。
場所はヴィヨルド領領都ヴィンランド。期日はロジャー殿の結婚式の前日を決勝とする。よろしいか各領の領主殿」
「「はは」」
「「承った」」
「「あいわかった」」
「「了解した」」
「国王陛下より最後に一言‥」
「ではよいの皆の者」
「「「ははぁー」」」
「では詳細を宰相から‥」
「(ロジャー)」
「(ん?なんだ老師)」
「(アレク君は出るんじゃろうな)」
「(いやあいつはダンジョンだからな出れんよ)」
「(なんじゃそうなのか。つまらんのぉ)」
「(ガハハハ老師もすっかりあの馬鹿がお気に入りなのかい)」
「(わはは。主もだろうて)」
「((わはははは))」
王都にて。
今秋のロジャーの結婚式とその日取りにあわせて、王国初の未成年者が参加する武道大会がヴィヨルドで開催することが決まった。
王国内のすべての領はもちろん中原の名だたる国家から次代の猛者が集まる。
だが‥‥学園ダンジョンにいるであろうアレクには関係のない話であった。
▼
「ロジャー結局どうだった。何やら面白くなりそうだってな」
「ああタイラー。俺の結婚式に合わせて未成年者の国際武道大会が決まったわ」
「ガハハハ。アレクの奴ダンジョンがなかったら出たいって絶対言っただろうなガハハハ」
「ワハハハハまあ仕方ないわな」
そして月日はあっという間に秋。ヴィヨルド学園でも武闘祭を迎えることになる。
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