アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

306 45階層 ナイトメア①

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 「いったい理由はなんだったんだろうな」
 「「「わかんねぇ」」」
 「やっぱリズたちが歩いたのが大きかったのかしら」
 「「「わかんねぇ」」」
 「ゴーレムもしっかり倒したからか」
 「「「わかんねぇ」」」
 「お前らさっきからそれしか言わないよな」
 「「「ギャハハハ(わはははは)」」」
 「3馬鹿なの」
 「え~俺も入ってるんですか!?」
 「いやお前が筆頭だろう!」
 「いや筆頭はやっぱりオニール先輩でしょう」
 「それはそうだなギャハハ」
 「ゲージてめー裏切るのか!」
 「「「裏切るって‥‥」」」
 「だからオニールはお馬鹿なの」
 「「ギャハハハハ(ワハハハハ)」」
 「ゲージとアレクの裏切り者めー!」

 ワハハハハ
 ギャハハハ
 ふふふふふ
 あはははは

 「でもまあ気分良く終われたからよしとしようじゃねえか」
 「だよな。ギャハハ」
 「そのとおりですよ先輩!」

 ワハハハハハ
 ギャハハハハ
 ワハハハハハ

オニール先輩とゲージ先輩と俺。3人で肩を組みながら大笑いをしたんだ。

和やかな空気感はみんなの満足感にも表れてるよ。

 「しかしよーあれはねぇわ、あれは」
 「ギャハハそうだな」
 「これからは毎晩悪夢にうなされるの」
 「あーリズ先輩もですか!私も耳にあの『ちゃらららー』が残ってるんですー」
 「たしかに妙に耳に残るわね」
 「ああ。あれこそ本当に悪夢っていうんだろうな」
 「ホントねー」
 「🎵ちゃらららーらららーだっけ」

 ギャハハハハ
 わははははは
 ワハハハハハ
 ひーひーひー
 ひーひーひー

なんでみんな腹抱えて笑ってるんだろう?ひーひー言ってツボにはっているのはタイガー先輩とキム先輩だし。





45階  階層主の扉前で野営。
これまでの階層主前と同様。野営に魔物はほとんど出なかったよ。何もせずに2日のんびり過ごしたんだ。

 「どうだ?セーラ」
 「はい。もう大丈夫です。アレクは?」
 「俺も元通りに戻ったよ」

久しぶりに安心して眠れたんだ。体力も戻ったよ。何よりうれしかったのが魔力が元に戻ったことだよ。でもいいことばかりじゃないんだ……。


 「アレク君食糧はあとどのくらい保つ?」
 「あと20日くらいしかないですね」
 「そう。じゃあ今日も仕方ないわね」
 「はい‥‥仕方ないです」





 「夜ごはんできましたよー」
 「メシだメシだー」
 「「「🎵ごはん、ごはん、ごはん、ごはん‥」」」

相変わらず食事になるとオニール先輩、ゲージ先輩、セーラのテンションが高くなる。

 「残念ながら今日の夜ごはんも節約ですからね」
 「「「ぶーぶー」」」

特に全身で不満を顕しているのはオニール先輩、ゲージ先輩、セーラの3人組だ。

 「ないものはないんです!仕方ないですよ。というわけで、今日はお粥と魚の干物の夜ごはんです。その代わりお水は飲み放題です!」
 「なんだよその水の飲み放題って!」
 「おとっつあん、白いお米のおにぎりとお肉が食べたいよ!」

セーラお前は日本人か!

 「でもいよいよ食糧がヤバくなってきたわね」
 「そりゃそうさ。3ヶ月の予定で探索に入ったんだからね」

小さな手帳片手にビリー先輩が答える。手帳には正の字みたいな字が幾つも並べられていた。

 「そっかぁ。外はもうすぐ2月になるんだよな」
 「ここだとぜんぜんわかんないの」
 「ホントよねー」
 「帰ったら俺たちすぐ卒業だよな」
 「ああ」
 「「「‥‥」」」



実際、無いのは食糧だけじゃない。のんびりと過ごした理由もそこなんだ。何かを作ろうにも余剰の素材がほとんど無いからなんだ。つまりアイデアはあっても新たに作れるものは何もないんだ。こういうのを片道切符っていうのかな。







45階の階層主戦。
ブーリ隊の先輩たちみんなが、ボル隊が行くようにと勧めてくれた。もちろんボル隊のマリー先輩とキム先輩もそれを勧めてくれる。

 「じゃあ45階層はボル隊に任せるぞ」

俺たちのボル隊にはシャンク先輩、セーラと俺、後輩が3人いる。だから来年以降を思って6年の先輩たちが後輩に道を譲ってくれたんだ。


 「ところでビリー、階層主はどんな奴なんだ?」
 「45階層の階層主は言葉を話す白い牝馬、ナイトメアだそうだよ」
 「へぇーないとめあ?」
 「そうだよ」

 うん、なんとなく聞いたことがある。ゲームの記憶だから強いか弱いかさえ覚えてないや。でもたしか悪夢の世界に誘う黒い馬じゃなかったっけ?

