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第2章 幼年編
323 待ち伏せ②
しおりを挟む【 ボル隊side 】
一直線の坂道を駆け足に下っていく。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥
聞こえるのはシャンク先輩が引くリアカーの音だけだ。
リアカーの上。ちんまりと座ったセーラが不安げにキョロキョロあちこちを見渡している。
ごくんっ。
ごくんっ。
ごくんっ。
誰かが唾を飲む音が聞こえたのかもしれない。
ドクンドクンドクンドクンドクン‥
自分自身の心臓の鼓動まで聞こえるようだ。
だんだんと。だんだんと緊張度が増していく。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥
リアカーが降りていくのは500メルほどの下り坂。すり鉢状になったその底に着くまでは1体の天狼も襲ってこなかった。天狼1体の視認すらできなかった。
「くそっ!いるのはわかってんだぞ‥」
それはもう丸わかりの魔獣たちの作戦。誰もが楽に想定できるだけに、無性に腹が立つ。
(天狼め。どうせ奈落に着いたらゴングが鳴るんだろ。一斉に襲ってくるんだろ……)
ゴロゴロゴロ
ゴロゴロゴロ
ゴロゴロゴロ
ゴロゴロゴロ
ゴロゴロゴロ
ゴロゴロゴロ
ゴロ ゴロ ゴロ‥。
‥‥‥‥‥‥‥。
そして。
ついにリアカー止まった。
奈落に着いた。
誰も口を開かない。
「「「ごくんっ」」」
!!
!!
!!
!!
!!
ウウゥーーーーーーッ
ガルルルーーーーーッ
ウウゥーーーーーーッ
ガルルルーーーーーッ
ウウゥーーーーーーッ
ガルルルーーーーーッ
ウウゥーーーーーーッ
ガルルルーーーーーッ
見上げる坂の上。
前からも左右の壁からも。さっきまでいた後ろの坂にも。そこには20体を超える天狼が俺たちを囲んで現れたんだ。さも得意げに俺たちを見下ろしていたんだ。
ウウゥーーーーーーッッ
ウウゥーーーーーーッッ
ウウゥーーーーーーッッ
ウウゥーーーーーーッッ
ウウゥーーーーーーッッ
「ひっ!」
息を飲むセーラの短い悲鳴。
「「マジか!?」」
シャンク先輩と俺の驚きの呟き。
「フッ。ご苦労なことだ。探す手間が省けたな」
「ふふ。そうね」
キム先輩とマリー先輩の言葉に言いようもない勇気をもらう俺……。
「ごくんっ」
「闘る前から飲まれてどうすんのよアレク!」
ぺちんっ
ぺちんっ
シルフィとシンディの小さな手のひらが俺の両頬を叩く。
2人も俺を励ましてくれている。
「そうよ。カエルの巣に放りこまれたっていうほうがよっぽど怖いわよ!」
「そうよそうよ。あのときなんか臭くて臭くてそばに来てほしくなかったんだからね!」
「そっなのに比べたらこんなの屁でもないわよ!」
「あははは‥‥屁でもって‥‥あははは」
変な励ましをくれるシルフィとシンディの2人。たしかに同じような状況でもカエルが何百何千もいる巣穴と、ただすり鉢状のこの道とではぜんぜん違うよな。
「よーし。天狼なんか俺がギッタンギタンにしてやる!」
「よく言ったわアレク!」
「セーラは障壁の中に居てくれよ。天狼はすべて俺の雷魔法で落とします。シャンク先輩は登りきるまで頑張ってリアカーを曳いてください。キム先輩は右の撃ちもらしとシャンク先輩を守ってください。マリー先輩は右の撃ちもらしをお願いします」
「「「了解!」」」
スタッ!
俺はセーラが発現したリアカーの上の障壁に立つ。
「セーラ。上、立ってごめんね」
「アレクがんばって!」
「ああ。任せろよ」
「うん!」
リアカーの上。セーラが発現した障壁の上に俺は立ち上がる。
「じゃあアレク君、進むからね」
「はいシャンク先輩。気にせずにシャンク先輩のスピードで」
「わかったよ」
「シャンクお前は俺が必ず守りきるからな」
「はいキム先輩」
「アレク君右は任せてよ」
「はいマリー先輩」
「マリーと私がいるんだからね」
「頼むよシンディ」
「じゃあシルフィ。ナビよろしく」
「ええ任せといて」
両手を指鉄砲のように構える俺。これから坂を登りきるまで、2丁拳銃の構えで雷魔法を発現していくんだ。
ウゥーガルルルーッ‥
ガーーーーッッ!
