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第2章 幼年編
349 贈り物
しおりを挟む最後のときが迫っていた。別れのときだ。
明日の卒業式ではもう個人的に話をする時間なんてないだろうし。ああ‥‥。
「「アレク君(アレク)」」
シャンク先輩、セーラが目配せをする。
こくん
こくん
こくん
「先輩たちに。最後に僕たちから感謝の贈りものです」
「えーっ!何かしら。ありがとう!」
「「「ありがとう」」」
「「お前ら‥」」
俺が作ったのはみんなのフィギュアだ。大理石(マーブル)で1/16サイズで作ったんだ。木箱に入れてあるよ。腰だめに構えるのはタイガー先輩やゲージ先輩、キム先輩、オニール先輩。矢を番えるのはビリー先輩。オニール先輩のフィギュアはもうおなじみになった槍を背に見栄を切ったようなポーズ。
手を前に掲げるのは肩に乗るシンディとマリー先輩。風魔法を発現する前のポーズだね。リズ先輩は重力魔法を発現する前のポーズ。自分で言うのもなんだけどみんな会心の出来のフィギュアだよ。
シャンク先輩が贈った絵はみんな1人1人のデッサン画とみんなが揃った集合画。ポートレートみたいなものだ。写真がない世の中だからこれはいいな。うん、めちゃくちゃ上手い。てか俺も欲しいなって思ってたらシャンク先輩から俺とセーラの分もあるって!やった!やった!
さっそく写真スタンドみたいなものを作って部屋の机に飾ろう。
みんなの身体のサイズを知っているセーラからは白いシャツ。金の頭の分配金でこの服の布だけは買ったんだそうだ。やっぱセーラの服を作るセンスは非凡だよ。これふつうにフォーマルの席で着れるじゃん。
「俺たち何を贈ろうか3人ですっごく考えたんです。で考えたのがこれなんです」
「みんなの得意なことで作った贈りものなんです」
「僕も一生懸命描きました」
「ありがとうなシャンク。俺、家宝にするわ」
「ちゃんと着てくださいね先輩」
「お、おお。家宝にしたら着れないもんな。ここぞというときに着させてもらうわ」
「はい!」
そして10傑専用室の扉の前で1人ずつに手渡しをすることにした。
「もらってくれたらそのまま退席してくださいね‥お願いします‥」
「「「ああ(ええ/ん)」」」
だってね、ますます別れが辛くなるから。
俺たち3人が並ぶ前に1人ずつ先輩たちも並んだんだ。
「マリー先輩にはクラス分け試験のときからお世話になりました。本当に‥あり‥ありがとうございます」
あーだめだ。最初から俺の涙腺は崩壊してるよ。
「アレク君5年後は、王都学園に来るんでしょ」
「そのつもりです」
「待ってるわね」
「はい‥」
「ホーク叔父さんにもよろしくね。それとデューク叔父さんを救えるのはアレク君しかいないわ、ぜったい!」
あらためてマリー先輩から依頼された。どこまでできるかわからないけど、もっと先まで行こうと心に誓ったよ。
「シンディまたね」
「シルフィもね」
悠久の時を生きる精霊にとって5年という時間はほんの一瞬のことなんだろうな。
「じゃあねアレク君」
そう言ったマリー先輩が俺の肩に手をまわしてから頬にキスをしてくれた。
「う、ううっ。さよならマリー先輩。また‥」
「タイガー先輩、俺に体術を教えてくれてありがとうございました。それとタイガー先輩の漢らしい姿を見て
俺もそうなれたらって思います」
「アレク、俺の方こそお前からはたくさん学ばせてもらった」
「えっ!?」
「お前は今回のダンジョン10傑の中で1番成長したよ。俺はそう思ってるからな」
「タイガー先輩‥ううっ‥」
「まあ俺は領都騎士団に入るからそのうち会えるからな」
「はいタイガー先輩。また暇なときに体術を教えてください」
「ああもちろんだ」
卒業して領都騎士団に入るタイガー先輩。近くにいてくれると思うとあんまり寂しくなかったんだ。また体術も教えてもらいたいし。そうだ!ハンスと一緒にタイガー先輩のところへ遊びに行こう。
「オニール先輩ありがとうございました」
「おお3兄弟の弟!世話になったな」
オニール先輩は法国に帰ったら見習いから正式なモンク僧になるそうだ。
「いつか絶対法国にも遊びに来いよ」
「絶対に行きます。そのときはオニール先輩、法国を案内してくださいよ」
「そんなの当たり前だ。そん時はお前がまだ知らない大人の世界にも案内してやるからな」
「まままマジですか!」
「おおよ!」
「俺絶対に遊びに行きます!」
「「ワハハハ」」
そんな馬鹿な話をしながらもオニール先輩との別れは寂しかったんだ。だって法国はとても遠いし、何より今の俺が行く予定もないところだから。下手すりゃオニール先輩に再会できるのは何十年も先になるのかもしれないって思ったんだ。
「オニール先輩元気で!」
「お前もなアレク。法国にまで轟かすお前の伝説を期待してるからな」
「何の伝説ですか!?」
「そりゃお前、アレクの変態伝説だろ!」
「やっぱり!」
「「ワハハハハハ」」
「結局俺は最後までゲージ先輩の尻尾から抜け出せませんてでした」
「ギャハハハハ。でも最初の試験じゃないがオイの尻尾から抜け出た人族はお前だけたぞアレク」
「おお!じゃあ自慢できますね」
「ああ」
「「ギャハハハ(わははは)」」
「オイはオメーに生命を救われたと今でも感謝してるぞ。だからオメーが困ったらいつでも言ってこい。オイはすぐに駆けつけるからなら」
「そんなこと言わないでくださいよ‥ううっ‥」
ゲージ先輩とは馬が合ったんだよな。あっ、馬じゃなくて鰐か!
