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第2章 幼年編
345 甘い縁
しおりを挟む「アレク君顧問とギルド長が待ってるわよ。早く行きなさい!」
「あっ、は、はい‥」
帰宅後の寮に「明日の放課後来い」って伝言があったから冒険者ギルドに来たんだけどね。
なんかね、ベテラン受付嬢のヒロコさんがね、開口一番怒ったような口調なんだよ。しかも三角目になって俺を睨んでるし……。
(え~っ!?俺また何かした?まだ行き遅れなんて思ってもないよ!なんで?)
「それよそれ!キーー!悔しいぃぃぃぃぃーーーー!」
「(アレク君早く2階へ行ったほうがいいわよ)」
「「(早く、早く!)」」
「う、うん‥‥」
若い2人の受付嬢さんがヒソヒソ声で助け舟をだしてくれた。
でもなんなの?
なぜかわかんないけどヒロコさんがハンカチを咥えてギリギリ歯ぎしりをしながら俺を睨み続けていた……。
あれ?こないだまでのダンジョンの魔物と同じ目じゃん。目が真っ赤になって血走ってるよ!コワッ!
「ちーす」
「おおアレク来たか」
ギルド長室にはいつものようにギルド長のタイランド(タイラー)さん、顧問のロジャーさんの2人が椅子に腰かけていた。
このおっさんたち、こんなガチムチの汗臭そうなおっさんのくせに、タイランドギルド長は金級、ロジャー顧問は白金級と2人揃って特級なんだよね。むさいおっさんのくせに。
「なにがおっさんだ!このガキが!」
「むさいのはロジャーだけだろうが!」
「「おいおい!」」
「まあ座れアレク」
「はーい」
「ダンジョンはなかなかたいへんだったようだな」
「うん‥‥」
俺は2人にかいつまんで学園ダンジョンでの様子を話したんだ。
「どいつがヤバかった?」
「やっぱバブルスライムとゴブリンソルジャーかな」
「おいおいバブルスライムが出ただと!?」
「うん。死にかけた1回めだよ」
「ガハハハ。まあ生きてたらいいじゃないか」
「ゴブリンソルジャーはどうだった?言葉を喋ったか?」
「うん。普通に喋ったよ。でコイツが原因で死にかけた2回めだよ」
「「ガハハハ」」
「でそいつらの魔石は持って帰ってきたんだよな?」
「うううん。金ゴーレムの頭以外何も持ってきてないよ」
「「あーやっぱりそうか‥‥」」
「だからお前は馬鹿なんだよ‥‥」
なぜか2人とも天を仰ぐポーズをしてたけどこればっかりは仕方ないよね。
「まあ学園ダンジョンは秋にある。またがんばれや」
「うん」
「それとな、黒い森のメイメイ何ちゃらは順調に進んでるからな」
「そうなんだ。ありがとう‥ございます?」
タイランドギルド長は甘いものが苦手だからいまだにメイプルシロップの名前が覚えられないみたいだ。
「なんだよアレク。お前のその気のなさは!」
「えー、だって冒険者ギルドも商業ギルドも領もみんなが上手くいってりゃあそれでいいじゃん」
「お前ってやつは‥‥ガハハハ。だからいつまでたっても本当にガキなんだよ」
「メイプルシロップが甘かったらそれでいいんだよ」
「たしかにな。タイラーにはあの旨さがわかんねえんだよ」
「俺は甘いのに興味がないからな。でもまあ‥クククッ。その甘さが取り持つ縁でロジャーの残り少ない人生が変わったんだがな。ガハハハ」
「タイラーてめぇ!」
「ん?」
「ああそうか。アレクお前はまだ知らなかったよな。クククッ、ロジャーがな、ロジャーがな、ガハハハハハハ‥‥」
ん?なんだ。タイランドのおっさんは腹抱えて笑ってるし、ロジャーのおっさんはなんだか顔が赤いぞ?
