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第2章 幼年編
391 1年春休みの終わり
しおりを挟むサウザニア冒険者ギルドからギルド長と受付嬢の1人が辞めたのはそれからすぐのことだ。
「アレク君次のギルド長誰だか知ってる?」
「知ってるも何も俺が知ってる人ってマリナさんとグレンさん、あと顔見知りなのは受付の女の人とグレンさんの部下の人たちくらいじゃん」
「そりゃそうよねーフフフ」
「えっ?!」
「マジ?」
「マジ」
「まさか‥‥?」
「そう。まさかよ」
「ええぇぇぇぇぇーーーーー!」
サウザニアの冒険者ギルドのトップにはグレン(グレンフラー)さんが就くことが内定してるんだって。なんかいい加減っぽいグレンさんだけど曲がったことは大嫌いな人だもんな。これでサウザニア冒険者ギルドの風通しもよくなるだろうな。ロジャーのおっさんやタイランドのおっさんと仲良しだから実は強いのかもしれないし……。
ギーーーーッッ
と、開扉を開けて冒険者ギルドに入ってきたのは‥‥。
「おお!弟分!」
「アレク帰ってきてたんだな」
「久しぶりじゃねぇか!」
「や、やあ!(マジで気づいてないんだなぁ‥)」
「あんな弟分、俺たちアザリアのアネッポから帰ってきたばかりなんだよ」
「へ、へぇー」
「でな弟分、ヴィヨルドにすんげぇ兄貴がいたんだぜ。背格好はお前に近いんだけどな」
「「すごかったよなぁ」」
「「うんうん」」
「そ、そうなんだ‥」
「ずっとお面被ってて顔は見てねぇんだけどな。ありゃ剣も魔法もよ、めちゃくちゃすごかったんだわ」
「「だなぁ」」
「そんでもってさらにすごかったのはロジャーさんだよなぁ」
「「おぉ。ロジャーさんがすごかったよなぁー」」
「そんでな‥」
あーこりゃ話が終わらないな。
「マリナさんまた!鉤爪の3人もまたねー!」
「なんだよアレク最後まで話聞いてけよ!」
「俺もう春休みも終わりだからヴィヨルドに帰らなきらならないんだよ!またね!」
「「「うおーい!」」」
「そういや弟分のアレクもヴィヨルド学園だったな」
「狐の兄貴と一緒じゃんか」
「しまったー狐の兄貴のこと聞けばよかったな」
「「そうだなぁー」」
そんな鉤爪の3人をマリナさんは生暖かい目で見ていたという……。
冒険者ギルドと同じように商業ギルドからもギルド長と受付嬢が1人辞めたらしいよ。
「アレク君何か知ってる?」
「えー俺が知るわけないじゃん。サンデーさんにでも聞いたら?」
「ああその手があったわね!」
商業ギルドのお局受付嬢のピーナさんが俺の返答になぜか納得していたんだ。
「それよか何よアレク君!久しぶりに帰ってきたのにいきなりお局様って何よ!」
「そんなこと言ってないよ!ピーナさんは『お』となの『ツ』ヤツヤ『ボ』ディの綺麗な女の人だなぁって言ったんだよ!(『ね』は出てこなかったけど)」
「あら正直ねっ!アレク君」
「(マジか?)あははは‥(チョロ!)」
「「クククッ‥」」
必死で笑いを堪える後輩受付嬢に気付かず、満面の笑顔になったピーナさんだった。
でもなんで公表しないんだろう。こんな不正があったんだって。
「大人はね、いろいろあるのよ」
マリナさんは半ば諦め混じりの顔でそう俺に言ったんだ。冒険者ギルドの受付嬢さん2人も「大人の事情よねーフフフ」ってわかったようなわからないようなことを言った。
「お前も大人になればわかる」
グレンさんの言い方が1番腹立つよなぁ。
商業ギルドのピーナさんに至ってはことの真相さえも聞かされてなかったし。
憶測ってレベルで伝えられたくらいだけだからね。なぜ不正があったって公表しないのか、俺はかなり不満だよ。だけど子どもが言ってもどうにも変わらないもんな。ただの駄々をこねるガキでしかないもんな。やっぱ発言権のある大人にならなきゃ。
▼
春休みの残りの日々はあっという間に過ぎた。
「アレク、父さんはシャーリーちゃんが書いてくれた文とミリアさんの描いてくれた絵でなんとか頑張って米を作るからな」
「父さん俺の書いたのも参考にしてくれよ」
「あ、ああ。ヨメタラナ‥」
