アレク・プランタン

かえるまる

文字の大きさ
上 下
345 / 722
第2章 幼年編

346 実力の片鱗

しおりを挟む


 「「「あー怖かったな」」」

 コクコクコク‥

今のヒロコさんはマジで怖かった……。俺ゴースト以来、久々にちょっとチ◯ったかもしれない。

 「でもなんでヒロコさん、あんなに怖いんだよ?」
 「そりゃお前、ロジャーが結婚するミランダさんがヒロコにとって唯一の仲間、心の支えだったんだからな」
 「あーなるほど。それで秋からはヒロコさんがただ1人になるからと」
 「ああ」
 「特にアレク。お前気をつけねぇとヒロコに刺されるぞ。お前がロジャーにミランダさんを会わせたせいだって叫んでたからな」
 「どどどどどうしよう‥」
 「ガハハハ」
 「どうしようもねぇな。まっしばらくは気をつけろよ。ありゃ下手すりゃバブルスライムより怖いぞ」
 「ううーー」
 「誰か商業ギルドにいねぇのか」
 「いるわけないじゃん。太ったおっさんしかいないよ!」

その瞬間、髭を生やしたダンジョン大好きおじさんが頭に浮かんだ俺だった。






ロジャーのおっさんの結婚式についての依頼が終わったあとのことだ。
ロジャーのおっさんが言ったんだ。

 「アレク次の休息日は忙しいのか?」
 「うん?とくにないけど‥」
 「黒い森へメイプルシロップの視察に行くが、お前ついて来るか」
 「いくいく!」
 「俺も行くわ。ロジャーが居ねえと俺1人になるからな。1人だとヒロコの目が怖いからな」
 「「たしかに‥‥」」

ヒロコさんのさっきの目。あれはマジ怖かった……。


 「じゃあここを朝6点鐘に出るからな。まあ行って帰って半日だな」
 「うん」

楽しみだなあ。学園ダンジョンがあんな終わり方をしたせいもあるけど、今の俺はどうしたらもっと強くなれるのか、ずっと考えてるんだ。もちろん一朝一夕に強くなるわけはないし、強くなれる近道がないのもよくわかってる。
でも俺は今の俺より強い人をいっぱい見たいし、できるならアドバイスをもらいたいんだ。きっとそこになにかのヒントがあるだろうから。


タイランドギルド長(金級)とロジャー顧問(白金級)は冒険者ギルドランクでいうところの特級という最上位に位置している。一騎当千ってやつ。この場合の一騎当千は文字どおりに1騎が1,000人に相当するってことなんだ。1対1,000で戦っても互角以上の力を発揮するんだよね。
てか中原に数えるくらいしかいない特級ランクは、1人で師団単位を相手にできるっていうもんなあ。知らないけど大戦時のロジャーのおっさんはすごかったらしいから。

2人の特級冒険者。タイランドとロジャーのおっさんがいるってだけでヴィヨルド領にちょっかいを出す他国や他領はいないんだ。
また特級の2人と並び立つほどじゃないだろうけど、ヴィヨルド領の騎士団員も強者揃いって言われてるんだ。中原屈指の精鋭が揃う王都騎士団もヴィヨルド領出身者が多いそうだからね。王国でも有数の武闘派って言われてるのがここヴィヨルド領なんだよね。
今の俺は機会あれば強い人をいっぱい見たい気持ちが強い。だから週末の休息日は楽しみなんだ。







休息日の朝。
朝日があたる時計塔が輝いて見える。時計塔はヴィンランドのどこからでも見えるんだよね。自己満足かもしれないけど、良いのを発現したなぁ俺。
でも時計もらったのってついこの間のことなんだけな。だけどなんか懐かしいよ。あおちゃん元気かな。秋に会えるのが楽しみだよ。


 「「よおアレク」」
 「おはようございます」
 「ガハハハ。お前ときどき農民の子にしては貴族みたいに丁寧な挨拶するよな」
 「あはは。俺貴族みたい?貴族みたいに品がある?」
 「んなわけあるか!」
 「ガハハハ」
 「だよねー」
 「じゃあ行くか」
 「うん」
 「まずは黒い森の西端のコバック村へ向かうぞ。ここにメイプルシロップの精製工房があるからな。先頭はアレクだ。お前の速さでいいからな」
 「わかった」

 「あのヒューマンのおじさんたち魔力はすごいみたいだけど、私たちの速さについてこれるのかな。ニシシ」
 「どうだろうね‥」

たぶん2人は余裕でついてくるんだろうなって思ってる。まずはコバック村までだな。2時間くらいかな。

 「行くよ」
 「「いいぞ」」

 ダッ!
 グググウウウゥゥゥーーーッッ!

