アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

307 45階層 ナイトメア②

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白馬(牝)は続けて言った。

 「ずいぶんと久しぶりのご来客。よくここまでたどり着きましたね」
 「言葉が話せるんですね。あなたは?」
 「はい。私はこの45階層の主ですよ。美しいエルフの娘さん」
 「そして‥‥あら、きみからは懐かしい匂いがしますね。ああ、なるほどね」

俺をじっくりと見た白馬。えーっ!?くんくん。俺そんなに臭いのかよ!俺だって野営中はガタロシャワー浴びてるんだけどなぁ。


 「あらためてようこそ45階層へ。これからあなたたちが挑むのは私が誘う夢の世界。いつまでも居たくなる心地良い世界よ。ルールは簡単。夢の世界から目覚めた人が1人でもいたらあなたたちの勝ち。目覚めなかったら負け。そんな簡単なゲームよ」
 「あの‥‥目が覚めなかったらどうなるんですか?」
 「ふふ。心配しなくてもいいのよ熊の子。失敗しても外に戻るだけ。生命は取らないわ。ただやり直しは効かないから帰ってもらうことになるけどね」
 「でもどうやって帰るんですか‥‥」
 「あら熊の子泣きそうな顔しちゃって。心配しないでいいのよ。ほら、扉の外」
 「あっ魔法陣だ」
 「そうよ。待ってるもう1チームも今ごろ魔法陣に気がついてるはずよ。勝てなかったらみんなこれに乗ったらすぐに40階層の休憩室まで戻れるわ」
 「ありがとう白馬さん」
 「ふふふ。どういたしまして」
 「あの‥‥お聞きしたいことが」
 「それは勝ったらねエルフの娘さん」
 「はい‥‥」


 「チャレンジは1度だけよ。もう1チームのチャレンジも認めないわ」
 「「「‥‥」」」


 「もう1度言うわね。5人のうち誰か1人でも目が覚めればあなたたちの勝ち。勝てばこの先も進んだら良いわ。負けたら探索もここまでよ」
 「じゃあいいかしら」
 「「「はい!」」」


 「「「!!」」」


即座に部屋が真っ黒になった。そして車のハイビームライトのように眩しくもなった。


そして。

俺たちは夢の世界へ誘われた。





 【  シャンクside 】

 「シャンク兄ちゃん、オークカツ揚がったよ」
 「はいよ。トールは次の注文にかかってくれ」
 「わかったよ」


 ヴィヨルド領領都ヴィンランド。
街で1番の人気食堂「森の熊亭」は今日も押すな押すなの大盛況だ。

 厨房をまわすシャンクとトールの傍らで2人をサポートをするのはシャンクの両親だ。

 「シャンクとトールの2人がいればうちの『森の熊亭』も安泰だよ。よくここまで‥‥ううっ」
 「なにアンタ泣いてんだよ!この忙しい最中に」
 「お、おお、すまん、すまん」
 「でもね、シャンクちゃんとトールちゃんの2人はアンタと兄さんにそっくりじゃないか」
 「ああ本当だよ‥‥」


 「森の熊亭」は元々シャンクとトールの2人の父親の兄弟が、その父親から受け継いだお店だ。
シャンクがまだ幼いころ。不幸にしてシャンクの父親と母親は、流行病で相次いで他界した。兄弟同然に育ったシャンクとトール。兄シャンクの後を追って弟トールもヴィヨルド学園に入学し、10傑にも選ばれた。2人の絆は大人になっても変わらなかった。さらに2人の料理好きとその料理を作り出す才はよく似ていた。特に2人の料理の才は、まだ学園生である折からも周囲から一目置かれるほどであった。
そんな2人が学園を卒業したのちも「森の熊亭」で2人並んで腕を振るうようになったのも必然とも言えた。

トールと2人、「森の熊亭」で忙しく料理をする日々がたまらなく楽しく充実していると思えるシャンク。
どれだけ忙しくても、訪れた人々のおいしいの言葉と笑顔に心からの幸せを感じるシャンクである。休みの日には趣味の絵本作りの評判も上々だ。







