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第2章 幼年編
363 奨学金制度
しおりを挟むゴロゴロゴロゴロ‥
キャーキャーキャー!
リアカーにシャーリーを乗ってもらって出発したんだ。だって早く着きたかったから。最初はキャーキャー言って怖がってたシャーリーだったけど。
ゴロゴロゴロゴロ‥
きゃーっ!あはは‥
だんだん慣れてきたのか下り坂とかカーブではキャッキャ言って喜んでた。時計載せてるからそんなにスピード出してないんだけどね。
「早っ!もう着いたの!」
驚くシャーリー。
「ねぇアレク。このりあかー?が無ければ村からどのくらいでサウザニアに着くの?」
「うーん。2点鐘ちょっとくらいかなぁ」
「マジか‥‥」
ホントはもっと早く着くんだけどね。シャーリーたちのように鍛えてる人族でもたぶん5点鐘くらいかかるのかな。ふつうの人ならしっかり半日はかかる行程。
ヴィンサンダー領は荒れてるから魔獣や野盗は少ないけどゼロじゃない。だから村から領都学校に通わなければならなくなる上級生にとってこの半日の距離は危険なんだ。だから領都に宿舎が必要なんだよね。妹や弟のためにも用意しなきゃな。そのへんも含めてモンデール神父様に相談しなきゃ。
「アレク帰りも乗れるの?」
「ああ帰りは時計がないからもっと早いよ。てか歩けよシャーリー!」
「じゃあミリアと乗る!」
すっかりリアカーの乗車に慣れたシャーリーが嬉しそうに言った。あー人の話ぜんぜん聞いてないよ!
リアカーに乗ってるシャーリーの姿からリズ先輩が思い出された。あの人いっつもリアカーで寝てたもんな。リズ先輩元気かな。
お昼ちょっと前に領都サウザニアに着いたんだ。シャーリーは学生証があるし、俺は領都学生じゃないけど冒険者ギルド証も商業ギルド証もあるからね。
「はいギルド証です」
「えっ?!嘘?」
「お前‥‥鉄級なのか?」
「はい」
「‥‥よし。通っていいぞ」
「アレクその冒険者ギルド証って?」
「ああこれだろ?」
「あんた‥‥鉄級じゃん?!」
「ああ。いつのまにかな」
「いつのまにかって、そんな子どもいないわよ!」
なぜかキレ気味に言うシャーリーだった。
「じゃあシャーリー、ミリアん家で準備ができたら教会待合せだからな。俺校長先生と話があるから」
「ん。わかったわ」
ミリアと別れた俺はリアカーを曳いて久しぶりのサウザニア領領都学校に足を運んだ。
「あらアレク君?久しぶりね」
「お久しぶりですケイト先生」
校長室に向かう途中。保健室のケイト先生が声をかけてくれた。エルフのケイト先生にはカーマンにファイアボールをぶつけられたときに背中の火傷を治してもらったんだ。
久々だけど‥‥ケイト先生はきれいだなぁ。えへへっ。
「アレク君も元気そうね」
「シーナもね」
ケイト先生に憑く風の精霊シーナは、弟に憑く水の精霊(ウンディーネ)のディーディーちゃんに似た雰囲気がある。お淑やか‥‥
じぃーーーーー
いやいやなんでもない。
「ヴィヨルドの学園ダンジョン。2位の記録だったんだってね。すごいわ」
「いえあれはマリー先輩たちがすごかったからです」
「ふふふ。マリーさんもすごいけどアレク君もよ。強くなったわね」
「いえ、まだまだ俺は弱いです」
「そう。じゃあもっと強くならないとね」
「はい。俺もっと強くなるように頑張ります」
ケイト先生とはあんまり接点がなくなったけど、機会あれば精霊魔法についていろいろ教えてもらいたいな。
「ケイト先生。また遊びにきてもいいですか?」
「ええ。いつでも来なさい。歓迎するわよ。また火傷しても治してあげるわ。ふふふ」
「あはは。火傷はもうしませんよ。じゃあまたきます。シーナもまたね」
「またねアレク」
