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第2章 幼年編
342 置き土産
しおりを挟むダンジョンから帰還してから。
最初の10日間はすごく忙しくてすごくトホホな日々だった。だってね……。
「アレク、ここから何を書いてあるかわかりません!」
「もう!アレクまたわかりません!羊皮紙を無駄にしないでください!」
「もっとゆっくり書くんです!」
ちょっと書いたらすぐにセーラに叱られるんだ。
「アレク!またゴブリンになってます!」
「またゴブリンですよ!」
「ホントだ!アレク君ゴブリンだー!」
「おいおい‥‥あっ、ホントだ!オメー一応人族だろうがギャハハハ」
「「「ワハハハハ」」」
そこへどこから戻ってきたタイガー先輩が笑いながら鞄の中から画板みたいなものを取り出した。
「アレク、初級学校の練習板を借りてきてやったぞ」
「いやいやタイガー先輩‥」
「ナイスです!タイガー先輩」
「いやだから‥」
「ああそれはいいアイデアだわタイガー」
「タイガー先輩、いくらなんでも俺‥」
「ああ、それはいいね。アレク君字の書き方からもう1度練習してみるのもいいかもしれないよ」
「みんな言い過ぎ‥」
「同じ1年でも初級学校へ戻れってよアレク」
「泣くぞ本当に‥‥」
「「「ワハハハハ」」」
それは屈辱以外のなにものでもなかった。
俺は夏季合宿で同じようにお買い物問題でお釣りの値段を答えるのを何度も何度もやる同室のハイルの顔が浮かんだ。俺はそれと同レベルなのかと……。
「見てろよアレク。こうやんだよ」
カキカキ‥‥
(くそっ!3馬鹿筆頭のくせに。字だけはめちゃくちゃ上手いじゃん!)
「アレク!てめー!」
「痛い痛い、頭ぐりぐりしないで!」
▼
カキカキカキカキ‥
それは石板に白墨で書いては消せるタイプのお絵かき画板みたいなものだ。
それでも一生懸命に字の練習をした。
「えらいわアレク君」
なでなでなで‥
「ん。アレクえらいえらい」
なでなでなで‥
ムフゥゥーーー。やればできる子なんだよ俺は。もっとなでて。フフフッ。
「(シャンク先輩、またアレクの鼻が膨らんで変態になってます)」
「(ホントだ。でもこれって馬かカウカウに人参って言うんだよね)」
ん。まてよ‥‥羊皮紙はもったいないし。かと言ってこの石板は持ち運びには重い。うん、やっぱ紙だよな。パルプ!なんの木でもいいんだけど、たしか針葉樹だったっけ。木片を風魔法で細かくしてできるよな。だったらメイプルシロップ採集とセットだよな。和紙はたしか三叉だったな。うん、作れるわ!普及verのパルプと高級verの和紙を作ろう。うん、うん‥‥。
羊皮紙に何やら一生懸命に書き始めるアレク。
「キム、ここまで字が下手な生徒は私初めて見たわ。で書いた本人にしかわかんないんだから、これ暗号文だよね」
「ああマリー、たしかにな。どんな素晴らしいアイデアでも盗まれる心配はないな」
「「「わははは(フフフフ)」」」
そんな日々の合間に。
「よーし、今から魔法学の先生のところにいくぞ!明日は体術の先生のとこだからな」
「「はーい」」
学園ダンジョンを運営する先生たちの諮問会にも出席した。魔法学、体術、剣術、兵站、保健学ほかあれこれ。
それぞれの専門の先生たちの前でいくつかの意見に答え、質問にも答えを求められた。良かった点や良くなかった点、改良点などなどだ。
「オニール、ゲージ、アレク。お前らはやっぱり3馬鹿だよ。なんだあの『がーってやる』とか『ぐーってやる』は」
キム先輩が呆れたように言う。
「えーなんでわかんねぇんだよキムは。『がー』は『がー』だし『ぐーってやる』って言ったら『ぐーってやる』んだよ。わかるよなーお前らは」
「オイはわかるぞ!」
「俺もわかります!」
「「「やっぱ3馬鹿だわ‥‥」」」
学年末までの20日間。午前中はダンジョンの階層毎のより詳細な記録をとったりして過ごし、午後からは6年1組の先輩1人と後輩の俺たち3人が3対1となり、毎日日替りで先輩たちからさまざまな「引き継ぎ」をしてもらったんだ。
引き継ぎって言うか、6年1組の先輩たちから俺たちへの実技のアドバイスだね。言ってみれば先輩(先生)の特別授業だったよ。
「今日はアレクだぞ。行ってこい」
「はーい」
今日の午後は学園長との個人面談だ。
諮問会では秘密にして言いたくないことは言わなくていいって先輩たちからも言われてた。
でも学園長には何を言っても大丈夫だって先輩たちが言った。マリー先輩やリズ先輩も「学園長は信用していい」って言ってるんだけどなぁ。
なんか緊張するんだよね、あの人。歳はモンデール神父様と同じくらいかな。やっぱ神父様と同じくらい背が高くて銀髪のイケオジなんだ。
だけどやっぱ目が怖いわ。傷痕のある隻眼なんだよね。目線が鋭いんだよね。怖い。
そういやモンデール神父様もヴィヨルド学園長は信頼していいよって言ってたよな。
コンコン
「はい」
「1年1組アレクです」
「どうぞ。お入りください」
「失礼します」
「はい。(ああ、間違いない。彼は日本人だ‥)」
――――――――――――――
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