アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

390 決着

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 「わしが開発した魔法薬があっての。それがまた自分で言うのもなんじゃがようできておってのワハハハハ」

 「ククククッ」

 ご領主様を寝所に送り届けたサンデーさんも大笑いを堪えながら笑っている。

 あーついに始まるな。ゾンビの誕生シーンだよ!


 「(おいなんだそれ?知ってるのかお前)」

 「(うん。めっちゃ傑作なんだよ。俺この薬、帰りにテンプル先生にもらってミランダさんへのお土産にするんだ)」

 「(!なぜミランダに?なんか嫌な予感がするな‥)」


 「この魔法薬はの、接種した回数で色が変わるのが特徴なんじゃよ。回復薬や回復魔法とは一切の関係なくの。

 1回め。

 狐君の矢で射られれば身体全体が春の野の花びらの色となる魔法なんじゃよ。  
 おなごはまだしも男のピンク色はいただけんがの。

 2回め。

 次に狐君から射られればその色は全身が血のように赤くなるんじゃ。日がな身体中が赤い色というのは周りはどう思うかの?冒険者にはなれんわの。何もせんでも魔獣が襲ってくる色じゃろうからな。

 さて3回めはどうなると思う。

 それはのゾンビじゃよ。
 これはすごいぞワハハハハ。
 わしならもう人断ちするわの」

 「アレクあんたも自分で試せばいいじゃん!」

 「なんでだよシルフィ!」


 「さて。狐君や」

 「はい先生」

 「水樽ジュニアは先ほど勝手に子飼いの間者を殺したの」

 「はい先生」

 あーもうね、何も言わなくてもテンプル先生の言わんとしていることが俺に伝わるよ。

 「了解です先生」

 シュッ!

 「ぐはっ!」

 再び水樽ジュニアの手のひらに矢が刺さった。

 「これで2回めじゃと思うが、ジュニアは襲撃はしとらんと言いはるからの」

 水樽ジュニアの顔がさらに青くなった。

 「さらに先ほど。改心して正直に話そうとした騎士団員も殺そうとしたの」

 シュッ!

 「ぐはっ!」

 「はいこれで3回めじゃな。襲撃しとらんらしいから2回めかの。ならば赤い色じゃの。ああ矢が刺さったままではかわいそうじゃの。傷は治してやるかの」
 
 「キュア!」

 あっ。やっぱりエルフ族はヒールじゃなくってキュアなんだ。
 ぴかぴかーって光って水樽ジュニアの身体に刺さった矢が抜け落ちた。手のひらの傷も元通りになったよ。



 「さて答え合わせをしようかの」



 ごくんっ

 ごくんっ

 ごくんっ

 ごくんっ

 ごくんっ



 謁見の間にいる全員が固唾を飲んで見守っている。

 「まずは賊に加担した騎士団員3人。お主らは反省しとるかの?」
 
 「「「はい老師」」」

 「罰は受けてもらうことになるがよいかの」

 「「「はい‥」」」

 「ではこの色が消えるまで1年か2年。いつになるかわからぬが日々反省しながら精進せい」

 パーンっ!

 小さく何かを呟いたテンプル先生が手を叩いた。すると騎士団員3人の顔や手がみるみるうちにピンク色に染まったんだ。


 「「うわああぁぁぁ」」          

 「くそー!じじいめー!」
 「こうなったらせめてじじいだけでも!」

 騎士団員の中から顔をピンク色に染めた2人が逆上してテンプル先生に襲いかかった。

 「狐君。もはや慈悲は要らんぞ!」

 「はい!」

 俺は背の刀を抜いて鎧の脇から一気に刺突を放った。

 ダンッ!
 ダンッ!

 ザスッッッ!
 ザスッッッ!

 ぐはっ!
 ぐはっ!
 
 倒れ臥した2人の顔はピンク色のままだった。

 「残念じゃの。じゃが改心せん者はどれだけ機会を与えても治らんものじゃよ」

 テンプル先生は俺はの顔を見ながら言ったんだ。

 「さて‥‥もうわかるかの。
 あと残るのは商人ゼニコスキーとジュニアじゃ。
 ゼニコスキーは3回めとなるの。残念じゃがこれから発色する色は未来永劫取れんよ」
 
 あっ先生嘘言ってるよ。

 「真っ当に生きる人の世で生きるには厳しいかのぉハッハッハッ。
 ジュニアは襲撃しとらんのじゃろ?ならば先ほど2回射られただけじゃな。では赤い色が発色する期間が1、2年かの。

 ではさっそく」

 パンっ!






















 「ゾンビだ‥」

 「「ゾンビだ‥」」

 「「「ゾンビだーーー!」」」

 パニックとなる謁見の間。

 「ああ心配せんでもええぞ。本物のゾンビになるわけじゃないからの。まあゾンビには間違えられるがのワハハハハ」


 「いややあああぁぁぁぁぁーーー」

 「許してくれえええぇぇぇぇぇーーー」









 「迷惑をかけたサンデー商会のサンデーちゃんには今回加担した者たちの資産で償ってもらおうの」

 「はい先生!」

 あーサンデーさんの目が$マークになってるよ!

 「さて最後に約束じゃったなワグネルよ」

 「はは老師」


 「ロジャー」

 「ん?なんだ老師」

 「お主は今回何もしとらんからの。皆に少し芸を見せい」

 「芸っていうなよ。仕方ねえな。狐、あのたあたりに何か建ててくれ」

 「わかったよー」

 ズズズーーッッ
 
 俺はロジャーのおっさんの意図がわかったから瞬時に護り神様のポージングフィギュアを発現させたんだ。そう護り神といえばレベッカ寮長だよね。

 「「「な、なんと!」」」

 「「「す、すごい!」」」

 騎士団員が唖然としてるんだけど。大したことないよね?

