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第2章 幼年編
346 実力の片鱗
しおりを挟む「「「あー怖かったな」」」
コクコクコク‥
今のヒロコさんはマジで怖かった……。俺ゴースト以来、久々にちょっとチ◯ったかもしれない。
「でもなんでヒロコさん、あんなに怖いんだよ?」
「そりゃお前、ロジャーが結婚するミランダさんがヒロコにとって唯一の仲間、心の支えだったんだからな」
「あーなるほど。それで秋からはヒロコさんがただ1人になるからと」
「ああ」
「特にアレク。お前気をつけねぇとヒロコに刺されるぞ。お前がロジャーにミランダさんを会わせたせいだって叫んでたからな」
「どどどどどうしよう‥」
「ガハハハ」
「どうしようもねぇな。まっしばらくは気をつけろよ。ありゃ下手すりゃバブルスライムより怖いぞ」
「ううーー」
「誰か商業ギルドにいねぇのか」
「いるわけないじゃん。太ったおっさんしかいないよ!」
その瞬間、髭を生やしたダンジョン大好きおじさんが頭に浮かんだ俺だった。
▼
ロジャーのおっさんの結婚式についての依頼が終わったあとのことだ。
ロジャーのおっさんが言ったんだ。
「アレク次の休息日は忙しいのか?」
「うん?とくにないけど‥」
「黒い森へメイプルシロップの視察に行くが、お前ついて来るか」
「いくいく!」
「俺も行くわ。ロジャーが居ねえと俺1人になるからな。1人だとヒロコの目が怖いからな」
「「たしかに‥‥」」
ヒロコさんのさっきの目。あれはマジ怖かった……。
「じゃあここを朝6点鐘に出るからな。まあ行って帰って半日だな」
「うん」
楽しみだなあ。学園ダンジョンがあんな終わり方をしたせいもあるけど、今の俺はどうしたらもっと強くなれるのか、ずっと考えてるんだ。もちろん一朝一夕に強くなるわけはないし、強くなれる近道がないのもよくわかってる。
でも俺は今の俺より強い人をいっぱい見たいし、できるならアドバイスをもらいたいんだ。きっとそこになにかのヒントがあるだろうから。
タイランドギルド長(金級)とロジャー顧問(白金級)は冒険者ギルドランクでいうところの特級という最上位に位置している。一騎当千ってやつ。この場合の一騎当千は文字どおりに1騎が1,000人に相当するってことなんだ。1対1,000で戦っても互角以上の力を発揮するんだよね。
てか中原に数えるくらいしかいない特級ランクは、1人で師団単位を相手にできるっていうもんなあ。知らないけど大戦時のロジャーのおっさんはすごかったらしいから。
2人の特級冒険者。タイランドとロジャーのおっさんがいるってだけでヴィヨルド領にちょっかいを出す他国や他領はいないんだ。
また特級の2人と並び立つほどじゃないだろうけど、ヴィヨルド領の騎士団員も強者揃いって言われてるんだ。中原屈指の精鋭が揃う王都騎士団もヴィヨルド領出身者が多いそうだからね。王国でも有数の武闘派って言われてるのがここヴィヨルド領なんだよね。
今の俺は機会あれば強い人をいっぱい見たい気持ちが強い。だから週末の休息日は楽しみなんだ。
▼
休息日の朝。
朝日があたる時計塔が輝いて見える。時計塔はヴィンランドのどこからでも見えるんだよね。自己満足かもしれないけど、良いのを発現したなぁ俺。
でも時計もらったのってついこの間のことなんだけな。だけどなんか懐かしいよ。あおちゃん元気かな。秋に会えるのが楽しみだよ。
「「よおアレク」」
「おはようございます」
「ガハハハ。お前ときどき農民の子にしては貴族みたいに丁寧な挨拶するよな」
「あはは。俺貴族みたい?貴族みたいに品がある?」
「んなわけあるか!」
「ガハハハ」
「だよねー」
「じゃあ行くか」
「うん」
「まずは黒い森の西端のコバック村へ向かうぞ。ここにメイプルシロップの精製工房があるからな。先頭はアレクだ。お前の速さでいいからな」
「わかった」
「あのヒューマンのおじさんたち魔力はすごいみたいだけど、私たちの速さについてこれるのかな。ニシシ」
「どうだろうね‥」
たぶん2人は余裕でついてくるんだろうなって思ってる。まずはコバック村までだな。2時間くらいかな。
「行くよ」
「「いいぞ」」
ダッ!
グググウウウゥゥゥーーーッッ!
突貫。そしてブーストと加速。スピードにのってから風の精霊シルフィの加護を後ろから一身に受け、トップスピードを保ったまま一気に駆ける。
サーーーッッ
流れる景色は新幹線の車窓から見るそれだ。
ダンジョンでキム先輩やリズ先輩から教わってから身体の魔力の流れがよくわかる。前方にある障害物や魔物なんかもかなりはっきりわかってきた。それはこれまでの感覚だけじゃない。これまでの視覚、聴覚だけでなく、気配や風の匂い、魔力の流れからも広く探知できるからなんだ。この5ヶ月のダンジョン探索のおかげだ。たしかに俺は成長したと思う。
なんだけど‥‥
「ちょっとなによ!あのおじさんたち!」
「わはははは。すごいよね!」
そう、さすがは特級冒険者だ。タイランドさんもロジャーさんもまったくもって余裕がある。散歩するみたいな感じで俺のあとをぴったりついてくる。呼吸の乱れもなしに。
そういやモンデール神父様の脚の速さもこんな感じだった。いったいどうなってるのかな。俺、前にホーク師匠の後をついて走ったとき、突貫にブーストで走ったけどあのときは体力的に長続きしなかったんだよな。おっさんたちは精霊魔法どころか魔法も満足に使えないはずなのに。
「「ガハハハ」」
おっさんたち、息も切らしてないどころかなんか笑って走ってるよ。うん、単純にすげぇなあ。
そして予定どおりに。2時間もかからずにコバック村に着いた。
黒い森の西端。
コバック村はメイプルシロップの製造集積地と聞いていたんだけど……。
「ちょっとなにこれ?!」
「「ガハハハ」」
「言ってなかったか俺?」
「聞いてねぇよ!」
村の前で何かをあんぐりと見つめる俺。
「なんでアレク工房なんだよ!俺知らないよ!」
そこには大きな看板のゲートにデカデカとアレク工房と書いてあった。
恥ずかしいわ!
そんなゲートをくぐってコバック村の工房に入る。工房には村長をはじめたくさんの村民が待っててくれた。
「これはこれはようこそおいでくださいまきた。『救国の英雄』様に『鋼鉄の鉄槌』様。それと‥‥おぉあなたがアレク工房の坊っちゃんですな」
「「アレク工房の‥」」
「「坊っちゃん‥」」
「「ガハハハハハハ」」
「やめてーーー!!」
俺は恥ずかしさのあまりに赤面して耳を塞いだんだ。
「明日マリーとシンディに教えよーっと」
シルフィも腹を抱えて笑っていた……。
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