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第2章 幼年編
318 クインテット(五重奏)④
しおりを挟む射手ビリーの話が続く。
「そっか、ちゃんと正中を射れば『おもしろ矢』じゃなくっても大丈夫なんだね。なるほどなるほど‥‥」
1人何やら楽しそうに検証をしているのはビリーだ。
『おもしろ矢』はアレク発案の各種効果を付与した矢のことである。それはまさに『おもしろ矢』。
石化の力があるコカトリスの血液を点けた矢は射た魔物も石化する効果が期待できる。
キラービーの尻針を流用した矢は麻痺毒の効果が期待できる。
聖水を潜らせた矢はゴーストやアンデットに聖魔法の効果を発揮するだろう。
矢尻に大きな袋をつけた矢は当たると中の油が破裂する。その後の2射目で火矢を放てば対象の魔物を油まみれ火まみれにできる矢だ。
さらには何かしらの効果を付与した石を括り付けた矢もある。アレク曰く「この矢は雷魔法との相性がいい」らしい。実際の実験結果を早く見てみたい。
そんないろいろ効果を付加した矢とアレクはまさに『おもしろ矢』のデパートなのだ。
最初の天狼を射抜いた矢はコカトリスの矢を使用した。
即座の石化を期待したが、正しく正中を射抜いたのでその効果はわからずじまいとなった。だが、それはそれで結果オーライだろう。
「そうか、最初から足を狙ってその動きを止めるのもありかもしれないな。うん、次は麻痺矢を使ってみるか」
そんなことを言いながら羽根に色のついた矢を楽しく選ぶビリーだった。
ゲージとリズの場合‥‥
ブーリ隊の後方では。ゲージもまた天狼を待ち構えていた。
2メルを超えるその身長は大柄揃いのブーリ隊の中でも頭1つ抜きん出ていた。そして身長と同じくらいに太くて長い、ゴツゴツした尻尾が目につくのも鰐獣人のゲージだ。
身長に尻尾を足した全長の長さは、天狼にも決して負けてはいない。そんなゲージの見た目が、今日はずいぶんと違って見えた。
「ゲージ新しい装具カッコいいの」
「おぉすげぇなあ。その新兵器はよお」
「ああ本当にすごいな」
「うん、凄いという意外に言葉が見つからないね」
「まあオメーらみんな楽しみにしてろよギャハハハハ」
これまでにない格好をするゲージ。盾を装備することはあっても自身の身体に何かの武装具を着けることはなかった。だが今日は違った。これは学園ダンジョンの深層45階以降を初めて探索することを想定して作ったものだ。深層階で強敵と闘うことを想定して作った武器(装具)なのだ。
それは尻尾に幾つも幾つも嵌められた鉄の輪。尻尾の先の細い部分から腰近くの太い部分までを自由な尻尾の動きを損なうことなく考えられて付けられたものだ。それぞれの輪の上部には先の尖った突起が付けられている。鉄の突起、又は鉄の棘。兜などにみられる意匠の一種の霰(あられ)である。大霰や玉霰と呼ばれるその突起。それは芸術的意味合いを持って付けられたものでないことは見るからに明らかだ。ゲージの尻尾に巻いた幾重にも続く霰。または鉄の棘。用途はもちろん、霰を装着したゲージの尻尾で対象を巻くことにある。
タイガー、オニール、ビリーの3人が3人とも、体術でゲージの尻尾に巻かれたことをはっきりと思い出す。その上で自分があの霰の中に巻かれる絵図が頭に浮かんだ。
「「タ、タイガー‥‥」」
「「オ、オニール‥‥」」
「「ビ、ビリー‥‥」」
「「「怖っ‥‥」」」」
そのイメージがより鮮明だったのだろう。あまりの怖さにオニールがゲージの尻尾を掴んでこう言ったという。
「ゲ、ゲージ。俺たち3馬鹿は仲間だよな!ぜったい仲間だよな」
「なんだオニール、オメー何ブルってるんだギャハハ」
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