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第2章 幼年編
302 44階層 延々と④
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ズルズルズルッ ズルズルズルッ ズルズルズルッ‥
ダッダッダッダッダッダッダッダッ‥
1エルケ毎。
襲ってくるのは1度に魔物が3種類、それぞれ1体から多くても10体まで。
擬装毒蛇、ゾンビ、ゴブリンライダーの3種の魔物が飽きもせずに襲来してくる。
地味だ。
地味に闘っては歩き、地味に歩いては闘う。無限ループかよと文句を言いたくなる地味さだ。延々と続くルーティンとも言える状態が唐突に終わりを告げる。
「あれ?魔物が来なくなりましたよね」
「ああ、そうだな」
「うん。ちょっとだけ涼しくなった気もするよね」
「そうよね。たしかに涼しいかも」
「てことは‥‥秋?やったー!暑さもサヨナラだね」
「うん、たぶんそうよね」
「ああ、秋になったな」
季節はたしかに夏から秋になったようだ。じっとりとした空気も爽やかだし。やったやったー!
暑い暑い真夏が終わったよ。しかもここも春同様に体感で3点鐘くらいで通り過ぎることができたし。
3点鐘×4季節=12点鐘
だからこのままいけば夜になるくらいにはこの階層もいけるんじゃないかな。記録の半分の時間で終わるじゃん。うん、きっとそうだよ。1日で終われると思うだけでもうれしい。うん、気分だけでも違うよ。これならなんとか気持ちも保っていけそうだ。
索敵にひっかかる魔物もいない。どうやら魔物も現れそうにないな。
「ブーリ隊を待ちましょうか」
「「「はい」」」
後に続くブーリ隊を待った俺たちボル隊。
「「「お疲れ(さま)」」」」
「夏も終わりみたいだよな」
「ちょっぴり涼しいの」
「途中でアレクが来てくれたからな。あれから背中も涼しくなったぞ」
「それはよかったです」
「みんなの雰囲気も元に戻ったしね」
「途中なんか俺1人でずーっと喋ってたもんな」
「ギャ、ギャハ、ギャハハハ‥」
「「「あははは‥」」」
なんか意味深な笑いをするゲージ先輩とそれにつられたように苦笑いをする男の先輩たち。
「えっ?まさか‥‥」
思わずリズ先輩を見る俺。
「ハッ!」
あっ!目線を泳がせてリズ先輩が顔を伏せた。
「「「クッ、ククッ‥」」」
みんな笑いを堪えるのに必死だよ。
「ぐぬぬっ‥」
「アレク君‥」
赤い顔をして下を俯くリズ先輩。
これ以上何も言うなとジェスチャーで応えるビリー先輩。
なんとも言えないブーリ隊の雰囲気から何かを察したセーラが確信犯的に爆弾を落とした。
「何かあったんですか?内張を切るだけだから女子なら誰でもできますよね?カ・ン・タ・ンに。ふふふっ」
(やめろセーラ!なんでお前はわかっててマウントを取るんだよ!
少なくとも料理に関してはお前とリズ先輩は同類じゃないか!)
みるみる般若の形相になるリズ先輩。
(ヤバい!)
「魔力がもったいないから今は許してあげるの。でもアレクだけじゃないの。セーラも覚えておくの!」
なにそれ、こわいわ!
ワハハハハ
あはははは
ギャハハハ
ふふふふっ
みんなの雰囲気も元に戻った。あーよかったな。
「さて、次の秋はゴーレムとゴースト、ゴブリンだよ」
ビリー先輩が説明する。
出てくる魔物はゴーレム、ゴースト、ゴブリンの3種。スリーGだよって言いたくなったけどもちろん口にしなかったよ。
「そうだな。早く行くためにはリズとセーラには悪いが、このまま檻に入っててもらうことになるがな」
「えっ!?タイガー先輩これ、檻だったんですか!?」
「い、いや違う。言い間違えた‥」
「タイガーも覚えておくの!」
「す、すまん‥」
だよねー、2人とも檻に入った猛獣扱いなんだ。俺は囚人だと思ってたけど。
「失礼よアレク!囚人じゃないわ!」
えーっ!?口に出してたのか俺!
