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第2章 幼年編
325 慈愛
しおりを挟む「ゲ、ゲージ‥すぐに治してあげるの‥」
ズルズル ズルズル ズルズル‥
石畳を這う。
「もういい。来るなリズ!」
ズル ズル ズルズル ズル‥
「ゲ、ゲージはすぐに‥油断するからダメなの‥」
ズル ズル ズルズル ズル‥
「来るなリズ!」
ズルズル ズルズル ズルズル‥
「だから‥私がすぐに治してあげるの。だから‥痛いのもすぐに無くなるの‥」
ズル ズル ズル ズル‥
ただひたすらに石畳を這いずる。
「頼むリズ!頼むから止まってくれ!」
ズルズル ズルズル‥
刺さった矢はそのままに。リズが這いずる後には鮮血の道筋ができる。それでもリズはゲージの下まで這っていく。
ズルズル ズルズル‥
「お願いだ‥‥オイはオメーが‥‥」
ズルズル ズル ズル‥
「ゲ、ゲージもうすぐなの‥」
わずか4メル足らず。それでもそれは限りなく遠い4メル……。
「リズ、もういい。オメーのほうがオイよりも酷いぞ。ギャハ‥‥ギャハハ‥‥。オイは自分の身体よりもリズが‥‥‥‥大事なんだ!」
全身に矢を浴びながら。それはゲージ魂の叫び。だがゴブリンアーチャーたちは待ってはくれない。逆に今こそチャンス到来だ、とどめを射せと口々に騒ぎ立てる。
「「アa$#**!」」
「「ヴ咦#**!」」
そんなゴブリンアーチャーたちがその的を下のリズに向けた。至近距離の矢。いかに素人然としたゴブリンアーチャーの弓矢といえどこの距離ならば外しようもない。ましてや矢尻には毒が塗られているのだから。
「リズーーーーー!」
ダッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
渾身の力を振り絞り、
リズに覆い被さるゲージにゴブリンアーチャーのすべての矢が降り注いだ。
背一面に矢が刺さるゲージ。
「ゲ、ゲージ?」
「リズ‥‥オ、オイは鰐獣人だぞ。ゴ、ゴブリンの矢なんか堅いオイの身体には痛くも痒くもないぞ。ギャハハ‥‥」
「ゲージ‥‥」
「くそっ、どけ!くそっ、くそっ!」
ガルルルーーッッ
ガルルルーーッッ
オニールが2人の下に駆けつけようと槍を振り回す。が3体の天狼がコンビネーションよろしくその行方を遮る。
「「くそっ!邪魔するな!」」
ガルルルーーッッ
ガルルルーーッッ
それはタイガーもビリーも変わらない。1人に3体の天狼が付いてその行方を塞ぐ。それは明らかに誰かの指示に沿うもの。
天狼の背にいたゴブリンアーチャー9体は1体も欠けることなく地面に降り立ち、さらなる矢を番えた。
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
「ぐっ‥‥」
それはもはや生命の灯火が消える前。いかに屈強な鰐獣人のゲージといえどなす術なしと言えた。
ピカーーーーーッッ!
それはリズを庇って覆い被さるゲージの腹から漏れでる暖かな光。
「ヒールとポイズナーなの‥‥」
「リズ!リズ!リズ!オメーは自分の傷を回復しろ!オ、オイは‥‥いい‥‥か‥‥ら‥‥」
「ゲージ、重いの‥‥ゲ、ゲージ‥‥」
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
リズを庇って丸まったままのゲージが意識を手放した……。
リズもまた……。
「おいリズ!おいゲージ!お前ら何やってんだよ!起きろよ!起きろよ!うそだろ!起きろよ!学園ダンジョンじゃねぇのか!なんだよこれ!俺はこんなのぜったい認めねぇぞ!女神様何やってんだよ!もし冗談じゃなかったら、俺は今日限りでモンク僧なんてやめてやる!おい、何とか言えよ!おい‥‥誰か‥‥何とか言ってくれよ‥‥ビリー、タイガー何とかしてくれよ‥‥助けてくれよ‥‥助けて‥‥」
オニール、呪詛の言葉は次第に哀願の叫びになった。ついには失った言葉とあわせてその目には気力もなくなっていった。
「オニール!しっかりしろ!まだだ!まだ終わっちゃいない!」
ブーーーンッッッ!
ブーーーンッッッ!
ブーーーンッッッ!
タイガー渾身の一撃。鉄爪の連撃が天狼3体を切り裂いた。タイガーの言葉に一切の迷いはなかった。
「まだ終わってないぞ!オニール。ボル隊にはセーラやマリーもいる。リブウェルの魔法もエリクサーもあるんだぞ!」
「そうだよオニール。
今は早く2人が休めるように天狼たちを排除しなきゃ!」
シュッ!
シュッ!
シュッ!
天狼3体の額に突き刺さる矢。ビリーもまたたまったく諦めていない。
【 ???side 】
そうだ。鰐狙え。毒矢射せ。鰐狙った。魔法使い釣れる。鰐狙え。鰐のエサ。魔法使い釣れる。毒矢射せ。鰐毒矢射せ。魔法使い毒矢射せ。2人倒した俺たち。勝ちだ。
【 ボル隊side 】
天狼を倒しながらすり鉢状の底に戻った。
あとは上るだけだ。早く合流しなきゃ。
「アレク、嫌な感じがする。先に行け!」
「そうね。アレク君先に行って」
「えっ!?でも俺‥‥」
「大丈夫よ。私もシンディも魔法は出し惜しみなく発現するから。すぐに追いつくわ」
「アレクお前がブーリ隊を救うんだ!行け!」
「‥‥はい。俺先に行って待ってます!」
「「「いってらっしゃい!」」」
ダッ!
「サンダーボウ!」
「サンダーボウ!」
「サンダーボウ!」
俺は駆けた。立ち塞がる天狼には容赦なく雷魔法を浴びせながら。
キム先輩が感じた「嫌な感じ」は俺も感じていたから。
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