アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

331 撤退戦の布陣

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 「ゆっくりしてる時間はないからね」

眠っているリズ先輩とゲージ先輩を囲むようにみんなが集う。そんな中でビリー先輩が言ったんだ。


天狼もゴブリンアーチャーも殲滅したため、周囲は驚くほど静寂だ。でもそれが一層不気味な雰囲気を醸し出している。


 「間もなく魔獣が押し寄せてくるだろうしね」
 「ええ。ビリーの言うとおりね」
 「そうだな、これから俺たちはビリーの指示どおり一丸となって無事に帰るぞ」
 「はは。責任重大だね。じゃあ編成とやってもらいたいことを言うよ」
 「「「はい!(了解!)」」」


ああ、やっぱりこのパーティーの先輩たちは最高だよ。

俺は1年で10傑になりダンジョン探索パーティーの一員になれた。そんな最年少の俺が偉そうに言うのもなんなんだけどね、やっぱりこの先輩たちは最高なんだよ。誰もが偉ぶってないし、誰もが仲間想いなんだ。
過半数を占める6年1組の先輩たち。たぶんね、年長者なら善かれ悪しかれ多少なりとも「歳上風」を吹かすもんだよね。だけどそんな先輩は1人もいないんだ。さらにね、世間的には‥‥ああこの場合の世間はヴィヨルド学園のことだからね、10傑は1位から10位までという順位づけなんだ。だから何かにつけて順位が上の者の意見ほど通りがちに思えるよね?
それはね、慣例どおりに1位のマリー先輩が総隊長で2位のタイガー先輩が副隊長を務めてはいるんだけどね、ダンジョンに潜る前に2人の先輩たちはそんなの気にしないって言ったんだ。年も気にしないって。そんな順位、言ってみれば見栄みたいなものにはまるで拘泥しない先輩たちなんだ。
だからビリー先輩が撤退戦の指揮を執ることにマリー先輩もタイガー先輩もまるで拘りがなかったんだ。それどころか率先してビリー先輩の指示に従おうとしてるんだ。それが何より成功率が高いって信じてるから。


これからの撤退戦。
たぶん一筋縄ではいかないと思う。だって肌の粟立つ感じが今も治らないから。

それでもね。
それでも俺、このパーティーの一員になれたことを心から誇りに思うんだ。


 「目的地は45階層休憩室。今日中に戻るよ。もちろん誰1人欠けることなく進むんだよ」
 「「「はい!(ああ)」」」
 「先行はタイガーとキム。本隊とは離れ過ぎない距離で頼むよ。前方からの魔物は必ずしも完全に倒す必要はないからね。それどころか僕たちが退却していく進路上に魔物がいたほうが後から来る魔物たちに邪魔になるよね。だから魔物の攻撃力は落としつつ、できれば生かしておいてくれたほうがいいかな」

すごい!すごいなビリー先輩は。そんなことまで考えてるんだ!

 「進行方向の右は僕、左はマリーで。相手にするのは足のある魔物だよ。狙ってほしいのは魔物の目や足かな。やっぱり行動力を削ぐことができたらいいね。もちろん接近し過ぎてる魔物やヤバそうな魔物は倒すにこしたことはないけどね。いいかなマリー?」
 「ええ、わかったわ。ビリーの指示どおりやるからね」
 「じゃあ頼んだよ」
 「次はオニールだよ」
 「おお、なんでも言ってくれや」
 「タイガーやキム、マリーや僕が相手をしてもそれでも近寄ってくる魔物はオニールに任せるからね」
 「おおよ。どんとこい。槍の錆にしてやらあ!」
 「ははは。その心意気で頼むよオニール」
 「ああ。もう心が折れたりはしねぇからな」
 「うん、そうだね。次はシャンク君。シャンク君にはリアカーを曳いてもらうよ。大事な大事な力仕事だからね。戦闘に巻き込まれる危険性も高い中、リアカーにはドロップ品の時計とリズとゲージを乗せてもらうことになるからね。キツいけどシャンク君頼むよ」
 「はい!」
 「それとボル隊で今積んである荷物以外、ブーリ隊の荷物はリアカーごとすべて置いていくからね」