「ほらロジャー、早く言えって」
「あ~ゴホンッ‥」
そしてロジャー顧問が咳払いをして言ったんだ。
「アレク‥‥その、なんだ。俺な、10月に商業ギルドのミランダさんとけけけけけ、結婚することになったからな」
「へっ?」
「だから、けけけけけ、結婚するんだよ」
「「‥‥」」
「「ガハハハハ‥(ワハハハハ‥)」」
タイランドのおっさんの爆笑と、大きな身体を縮こませたロジャーのおっさんが対照的だった。
あーやっぱり「森の熊亭」でパンケーキ食ってた2人の笑顔を思い出したよ。うん、あの笑顔ならそうなるよな。よかったじゃん。
「でなアレク。ここからはアレク工房さんへの依頼だ」
そう言ったタイランドギルド長が話し出した。
「あのなアレク。こんなむさ苦しいおっさんでもな、一応中原中に結婚の報告をしなきゃなんねぇんだよ」
「むさ苦しいは余分だぞタイラー!」
「へいへい。でなアレク。10月に領と冒険者ギルドの共催で結婚式をやる。これに集まる人は1000人くらいだ。もちろん王家からも中原各国のえらいさんやら各領の領主やらが勢揃いするぞ」
「へぇーすごいじゃん」
「お前のせいだぞアレク!」
「えー!?俺何にもしてないよ!」
「バカ!アレク工房のあれこれに始まり、今度のメイプルシロップだろ。しかもお前がぶっ建てた時計塔。ヴィヨルド領がただの武闘派の筋肉バカなら誰も警戒しねぇよ。でもな、筋肉バカが経済力つけたと思われたらどうなるよ?」
「やっぱり‥‥警戒される?」
「それしかねぇだろ!」
「へぇー」
「そんな中、話題のメイメイなんちゃらで急速に経済力をつけてきたヴィヨルド領で『救国の英雄』さまの結婚式だろ。そりゃ王国内はもちろんだが他国の誰もが注目するだろうな」
「へぇー」
「幸いご領主様の王家からの信頼は厚い。もちろん『救国の英雄』さまも、一応俺もな」
「へぇー」
「てめえさっきから『へぇー』しか言わねえじゃないか。このガキが!」
「痛い痛い!頭ぐりぐりしないで!」
「そんなわけでな、ご領主様からも王家からも派手にやれとお墨付きをもらってるんだよ」
「へぇー」
「でだ。アレク工房さんにはロジャーの結婚式で配る引出物と当日の料理を考えて貰いたい」
「えー!?俺が!?」
「ああ、お前がな」
「嫌だよ。そんなめんどくさいこと」
「なんだとテメー!」
「痛い痛い!頭ぐりぐりしないで!」
なんか最近頭ぐりぐりされ続けてない俺?
「冗談だよ。で予算は?」
この世界の結婚式は転生前と変わらないんだよな。式に集まる人に食事を振る舞って、帰りに引出物を渡すんだ。
「アレク工房さんの言い値でいいぞ。『救国の英雄』のおっさんはしっかり溜め込んでるからな、ガハハハ」
「まあアレクのやりたいようにやってくれて構わんからな。料理はご領主様のところの料理人と協力してやってくれ。引出物は商業ギルドのミョクマルさんと相談してやってくれ」
あーなんか面白くなってきたな。こんだけ大掛かりでしかも予算も考えなくていいイベント。相手はこの時代でグルメな人ばっかり。これは楽しみ以外ないよ。
「本当に好きにしていいんだね?」
「ああ」
「来てくれた人を満足させる自信はあるよ。だけど‥‥それこそ目立つことになるよ?」
「ああ、アレクの好きにやれ。いや好きにやってくれ。頼む」
ロジャーのおっさんが俺に頭を下げたんだ。
「わわわわ。頭を上げてくれよ。とにかくまだ時間があるからちゃんと考えてやるから」
「そうか、じゃあ頼んだぞ」
コンコン
「お茶をお持ちしました」
あっ、ヒロコさんだ。
「(アレクこの話はここまでだ。ロジャーの結婚相手がミランダさんってわかってからヒロコがな、ヤバいくらい怖いんだよ)」
「(コクコク)」
「ロジャー顧問、タイランドギルド長。学園ダンジョンはそんな感じでした‥」
「‥‥」
(ヒロコさん無言だよ)
「そうかいアレク君‥」
「ご苦労だったねアレク君‥」
「はいギルド長、顧問‥」
「‥‥」
(3人ともなんか睨まれてるよ)
「失礼します」
ヒロコさんが退室した……。
「「「はああぁぁぁーー」」」
▼
秋にロジャーのおっさんの結婚式か。楽しみだな。
でも‥‥この話は絶対ヒロコさんの前でしちゃダメだな……。
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