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第2章 幼年編
366 歓迎会
しおりを挟む「えー、ワシはデニーホッパー村町長のチャンです。シシカバブ一家の皆さん、よくお越しくださいました。歓迎しますぞ。デニーホッパー村はワシらが開拓をした‥‥」
「(お姉ちゃん、お爺さんたちのあの『シシカバブ一家』って変なの名付けたのお兄ちゃんだよね)」
「(決まってるじゃない。変な名前は全部お兄ちゃんよ)」
「(チャンおじちゃんの話はいつも長いよね‥)」
「(もう少しの辛抱、我慢よ‥)」
ーーー30分経過ーーー
「これからワシら若輩者にいろいろとみなさんのお知恵をお貸しくだされよ。それからミリア・シュナウゼンさん。お貴族様がようこんな田舎の村においでくださった。村のアレク君とシャーリーさんと仲良くしてくれてありがとうございますな。春休みを楽しんでいってくだされよ。そんでは短いけどワシの拙い挨拶は終わりまして」
「「「(どこが短いんだよ!!)」」」
「えーっとそれではアレク君に代わりにますの」
「(えっ?!なんで俺にふるんだよチャンおじさん!)えっ、えーっと‥みなさん、こんばんは‥」
「(お兄ちゃん緊張してるね)」
「(ホントね。ふふふ)」
「今日は2人の歓迎会です。
1人は領都サウザニアのミリア・シュナウゼンさんです。ミリアさんは貴族なのに田舎もんの俺やシャーリーにふつうに接してくれました。
それ以来友情が続いています。ミリアさんには春休みを村で過ごしてもらいます。
2人めはシシカバブ一家のみなさんです。遠くナゴヤ村から移民で来てくれました。みなさんとは俺がヴィヨルドから帰ってくる途中の黒い森近くでたまたま会いました」
「(アレク君はもうふつうに1人で黒い森を通ってヴィヨルドに行って帰ってくるんでしょ?)」
「(ああ、たぶんもう俺より強いだろうな)」
「(すごいわねー)」
「野営のときナゴヤ村だけで食べられている料理をふるまってくれました。そのナゴヤ村の郷土料理があまりにおいしくて俺は涙がでました」
「(何?!アレク君が涙がでる食いもんってか!)」
「(あいつがそこまで言うんだから相当うまいもんだぞ親父)」
「(ああそうだよな)」
「その料理の元になる植物の種をわがデニーホッパー村でも植えてもらおうと思ってます。この料理は間違いなく、デニーホッパー村の新たな名物になること間違いなしだと思います。今日はその料理を俺流にアレンジしたものを皆さんには食べてもらいます。
その料理についてくるのがお米という穀物です。これは俺がダンジョンで見つけてきました。なにぶん量が少ないのは勘弁してください。今年の春からは実際に栽培します。わが家含む3家と親しくしているノッカ村などで試験的に栽培してもらうことになりますが、うまくいけば秋にはたくさん収穫できます。順調にいけば何年かあとには中原中で麦を超える作物になると思っています。ただ、今日食べてもらう分は少ないのでお代わりはできませんからね」
「(あのご飯だよお姉ちゃん)」
「(ええ、また食べられるのね!)」
「「(楽しみー)」」
「えーっと話が長くなってごめんなさい。
では乾杯の挨拶を師匠お願いします」
「あーご馳走を前に不肖の弟子が長々と話して申し訳ない。ナゴヤ村からお越しいただいたシシカバブ一家の皆さん、ようこそおいでいただいた。これよりはこの村を終の住処としてゆるりと過ごされよ。まあ今のアレクが言ったナゴヤ村の郷土料理の栽培。ゆるりとしていられないくらい忙しくなるかもしれませんがの」
「なんのなんの神父様。まだまだこの歳で忙しく働かせてもらえるんならこんなうれしいことはにゃーですわい」
「アレク坊のおかげじゃ」
「「「そうだにゃ」」」
「ほっほっほ。善きかな善きかな。
さて領都サウザニアから来られたミリアさん。長い人生、その道を過ごしやすくするのもそうでなくするのも最も重要なことは仲間じゃ。わかるかの」
「はい神父様」
「ミリアさん。あなたにはシャーリーとアレクという仲間がおる。仲間を大事にの。それでは新しい仲間のみなさんに乾杯」
「「「カンパーイ!」」」
今日の歓迎会は久しぶりにみんなにふるまう料理なんだ。ダンジョンじゃないから食材をケチる必要もないからね。村の宿泊施設の当番、アンナのお母さんとシャーリーのお母さんにも手伝ってもらったからスムーズに作れたよ。
◯ 歓迎会今日のメニュー
オーク肉の串かつ
オーク肉のローストビーフ