ビリー先輩は一抱えほどある矢を取ったあとにオニール先輩にこう言った。

 「もったいねぇが仕方ねぇよな」
 「そうだよ。安全が何より大事さ」

リアカーにはたくさんの魔石が積んである。俺も正直もったいないって思う。だけど、そんなことは言ってられないからね。

 「ちょっと待ってくれ」
 「「「ゲージ!?」」」

ここで目を覚ましたゲージ先輩が声を上げた。

 「ゲージ!目が覚めたか!」
 「ああ‥‥みんな心配かけたな。そしてありがとうな。特にアレクとセーラ。オイはオメーらに生命を救われた。世話になったな」
 「そんな世話なんかしてませんよ」
 「そうです」
 「ギャハハ……。それでもだ。オイはオメーらの恩は絶対に忘れないぞ」
 「「ゲージ先輩‥‥」」
 「おかげでオイも元気になったぞギャハハ」
 「いやいやゲージ先輩は死にかけたんですからね!休憩室までは寝ててくださいよ」

ゲージはそんな俺の言葉に頭を振った。

 「リアカーはリズを乗せてオイが運ぶ。シャンクには闘ってもらったほうがいいに決まってるからな。オイも闘いたいがさすがにみんなに迷惑しかかけないことくらいわかってるからな。だから学園ダンジョン最初の役まわり、オイはポーターの役を最後までやるぞ。それだけはぜったいに譲らんぞギャハハ」
 「ゲージ、君は‥‥」
 「「「ゲージ(先輩)‥‥」」」

そこには有無を言わさないゲージ先輩がいた。

 「ゲージ、いいんだね?」
 「ああ。たっぷり寝たからな。鰐獣人の本気を見せるぞギャハハ」

ゲージ先輩は自分がリアカーを曳いて行くんだと揺るがない鋼の意志を示して言ったんだ。たしかにこの撤退戦ではシャンク先輩が闘いにまわってくれるほうが良いには違いないんだけどね。まだ尻尾も満足に生えきっていないゲージ先輩。心配だな……。

 「じゃあ改めて右はオニールが、左はシャンク君に任せるよ。2人は接近してくる魔物を一撃で屠ってほしい。くどいようだけど、撤退戦に止まることはできないから、時間はかけられないからね」
 「シャンク、俺たちのがんばりが大事だな!」
 「はいオニール先輩」

 「セーラさんはアンデット系以外の魔力発現を極力控えてほしいな。リズが倒れた今、セーラさんだけが頼りの綱なんだからね。リズの横にいて危なく
なったら障壁で守ってほしい。まだまだ油断はできないからね」
 「はい」
 「最後にアレク君。君には最も厳しいところ、殿(しんがり)をお願いするよ」
 「はい!」
 「襲ってくる魔物は間違いなく後ろからが多いからね」

それはそうだろうな。俺たちを逃がすまいと追ってくる魔物たちは単純にこれまでの2倍以上になるだろう。

 「撤退戦の殿は文句なしに厳しいからな。それでも、だからこそ、おれはアレクに託したい」

とタイガー先輩が言ってくれた。

 「そうね、私もアレク君になら安心して任せられるわ」

マリー先輩も言ってくれる。

 「ああ、俺もこいつになら殿を任せられる」

キム先輩も言ってくれる。

 「オイたちのパーティーの殿はアレクしかいないな。リズもそう思ってるはずだギャハハ」
 「ああ。俺たち3馬鹿の筆頭だからな」
 「「そうです!」」

ゲージ先輩もオニール先輩もシャンク先輩もセーラも賛同してくれる。

 「異存はないね。じゃあ殿はアレク君で」
 「はい!俺がしっかりみんなを守ります!」

 「じゃあみんなで帰ろう!」
 「「「おおー!」」」


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