ガーーーーッッ!
ガーーーーッッ!
ガーーーーッッ!
ガーーーーッッ!
ガーーーーッッ!
坂の上から。前後だけでなく四方八方から天狼が飛びかかる。
「サンダーボウ(雷矢)!」
ギュュュューーーーーーーーーンッッ!
ザンッッッッ!
ガアァァァァーーーッッ
指鉄砲の構えをした俺の指先から。青白く発現された雷の矢がホーミングミサイルよろしく天狼に着弾する。下から見上げるから、まる見えの急所を貫いていく。天狼が空中を飛びかからず、旧道を駆け寄ってこれば急所を狙い難いだろう。が、すり鉢状の地形が逆に幸いした。どの天狼も地を駆けずにすり鉢の底にいる俺たちめがけて空中を飛びかかってきたんだ。
「サンダーボウ(雷矢)!」
「サンダーボウ(雷矢)!」
「サンダーボウ(雷矢)!」
「サンダーボウ(雷矢)!」
「サンダーボウ(雷矢)!」
「サンダーボウ(雷矢)!」
ギュュュューーーーーーーーーンッッ!
ザンッッッッ!
ザンッッッッ!
ザンッッッッ!
ザンッッッッ!
ザンッッッッ!
ガアァァァァーーーッッ‥
ガアァァァァーーーッッ‥
ガアァァァァーーーッッ‥
ガアァァァァーーーッッ‥
ガアァァァァーーーッッ‥
「アレク7時よ」
「おお。サンダーボウ(雷矢)!」
ザンッッッッ!
ガアァァァァーーーッッ‥
「8時30分よ」
「よし。サンダーボウ(雷矢)!」
ザンッッッッ!
ガアァァァァーーーッッ‥
「6時20分よ」
「おおよ。サンダーボウ(雷矢)!」
ザンッッッッ!
ガアァァァァーーーッッ‥
「ダメ。もう1発!」
「サンダーボウ(雷矢)!」どうだ?」
ザンッッッッ!
ガアァァァァーーーッッ‥
「OK!」
もちろん俺の背中に目はないからね。後方から飛びかかる天狼はシルフィのナビに従って撃ってるよ。急所を外したって心配はない。だってキム先輩が控えてくれてるんだから。
「サンダーボウ(雷矢)!」
ザクッッッ!
ガアァァァァーーーッッ‥
とーんっ とーんっ とーんっ とーんっ‥
「その調子だアレク」
「はい」
ザクッッッ!
ガアァァァッッ!
撃ち漏らして近寄ってくる天狼もすべて、背後から急襲するキム先輩のクナイの餌食だ。俺はサンダーボウで飛んでくる天狼を倒していくだけでいい。
「アレクがんばって!」
「おお」
「シャンク先輩も頑張ってください」
「う、うん。はぁーはぁー‥」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥
玉の汗を浮かべながらシャンク先輩がリアカーを懸命に曳いてくれる。
「シャンク先輩。あと100メルちょっとです」
「うん。はぁーはぁー」
「シャンク先輩あと少しですよ」
「はあーはあーはあわー。うん、あと少しだ‥」
ゴロゴロゴロゴロ‥‥
リアカーを曳く車の音が力強く響く。がんばれシャンク先輩!
20体見えた天狼。飛びかかる天狼を除けばいなくなるはずなのに。
「減らないわね」
「ホント。まだ湧いてくるわ。しつこいわね」
シュッ!
