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第2章 幼年編
370 のんのん村の対策会議
しおりを挟む「アレクあんたねぇ‥‥」
「それをやり過ぎって言うのよ‥‥」
シャーリーとミリアが呆れたように言う。
えーなんでだよ。
ちゃんと師匠やシスターナターシャの言うことを聞いて高すぎないようにしたじゃないかよ!平屋建ての階上時計台だよ?ぜんぜんOKじゃん。だからなんでシャーリーやミリアがやり過ぎだって言うのか意味がわからないよ!しかもこの食堂は村人全員は収容できないんだよ?たぶんよく入れて300人くらいじゃない?だからやり過ぎてないからね!うん。
「時計は朝の6点鐘に6つ、昼の12点鐘で12回、夕方の6点鐘にも6つ鐘が鳴りますからね。もし壊れたりしたらうちの村のチャン村長に言ってくださいね。俺の親友のジャンがすぐになんとかしますから」
「ありがとうねぇアレク君」
「ありがとうアレク君」
「「「ありがとう!」」」
ポンコーさんもシスターサリーものんのん村のみんなも喜んでくれている。俺もうれしいよ!
「じゃあせっかく新しい時計台ができたからこのまま村長や代表者のみんなは残って会議をするからなー」
そうポンコーさんが声かけをして10人くらいの人が残ったんだ。人族と狸の獣人が半々。みんな青年団の人たちだね。
議題はもちろん俺からの依頼。米の栽培と干ばつ対策だ。
時計台で湧き上がったみんなの上向きの気持ちをそのままにして取り組んでいってほしいんだよね。
「じゃあアレク君早速説明してくれるかい?」
「はい。まずはのんのん村のみんなにも取り組んでほしいお米についてお願いしますね」
「おこめ?」
「「なんだ?」」
「聞いたことあるか?」
「いや聞いたことないぞ」
「お米は俺がヴィヨルドのダンジョン内で見つけてきた穀物なんです」
「「「へぇー穀物なんだ」」」
「はい。文献によると(ウソだけどね)その昔は麦よりも人気の穀物だったそうなんですよ」
「へぇー麦より人気なんだ?」
「そうなんですよ。ただなにぶん地上に持ち帰ってきたのがわずかだから、今からみなさんの試食用に配るのはほんの一口分です」
「食べられるのね!」
「そりゃ楽しみだ」
俺はシャーリーとミリアに目配せして一口サイズの塩むすび(おにぎり)をみんなに配った。
「なんだ?真っ白の三角形みたいだな」
「細かな粒が固めてあるんだな」
「なんだかかわいいわね」
「食べてもらうのは稲という植物の実の部分、お米です。そのお米っていう穀物を水から炊き上げたものをごはんって言います」
「ごはんってあのごはん?」
「そうなんです。朝ごはんや夜ごはん。実物の米は無くなっても言葉だけは今も残ってるんですよね」
「へぇー」
「なぜなくなったのかはわかんないんですけど、どうやら麦より人気があったのも本当のようです」
「「「へぇー」」」
「じゃあなぜ?」
「たぶん栽培が難しいのかもしれませんがね」
「そんな難しいの俺たちにできるかなぁ」
「大丈夫ですよ」
実はそこのところはぜんぜん心配してない。まず稲自体がこの世界に無いってことはダンジョンの管理者から稲を見つけた者への贈りものなんだと俺は思っている。稲を米として認識している者への贈りものなんだって。お米自体の存在がないこの世界での贈りもの。つまりはお米を認識してるイコールそれが転生者への贈りものなんだっていうこと。だからこの世界での栽培が難しいことはないはずだ。たぶん水田でなくても陸稲でも育つんじゃないかって俺は思うよ。でもやっぱ稲作は水田だよなぁ。あらためて俺、まだ元気だった時分に東北の爺ちゃんからいろいろ教わってよかったって思ってるよ。爺ちゃんから教わったいろんなことがこの今の世界で役に立ってるんだからね。