チューラットのハンバーグ
カウカウミルクのホワイトシチューリズ鍋仕様
たっぷりオーク肉のカレーライス
飲みもの
大人用は冷えたエール
子ども用にはブードとリンゴーのジュース
春とは言っても正直夕方からは少し肌寒いからね。だから温かいものは必須。そんな温かいものは鍋自体に魔法陣で保温機能を付与したリズ鍋だよ。
カウカウのミルクのホワイトシチュー。温かくしてあるからますます美味しいと思う。
さっき狩ってってきたオークはローストビーフにした。村の芋から作ったマッシュポテトや人参、タマネギーを添えてあるよ。
ソースはもちろんメイプルシロップを使った甘めのソースだよ。
チューラットのハンバーグ(ツクネ)。最近は獲れるチューラットもぐんと減った。害獣だけに良いことだよ。
オーク肉の串かつは手が汚れないからいいよね。焼肉串は村のみんなは食べ慣れているけど、串かつは初めてじゃないかな。塩、甘酢ソース、マヨネーズ、タマネギーソース、カレーソースと味変も楽しいよ。特にマヨネーズにカレー粉を加えたカレーソースはみんなびっくりするだろうな。もちろんシシカバブ一家もね。この味を呼び水にしてこのあとはいよいよカレーライスを食べてもらうんだ。
「美味い。いつもながらアレク君の作るメシは美味いな」
「おいちい、おいちいアレク兄ちゃん!」
「お兄ちゃんみんな美味しい!」
「アレクあんた家の料理人さんより美味いわ!ツクネはアレクが作ったのはめちゃくちゃ美味しいわ」
よかったよかった。みんな大喜びで。さてさて、串かつはどうかな。
「アレク、これは何て言うんだ?初めて食べる美味い肉だ」
「ああこれは串かつって言うんだよ父さん」
「アレクちゃん、この柔らかい肉は何の魔獣なの?」
「ああこれはオークだよ母さん」
美味い肉と誰もが認めるオークはデニーホッパー村で食べたことがあるのはニャンタおじさんくらいだろうな。ああ、師匠とシスターナターシャは別だけど。
「オーク?!アレクちゃんダメよ。危ないわよ!」
「心配せんでええアレクのお母さん。大丈夫じゃよ。今のアレクならオークはまるで相手にならんからの」
「本当ですか神父様」
「本当じゃよ。だからなんも心配せんでええ」
「神父様がおっしゃってくれるなら‥」
「アレクに稽古をつけてくれて神父様あらためてありがとうございます」
「ありがとうございます」
やめろよ父さん、母さん。泣きそうになるじゃないか。
「さあみんなオークの串かつ、どんどん食べてくれよ」
串かつは大好評だったよ。文字どおり山のように揚げた串かつ山がどんどん標高が低くなってるよ。
「アレク坊、このソースはすごいにゃ」
「村の味がこんなふうに変わるんだにゃ」
「マヨネーズの味がいつもと違うけど‥‥」
「これがシシカバブさんたちの故郷の味なのね」
「「「旨~っ!」」」
やっぱりマヨカレー味はすごく評価が高かった。よしよし。それじゃあ一気にメインのカレーライスを食べてもらおうかな。
シシカバブ一家の食べてるカレーは肉や野菜をスパイスにまぶして焼いたものやスープカリーがほとんど。しかもナゴヤ村の郷土料理として認知されてるんだけどシシカバブ一家でさえもカレーという名前は知らないんだ。カレーって名前がないから今まで広がらなかったのかな。
そんなわけでシシカバブ一家でさえ、トロッとしたカレーを知らないんだよね。もちろんカレーライスはもっと知らないよ。でもさっき初めて食べたカレーマヨソースを口が覚えてる。びっくりするよー!
今日試験的に作ったのは油脂と小麦粉を合わせた日本式のカレーなんだ。だから当然お米に合うやつ。ついに実現したカレーライスだよ。
「じゃあ今日のメイン、カレーライスを食べてもらうね」
蓋を開けたとたん。大鍋に入れたカレーの匂いが食堂中に広がったよ。
「おお村の味の匂いじゃ」
「「ほおじゃほおじゃ」」
「さっきのマヨネーズの香りだ」
「いい匂い。たくさん食べたのに‥‥なんだかお腹が空いてきたわ」
「みんなに食べてもらうのがカレーライス。シシカバブ一家の調理料を俺がアレンジしたものだよ。お米を炊いたご飯、ライスって言い方をするそうだけどね、このライスと一緒にカレーを食べてね。ただライスのお代わりはないからね。大人用はちょっぴり辛いカレー。子ども用は辛くないカレーだよ」
ごくんっ
ごくんっ
ごくんっ
ごくんっ
ごくんっ
さあ初カレーだ。みんなの反応が楽しみだなあ。
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