「ケイト。あの子魔力がすごく増えてたわね」
「ええ。エルフもびっくりするくらいね」
「楽しみな子ねアレク君って」
「本当ね」
「「ふふふ」」
▼
「校長先生失礼します。ヴィヨルドに留学中のアレクです」
「どうぞ」
モンデール神父様はヴィンサンダー領領都学校の校長も兼務する俺の大切な恩師だ。
「久しぶりだねアレク君」
「はい校長先生」
校長室とはいえ学内はどこに誰の目があるかわからないから、こんなふうによそ行きの話し方になるんだよな。
「校長先生、これサミュエル学園長から預かった手紙です。どうぞ。あと冒険者ギルドのロジャー顧問からも預かってます」
「はいご苦労様。じゃあちょっと待っててくれるかい」
そう言ったモンデール神父様はサミュエル学園長からの手紙を読みながらクククッと笑っていた。
(なになにヴィヨルド学園から友情の証として時計を贈呈する‥‥時計はアレク君たちダンジョンからのドロップ品だ‥‥時計塔はアレク君が発現できる‥‥高さは学園より1セルテ(1㎝)でも小さかったらいいよだと‥‥間違っても同じ高さ以上にはするなだって‥‥クククッ。なになにそれからすばらしい人材を送ってくれてありがとう‥‥何か事があれば私もアレク君の保証人になる‥‥ヴィヨルドの冒険者ギルド長も顧問も商業ギルド長も同じ意向である‥‥おそらくはご領主様も‥‥誰かによく似た農民の子に期待しているのはお前だけじゃない‥‥)
ワハハハハ
心底愉快な感じでモンデール神父様が笑ったんだ。何書いてあったんだろ。俺がやったへまのあれこれかな。
「アレク君時計塔はいつでも発現できるんだね?」
「はい。いつでもOKです」
「サミュエル学園長からね、1セルテでも学園より低かったらいいらしいよ。ワハハハハ」
「あの‥‥校長先生はサミュエル学園長とは親しいんですか?」
「ああ。むかし昔のことだよ」
「サミュエル学園長も強かったんですか?」
「ああ。とても強かったよ。ただ彼は鉄級から上にはわざとランクアップしなかったんじゃないかな」
「わざとですか?」
「ああそうだよ。ランクが上がればギルドの命令でいろいろ行かなきゃいけないからね」
やっぱり。
サミュエル学園長は強かったんだ。鉄級のままでいたのは学園ダンジョンの近くで親友を待ち続けていたからなんだな。
モンデール神父様(学校長)からサミュエル学園長のいろいろな昔話を聞かせてもらったよ。
「じゃあ時計塔は学校で場所を決めたら建ててもらうよ」
「はいわかりました」
「さてアレク君、何か話があったんだよね。ちょっと待っててくれるかい?」
そう言ったモンデール神父様はケイト先生を呼んだんだ。
「あらアレク君また会ったわね」
「あはは。また会いましたね」
「校長先生?」
「ああケイト先生。お願いするよ」
「はい」
そう言ったケイト先生が両手を前にして何かを呟いた。手の周りに集まっていた魔力がスーッと校長室中に広がったんだ。
「えっ?!ケイト先生これって?」
「アレク君私の手から魔力が広がったのは見えたのよね?」
「はい。ケイト先生の両手から校長室全体に広がるのが見えました」
「アレク君、君はもう魔力が見えるのかい?」
「はいダンジョンの後半あたりから見えるようになりました」
「「ほう(へぇー)」」
モンデール神父様とケイト先生がお互い頷き合ってから俺を見て微笑んだ。
「今ケイト先生にシールド魔法を張ってもらったんだよ。これで何を話しても盗聴される心配はないからね」
あーやっぱり。
ケイト先生の魔法は盗聴防止の魔法かなって思ったんだ。シールド魔法。俺も使いたいな。ケイト先生に教えてもらいたいな。
「さて話はミリアさんのことだろ。あとデニーホッパー村のこともだね」
「はい神父様」
やっぱりモンデール神父様はなんでも知ってる。頼りになるよな。