ザクッ
ガアァァァーーッッ
撃ちもらして接近する天狼も、マリー先輩の矢が正確に額を貫いていく。
ゴロゴロゴロゴロ‥‥
「あと50メルです」
「うん。はぁーはぁー‥」
ゴロゴロゴロゴロ‥‥
「あと20メルです」
「うん。はぁーはぁー」
ゴロゴロゴロゴロ‥‥
思った以上に時間がかかる。それでもあとわずかで登りきるんだ。
「アレク、あとから来るブーリ隊のためにできるだけ間引いてやってくれ」
「はい。もちろんです」
「サンダーボウ(雷矢)!」
「サンダーボウ(雷矢)!」
「サンダーボウ(雷矢)!」
距離だけなら200メル近くは飛ぶな。だったら倒せなくてもいい。少しでも天狼の力を削げたらいい。
俺は目につく限りの天狼にサンダーボウを放っていった。
ガルルルーーッッ
ガルルルーーッッ
あとわずかなのに、ひたすら乱戦は続いたんだ。
「アレク君、左は任せてもらうわ。あと少し。私もシンディもあなたたちを見てて黙ってなんかいられないわよ!」
「そうよ!アレクとシルフィにおいしいとこ全部取られたままでたまらないわよ!」
「あははは。じゃあ左はマリー先輩とシンディに任せます」
「「任せといて!」」
ヨシ。マリー先輩に左を任せて、あとはより精度を高めてサンダーボウを発現していくぞ。
とーんっ とーんっ とーんっ とーんっ‥
「おかしい‥‥」
ボル隊でただ1人、キムだけが何かに不審な思いを抱いていた。
【 ブーリ隊side 】
ドドドドドドドド‥
ドドドドドドドド‥
ドドドドドドドド‥
ドドドドドドドド‥
「おいおい下り坂に入る前から天狼かよ」
「しかも多いな」
「オニール、タイガー気をつけて!何か作戦を立ててるかもしれない」
「「作戦?天狼だぞ?」」
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥‥
左右、後方から接近してくる天狼はこれまでにない形、1列に並んでんで駆けてくる。それは1体めがダメでも2体めが。2体めがダメでも3体めが届きさえすれば良いとするように。
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥‥
左右。
タイガーとオニールが待ち構えるその直前、10メル前で。
ギュイイイィィィンッッ!
急速展開。右からタイガーに飛びかかるかにみえた天狼たちはさらに急角度で右まわりをする。
左からオニールに飛びかかるかにみえた天狼たちもさらに急角度で左まわりをした。
左右から3体ずつ。そして後方正面からの3体。合計9体の天狼が向かった先。
そこにはゲージがいた。
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
シュッ!
各方向から。ゲージに向けて矢が放たれた。
天狼の背には天狼の皮を被ってカモフラージュをしたゴブリンが乗っていたのだ。
「「「ゲージ!」」」
「ゲージ!」
一際大きな声で。リズが叫んだ。
【 ボル隊】
「あと10メル切りました!」
「シャンク先輩もう少しです!」
「う、うん。はぁーはぁー。あと少しだ」
「アレク!」
「アレク君後ろ!」
ドドドドドドドド‥
ドドドドドドドド‥
ドドドドドドドド‥
ドドドドドドドド‥
「後ろから登ってくるわ!」
それはすり鉢状の底を通り抜け、1本道の上り坂を間もなく登り切ろうとしている俺たちを追ってきた天狼だ。
「アレク!」
「ああシルフィ!これだよな」
「土魔法。大玉転がし!」
「ぷっ、なにそれ!ショボっ!」
「ショボ言うな!」
「あーネーミングはイマイチだけどそれが正解ね!」
「あはははは」
ゴロゴロゴロゴロ‥‥
大玉が坂を転がり落ちていく。
坂道を登ってくる天狼たちが何体いようが、これはもう1択だ。運動会で転がしたような大玉を上から転がしたらいいだけだ。
ガウッッ
ギャッッ
ギヤャャッッ
ガウゥゥッッ
「ざまあみろ」
「ホントだー」
「アレク君すごいね」
「アレクすごいわ」
「「よくやったわアレク君(アレク)」」
仲間のみんなの賛辞がうれしい。これなら下から上がってくる天狼が何体いようがもう怖くない。
ゴロゴロゴロゴロ‥‥
ガウッッ
ギャッッ
ギヤャャッッ
ガウゥゥッッ
「何体上がってきてもへっちゃらだねアレク」
「ああ。もう大丈夫だからなセーラ」
「やけに多いな‥‥」
「キム先輩?」
「ああ。どう考えても上ってくる天狼が多すぎだ‥‥まさか??」
「どうしたのキム?」
「キム先輩?」
「キム先輩?」
「!ダメだ。ヤラれた。まんまとはめられた。みんな一気に戻る‥」
ピーーーーーーーーーーーーーーーッッ!
ここで。あの遺物がけたたましく鳴った。
――――――――――――――
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