「オイもタイガーと一緒に騎士団に入るからそのうち領内で会おうな」
「はい!また会いましょう」
「ああ」
「リズ先輩‥」
「ん。アレクこれ魔法陣の初級の本」
「えっ!?俺にくれるんですか!」
「ん。たぶんアレクが躓きそうなところにはメモを書いてあるから一生懸命勉強するの」
「はい!リズ先輩」
「アレクは6年までに契約魔法を使えるようにするの」
「はいリズ先輩」
「それと‥‥」
優しい眼差しをしたリズ先輩が未来を予言するように俺に言ったんだ。
「いつか、そう遠くない未来に。アレクは里に来るの」
「えっ!?リズ先輩が生まれた魔法使いの里ですか」
「ん。里にはアレクのお母さんの秘密があるの」
「えっ!?それって‥!?」
「今は焦らなくていいの。でも‥いつかアレクはお母さんのことも知らなきゃならないときがくるの」
「母上の秘密‥‥」
「ん。じゃあ王都学園でまた会うの」
「はいリズ先輩」
「生命を救ってくれてありがとうなの」
そう言ったリズ先輩が俺の頬にキスをした。
「さよならリズ先輩、ありがとうございました」
「ビリー先輩‥」
「アレク君‥」
ビリー先輩は俺の憧れなんだ。背も高くてイケメンで、何よりその立ち居振る舞いから明晰な頭脳に至るまですべてがカッコいいんだよな。それでいてちょっぴり戦闘狂で。
「アレク君、先に王都学園に行って待ってるからね」
「はいビリー先輩」
「それと‥」
真面目な顔をしたビリー先輩が言ってくれたんだ。
「ヴィンサンダー領のことは僕がわかる限りを調べておくからね」
「ありがとうございます」
ああやっぱりビリー先輩は覚えててくれたんだ。ビリー先輩にはまた会えるから寂しくなかったよ。でもね……。
「ああアレク君。君はもう少し字の練習をしようね」
「はいビリー先輩‥」
最後はキム先輩だ。最初は俺と同じモブっぽい見た目の寡黙な先輩だなって思ってたんだ。正直、ちょっぴり苦手みたいな。
でもずっと一緒に行動してるうちに、俺はどんどんキム先輩の影響を受けたんだ。対人の戦闘術で言えばキム先輩の斥候術、暗殺術は群を抜いて凄いものだった。そして俺はキム先輩から数多くの技術を学んだ。感謝しきれないくらいに。
「キム先輩ありがとうございました。俺はどれだけ感謝しても感謝しきれません‥」
そんな俺にキム先輩が言ったんだ。
「アレク、お前の親父さんの毒薬のことだ」
「!」
意外というかそりゃそうかという話をキム先輩がしてくれたんだ。
「ノクマリ草は海洋諸国のデグー一族から出ている」
「えっ!?」
「海洋諸国裏のルールだ。1つの毒薬は1つの一族だけが扱うというルールがあるからな。ノクマリ草はデグー一族の王国ルートを調べてみろ」
「はいキム先輩‥」
「本当は俺が調べてやりたいところなんだがな。俺のアイランド一族とデグー一族はあまり仲が良くなくってな。すまんな」
瓢箪から駒って言うんだよな、これって。てかキム先輩は俺との関係性から他人に言ってはいけない大事なことを教えてくれたんだ。帰ったらモンデール神父様たちにも相談しなきゃな。
【 カーマンside 】
明日は卒業式か。
気に入らねぇ。気に入らねぇ。なんで俺様が
先に生まれただけの見ず知らずの奴らの卒業式に出なきゃいけないんだ!しかも獣人やエルフごときがなんで表彰されるんだ!くだらねえ。しかもあの馬鹿が10傑だというのも納得いかねぇ。あのとき俺は体調が悪かっただけなのに。
45階層!?フン!俺だったらもっと深くまで絶対に行けるはずだ。くだらねえ。気に入らねぇ!
最後の食事会が終わったよ。
「おつかれさま」
「「おつかれさまでした」」
「シャンク先輩‥やっぱ寂しいですね」
「うん‥」
「明日は笑顔で先輩たちを送りたいよね」
「「はい!」」
いっぱい泣いたから明日の卒業式は笑顔でお別れをしたいな。
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