突貫。そしてブーストと加速。スピードにのってから風の精霊シルフィの加護を後ろから一身に受け、トップスピードを保ったまま一気に駆ける。

 サーーーッッ

流れる景色は新幹線の車窓から見るそれだ。
ダンジョンでキム先輩やリズ先輩から教わってから身体の魔力の流れがよくわかる。前方にある障害物や魔物なんかもかなりはっきりわかってきた。それはこれまでの感覚だけじゃない。これまでの視覚、聴覚だけでなく、気配や風の匂い、魔力の流れからも広く探知できるからなんだ。この5ヶ月のダンジョン探索のおかげだ。たしかに俺は成長したと思う。
なんだけど‥‥

 「ちょっとなによ!あのおじさんたち!」
 「わはははは。すごいよね!」

そう、さすがは特級冒険者だ。タイランドさんもロジャーさんもまったくもって余裕がある。散歩するみたいな感じで俺のあとをぴったりついてくる。呼吸の乱れもなしに。
そういやモンデール神父様の脚の速さもこんな感じだった。いったいどうなってるのかな。俺、前にホーク師匠の後をついて走ったとき、突貫にブーストで走ったけどあのときは体力的に長続きしなかったんだよな。おっさんたちは精霊魔法どころか魔法も満足に使えないはずなのに。

 「「ガハハハ」」

おっさんたち、息も切らしてないどころかなんか笑って走ってるよ。うん、単純にすげぇなあ。


そして予定どおりに。2時間もかからずにコバック村に着いた。
黒い森の西端。
コバック村はメイプルシロップの製造集積地と聞いていたんだけど……。


 「ちょっとなにこれ?!」
 「「ガハハハ」」
 「言ってなかったか俺?」
 「聞いてねぇよ!」 

村の前で何かをあんぐりと見つめる俺。

 「なんでアレク工房なんだよ!俺知らないよ!」

そこには大きな看板のゲートにデカデカとアレク工房と書いてあった。

 恥ずかしいわ!

そんなゲートをくぐってコバック村の工房に入る。工房には村長をはじめたくさんの村民が待っててくれた。

 「これはこれはようこそおいでくださいまきた。『救国の英雄』様に『鋼鉄の鉄槌』様。それと‥‥おぉあなたがアレク工房の坊っちゃんですな」

 「「アレク工房の‥」」

 「「坊っちゃん‥」」


 「「ガハハハハハハ」」
 「やめてーーー!!」

俺は恥ずかしさのあまりに赤面して耳を塞いだんだ。

 「明日マリーとシンディに教えよーっと」

シルフィも腹を抱えて笑っていた……。


 ―――――――――――――――

いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします! 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

なんか黄金とかいう馬鹿みたいなスキルを得たのでダラダラ欲望のままに金稼いで人生を楽しもうと思う

ちょす氏
ファンタジー
 今の時代においてもっとも平凡な大学生の一人の俺。 卒業を間近に控え、周りの学生たちは冒険者としてのキャリアを選ぶ中、俺の夢はただひとつ、「悠々自適な生活」を送ること。 金も欲しいし、時間も欲しい。 程々に働いて程々に寝る……そんな生活だ。 しかし、それも容易ではなかった。100年前の事件によって。 そのせいで現代の世界は冒険者が主役の時代となっていた。 ある日、半ば興味本位で冒険者登録をしてみた俺は、予想外のスキル「黄金」を手に入れる。 「はぁ?」 俺が望んだのは平和な日常を送るためだが!? 悠々自適な生活とは程遠い、忙しない日々を送ることになる。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

処理中です...