アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

333 順調

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ドカアアァァァァァーーーーーーーンッッ!

ダンジョン内とは思えないくらい、広い世界いっぱいに響き渡る炸裂音。リズ先輩が魔法陣を組み上げて作った爆弾が炸裂したんだ。

魔法陣が描かれたリアカーは一瞬の煌めきのあと木っ端微塵となった。それは周囲100メル以内にいた魔物すべてを取り込み飛散し尽くすほど、その勢いは凄まじいものだった。

ビユュュューーーンッ!

 「「うわわわっ!」」
 「「うぉぉぉっ!」」

リアカーの爆風は200メル離れた俺たちでさえ、飛ばされそうになるほどだった。

撤退戦の緒戦。
200体ほどいたと思われる大型魔物。そのすべては1体も残らず爆弾の餌食となった。後に原形を止める者は何もいなかった。

 「「「す、すごい‥‥」」」

誰もが言葉を失くしたんだ。

 「アレクあいつもたぶん‥‥」
 「ああ可能性はあるよな」

これはひょっとしてあいつも巻き添えを食らったかな。うん、そうだと良いな。

本来対人戦を生き延びたゴブリンソルジャーはゴブリンサージェント(軍曹)・ゴブリンキャプテン(大尉)・ゴブリンコロネル(大佐)・ゴブリンジェネラル(将軍)へと進化をすると言われている。それはダンジョン内においても変わらない。
あいつは生きていたら今どこまで進化しただろう。でもさすがにこの爆弾の威力だ。大型魔物の後ろに控えていたら、確実に巻き添えを食っているだろうな。だって生きてる魔物なんか1体もいないんだから。でも前方にいたら話は別だ。よし、油断せずにいこう。

 「さあ急ぐよ」

ビリー先輩が声を発した。

 「「「はい!」」」


【  タイガー、キムside  】

アレクのカウントに合わせて爆弾から背を向ける2人。耳を塞ぎ、尚且つ口を開けるタイガーとキムだ。

ドカアアァァァァァーーーーーーーンッッ!

耳を塞いでいても伝わる衝撃波と大音量。背中越しに伝わるのは、耳どころか全身を震わせる爆弾の圧と熱波だ。

 ガッッ‥‥
 ギャッッ‥
 ガルルッ‥

爆弾の威力に当てられた魔物たちが呆けたように無防備となったその瞬間。

 「タイガー!」
 「キム!」

 ダッ!
 ダッ!

どちらが言うまでもない。獲物に飛びかかるタイガーとキム。先を制するその行動力は魔物たちを遥かに凌駕していた。

 タイガーの鉄爪が無防備となった天狼3体に振るわれる。

 ザンッ!
 ザンッ!
 ザンッ!

 ガアァァッッ!
 ガアァァッッ!
 ガフフッッッ!


   とーんっ  とーんっ  とーんっ  とーんっ‥スッ!

 ザスッッッ!
 ザスッッッ!
 ザスッッッ!

 ガアァッッ!
 ガアァッッ!
 ガフッッッ!

それは踊るように、或いは舞うように。気配を消したまま天狼の背や懐に入ったキムが手にしたクナイを降り下ろす。

魔物たちが正気を取り戻したとき。すでに先陣の天狼6体が倒れ伏していたのだった。

 「「次!」」

 ダッ!
 ダッ!

道を塞ぐ次なる獲物に飛びかかるタイガーとキムだ。


【  オニール、シャンクside  】

ドカアアァァァァァーーーーーーーンッッ!

オニールとシャンクもまた、その好機を逃さなかった。

 「いくぞシャンク!」
 「はい先輩!」

 ダッ!
 ダッ!

本来ならば攻め寄る魔物に対応、待機して闘う役まわり。だが、2人もまた千載一遇のチャンスを無駄にすることはなかった。自ら魔物の中に飛び込んで奇襲に転じる2人だ。

 シュッシュッシュッ!

 ザンッ!ザンッ!ザンッ!

 ガアァッッ!
 ガアァッッ!
 ガフッッッ!
 ガアァッッ!
 ガアァッッ!
 ガフッッッ!

オニールは槍の連撃を、シャンクは鉄爪の連撃をそれぞれの前の天狼に浴びせる。
 殺すことが目的ではない。魔物の進路を塞ぐのが目的だ。
 魔物の視界を塞ぎ、脚力を削ぐのがその目的。

 「よし、戻るぞシャンク!」
 「はい!」

奇襲を仕掛けたのちはただちに所定の位置に戻る2人だ。

タッタッタッタッタッタッ‥
ドタドタドタドタドタドタ‥

 「シャンク、おまえもうちょい痩せろ!」
 「先輩、痩せた熊はかわいくないんですよ!」
 「あーおまえって学園でもかわいいって人気だもんな。くそっ!なんでだよ!卑怯だぞ!」
 「フッ」

 何気に勝ったと思うシャンクだった。

 

【  マリー、ビリーside  】

 シュッ!
 シュッ!
 シュッ!
 シュッ!