「ははは。続けるよ。鉄ゴーレムは出てこないと思うよ。鉄なら再利用できるからね。そんなわけで出てくるのは土ゴーレムと岩ゴーレムだけだと思う。先行のボル隊もできるだけ魔力は抑えてね。アレク君は最小限の土魔法で対処してほしい。くれぐれも最小の魔力だよ。大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です」
「ブーリ隊はタイガーが右、左が僕。対ゴーレムに特化したこの足紐をゴーレムの足に絡ませられれば倒せるからね。数が出てきたらみんなにも使ってほしい」
対ゴーレム専用に特化した足紐を用意したんだ。アラクネ糸を何重にも撚って2メルくらいの長さがあるロープ状にしたものなんだ。強度はちょっとした鉄製チェーンくらいはある。
糸の両サイドには重しとして堅いトレントの角材を結んであるよ。イメージとしてはヌンチャク。これをタイミングよく投げて二足歩行のゴーレムの足に絡ませられればゴーレムは倒れる。
「ゴーストとゴブリンはまあ毎度おなじみだろうね。ゴーストはリズとセーラさんが用意してくれた聖魔法を濃く浸透させた水が武器になるよ。聖水を武具を浸けてからゴーストに触れれば対処できるからね」
刀も槍も鉄爪も矢もクナイも、高濃度で聖魔法が浸透された水に浸けてから斬れば本来聖魔法しか効かないゴーストにも対処できる。
うん、これで恐いものはない。
「おそらく1度に何体も魔物が出てくることはないと思う。春夏同様に休みなく出てくると思うよ」
「やっぱ我慢比べみたいなもんだよな」
「オニール、いい表現だね。まさに魔物と僕たちの我慢比べだね」
(うーん、ときどきだけどオニール先輩はまともなことを言うよな。ときどきだけど)
「アレク!テメー聞こえてるぞ!」
「えっ!?うそ‥さーせん」
秋ステージ。
春夏同様に疲れる展開になるだろう。魔力は省エネモードで極力使わないけど、この階層のもう半分はクリアしたんだ。この秋を抜けたらあとは冬だけ。サクサク終われば45階層が待っている。休憩室で休んだら魔力も戻るだろう。
「じゃあみんな気持ちを切らさずにいくわよ!」
「「「おお!(はい!)」」」
――――――――――――――
【 ブーリ隊side 】
ボル隊の500メル後から距離を維持したまま追随するブーリ隊。
ブーリ隊本隊のリアカーを旗艦に見立て、その右舷にはタイガー。後詰めにはオニール。左舷にはビリー。旗艦にはリズとゲージの布陣。
ズーンッ ズーンッ ズーンッ ズーンッ ズーンッ‥
1体の土ゴーレムがゆっくりゆっくりと歩みを進めている。
ふよふよふよふよ~~
どこからともなくゴーストもやって来た。
ギャッキャッギヤッ ギャッキャッギヤッ ギャッギヤッギャッ ギャッギャッギャッ‥
素手はもちろん石や木切れを手にしたゴブリン4体も統制もなく闇雲に駆け寄ってくる。
闘るのはゴブリン、ゴースト、ゴーレムの順か。
右舷。
魔物たちの前にすっくと立ったタイガーが瞬時に思考を巡らす。その両手には鉄爪を装着、腰に巻いたガンベルトの左右には聖水が入ったホルダーを装着。背にはヌンチャクのようなトレントの木切れを2つ挿す。腰を低く構え、これから自身が採る動きを頭でシュミレート。すかさず実行に移すタイガーだ。
ダダダダッッ!
一気にトップスピードへと加速するタイガーはまさに虎獣人の本領を発揮。低い姿勢から獲物へ襲いかかった。
ギャッギャッギャッ‥
射程に入ったゴブリンを両の鉄爪を用い上からの連撃で討ち払う。
ザンッ!ザンッ!