 「今日も忙しかったねシャンク兄ちゃん」
 「ああ。でも仕事のあとの蜂蜜酒が旨いことといったらないね」
 「ははは。僕たちいつのまにか蜂蜜に酔わなくなったからね」
 「「わはははは」」
 

 「トール、ツクネをこんなふうにする料理はどうかな?」
 「いいね。さっそく明日作ってみよう」
 「ああ。楽しみだね」

 「それからね‥‥」
 「うんうん」


 「それから‥‥」
 「うんう‥」




 「それか‥‥」
 「うん‥」





 「それ‥‥」
 「う‥」





 「そ‥‥」
 「‥‥」







 「‥」


 「はい、熊の子は夢の中。終ー了ー」




 【  セーラside  】

ドーン  ドーン  ドーンッ

花火の音が首都中に鳴り響く。

法国の首都カザリア。
宗教国家たる法国の本部教会がある中心都市である。

 「早く早く!」
 「祭壇の後ろもよ!」

普段は静謐に包まれている本部教会内部。時間が足りないとシスターたちが駆けまわっている。それは本部教会のあちこちでも、教会の外でも。花火の音とともに、普段は静謐に包まれている本部教会から市井の人々が暮らす庶民街まで、陽気な喧騒と熱気が今まさにピークになろうとしていた。



中原では唯一無二とも言える信者を集める宗教が女神教である。
その教義の根幹を成すのは平等。人族、獣人族、ドワーフ族、エルフ族、その他少数の種族、民族を問わず万民平等を謳う宗教が女神教である。
その女神教、年に1度の祭典が祭神たる女神様の生誕を祝う祭り。(地方の教会でバザーが行われる日である)
そしてここ法国女神教本部教会では7年に1度を大祭として大々的に祭祀を執り行う習わしであった。
ヴィヨルド学園を卒業した翌年。セーラが待ちに待った大祭がこの日であった。ふだん静謐に満ちた本部教会でも慌ただしくその準備が進められていたのだ。

妾腹とはいえ、現法皇の唯一の娘であるセーラにとってもこの日はその生涯で一番待ち望んだ日でもある。
長かった父と叔父との政争も平和理に無事終焉を迎えた。今では昔のように父と叔父と3人で過ごす日々がなんと愛おしいことか。
だから今日は最高の1日になること間違いなしだ。

 「セーラ様花撒き用のお花の準備も整いました」
 「まあ間に合いましたね!これで式典にまさにお花が添えられます。ありがとうございました」


中原に数多ある女神教教会からの関係者はもとより、各地より集う敬虔な信者が大挙して訪れている。女神様にも訪れている信者の人々にも今日という1日が素晴らしい日であればと切に願うセーラである。


 多くの人々が見守る中、祭祀が始まる。


 「花撒き。シスターセーラ・ヴィクトリア」

列の先頭に立ってその道中を清めるのがシスターたち「花撒き」。中原にいるすべてのシスター憧れの大役だ。

 「司祭。ユーダ・ヴィクトリア」

司祭もまた今日の大祭を執り行う栄誉ある女神の僕(しもべ)。先頭に立つのは大好きな叔父だ。
長々と続く隊列には法国が抱える武装兵のモンク僧も続く。ヴィヨルド学園の先輩オニールもまた隊列の先陣だ。

 「法皇ヨハネ・ヴィクトリア5世」

大祭を代表して執り行うのはもちろん父だ。
静々とした隊列はやがてわかれて教会の中に入った。
正面には女神様の祈りの像が待つ。
先頭にセーラ。そのあとを進むのは伯父。そして最後尾に父。

多くの善男善女の笑顔が目に入る。父も叔父も、真剣な表情だが時おりセーラにだけ判るようにこっそり微笑んでくれる。
ああ、なんと佳き日。女神さまに心からの感謝を。

 「お父さま‥‥」
 「なんだいセーラ」

 「叔父さま‥‥」
 「なんだいセーラ」


 「お父さま‥‥」
 「なんだいセーラ」



 「叔父さま‥‥」
 「なんだいセーラ」





 「お父さま‥‥」
 「なんだいセーラ」






 「叔父さま‥‥」
 「なんだいセーラ」







 「お父さま‥‥」
 「なんだいセーラ」




 
 「‥‥」


 「はい、教会の子も夢の中。終ー了ー」



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