「今から食べてもらうのはごはんに塩をふって形を整えたおにぎりというものです。じゃあまずは食べてみてください」
みんな興味津々にお米を見たり、くんくんと匂いを嗅いだりしていた。だけどみんなが俺の言葉と同時にすぐにパクってやったんだ。
昔チューラットのハンバーグの試食会がウソみたいだよ。あん時はみんなが躊躇して最初なかなか口に運んでもらえなかったもんなぁ。
もぐもぐもぐもぐ‥
モグモグモグモグ‥
もぐもぐもぐもぐ‥
モグモグモグモグ‥
「アレク君、おにぎり?こりゃうまいね‥」
「「「うまいなぁ‥」」」
「「「おにぎりかぁ‥」」」
「おにぎりはお米を水に浸してから炊いたごはんを握ったものなんです。作ったのは今朝。デニーホッパー村で作ったやつですよ」
「もぐもぐ。おいしいねアレク君」
「パンはめちゃくちゃ堅いのにお米は柔らかいんだね」
「これスープがなくても食べられるわ」
「でしょー。おにぎりにすると肉やスープがなくても食べられるんですよね」
「ちょっとしかないから残念だよ。もぐもぐ‥」
「あはは。試食が少なくてごめんなさい。これが大きかったらかなりお腹も膨れるんですけどね」
「「「あーなるほどね」」」
「このお米はそのままご飯として食べてもおにぎりにしても粉に挽いてもといろいろな食べ方があるんです」
俺はお米について一通りのことを話しつつ、その大きな可能性についても話したんだ。
「お米は春に苗を植えて秋に収穫となります。ダンジョンから採ってきたのはわずかしかないから、今年俺の作付予定ではデニーホッパー村、のんのん村、ニールセン村、ヴィヨルドの4箇所なんです。
ここのんのん村でも試験的に栽培をお願いしたいんです。うまくいけば来年再来年と作付けを広げていきたいんですよね。3年もすれば村の1年の食を賄う量が収穫できますし、余った分は俺のアレク工房が責任を持って収穫量ぜんぶを買いつけますからね」
「いい話だよな」
「ああ」
「アレク君ありがとうね。お米栽培に反対する人はいるかなみんな?」
「「「もちろんいないよ」」」
「「「ああ賛成だ」」」
「大賛成だよ!」
いきなりの話なのに、のんのん村を代表する青年団の誰もが賛成してくれたんだ。
会議の結果、今年の作付けはポンコーさんの畠を1枚水田に替えて試験的に運用することにしたんだ。
「じゃあポンコーさんには今年の稲の栽培をお願いしますね」
「ああわかったよ」
「あなた村の未来をかかってるのよ」
「ああ!」
「「「頼んだぞポンコー」」」
「任せとけ!」
「ポンコーさん、そんなに気負わないでください。なにせ初めてやるもんですから」
「でもねアレク君やっぱり失敗はできないよ」
「失敗してもいいんですよ。だからいろんな場所で試験栽培をするんですから。失敗してもいいから何が良くて何がダメだったかの記録をとっていってくださいね。4箇所のその記録が集まって年々良くなるはずですから」
「そうかい。じゃあ気楽に栽培してみるよ」
「はい!栽培方法の詳しくはあとで話しますね」
「ああ頼むよ」
「ではあともう1つ、あんまりよくない話をこれからしますね」
「「「ん?」」」
「「「良くない話?」」」
「はい。今年の夏おそらくヴィンサンダー領には日照りから干魃が来ます。雨が降りません。だからこのまま何もしなければ畠も枯れていきます」
「えー!本当かい?」
「残念ながらたぶんそうなると思います。なぜかは‥‥それは俺を信じてくださいとしか言えませんけど」
「「「‥‥」」」
みんなが押し黙ったんだ。
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