マリーの連射を風の精霊シンディが補助する。

 ガハッッ
 ガルッッ
 ガァッッ

それは目を射抜かれた天狼に、脚の腱を射抜かれた天狼だ。
そんな天狼たちがその場で苦痛にのたうち回る。それは非情ともいえる作戦かもしれない。だが、それでも後続の魔物の進路を塞ぐ様は撤退のリスクをわずかでも軽減するはずだ。
忠実にビリーの指示どおりの標的を射抜いていくマリーに満足そうに笑みを浮かべるビリーだ。

 「僕も頑張らないとね」

 シュッ!
 シュッ!

 ガハッッ
 ガルッッ

ダッダッダッダッ‥‥

右眼を射抜かれた天狼2体が自然と進路を右に傾いていく。

 シュッ!
 シュッ!

 ガハッッ
 ガルッッ

ダッダッダッダッ‥‥

次いで。左眼を射抜かれた天狼がこれも進路を自然に左へ傾けていく。

 ダッダッダッッ‥‥
 ダッダッダッッ‥‥

 「「ダーーンッッ!」」

 「「ガアァァッッ」」

天狼にすればなぜかはわからないままに、不可避の衝突事故となる。その衝突事故を演出するビリー。

 「マリー、やっぱりあの子の矢はすごいわ」
 「ええ。フフフ」





天狼を射ながらビリーもまた考えていた。
 (やっぱり天狼の数が少ないね‥‥)

冷静に状況を分析するビリーだ。

 「アレク君!」

大声のビリー先輩が言った。

 「撤退戦といえど大型の魔物たちがどんどん補充されることはない。僕は『使える』魔物の数は最初で終わったって考えるんだけどアレク君はどう思う?」

 ビリー先輩、「補充」や「使える」って表現をしたよな。これってダンジョンに運営者がいるってことを完全に理解してるからなんだよな。俺はたまたま転生前の知識があるからそうだろうなって思うんだけど。
ビリー先輩はやっぱりめちゃくちゃ頭がいいよ。だから俺も大声で応えたんだ。

 「はいビリー先輩!俺も同じことを考えてました。ダンジョンの各階層に『使える魔物』の数は決まってるんだろうなって。俺もビリー先輩と同じ考えです。大型魔物の手札は最初に使い切ったのかなって。だからこれからあとに出てくるのはゴブリン系だけじゃないかって思います」

撤退戦といえど、各階層ごとで出てくる魔物の数は上限が決まっているんだと思う。たぶんそれがあおちゃんが言う『ダンジョンの決まり』の1つなんだ。
イレギュラーのあいつがやってることはその決まりを破った、まさにルール破りのレッドカードなんだ。
あいつが魔物を指揮できたり命令できることをイコール(=)ティムだって考えるなら、使い果たした魔物の補充はもうできないはずだ。だからあいつができること魔物といえば‥‥元々あいつが従えられる魔物、つまりはゴブリン系の魔物だけだと思う。

 「はははは。すごい、すごい!すごいよアレク君、僕はうれしいよ。君は僕の思考までなぞってくれるんだね。僕もアレク君の考えに大筋で賛成だよ。この後出てくるのはゴブリン系だけじゃないかな」
 「はい!」

やっぱり!
イレギュラーの存在が魔物たちを指揮できる理由はおそらくティムの能力。魔物を強制的に従わせる力だ。
その強制力がなんらかの形で消える、もしくは上書きされるとすれば、それはティムを上回る圧倒的な暴力に見舞われたとき。脚を切ったサスカッチたちは、その激痛で正気に戻ったんだと思う。リアカーの爆発に巻き込まれなかった魔物たちが正気に戻って逃げ惑ったのもおそらくそれが答えだ。ティムを上回る圧倒的な暴力……。
 だから、魔物の補充が望めなくなった今、もしあいつが今も生きていてもはや大型魔物はティムできない。奴がティムできるのは本来ティムできるゴブリン種のみだろう。襲ってくるのはゴブリン系だけのはずだ。
撤退戦のハードルはかなり容易になったと思う。


 【  ビリーside  】

はははは。あの子は、アレク君は、素晴らしいよ。その思考まで僕と同じだとはね。
ああ、そうか!
リズと僕だけじゃないね。アレク君は僕たち6年1組のみんなの弟子だね。
 
 シュッ!

 グギャーッッ

うん、天狼はいなくなった。残りはゴブリン系だけ。
やっぱりアレク君と僕の考えが正解みたいだね


――――――――――――――


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