355 / 722
第2章 幼年編
356 瓢箪からインド人?
しおりを挟む「じゃあ皆さん入っててください」
「ああ坊‥」
「なんでこんなところに貴族様のお屋敷が‥」
「ワシら夢を見とるんかの‥」
「やっぱりキツネコーンの幻術かの‥」
そしてお爺さんお婆さんたち6人が野営宿舎に入る前。居ずまいを正してお礼を言ってくれたんだ。
「坊。助けてもらって尚且つこんな素晴らしいお屋敷にまで上げてもろうて。ありがとうの」
「「「ありがとう」」」
「名乗りもせずに悪かった。ワシらはナゴヤ村の‥‥ああ、今は元ナゴヤ村の年寄りじゃ。ワシはシシ。こっちはカバ、こっちはブーじゃ」
(えー!?シシカバブじゃん!インド人じゃん!)
「あっ。俺はデニーホッパー村出身で今はヴィヨルド領のアレクって言いいます」
「ありがとうアレク坊や」
「アレク‥どっかで聞いたことがあるの‥」
「ああワシもどっかで聞いたことがあるわい‥」
「ワシもじゃ」
「私もじゃ」
「「「なんじゃったかのぉ?」」」
「ははは、まあまあ。まずは中に入ってください」
「ああアレク坊。お邪魔するの」
「じゃあしばらくのんびりしててくださいね。俺は魔獣を狩ってきますから」
お爺さんお婆さんたちには野営食堂の中に入ってもらい、俺は夜ごはん用の魔獣を狩りに行ったんだ。だってまさかこんなことになるなんて思ってもいなかったからね。食べものは自分用の塩とお土産用のメイプルシロップ、保存用のクーラーに入れたキーサッキーと魚くらいしかないから。さすがにお土産を食べるのは躊躇われるし。
食糧はすぐに確保できたよ。運良くオークがいたからね。
「じゃあ皆さん召しあがれ」
「あ、ああ。ありがとうなアレク坊‥」
「坊やありがとうね‥」
「(なあ婆さん、なんやら魔獣のキツネコーンに騙されたようじゃの)」
「(ほんにのう)」
「(でもワシら騙してもアレク坊に何の得もあらせんわの)」
「「「しーーっ!」」」
急遽の野営食堂メニューは獲ってきたオーク肉を塩で焼いたもの。ふつうに美味しいと思うよ。塩は香草で味をつけた特製アレク塩だし、肉は元々が美味しい赤身のオーク肉だからね。
もう1品オーク肉を練ったハンバーグも作ったよ。シンプル塩味のハンバーグ。戻した乾燥タマネギーと人参を入れただけのものだけど。
あとは持ってきた乾燥野菜を入れた骨つき肉のスープ。これは顆粒コンソメスープで味つけしてある。
ダンジョン飯を作ってきたおかげで、今ある物からどうしたら美味しいものが作れるのかを一層考えられるようになった。あるもので美味しく料理を作る。まるで南極の料理人さんだね。
◯ 野営メニュー
・ オーク肉のグリル
・ オーク肉のハンバーグ
・ コンソメスープ
「じゃあみなさん遠慮なく召しあがれ。お代わりもいっぱいありますからね」
「ほ、本当に食っていいんかアレク坊?」
「ごくんっ。本当かいアレク坊や?」
「まさかアレク坊‥‥婆さんの身体がめあ」
「(何の罰ゲームだよ!)はいはーい。早く食べないと俺が全部食っちゃいますよー!」
「「いっ、いただきます」」
「「「いただきます」」」
‥‥
‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
ここからはもう本当にすごかった。俺、飯を作るのが好きなのは、食べる人のこんな顔を見られるからなんだよね。
「こんな美味いもんは生まれて初めてじゃわい」
「婆さんワシら生まれて初めてオーク肉を食うたな」
「ほうじゃの爺さん」
「「うまいうまい!」」
「これは噂に聞くツクネかの。肉を刻んだという‥」
「ああ、これがツクネですよ」
「実にうまいの」
「「美味いのぉ!」」
「このスープもどうだ!」
「ワシらが食っとるものとはまるで違うぞ」
「「美味い美味い!」」
「もう死んでもええわい」
「「「ほうじゃの」」」
「こんなお屋敷の中に入るのも生まれて初めてじゃ」
「「「夢のようじゃ」」」
「「「ほうじゃのぉ」」」
「婆さん、ほれアレク坊を」
「はいはい!まだまだお代わりも食べてくださいよー!」
お爺さんもお婆さんもみんなが大喜びで食べてくれたんだ。
解体して持ってきたのは10㎏くらいのオーク肉。ダンジョンの仲間ならこれくらいじゃぜんぜん足りない。でもやっぱり高齢のお爺さんお婆さんたちには多かったみたい。
