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第2章 幼年編
313 45階層休憩室
しおりを挟む休憩室で待っているとしばらくしてブーリ隊の先輩たちがやってきた。
「「「おかえりー」」」
「「「ただいまー」」」
みんなからどうだった?どうだった?と聞かれた。
「どうってことないわよ。夢だって思ったらすぐに覚めるわよ」
「おおーさすがはマリーだよな」
「「「うんうん」」」
「えへっ。実は違うのよ。ギリッギリで目が覚めたの」
「ああ、俺はダメだったよ。覚めかけたけどあの空間の心地よさに夢なのか現実なのかさえ、わからなくなったからな」
「やっぱりね。私もキムの言うとおりなんだけど、最後にギリギリなんとか夢だって気づいたから目覚められたわ。かなりヤバかったんだけどね」
「セーラは?」
「私‥‥ぜんぜん夢だってわからなかったです。居心地良くってずーっと居たいくらいでした」
「ああでもねセーラさん、学園以外のダンジョンではナイトメアの夢から覚めないまま一生を終えるって話は記録にあるよ」
「マジかよ!?」
「本当のナイトメアは人に害を加える魔物だからね」
「こえぇな」
「シャンク君は?」
「僕も最初から最後まで楽しい夢の中でした」
「まあ楽しかったからいいじゃねぇか」
「はい、僕もそう思います」
「「「アレクは?」」」
「俺は‥‥あまりに良いこと尽くめで‥‥逆に気づいたって言うか何というか‥‥幸せ過ぎて泣けてきて目が覚めました」
「「「そう‥‥」」」
みんなが納得してくれる。みんな俺のこれまでを知ってるからね。
「でもオニール先輩聞いてください!」
「ん?どうした?」
「ナイトメア。大きな馬なんですよ」
「白くてきれいなお馬さんだったね」
「そうよねー」
「それなのにアレクったら『あおちゃん』なんてあだ名を付けるんですよ!」
「あ、あおちゃん?」
「はい、あおちゃんです‥‥」
「ホント、あれは無いわねー」
「「フッ」」
「アレクのセンスの無さは今に始まったことじゃないの」
「「「だな(うんうん)」」」
なんだよそれ!
いつの間に俺はセンスが無いってのが定着してんだよ!
「でね、そのあおちゃんからのドロップ品っていうか、あおちゃんからの贈り物がこれなの」
「「「デカっ!」」」
「これもそのままくれるんじゃないんですよ。あおちゃんったら‥‥」
セーラやマリー先輩などがドロップ品が出てくる経緯まで事細かく報告した。その結果、あおちゃんも「残念な」階層主ってイメージがブーリ隊の先輩たちにも定着したみたいだった。かわいそうなあおちゃん……。
「じゃあさっそく中を見ようぜ」
「けっこう頑丈な造りの箱だよな」
大きな宝箱は頑丈な木箱の上からさらに内側に鉄枠で囲った頑丈な造りになっていた。まるでリアカーで運ぶのが分かってたみたいだ。俺やキム先輩みたいに小さめ系ではとてもとても開けられないよ。
「「「いくぞ。せーの」」」
オニール先輩、ゲージ先輩、シャンク先輩、タイガー先輩の背が高くて力持ちの4人がそっと上蓋を開けたんだ。
「こ、これは?」
「ま、まさか‥‥」
「マジかよ!」
「時計だよ!」
「すごく大きな時計だね!」
「「「すげぇー」」」
それは大時計だった。4面のどこからでも文字盤が見られるような大時計だった。動力源は魔石みたいだ。真ん中には鐘まで付いている。たぶん朝の7、8点鐘、昼の12点鐘、午後の5点鐘くらいで設定したらわかりやすいだろうな。だっていつでもどこでもだいたいの時間がわかるってすごいことだよ。
この時計を使って大きな時計台の塔を建てたら‥‥うん、ヴィンランド学園どころか、ヴィンランドの街中で正確な時間がわかるだろうな。
この世界、時計は下手すれば金よりも高価なアイテムなんだ。貴族でさえも時計を持ってるだけで、羨望の眼差しを受けるもんなぁ。
「マジすげえもんもらったよなぁ」
「食べかけで錆びたスプーンとは大違いだぞギャハハ」
「学園にいいお土産ができたね」
「「「ああ(はい、ん)」」」
「またお粥かあ‥‥」
「お肉と白いご飯が食べたいです‥‥」
休憩室ではこの日も簡単な食事を食べた。
いよいよもう簡単なものしか作れない。しかもお腹いっぱいにはならないし。この先現地調達ができなければ撤退もあり得るだろうな。
「セーラ水は飲み放題だぞ」
「水で腹を膨らますか。無いよりましだギャハハハ」
「はい‥‥」
水ばっかり飲んでた3人は夜中に何度もトイレに行っていたみたい。
「疲れもないし、食糧もわずかだよね。だから明日の朝出発でいいかなタイガー?」
「もちろんだ。みんなもいいか?」
「「「はい‥‥」」」
「じゃあ設置するよ」
簡単な食事のあと、持ってきた「水晶玉」を設置した。通常なら最初に攻略したパーティーが設置するんだけど、忘れちゃったのかな。
「さあ、水晶玉にみんなで触ってから明日に備えて早く寝るわよ」
「「「おおー(はい)」」」
▼
「学園長、水晶玉が!」
学園長の目の前で再び水晶玉が光り輝いた。
「す、すごい!まだ先に進みましたか!」
「ええ!さすがはセーラさんたちですな!」
「この分だとひょっとしてひょっとするかも‥‥」
学園長のサミュエルが震える手で副学長と手を握りあった。
(ひょっとして、ついに30年の時間が動きだしてくれるのか‥‥)
この日、2度めの鐘の音がヴィンランドの街に響いた。街中が沸いたのは言うまでもない。
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