予定どおり父さんの畠を1枚水田にしたよ。のんのん村とニールセン村にも水田を準備した。
「アレク田植えってけっこう重労働なんだね」
「そうみたいだな(実は田植えも昔爺ちゃんと何度もやったんだよね)
でも植えなきゃ米が実らないだろ」
「「だよねー」」
「そうだ!アレク田植えの格好してみてよ」
「う、うん‥」
「止まって!そのまま動いちゃダメよ」
「はい‥」
シャーリーとミリアに作ってもらった「お米栽培HOW TO本」も完成した。ミリアが描いてくれたイラスト(挿絵)もふんだんにあってとってもわかりやすい内容なんだよ。
毎度のことなんだけどシャーリーにはお米の栽培記録もとってくれるようお願いしたんだ。3村プラス俺のお米生育状況は手紙でシャーリーに届くことになってるよ。その記録も踏まえて来年までに加筆修正を加えてさらにいい本にしてもらえたらいいな。もちろん著者の2人にもお金が入るようにしたいな。
ーーーーーーーーーーーーー
干ばつ対策。
うちの村を含む3村の人たちにはふだんから意識的に畠を耕して土に空気を入れてってお願いしたよ。それはそれはくどいくらいにね。
雨がまったく降らなくても一応井戸や貯水池の準備もしてあるんだけどね。干ばつの怖さは作物の生育がダメになるのはもちろんなんだけど、1番怖いのは土の乾燥からくる火事なんだよね。乾燥しまくったら作物はもちろんなんだけどなんと土まで燃えるんだ。そんな火災はすべてを燃やし尽くすから怖いんだよね。
各村長にはさらに村全体の食糧品の備蓄もお願いしてある。おそらく夏以降は干ばつの余波で食糧品の高騰が避けられないだろうから。
「アレク君何から何までありがとう!」
「「「ありがとうアレク君!」」」
「これで本当に干ばつが来ても冬までがんばれそうだよ。なあみんな」
「みんな頼もしいわぁ」
「「「おぉ!」」」
のんのん村はいつもみんなが朗らかでチームワークも抜群なんだよね。そんな朗らかさはシスターサリーの笑顔そのものなんだよね。小柄で明るくてかわいい……。人族と狸獣人の仲もとってもいいんだ。だから干ばつが来たって乗り越えられるよ!
「アレク君ありがとうの」
「いえ俺は何にも。てか干ばつなんて来ずに笑い話になればいいんですよ」
「カッカッカッ。笑い話か!それはありじゃのぉ皆の衆。外れたら秋のデニーホッパー村のバザーでアレク君を笑ってやろうかのカッカッカッ」
「「「はいマモル神父様!ワハハハハ」」」
ニールセン村はマモル神父様を中心とした団結力がすごいんだよね。だからこの村も干ばつなんかに負けないと思う。
「じゃあアレク。それでも川が枯れたら山の上の池から水を引いてきたらいいんだな」
「ああ。水は冬まで枯れないくらいの水量を蓄えてるから大丈夫だよ。そんでも一気にたくさんは流し過ぎないでくれよ」
「「ああわかった」」
「水門はアールとジョエルの土魔法で開閉できるようにしといたからな」
「わかった。ありがとなアレク」
「街道に植えたデカサボテンの木は秋に葉っぱがいっぱい落ちるだろうからベンの風魔法で集めて堆肥にしてくれよ」
「わかったよ」
「ジャンはみんなの鍬や鋤がダメになったらどんどん磨いてやってくれよ」
「ああ。鍛治は任せてくれ」
「うちもだけどみんなの父さんたちがいつまでも楽しく飲んでられるようにみんな頼むわ」
「「「ああ」」」
うちの村はみんなの父さんたちがまだまだ若い働き盛りなんだよね。そこに若手の2代目のみんなが頑張ってくれてるから。やっぱり干ばつなんかに負けるわけがないよ。
村のサンデーさんにも干ばつ対策をお願いしたよ。こんなときは機をみるに敏な商人ならここぞとばかりにいろいろ買い占めるんだろうけどね。さすがはシルカさんだ。そんなことを微塵も考えていないみたいなんだ。ただ今のうちからいろいろな物を少しずつ買い込んでいってくれてるみたいだよ。サンデーさんにも話は伝わるだろうから、実際に干ばつが来てもサウザニアの広範囲に何かの一手は何か打ってくれるんだろうね。
ーーーーーーーーーーー
春休みもあと数日。シャーリーとミリアを連れてサウザニアに戻ってきたよ。
何度も乗ってレジャーと化していたリアカーも、今日は2人とも静かに乗っていた。なんでかな?