まだ食べてないオーク肉はけっこう余ったし。
「アレク坊、この余った肉はどうするんじゃ?」
「うーん。どうしましょう。塩をつけて干し肉にするくらいですかね」
「ワシら何もアレク坊にお礼もできんからの。せめてワシらの村の味つけで少し食べてくれんかの」
「もちろんいいですけど?」
「じゃあアレク坊にワシらの村の味つけで感謝を表すかの」
「「ほうじゃの」」
そう言ったシシカバブの代表シシ爺さんが腰に下げた麻袋から何かの調味料らしきものを出したんだ。
「ワシらの村は昔から貧しくての。だでたまに獲れる魔獣は残さず食うんじゃが、肉は
2日めからすぐに傷むじゃろ。貧しいワシらも臭い肉は嫌じゃからの。じゃから昔からこの種と木の根を潰して粉にしたものにつけて焼いて食っとったんじゃ。たまにはスープに入れたりしての。これは肉の臭いが消えるからの」
そう言ったシシ爺さんとカバ爺さん、ブー爺さん、シシカバブの3連星が流れるような共同作業を見せたんだ。小さな石の器とすりこぎみたいな石棒で種と木の根っこをトントン、トントン叩き始めたんだ。
シシカバブ3連星が叩いた粉を嫁の婆さん3連星がブレンドして肉にまぶして焼いていく。
立ち上るこの匂いは……。間違いない。カレーだよ!
(ま、ま、まさか‥‥)
(この匂いは間違いない!カレーだ‥‥)
(マジかよ‥‥)
「シン爺さん、これって‥‥」
「ああ。そりゃアレク坊は知らんわなぁ。ワシらの村の人間しか知らんからの」
「せ、説明してくれますか‥‥」
「ああ。これはコーリンダアの種じゃな」
「(少し爽やかな柑橘を思わせる香りだ。間違いない。コリアンダーだ)」
「これはクーミンの種じゃ」
「(クミンだよ!)」
「これはカルガモンの種じゃ」
「(カルダモンだよ!)」
「この木の根はウンコーじゃ」
「(名前アウト!でもウコン、ターメリックだよ!)」
「でこいつがチリリの実じゃな」
「(はいチリペッパー、唐辛子の登場だね!)」
マジかよ!
まさに瓢箪からインド人だわ!
爺ちゃんはよくスパイスカレーを自分で作ってたからな。当時喜んて爺ちゃんの手伝いをしてた経験とその記憶のおかげだよ!これでついにカレーが作れる。
しばらくして。
シシカバブの3家が焼いてくれた肉はあの懐かしいカレー味だった。
「う、ううっ‥‥」
「なんじゃアレク坊。そんなに不味かったか」
「いえ‥‥うますぎる‥‥」
「おお!この味をうまいと言ってくれるかアレク坊!」
「「「うれしいのお!」」」
「うまーーーい!」
ついにカレーの誕生だよ!帰ったら学園長にも報告しなきゃ!
「シシ爺さん、この種はどうやったら育つんですか?」
「「「わははは」」」
シシカバブ一家(もうこの呼称がピッタリだよ)の6人が大笑いしたんだ。
「どうやってってアレク坊。そのへんの地面に撒いたらなんもせんでも勝手に伸びるわい」
「ああ水撒きも要らんにゃ」
「根っこも土撒いときゃ放っといても生えてくるわい」
「村についたら俺が間違いなくシシカバブ一家の面倒をみますからね!」
「シシカバブ一家?」
「おもしろ名前じゃのおアレク坊」
「じゃあワシがアレク坊の嫁になろうかの」
「あわわわ!(だからなんの罰ゲームなのさ!)」
「「「わははは」」」
スープカレーやスパイスカレーは、このコリアンダー、クミン、ターメリック(ウコン)
、チリペッパー、カルダモンをブレンドすれば出来る。カレーライス用にはさらにこれらをブレンドして小麦粉と油脂を合わせれば日本の誇るカレー粉ができるんだよ。
白ご飯にカレー。やった、やった!ついに今まで不満だった食のマイナスが一挙に解決できたよ。醤油と味噌は米や麦から作る算段もできてるし。
ようやく俺的異世界飯が花開くな。
▼
シシカバブ一家とはこのあと3日かけてデニーホッパー村まで無事に着いたんだ。
「同じじゃ!」
「アレク坊が作ったのと同じ屋敷がある!」
当面の居住は村営宿舎になったんだけど、野営宿舎で3日すごしたシシカバブ一家はあらためて腰を抜かすくらい驚いていたよ。
―――――――――――――――
いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる