アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

301 44階層 延々と③

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 「‥‥」
 「‥‥」
 「‥‥」
 「‥‥」
 「‥‥」

 (あ~くそっ。暑いしつまんねー。なんかムカつくし‥)

誰とも口をききたくなかった。イライラして口を開けば暴言を吐きそうな自分がいたから。なぜかわかんないけど怒りっぽくなっていたんだ。みんなと話すのが気まずいというかなんというか‥‥うん、話をしたくなかった。
俺の変なムードが伝播したんだろうか。それともみんなも同じ気持ちだったんだろうか。みんなも無口のままだった。
ひたすら闘ってひたすら歩く。
ひたすら歩いてひたすら闘う。この繰り返し。
良くないよなあ。この停滞ムード、なんとかしなきゃ!


 「あーどんだけくんだよテメーら!くそっ!」
 「あー暑すぎだろ!くそっ!」

なんとかしなきゃって思うけど‥‥同じようにイライラする気持ちも消せなかった。
弱いくせにいつまでも襲い来る魔物にも。いつまでも辟易する暑さにも。

ん?雨か?

 ポツポツボツ‥
ザザザザザーーーーーーーッ!

いきなり夕立ちも降ってきた。だけど雨は蒸し蒸しするだけでぜんぜん涼しくならなかった。すぐに降りやむ雨は濡れた身体がベタベタして気持ちが悪いだけだ。せめてずっと降り続いたら少しはクールダウンできるだろうに。

 「あぢぃー」
 「暑い暑いあーつーいーーー!」

籠の中にいる囚人もイライラしているようだ。

ポツポツボツ‥
ザザザザーーーーーッーーーーッ!

また夕立ちだ。

 「うーうーうー‥」

すぐに雨は降り止んでまたすぐに酷暑が戻ってくる。
炎天下の夏。ダンジョン内だから太陽は照ってないんだよ。だけど天井全体が太陽じゃないかって思うくらいテカテカと日照りの気がするんだ。

 「暑い~!もうアレクなんとかしてよー!」

ガンガンガンガン‥

籠の中の囚人が籠を揺らせて全身で不満を顕している。

 「「あっ!」」
 「そうだよ!」
 「そうだよね!」
 「アレだよアレ!」
 「ホントだ!アレを忘れてたわ!」

そうだよ!火山地帯を歩いたとき、耐熱耐火服にガタロ石を付けたら水が流れたじゃん。ここでもまたそれをやればいいんだよ。せめて少しは涼しくなれば不平不満ばかりのイライラ気分も上がるはずなんだよ!てか、なんでもっと早く気がつかなかったんだろう。

服の内側、魔法陣を描いてある内張部分だけを剥がして魔石と一緒に首に巻きつけたらいいんじゃないかな。めちゃくちゃ簡単。それでも首に巻いたマフラーから水が滲みでてクールダウンできるはずだよ!

 「シャンク先輩ちょっとだけリアカー止めてください」
 「ん?いいけど」
 
俺は耐熱耐火服を出して鋏と一緒にセーラに渡した。

 「セーラも同じこと考えたよね」
 「ですです!」
 「だよね!魔法陣を描いてある内側だけ外してくれたらいいんだよね!」
 「そうよね!じゃあさっそく外すねアレク!」
 「頼むよセーラ」
 「はい!」

セーラに耐熱耐火服の内側、魔法陣の描いてある内張だけを鋏で外してもらう。あとはその内張を首元に巻きつけるだけなんだ。

 「はいマリー先輩の分です」
 「ありがとうセーラさん」
 
 「はい。これはキム先輩の分」
 「ありがとうな」

 「はいこれはシャンク先輩の分」
 「セーラさんありがとうね」

 「はいアレク」
 「セーラありがとうな」

できた「マフラー」をみんな首に巻いていく。するとすぐにじわじわと滲み出る水が背中を伝う。

 「うん……。あっ、もう涼しくなったよ」
 「ああこれはいいな」
 「気づきそうで気づかなかったわね」

そうなんだよ。もっとはやく気づけばよかったよ。

 「俺、鋏持ってちょっとブーリ隊にも行ってきます」
 「気をつけろよ」
 「はは。魔物がいても戦わず逃げてきますから。行ってきます!」
 「「「いってらっしゃい!」」」







 「ん?アレクが来るぞ」
 「「「なんだ?(どうした?)」」」

直前まで。雰囲気の悪さはブーリ隊も俺たちと同じだった。そんな中に飛び込んだ俺。水が滲み出るマフラーのアイデアはブーリ隊のみんなにも好意的に受け入れられた。

 「そんなわけでリズ先輩、鋏を置いてくんでよろしくお願いしますね!」
 「うっ、ううっ‥」
 「あれーまさかリズ先輩、お裁縫もできないんですかー?お料理だけじゃなくて‥‥プププッ」
 「おおーアレクが言ったぞ!」

 ワハハハハハ
 ギャハハハハ
 あははははは
 はははははは

 「ち、違うもの。鋏で切るくらいは私でもできるもの」
 「本当ですかー?じゃあお願いしましたよリズ先輩!まぁ、いざとなったらビリー先輩なら余裕でできるはずですからね」
 「はは。もちろんだよ。もしリズが出来なかったら僕が切っておくね」
 「はい、じゃあ俺戻ります!」
 「アレク、あとで覚えておくの!」
 「ププッ。怖いなぁリズ先輩は。じゃあまたあとで」
 「行ってきます!」
 「「「いってらっしゃい!」」」

うん。軽口をたたいたけど、これで少しでも涼しくなればいい。みんなの雰囲気も良くなればいいな。





 「涼しいねアレク」
 「ああ、無いよりはぜんぜんマシだよな」

マフラーの首から少しずつ滲み出る水は蒸発するときの気化熱で涼しさを体感できる。うん、マフラーのあると無しでは大違いだ。何よりさっきまで誰とも話をしたくないくらい沈んでいた気持ちが元に戻ったんだ。

 「ブーリ隊も明るくなったようね」
 「フッ。安心してまたリズが寝てるぞ」




 「!」
 「!」

‥‥  ‥‥  ‥‥  ‥‥

ズルズルズルッ ズルズルズルッ ズルズルズルッ‥

ダッダッダッダッダッダッダッダッ‥

 「よし。お前ら、まだまだ大丈夫だよな?いくぞアレク、シャンク!」
 「「はい!」」

 

相変わらず擬装毒蛇・ゾンビ・ゴブリンライダーの緩やかな波状攻撃は終わらなかった。
それでも切れかけたみんなの気持ちだけは盛り返せたんだ。




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