 「騎士団員で攻撃魔法を発現できる者は何人でもいい。あの像を壊せる者はいるか?」

 するとしばらくして何人かの騎士団員が手をあげたんだ。

 その中で強い攻撃魔法を発現できるという選りすぐりの5人が挑んだんだ。

 「ああ。そんに遠くなくてええじゃよ。5、6メルで充分じゃ。アネッポの騎士団の力を我らに見せつけてくれんかの」


 「ファイアボール!」

 「エアカッター!」

 「石弾!」

 「ウォーターカッター!」












 「「「ハァハァハァハァ‥」」」

 「「「くっ‥‥」」」

 当たり前だけどレベッカ寮長はびくともしなかったよ。

 「次、この像を斬れる者は?」

 「「「‥‥」」」

今度は誰1人手をあげなかった。そうなるよな。

 「じゃあ俺がやる。ああ狐、後ろと左右に壁を発現しといてくれ。飛び散って壊したら弁償しなくちゃなんねぇからな」

 「わかったよ」

 ズズズーーッッ!

野球場のバックネットみたく塀を発現しといたよ。ああ床のカーペットはごめんだけど。

 ロジャーのおっさんは寮長のフィギュアの前の騎士団員からさらに5メルほど離れた位置から刀を振ったんだ。あーこないだよりかなり抑えてるな魔力。

 ブンッ!




 ドウッ!

 レベッカ寮長が袈裟懸け、肩から真っ二つになった。
 かわいそうな寮長……。
 







 
 「この狐は1年生。まあもうすぐ2年生になるがな。魔法でも剣でもいい。こいつに勝てる奴はいるか?ヴィヨルドにはこの程度の子どもはいくらでもいるがな」

 「「「‥‥」」」

 ロジャーのおっさんは最後に騎士団員に語りかけるように言ったんだ。

 「もうお前らわかるな?」





 「励めよ」





 「「「はい!!!」」」








 この後王国法務省の偉いさんのヤコブ・フロストさんが来たらしい。
 フロスト?あっ!スマイリー先輩の父親じゃね?レイピアと火魔法で俺が苦戦したイケメンのフロスト先輩だ!ビリー先輩の親友だよ。

 水樽親子は誘導魔法でこれまでの悪事の数々を洗いざらい話したという。
 あまりに犯罪があり過ぎて何日も聴取が続くみたい。
 その流れからヴィンサンダー領の冒険者ギルド長や商業ギルド長との癒着も見つかったんだ。だけど、ヴィンサンダー領領主との明確な繋がりはわからなかった。限りなく黒い疑惑はあるらしいんだけどね。

 ゼニコスキーはすっかり意気消沈したっていうか、まんまゾンビのようになったらしいよ。
 「ざますざます」と呟きながら誰も居なくなった自分の商会の中をふらふらするようになったらしい。その商会の建屋も近々に賠償金で没収となるんだって。それでも足りない分を含めて犯罪奴隷になるそうだけど。

 水樽親子、鎮台ジャビー・ド・ワイヤル伯爵親子は結局奴隷落ちになったそうだ。
 アザリア領アネッポからサンデーさんには莫大な補償金が支払われることになった。といってもそのお金のほとんどは不正に貯めた伯爵家からだから真っ当なご領主様の懐は痛まないらしいよ。


 テンプル先生やサンデーさんたちとはこの日の夕方に別れたよ。だって俺、今日中に帰らなきゃいけないからね。先生との再会が楽しみだな。

 ご領主様はこのままロジャーのおっさんの警護で王都で静養をすることになったそうだ。
 馬の●王は見れなかったよ。残念!





 「老師アレクをどう思った?」

 「アレク君はいい子じゃのぉ。ただ少し優し‥‥過ぎるかの」

 「やはりな‥」

 「道中あの子と大いに語らいあったんじゃがあの子は奴隷商がアザリアの経済を下支えしておることや人族の獣人差別に不満を覚えておった。
 あの子は人の善意を信じ‥‥過ぎておるな」

 「‥‥老師や俺たちがもう遥か昔に置いてきたものだがな」

 「そうじゃのぉ」


 「人というものには心に底知れぬ闇を抱えておるのからのぉ」

 「だな‥」
 

 「こればかりは経験と歳月しか解決策はなかろうな」

 「本当はワシが指導してやれば良いのじゃがの。こればかりは輪廻の導きに任せるしかないわの」

 「そうだな‥」




 【  ゼニコスキーside  】

 いつの世にも小悪党の末路は哀れなものだ。ゼニコスキーのそれもまた……。

 麻袋にはすっかり冷たくなったゼニコスキーがいた。皮肉にもその肌の色が似合う形となって。

 「このことを知っている者は?」

 「我々2人しか知りません」

 「そうか‥‥」



 「ではお前らも口を閉ざしてもらおう」





 こうしてサウザニアにおけるゼニコスキーの足跡は一切が不明となった。



 アレッポならびにアザリアから不正の温床が一掃され、ヴィヨルド領とアザリア領に強固な絆ができるのはこれから数年先のことだ。
 
 北の大地ではそんな良い風も吹きだしていたんだ。
 でも。
 ヴィンサンダー領には変わらぬ悪風が吹いていた。


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