 「ごめんねビリー。私、正直ここまで来れるなんて思ってなかったからぜんぜんわからないわ。説明してくれる」
 「ああ俺もだ」

 はい。それはぜったい嘘です。マリー先輩もキム先輩も本当はわかっているはずです。
セーラもシャンク先輩も大人みたいな余裕の笑いをみせてるってことはこの先何がいるのか知ってんだよな。本当にわかってないのは‥‥あー俺とオニール先輩、ゲージ先輩だけだよ。

 「階層主ナイトメア。姿は白い牝の馬だね。そしてその牝馬が出す課題を解けば勝ちになる」
 「どこかで会った階層主みたいだな」
 「「わかんねぇ」」
 「「「お前ら‥‥」」」
 「でね、その課題についてはおもしろいことが書かれてるよ」
 「おもしろい?」
 「うん。チーム全員で挑む課題は夢から覚めることらしいよ。各個人が見る幸せな夢から1人でも目が覚めたら勝ちなんだって」
 「「「へぇー」」」

階層主からの課題。そのクリア条件はチームのうち誰か1人でも勝ちになればいい。夢から自力で目覚めることなんだって。そこにはやり直しが効かないらしい。みんな目が覚めなかったらこの先に進むことはできないらしい。

 「前回はデューク・エランドル先輩だけが夢から覚めたらしいよ」
 「デューク・エランドル先輩って‥‥」

俺は聞く。

 「ああ行方不明の先輩だ」

タイガー先輩が答えた。

 「でもよ、行方不明っていうのがなぁ‥‥」

オニール先輩が訝しげに言う。

 「いやオニール、死体が見つかっていない以上は『行方不明』さ」

と、ビリー先輩。さらに、

「僕は今でもデューク先輩はどこかで生きてるって信じてるけどね。この学園ダンジョンはよほどのことがない限り死人は出さない。特にイレギュラーのゴブリンソルジャー以外はね。しかも強者であればなおさら死なないって思うよ」

ビリー先輩が言った。オニール先輩が続いて言った。

 「ないとめあだっけ。そいつが仕掛けるのは悪い夢じゃなくって良い夢なんだろ。じゃあ良い夢の中にずっと居られるっつーのはいいことだよな」
 「はは。オニール、でもそれじゃあ目が覚めることなくずっと‥‥!!」
 「そうか!みんな、わかったことがある!」

 ビリー先輩がなにやら興奮して話しだした。

 「長い間疑問だったんだよ。なぜデューク・エランドル先輩がずっと行方不明のままなのかって」
 「「「?」」」
 「この学園ダンジョンにはなんらかの意志があるって言うのは何度も言ったよね」
 「「「うんうん?‥‥」」」
 「例えば挑む生徒が強者であるとダンジョンが認定すれれば、その強者に合った魔物や魔獣が出てくる。つまり難易度が上がるわけだよね」
 「「「うんうん」」」
 「44階層がまさにその流れなんだよ。でもね、それでもここは学園ダンジョンなんだ。ヴィヨルド学園の学生のみに開かれたダンジョンなんだよ。大人はおろか外部の生徒や子どもも入れない。僕たちだってそう。入山資格もチームもパーティー数も厳格に決められている。だから50何年も経っているのに死人だけは出ていない」
 「でもよビリー、その何ちゃらって先輩はもう何年だっけ?マリー」
 「デューク伯父さんは私たちの25年先輩になるわね」
 「そ、そうか。マリーには悪いがさすがに25年だぞ、25年。残念だけど生きちゃいないって」
 「うん。話し相手もいない1人ぼっちのダンジョンで25年はさすがに厳しいだろうね。でもね、罠で飛ばされた先。もしそこでも学園ダンジョンの意志が働いてたら?」
 「どういうこと?ビリー!」
 
マリー先輩が強い口調でビリー先輩に聞いたんだ。

 「おそらく‥‥しかもかなりの確率でデューク先輩は生きている。しかも眠ったままで」
 「そうか!仮死状態だ!」
 「そうだよアレク君!よくわかったね」
 「はは、ははは‥」

俺の頭に浮かんだのは雪山で遭難した人が低体温から死なずに運良く仮死状態になって生き延びたり、SFのコールドスリープ装置で長く旅をする話、あるいは眠れる森のお姫様や王子様の話を思い出したんだ。

 「つまりね、デューク先輩は飛ばされた51階層以降のどこかで今も次に訪れる後輩を待っている」
 「どうやって?」
 「学園ダンジョンは四肢損傷みたいに酷いことはするよ。それでも学生を殺すことはしないんだ。ってことは45階層主のナイトメアに眠らされるのと同じようなことが起きてるはずだよ」
 「デューク伯父さんが生きているね‥‥」
 「俺、ホーク師匠に伝えなきゃ‥‥」

マリー先輩のお母さんの弟であり、ホーク師匠の双子のお兄さんであるデューク先輩が生きているというビリー先輩の仮説。それは俄然現実味を帯びてきた話だった。

でも‥‥
実際この話に進展が起こるのは俺が6年1組になってからのことなんだけどね。


 「ナイトメアとの闘いは夢から覚めるか否かっていう2択だよ。しかも再チャレンジはできないって書いてあったから1度きりのチャレンジだよ」
 「ビリー、私たちはどうしたらいい?」
 「簡単だよ。まずは1人でも目覚めること。そして勝ったらナイトメアにデューク先輩のことを聞いたら良い」
 「えっ?!そんなこと教えてくれるの?」
 「うん、おそらくはね。悪くてもヒントくらいは教えてくれるはずだよ」
 「わかったわ」
 「俺もがんばります!」
 「「僕も(私も)がんばります」」
 「アレク君は緊張しやすいからいつも以上に気楽にしたらいいんだからね」
 「そうだぞアレク!ギャハハ」
 「おおよ!3馬鹿なりに気軽にやってこい」
 「はい!」
 「「「ワハハハハハ」」」





 「「「いってきます」」」
 「「「いってらっしゃい」」」


意匠も綺麗な扉は過去1豪華なものだった。

 「じゃあ行くよ」
 「「「はい!」」」

ギギギギギーーーーーッ

45階  階層主の部屋。最奥には本当に馬がいた。綺麗な白馬(牝)だ。

 「ようこそ45階層へ」

えっ?喋った?
いや違う、頭の中に直接語りかけてるんだ。「ようこそ」と言った白馬の声は澄んだ女性の声だった。




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