ザンッ!ザンッ!
ギャーーッ!
ギャーーッ!
ギャーーッ!
ギャーーッ!
一掃。それは有無を言わさず圧倒的な力の差。4体のゴブリンが8つに切り裂かれる。
ダダダダッッ!
振り返りもせず次の標的に向かうタイガー。
鉄爪に付いたゴブリン
の血を拭う間もなく、両手を腰にあてそれぞれのホルダーに入った聖水に浸す。
ふよふよふよふよ~~
そして近寄るゴーストと相対する直前に。クロスするよう鉄爪を振りかざす。
ザンッ!ザンッ!
ギャャャァァァーー‥
蜃気楼を切り裂くように。断末魔の叫び声だけを残して大気の中に消えていくゴースト。
そのまま。
振り返りもせずに向かうのは土ゴーレム。ガンベルトの背に差した対ゴーレム専用のヌンチャク型トレントの角材の片側をしっかりと握るタイガー。
ズーンッ ズーンッ ズーンッ‥
ダンッダンッダンッダンッダンッ‥
土ゴーレムからタイガーに向けて発出される土塊は無数。土塊とはいうものの直撃を受ければ激痛必至となるゴーレムの攻撃だ。これを的確なフットワークで避けながら距離を充分に詰めるタイガーだ。5メルを切ったそのとき。
ビュンッ!
タイガーが放ったトレントの角材の一端が一直線に土ゴーレムの両足に巻きついた。そしてそのままもう一端も土ゴーレムのもう片方の足に。
ズドォォォォーーンッ!
土埃を上げて倒れるゴーレム。
「次!‥‥ヨシ、いないな」
左右に目線を配り、右舷指定席へと戻るタイガーである。
左舷でも。
冷静沈着に全体を見渡しながらも己の責務を全うするビリーがいた。その射程に入ったと同時に。
シュッ!シュッ!
シュッ!シュッ!
ビリーの目にも止まらぬ連射がゴブリンに向けて放たれる。
ギャーーッ!
ギャーーッ!
ギャーーッ!
ギャーーッ!
真っ直ぐに飛んだ矢はどれも正確にゴブリンの急所を射抜いた。
「次はゴーストだね」
ふよふよふよふよ~~
落ち着いた構えで腰に挿した箙(矢筒)に矢尻を浸す一手間を経るビリー。そこには聖魔法を浸透させた濃い聖水が満たされている。もちろん矢尻はゴースト専用に改良したもの。聖水を多く含ませられるコイル状にしたものだ。
シュッ
ザクッ!
本来なら通り抜けるはずの矢がゴースト本体を通過せずに突き刺さる。
ギャャャァァァーー‥
「最後はゴーレムだね」
弓矢を肩に戻し、対ゴーレム専用に特化したアラクネ紐を片手に軽やかに戦場を駆けるビリー。
ズーンッ ズーンッ ズーンッ‥
ゴーレムに向けて走るビリーに向けて、土塊が放たれる。
ダンッダンッダンッダンッダンッ‥
これをジグザグに走りながら回避。その距離を縮めたビリーもまたアラクネ紐で結ぶれたトレントの角材の1方を放り投げる。
シュッ!
ビリーが放ったトレントの角材の一端が一直線に土ゴーレムの片足に巻きつく。そしてそのままもう一端も土ゴーレムのもう片方の足に巻きついた。
あとはゴーレムは進行方向をむいたまま倒れるばかりである。
ズドォォォォーーンッ!
「よし。出来上がり」
「ビリーのやつ、あいつ体幹っていうか姿勢がいつも良いんだよな」
「ああぜんぜんブレないからな。ビリーが槍をやらなくてよかったよなオニール。ギャハハ」
「ああ‥‥俺もそれは今でもときどき思うぞ。ははは」
仲間のオニールとゲージも思わず感嘆するビリーであった。
――――――――――――――
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