ミリアのご両親とは行きと同じ教会前で待ち合わせをしたんだ。
「「ミリアお帰り」」
「ただいま父さま、母さま!」
そう言ったミリアはお父さんとお母さんの元に飛びついたんだ。
「デニーホッパー村は楽しかったかい?」
「とっても楽しかったわ!」
「そう。それはよかったわ。ねぇあなた」
「そうだな。アレク君とシャーリーちゃんミリアと仲良くしてくれて感謝するよ」
そう言いながらミリアのお父さんが俺たちに深く頭を下げたんだ。
「あわわわ。ミリアは大事な友だちですから当然です。なあシャーリー」
「え、ええ!おじさまおばさま、ミリアはとっても大事な友だちなんですから」
「2人とも‥」
「「「ありがとう!」」」
ミリアのお父さんとお母さんはずっと笑顔だった。俺たちもうれしかったよ。
「(おじさん、よかったらこのリアカー使ってください。俺モンデール神父様から聞いてますから)」
「(アレク君‥‥いろいろ考えてくれてたみたいだね。本当にありがとう。いや今は言うまい。でも君は一体‥‥)」
「(俺はただの農民の子どもです。そしてこれからも変わりません。なにせミリアは大事な友だちですから)」
「(ありがとう、ありがとう‥)」
「父さまアレクと何をこそこそ話してるの?」
「何って。そりゃ男と男の秘密だよ。なあアレク君」
「はい!男と男の秘密です!」
「何カッコつけてんのよアレク!」
「そうよ!変態のくせに!」
「えーー最後まで変態言うか!」
フフフフフ
ワハハハハ
わはははは
「じゃあ2人ともまた来年な」
「「ばいばーい」」
「ばいばーい」
「いい春休みだったようだねミリア」
「はい父さま」
「ミリアはアレク君のことが好きなのかい?」
「えっ!?な、何よ!い、いきなり!」
「家に帰ってからって思ったんだけどなあ。今話すかなミリア」
「な、なに父さま?」
「父さんは正式に騎士団を辞めたよ。それからこの家名ともな。ミリアには申し訳なく思うがこれからはミリア・シュナウゼンではなくただのミリアになる。デニーホッパー村のアレク君やシャーリーちゃんみたいにな」
「そうなんだ。でも私は何にも寂しくないわよ。だって父さまも母さまもいるし。これからはずーっと3人一緒にいられるんだし!」
「そうね」
「ああそうだね」
フフフフ
わははは
「だからミリアはもう心配しなくていいんだよ」
「えっ?」
「父さまの言うとおりよミリア」
「じゃあ‥」
「ええ。婚約なんてしなくていいのよ」
「本当なの?」
「「ああ(ええ)」」
「だからなミリア、もし本当に好きな人ができたら連れて来なさい。たとえばアレク君とかな。あの子はいい子だな。しかも強くて経済力もある。父さんと母さんは大歓迎するよ」
「な、な、な、なんでよ!ア、ア、ア、アレクなんて、な、な、なんとも思ってないわよ。
でも‥‥
うんありがとう父さま、母さま」
「さあ帰るか。ああそれとなミリア。家は引越したからな」
「うん。父さま母さま、私‥‥なんとなくわかるわ」
「そう。えらいわミリア」
「わずか20日ですっかり大人になったな」
「あのね、村では何にもなくったってすぐに寝れるのよ。明るいうちは朝から楽しく働いてね、日が暮れたらずーっと話をして。そのうち眠ってしまうの。毎日があっという間だったわ」
「そうかい」
「アレクとシャーリーとノッカ村とニールセン村に行ったの。ノッカ村はね‥アレクがね‥」
―――――――――――――――
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