「ああケイト先生は味方だからね。隠さずに話しても大丈夫だよ」
「はい」
「「ふふふ」」
ケイト先生とシーナが笑った。
俺はミリアのお父さんの話をしたんだ。でもたぶん俺以上にモンデール神父様の方が詳しいよな。そして今の俺でもできることは少しはある。
「モンデール神父様。来年から村の上級生の子たちがこっちの学校に通うための宿舎が必要なんです」
「そうだね」
「それと今通ってるミリアやシャーリーのような真面目な生徒がお金を気にせずに学校に通えることも大事だと思います」
「そのとおりだね」
「それで俺が考えていたことを聞いてください」
そう言って俺はアレク商会としてヴィンサンダー領で生む商いの利益を使って奨学金制度を作りたいって話をしたんだ。事務作業は寡婦や障害を抱えて困っている、真面目な人にやってもらえばいいし。
真面目に勉強に励む子どもたちがなんの気兼ねなく学校に通えるような奨学金制度を作りたいって。もちろんそこには俺の名前が出ないようにミカサ商会長やサンデーさんに相談したいって考えてることも。
「アレク君それはあれだね。今話題のメイプルシロップの利益だね」
「はい。だから同じ奨学金制度をヴィヨルド領でもやりたいと思います」
「‥‥どうですかケイト先生?」
「私からは何も言うことはありません神父様。申し分ありませんね。さすがは神父様の秘蔵っ子です」
「わかりました。じゃあアレク君。あとのことはケイト先生に任せよう。村の宿舎についてもね」
「はい。ケイト先生お願いします」
「ええアレク君。責任を持ってやらせてもらうわね。まずはアレク君がこっちにいる春休みのうちに何度か話をしましょうね」
「はいケイト先生」
それからはたわいのない話や俺のダンジョンでの話などをしたんだ。あっ!大事なことをモンデール神父様に言ってなかった。
「神父様。大事なことを忘れてました」
急に真顔になった俺にモンデール神父様はにこやかな顔をして聞いてくれた。
「あの神父様‥‥俺の生まれの話は‥その‥‥」
「ああ大丈夫だよ。さっきも言ったようにケイト先生はアレク君の味方だよ」
こくんと頷くケイト先生も微笑んでくれる。
「それじゃあ。ダンジョンに登った先輩に海洋諸国出身の先輩がいて俺はその先輩にすごく世話になったんです」
「そうかい海洋諸国の先輩かい。名前は何て言うの」
「キム先輩、キム・アイランド先輩です」
「アイランド一族ね」
「ケイト先生知ってるんですか?」
「ええ。海洋諸国を統べる主要な一族よ」
「斥候、暗殺、毒殺では中原でも指折りの一族だね。アレク君良い先輩と知り合えたね。ふつうはなかなか腹を割った話なんてできない一族なんだよ」
「はいとても良い先輩でした」
「でどうしたの?」
「はいキム先輩から毒薬のノクマリ草を扱うのはデグー一族だけだと教えてもらいました。デグー一族の王国でのルートを探れば父上が毒殺されたルートに繋がるかも知らないと教えてくれました」
「ケイト先生?」
「アレク君は良い先輩と関係を持ったわね。それ海洋諸国の一族以外は知り得ない情報よ」
「はい」
「ではさっそく王都のルキアに使いを出そうかの」
「神父様にあと1つお願いがあるのですが‥‥」
「ん?なんだい?」
「ミリアのお父さん」
「ああスミス殿のことだね。心配しなくていいよ。彼には学校の武道教官になってもらうから」
「ありがとうございます!」
さすがモンデール神父様だ。
「じゃあ失礼します」
「はい」
「またねアレク君」
(秋はロジャーの結婚式か。久しぶりにヴィンサンダー領にみんなが揃うな)
立ち去るアレクを見ながらそう思うモンデールだった。
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